「テクノロジーポートフォリオ」と名づけた技術戦略とR&D(研究開発)のビジョンを社内で共有し、組織横断的に技術力の強化を図るTIS。R&Dテーマを事業貢献に至らせる期間で分けて短期的R&Dと中長期的R&Dと定義し、それらを組み合わせて推進しているのが特徴だ。これにより、足元で求められる課題解決から、将来的なイノベーションの研究にまで対応。事業パートナーのあらゆるニーズに応えるべく体制を整えている。具体的な注力領域と、そこから生まれる新たな価値について2人のキーパーソンに聞いた。

短期的R&Dの注力テーマは「生成AI」

日進月歩のIT業界において、半世紀以上にわたり様々なITソリューションを提供してきたTIS。活力の源泉となっているのは、ユニークなR&D活動である。TISはR&Dを、1~3年程度の短期的なスパンで事業貢献を目指す短期的R&Dと、3~10年程度の中長期的スパンで事業の核を目指す中長期的R&Dに分けて考えている。そのため、独自の体制を整えている。

TISには社内横断型の技術開発専門部門としてテクノロジー&イノベーション本部(以下、T&I本部)が存在する。T&I本部はデザイナー、エンジニア、ITアーキテクトを抱える実動部隊のデザイン&エンジニアリング部に加え、R&D機能を内包。開発基盤センターが「Near-Term R&D」(短期)を、戦略技術センターが「Long-Term R&D」(中長期)を担当し、それぞれの立場から技術戦略を策定している。

技術戦略の粒度は細かい。R&Dの成果を迅速に事業に反映していくことが目的だからだ。足元のユーザーニーズの影響を強く受けるNear-Term R&Dでは生成AIに取り組む。言うまでもなく今、最もホットな領域である。注力テーマには「プラットフォーム・エンジニアリングとAI拡張型開発」「生成AIインテグレーション」の2つを掲げた。

TIS
テクノロジー&イノベーション本部 副本部長
兼 デザイン&エンジニアリング部 部長
兼 開発基盤センター センター長
田伏 裕

1つ目の「プラットフォーム・エンジニアリングとAI拡張型開発」では、セルフサービス型の開発環境、AIによる自動化・効率化という2つのテクノロジートレンドを融合し、開発生産性の向上と高品質なデリバリーを両立する。開発基盤センターを率いる田伏裕氏は「企業における開発需要が急激に増加しています。一方で開発人材不足と高コスト化が加速する中、競争優位性を保つために何をすべきかを深く考えました」と語る。

TIS
テクノロジー&イノベーション本部 副本部長
兼 デザイン&エンジニアリング部 部長
兼 開発基盤センター センター長
田伏 裕

同社では「AXION」と呼ばれる開発基盤を利用しているが、古いツールによる技術的制約や手動作業の多さなどの課題があった。そこでプラットフォーム・エンジニアリングのアプローチを投入し、コーディングからデプロイまでのシームレスな開発体験を実現する。「改善を重ねながら次々とツールを提供していくイメージです。システム開発における生成AI活用もプラットフォームを通じて加速させたい」と田伏氏。ここにAIコードアシスタントやテスト自動化ツールを導入することで、単なる開発インフラから次世代開発プラットフォームへの転換を目指す。

プロジェクトの成功を積極的に支援する戦略的プラットフォームとなることを目指す

「プロダクト開発で生成AIを活用できる部分は多々あります。支援ツールとして上手く使えれば、飛躍的な生産性向上が見込めます。プログラミングだけではなく、要件整理、フォワード/リバースエンジニアリング、設計書をもとにテスト仕様書/テストコードを生成するなど、多様な工程で利用することができます。現在は、実際の工程における効率化を評価しながら現場に普及させているところです」(田伏氏)

2つ目の「生成AIインテグレーション」は、システム開発に積極的に生成AIを組み込むことを指す。伸長し続ける生成AI市場で事業競争力を高めるために選定した。ここでは「AI人材のシフト」と「アセット構築」を2本柱に設定。自社プロダクトの開発から学んだノウハウやスキルを顧客との協業や自社サービスの展開に役立て、成果を様々な事業につなげていく。

なお、TISでは全社レベルで生成AI活用が順調に進んでおり、ビジネス部門も含めると、社員の半分ほどが独自構築したセキュアなChat GPTをはじめとする生成AIツールを通常業務で利用しているという。「開発基盤センターが中心となって盛んにオンライン研修を開くなど、広く浸透してきた実感があります。社内DXの観点からも効果は大きい。汎用的に使える技術なので、例えばビジネスに直結させる形など、より広く展開していきたいと考えています」と田伏氏は話す。

中長期は空間コンピューティングと
量子コンピューティングがターゲット

Long-Term R&Dを担当する戦略技術センター センター長の市田真也氏は「社会課題の解決に貢献し、価値を提供することが全社的なビジョンです。そのビジョンに沿って、社会課題の解決に結びつき、将来の事業の核となり得る技術テーマを選定しています」と語る。そのうえで「空間コンピューティング」と「量子コンピューティング」を注力テーマに選んだ。具体的には大学や公的研究機関との研究開発を軸に進めている。

デジタル社会を実現するために期待されている技術は数多くあるが、代表すると図のようなものがあげられる。これらの技術のうち、空間コンピューティングと量子コンピューティングをLong-Term R&Dの注力テーマとして選定した

TIS
テクノロジー&イノベーション本部 副本部長
兼 戦略技術センター長
市田 真也

1つ目の空間コンピューティングでは、「イマーシブ(没入型)なメタバース空間の実現」「容易にメタバース空間を構築できる開発基盤」「多くのユーザーが参加するメタバースプラットフォーム」を戦略方針とした。これまでに様々な大学と共同研究を行い、産学連携を強化している。市田氏は「メタバースといっても単に仮想空間や3D技術だけを指しているのではなく、ブロックチェーンやNFTなどのWeb3に関連する技術、あるいはそれらを実装した経済活動なども視野に入れ、現実(リアル)と仮想(バーチャル)の融合を目指しています」と展望を述べた。

2つ目の量子コンピューティングは、現在では難しい計算に要している膨大な時間を圧倒的に短縮できることが期待されているという。本テーマでは量子アルゴリズム、量子ソフトウエア、量子・古典ハイブリッドコンピューティングについて、それぞれの用途に応じて大学や公的研究機関と共同研究を重ねている。

「量子コンピューティングは、エネルギーの需給計算、金融ポートフォリオの最適化、材料開発などの分野で活用が期待されており、需要がある企業と組んで研究していく方法も考えられます。その際、『TISに相談すれば一緒に新しいことができそうだ』と思っていただくためにも今から取り組んでいかないと遅いとの危機感を持っています」(市田氏)

様々な課題解決に資する量子アプリケーションを今後数多く開発していくためには、「①量子アプリケーションの開発を支援するソフトウエア」「②従来とは異なる量子コンピュータ専用のアルゴリズム」「③量子・古典コンピュータのハイブリッド構成」が必要となる

量子コンピューティングの中期的なゴールは、既存のITエンジニアが量子アプリケーションを開発できる環境を用意するということだ。まずは手を動かして量子コンピューティングを経験し、段階的に量子アルゴリズムや量子理論を学んでもらうなど人材の育成にも着手する。中長期の技術は普及まで時間がかかるものの、量子アプリケーションを開発できるエンジニアの育成は不可欠だ。数年後には田伏氏が管轄するデザイン&エンジニアリング部に量子エンジニアを配置して、そこから全社に展開する計画を立てている。

R&Dの成果は事業化してこそ価値を生む

このように、Near-Term R&D、Long-Term R&Dが一体となって進むTISの技術戦略。現状は社内公開にとどまるが、いずれは社外にも文書を共有して目線を合わせたいとする。技術戦略に対する理解が深まれば、より解像度の高い共創が可能になるからだ。最後にTISの強みについて聞くと、次のような答えが返ってきた。

「Near-Term R&Dでは、お客様や市場、社会の期待に対して、質の高いソフトウエアをできるだけ効率よく作ることに注力していきます。また、R&Dに直結するデザイン&エンジニアリング部のようなエンジニア部門が普及促進をしたり、教育のカリキュラムを自分たちで作ったりするところがTISならではの特徴です。そうした組織に加わる面白さもエンジニアの人たちに感じてほしいですね」(田伏氏)

「Long-Term R&Dには博士号を持つ研究者も取り組んでいて、活発に論文を発表しています。しかし研究に没頭するだけでなく、いかに社会課題の解決につながるかを常に意識しています。我々が取り組む中長期の研究開発が、将来的に様々な社会課題の解決に貢献できれば、これほど嬉しいことはありません」(市田氏)

ITの世界は日進月歩だけに、生成AIのような革新的技術がいつ生まれるかは予想できない。だが、設立から半世紀を超える長きにわたり社会のITシステムを支えてきたTISでは、時代の要請に応じて自らが進化を遂げてきた。明確な技術戦略がある限り、同社の方向性がブレることはないだろう。これからのビジネス展開にも注目したい。

お問い合わせ

T&I本部が企画・運営する
TISインテックグループの技術ナレッジサイトFintan

WEBサイトへ

本記事に関する件を含めたお問い合わせ先

fintan@tis.co.jp