老舗IT企業が本腰を入れる現場直結型のR&D
TISは50年以上の歴史を持つ総合ITサービス企業だ。キャッシュレス決済、ヘルスケア、低・脱炭素化といった社会課題に対応する IT ソリューションを多数提供している。次々とソリューションを生み出す活力はどこにあるのか。その一端を担うのが、独自のR&D活動である。
2019年、TISは社内横断型の技術開発専門部門としてテクノロジー&イノベーション本部(以下、T&I本部)を設立。総合的な技術力強化に力を入れている。T&I本部は複数部署から構成されるが、既存ビジネスと密接に結びつくのはデザイン&エンジニアリング部、開発基盤センター、戦略技術センターの3つである。
このうちデザイン&エンジニアリング部は、約120人を擁するデザイナー、エンジニア、ITアーキテクトの集団であり、メンバーが事業部の実プロジェクトに参画。現場と協業しながら開発・技術支援を行う“T&I本部の実動部隊”と言える。
特徴的なのは、R&Dの要素を内包している点だ。開発基盤センターは1~3年程度の短期的なスパンでの事業貢献を目指した「短期的R&D(Near-Term R&D)」を担当。戦略技術センターは3~10年程度の中長期的スパンで事業の核を目指す「中長期的R&D(Long-Term R&D)」を担当し、それぞれの立場から技術戦略を策定。定期的なアップデートを重ねつつ、TISのR&D活動を推進している。
各組織が密な連携を取りながらR&D活動を推進している
TIS
テクノロジー&イノベーション本部 副本部長
兼 デザイン&エンジニアリング部 部長
兼 開発基盤センター センター長
田伏 裕 氏
Near-Term R&Dでは「組織全体の生産性向上」、Long-Term R&Dでは「先進技術活用による顧客・市場課題の解決に資する先行事例の創出」に重点を置く。推進体制を切り分けたことでR&Dが目指す方向性が明瞭になるのがメリットだ。T&I本部 副本部長としてデザイン&エンジニアリング部と開発基盤センターのトップを兼任する田伏裕氏は、その狙いを次のように語る。
TIS
テクノロジー&イノベーション本部 副本部長
兼 デザイン&エンジニアリング部 部長
兼 開発基盤センター センター長
田伏 裕 氏
「私がNear -Term R&Dで関わる領域は現場のニーズから出発する部分が圧倒的に多いです。そこでT&I本部では現場にデザイン&エンジニアリング部のエンジニアやデザイナーを派遣して、一緒に手を動かす活動を展開しています。これにより開発の成果を現場に浸透させるとともに、現場の課題を迅速に吸い上げ、事業に最適化した技術にフォーカスできるようになります。一方、Long-Termの研究開発からは開発プロセスに活かされる技術も出てくるので、組織間で密な連携を取りながら未来のあるべき姿を開拓しています。このようにデザイン&エンジニアリング部、開発基盤センター、戦略技術センターが三位一体となって推進しているのがTISのR&Dの特徴です」(田伏氏)
“技術の羅針盤”を共有して成果を事業につなげる
現場が円滑に動くためにも、R&Dの技術戦略を明確にしておく必要がある。そのためT&I本部ではNear-Term R&D、Long-Term R&Dで対象とする技術を「テクノロジーポートフォリオ」として選定・定義し、全社で共有している。戦略技術センター センター長の市田真也氏は、“技術の羅針盤”とも言えるテクノロジーポートフォリオを公開する意義についてこう話す。
「テクノロジーポートフォリオでは世の中の幅広い技術に対して、我々がどんな領域に注力しているのか、将来的なゴールに向けてどのように取り組んでいくのかを示しています。とくに私が担当するLong-Term R&Dの技術テーマは、我々だけが研究開発に励んでもユースケースにつながらないことがたくさんあります。しかし社外に目を向けると、ユーザー企業のお客様が独自に技術開発を進めることも活発になっています。このタイミングをチャンスと捉え、お客様と一緒に研究段階から社会課題解決に取り組めないかと考えました。さらに踏み込んで言えば、共創の形を作りたい。そうした背景から、事業部メンバー、その先にいるお客様と意識の共通化を図るために技術戦略を文書として公開しています」(市田氏)
全社で共有するテクノロジーポートフォリオでは、種類と時間軸に分けて進むべき方向性を明確化する
TIS
テクノロジー&イノベーション本部 副本部長
兼 戦略技術センター長
市田 真也 氏
T&I本部は事業部の壁を越えた立ち位置であり、特定産業によらないのが特徴だ。それゆえLong-Term R&Dでは先手を打って10年後の未来像を想定し、社会に普及するであろう技術に対して研究開発を進めている。「未来の技術といっても、“今から流行る”というタイミングで取り組み始めても遅いのです。そこで、今のうちから未来を見据えた研究開発を進めています。そうすることによって、早い段階で既存の事業やシステムインテグレーションにも組み込むことができます」と市田氏は述べ、このように続ける。
TIS
テクノロジー&イノベーション本部 副本部長
兼 戦略技術センター長
市田 真也 氏
「中長期のR&Dとはいえ、単なる研究開発では意味がありません。その成果をいかに事業につなげていくかが最も重要です。だからこそ我々は技術戦略で詳細なロードマップを作成し、お客様に届ける価値を創出するための道筋を示しています。私は過去、クラウド事業やゼロトラストセキュリティ、社内DXなどの立ち上げに関わってきましたが、それらのビジネス経験を活かしていきたいと思っています」(市田氏)
相互支援で技術力を高める人材施策
もう1つ、プロフェッショナル人材の発掘・育成もT&I本部に課せられた大きなミッションである。人の力を引き出す施策として「Know-who」を掲げ、全社のスペシャリストを連携させて相互支援やジョブローテーションを可能にする仕組みを構築している。
例えばITアーキテクトおよび候補人材を育成する組織横断型相互支援体制の「UNIITA(ユニータ)」、グループ内の有識者から回答を得られる相互QAプラットフォームの「canal(カナル)」が挙げられる。また、T&I本部に特化した人材戦略策定・推進、採用、オンボーディングを司る特化組織を設置するなど、多角的かつ意欲的な人材活用に努める。
「現場でのITアーキテクトの不足は当社に限らず、日本中の課題です。デザイン&エンジニアリング部には約120人が在籍していますが、実は事業部の若手を50人ほど異動させ、入社後1年目から3年目を中心にITアーキテクト予備軍を育成しています。技術に高い関心を持ってもらうには、ハイエンドのITアーキテクトの近くで仕事をすることが大切だからです。デザイン&エンジニアリング部にはそうした人材が数多くいるので、色々なことを学べます。ここでの経験を糧にして事業部に戻り、将来ITアーキテクトとして現場を牽引してもらうイメージです。その結果、全社の技術力を高めることができます」(田伏氏)
QAプラットフォームの「canal」では、技術的な困りごとを質問すると、テックリードと呼ばれる150人ほどのベテラン技術者が1日以内に回答してくれる。現場の肌感覚を知っているだけに、そのフィードバックは貴重だ。現在、グループ内の1万人が「canal」を利用しているという。
「エンジニアのネットワークがグループ全体に張り巡らされているので、多くの現場の声を吸い上げることが可能です。これら相互支援の企業文化も、ここ数年かけて醸成してきたものです。何より、お客様もTISインテックグループの総合力に期待しています。これだけ技術が複雑化・多様化している状況では個人の知識では限界がありますから、個の力に限定せず総合力で勝負できるのが我々の強みです。そこに対して泥臭くマンパワーで対応する努力を重ねています」(田伏氏)
T&I本部がTISにおける技術の屋台骨であることがおわかりいただけただろうか。続く後編では、Near-Term R&D、Long-Term R&Dで具体的に取り組む注力テーマを中心に紹介していく。


