モノ売りから顧客体験の提供へ 日本の製造業はリカーリングモデルで強くなる

かつてないレベルで不確実性が高まるVUCAの時代、日本の製造業は岐路に立たされている。性能や品質の優れた製品を生み出すモノづくりだけでは、競争優位の維持が難しくなっているのだ。こうした中、顧客と長期的な関係を築く「リカーリングモデル」への転換が注目されている。生き残りをかけて、製造業はどのように変化するべきなのか。リカーリングモデルによる製造業の変革をテーマに、野村総合研究所の青嶋 稔氏とタレスのダミアン・ブロット氏が語り合った。(モデレーター:日経BP 総合研究所 フェロー 桔梗原富夫)

製造業も「売って終わり」から顧客体験を重視する時代へ

「高品質なモノづくり」という成功体験を礎に成長してきた日本の製造業。しかし近年は「よい製品を出せば売れる」という時代は終わりを迎えつつあり、新たに顧客体験(カスタマーエクスペリエンス、CX)の重要性が問われている。

「これまでは“モノの性能”こそがお客様に提供する価値の源泉でしたが、もはや戦いのルールは変わりました」と話すのは、野村総合研究所 コンサルティング事業本部 エグゼクティブパートナーの青嶋 稔氏である。

青嶋 稔 氏

野村総合研究所
コンサルティング事業本部
エグゼクティブパートナー

青嶋 稔

1988年、精密機器メーカーに入社後、トップセールス、米国法人営業マネジメント、CRMプロジェクト、買収後統合、新規事業開発などに従事。2005年、野村総合研究所(NRI)入社。グローバル製造業に対する中期経営計画、事業戦略、営業改革、M&A戦略立案、買収後の統合戦略などを数多く担当。2021年4月より同社初のフェローに就任。著書に『リカーリング・シフト 製造業のビジネスモデル変革』(日本経済新聞出版)、『価値創造経営』(中央経済社)、『売上目標を捨てよう』(集英社)など多数。

「自動車業界では、トヨタがソフトウエアによって自動車の機能や性能が決まるソフトウエア・デファインド・ビークル(Software Defined Vehicle、SDV)を掲げて大きくビジネスモデルを転換しましたし、テスラに代表されるオーバー・ジ・エアー(Over The Air、OTA)という、車の販売後にソフトウエアによって機能を随時更新していく技術も広がっています。

このように『売った後』に顧客体験を向上させていくビジネスモデルへの転換は、自動車産業だけでなくあらゆる製造業において見られる現象です」(青嶋氏)

これらは「リカーリング」と呼ばれるビジネスモデルの代表例だ。リカーリングモデルとは、製品の利用・支援・更新を通じて、顧客から継続収入を得ることを可能にする仕組みである。

ハードウエア事業の収益は外部環境の変化により大きな影響を受ける一方、リカーリングモデルでは顧客とつながり続けることによって安定的な収益源になるというメリットがある。

このリカーリングモデルが、なぜ今製造業で広がりつつあるのか。ソフトウエア収益化を支援するタレスのダミアン・ブロット氏は、その背景を次のように語る。

「BtoCの世界では、リカーリングモデルの一種であるサブスクリプションの浸透により、顧客は自分が求める価値が継続的に提供されることに対して期待を持つようになりました。そうした顧客の期待値の変化がBtoBの世界にも影響を及ぼし、製造業においても顧客体験を重視するビジネスモデルが存在感を高めているのです。

加えて、昨今の変動の激しい経済状況においては、収益基盤の安定化が求められています。外部環境が厳しいときでも継続的に利益を生み出すリカーリングモデルの導入は、投資家の要請でもあると言えます」

ダミアン・ブロット 氏

タレス
Vice President-General Manager
Software Monetization
Cyber Security Products

ダミアン・ブロット

フランス出身。フランス・エクス=アン=プロヴァンス大学を卒業後、理学修士号を取得。タレスで通信事業部門の営業ディレクター、ブラジル法人のカントリーマネージャー(ソフトウエアおよびサービス事業の推進を担当)、営業・マーケティング担当副社長などを歴任。その後、米国テキサス州オースティンを拠点に、アイデンティティ&データプロテクション事業部のセールス担当副社長を経て現職(ソフトウエアマネタイズ部門のグローバルセールス担当副社長)。ソフトウエア収益化事業のマネージングディレクターを務める。

リカーリングモデル転換の成否のカギは“パートナー選び”

リカーリングモデルの導入は、ビジネスモデルの転換とシステムの導入を伴う大規模な変革になる。実際にこの改革を進める企業の前には、さまざまな壁が立ちはだかるという。

「リカーリングを成功させるために大切なのは、お客様に対するバリュープロポジション(企業が顧客に提供できる独自の価値)です。明確なバリューを提示できなければ顧客は離れてしまいます。ただし、それを実現させる優れたビジネスモデルを自社のリソースのみで検討することは現実的ではありません。

その上、セキュリティも軽視するわけにはいきません。近年はランサムウエア攻撃による被害が深刻化しています。一方で、IT分野の人材不足も相まって、セキュアなクラウド環境を作るハードルは非常に高くなっています」(青嶋氏)

こうした課題を乗り越える上では、力強いトップダウンの組織体制と、それを支える強力なパートナーの存在が不可欠だと、青嶋氏は強調する。

「世界を代表する数々のグローバル企業を支援してきたタレスは、これからリカーリングモデルへの転換を目指す製造業の心強いパートナーとなってくれるでしょう」