シン・仮想化テクノロジー Review

顧客データの分析力を高めたデータドリブン経営や生成AI活用に向けて、企業はITインフラの処理能力を飛躍的に高める必要に迫られているものの、投資できるリソースは限られている。そこで注目されるのが、投資資金や導入システムの利用効率を最適化するための「仮想化」テクノロジーである。仮想化テクノロジーは、クラウドやネットワークなど、技術の適用範囲を拡大する新たなフェーズを迎えている。

投資効率を最大化する仮想化、SDx対応を意識すべき

甲元 宏明氏

アイ・ティ・アール

プリンシパル・アナリスト

甲元 宏明氏

IT調査・コンサルティング企業のアイ・ティ・アールが毎年公開している「国内IT投資動向調査報告書」の2025年版によると、2024年のIT投資インデックスは3.81となり、2006年のITバブル時に記録した最高値の3.88に迫る勢いである。企業のIT投資意欲が非常に高まる中で、IT投資効率を最大化する手法として仮想化テクノロジーの導入が進んでいる。

数多くの企業ユーザーのIT戦略推進をITコンサルタントとして支援してきた、アイ・ティ・アールの甲元 宏明氏は、「仮想化とは物理的なハードウエアを抽象化する技術です」と定義したうえで、以下の6つのメリットを挙げた。

リソース利用効率の向上:1台のサーバーで複数の仮想リソースを動作させることで、簡素なシステムでも個別にサーバーを用意する必要があったころと比べてハードウエアの利用効率を高められる。
要求変化への柔軟な適応:必要に応じて仮想リソースを柔軟に増減できる。特に減らすことは仮想化技術でしかできない。
迅速なリソース準備:従来は1~2カ月かかったサーバーの手配が、仮想化なら1クリックで数秒後に準備できる。
スケーラビリティの向上:Webサイトのアクセスが急増した場合でも、仮想リソースの調節により柔軟に対応できる。
可用性の向上/復旧対策:バックアップや災害対策のための仮想リソースを迅速かつ柔軟に準備できる。
標準化の推進:仕様が異なるハードウエアであっても、同一の仮想化ソフトウエアを実装すれば共通の標準仕様のように導入でき、ハードウエアによる仕様差を隠匿できる。

これらの仮想化のメリットを企業が享受できるIT製品群として甲元氏は「『SDx』(Software Defined something:ソフトウエアで定義可能なもの)への対応を注視すべき」とアドバイスする。アイ・ティ・アールはSDxについて「アプリケーション、デバイス、ネットワークなどのあらゆるITリソースに対して、ソフトウエアによってオンデマンドでの制御や管理を可能にする技術、アーキテクチャー、ソリューション」と定義する。

例えば工場に導入するロボットアームは、従来はハードウエア機能が主で、その設定や制御をするソフトウエアは従というイメージが強かった。だが、SDx対応製品であれば「ソフトウエアで定義される機能やUX(ユーザー体験)を動作させるためのハードウエア」という主従が逆の認識になる。

SDxに対応する製品のカテゴリーは、コンピューティング、ネットワーク、データセンター、セキュリティ、各種機器、車両など多岐に渡る。もう少しSDxへの対応例を挙げると、クライアントパソコンのカテゴリーでは従来型パソコンがSDx非対応で、デスクトップを仮想化したパソコンや外部ストレージと連携動作するシンクライアントはSDx対応となる。サーバーのカテゴリーでは従来のオンプレミス・サーバーはSDx非対応で、「IaaS」(Infrastructure as a Service)として提供されるクラウドサーバーはSDx対応。ネットワークのカテゴリーでは従来のネットワーク機器はSDx非対応で、ソフトウエアで仮想的なWANを構築・管理する「SD-WAN」(Software Defined Wide Area Network)はSDx対応といった位置付けになる。

これらのSDx対応製品は必ずしも仮想化技術を採用しているわけではない。だが、「仮想化への対応によってSDx対応製品のメリットをより享受しやすくなることを、長年のコンサルティング経験で痛感しています」と甲元氏は力説する。無駄のない効率的なIT投資の実現に向けて、避けて通れないチェックポイントと言えるだろう。

VMware問題を教訓に仮想化プラットフォームを選ぶ

仮想化技術を導入した多くの企業を巻き込み、2024年の一大関心事となったのは、仮想化ソフトウエアの最大手だった米VMwareのライセンス契約変更問題だ。

VMwareは、サーバー仮想化プラットフォーム「vSphere」やストレージ仮想化ソリューション「vSAN」などの多様な製品を提供し、各製品単位で一括払いの永続ライセンスを提供してきた。ところが2023年11月に米Broadcomが同社を買収した後、2024年1月にかけて毎月払いのサブスクリプション型ライセンスに移行し製品群をバンドル型に集約する契約変更を実施した。この変更は同2月から日本のユーザー企業にも適用され、9月には公正取引委員会が独占禁止法違反の疑いで調査に乗り出す大騒動になった。

このVMwareのライセンス契約変更は、導入ケースによっては大幅な利用料金の値上げをもたらした。特に顕著だったのは、vSphereなどの単体製品をオンプレミスで利用するケースや、VMware製品を使ったクラウドベンダーが提供する「マネージド・プライベート・クラウド」のサービスを利用するケースである。

日経クロステック/日経コンピュータ発行人の森重 和春氏は「後者はライセンス変更がクラウドベンダーの料金設定にも波及した例です。VMwareのライセンス費用負担が10倍以上になった影響で、サービス料金が2~3倍に高騰したケースもありました」と語る。一方で、VMware製品を使った国産パブリッククラウドはサービス料金の値上げ幅が小さく、AWSやAzureなどの大手パブリッククラウドが提供するVMware実行環境のサービス料金は値上げがなかった。

森重 和春氏

日経BP

執行役員 技術コンテンツユニット長

日経クロステック/日経コンピュータ発行人

森重 和春氏

こうした事態を受け日経コンピュータがVMwareのユーザー企業にアンケート調査を実施したところ、「単体製品からバンドル型への強制移行によって、オーバースペックになる一部のシステムの費用負担が増し、最大20倍になる例もありました」と、森重氏は混乱の大きさを振り返る。他製品に切り替えたくても、契約更新時期が迫っていたり、運用体制を変えられなかったりと、即座には変更が困難な事情もあった。

それでも大幅な値上げを受け入れられない場合は、移行先の検討を急ぐ必要がある。現時点で最も有力な選択肢は、料金値上げもない大手パブリッククラウドのVMware実行環境に既存のVMware環境を移行する方法である。VMwareの今後のリスクを考慮して、米Microsoftや米Nutanix、米Red Hatなど他社の仮想化製品や、VMware製品を使わない大手パブリッククラウドなどに移行する手もある。「今回の事例を教訓に、今後はベンダーロックインというリスクも考慮して、慎重に導入システムを判断する必要が出てきました」と、森重氏は警鐘を鳴らす。