

CFRP(炭素繊維強化プラスチック)は、高い剛性・強度と軽量性を兼ね備えた優れた材料である。その一方で、思い通りの形状に加工しにくいという欠点も抱えている。東レエンジニアリングは、CFRPのメリットを損なうことなく、造形物をつくり出せるCFRPを代表とする複合材向けの3Dプリンターの技術を開発。すぐに導入可能な技術として提供し、同時にさらなる技術開発を進めている。
優れた特性を持つ材料の採用は、新たな価値を持つ工業製品やその部品をつくり出すためのイノベーション創出の王道である。けれども、優れた特性を持つ材料は、加工や取り扱いが難しい傾向がある。CFRPはその典型といえる。軽量だが極めて高い剛性・強度が得られるその特性は、航空宇宙やモビリティー、医療、スポーツなどの応用領域で極めて有用だ。しかし、高すぎる剛性・強度、および物性の異なる物質の複合材料であることが仇となって、一般的な切削加工では高品質・高精度・低コストでの加工が困難である。射出成形で造形する方法もある。しかし、金型の作製が必須になるため多品種少量生産には向いておらず、複雑な形状のものをつくる際には造形後の切削や穴あけを伴う分割組み立てをする必要もある。こうした加工の難しさが原因となって、有用な材料でありながら、その応用が限定されている面があった。
東レエンジニアリングは、「コアシェル方式複合材3D造形機」と呼ぶ、3Dプリンターで複合材料による効果的な造形を可能にする技術を開発した。炭素繊維やガラス繊維、セルロース繊維などを樹脂で固めた複合材料の応用を飛躍的に拡大させる可能性を秘める技術である。東レグループは炭素繊維複合材料の領域で、技術開発とビジネス開拓の両面でリードしている。東レエンジニアリングの圓﨑諭氏は「有用な材料を応用・活用しやすい環境を整えることで、イノベーション創出を後押ししていきます」と話す。
これまでにも、3Dプリンターを利用してCFRPの応用拡大を目指す提案は存在した。3Dプリンターを活用すれば、切削や射出成形などの従来加工法では実現できない複雑な形状や中空構造などを一括形成できるようになる。さらには、多品種少量生産や形状のカスタマイズへの柔軟対応も可能である。
ただし、これまでのCFRP向け3Dプリンターには、応用拡大を阻む欠点が残されていた。造形物の剛性・強度に異方性が生じることである。
3Dプリンターでは、3Dモデルを薄い層に分割し、それらを1層ずつ積み重ねていくことで造形していく。そこにCFRPを適用すれば、薄い各層の平面内の剛性・強度は高まるものの、積層した上下方向の剛性・強度も高まるわけではない。層間のつながりが炭素繊維で補強されるわけではないからだ。むしろCFRPを適用した場合には、平面方向の剛性・強度が極めて強まるが故に、逆に異方性が悪目立ちするようになってしまう。例えば、造形物に負荷が掛かると、各層が剥離してしまう懸念があった。
東レエンジニアリングのコアシェル方式は、CFRP向け3Dプリンターでは避けられなかった造形後の物性の異方性を解消できる技術である。
コンセプトは以下のようなものだ(図1)。造形前に3Dモデルを、外殻となる「シェル」と、剛性・強度を付与する内骨格となる「コア」の2領域に分割。3Dプリンターで積層していくそれぞれの層を形成するプロセスでは、まず紫外線硬化樹脂によってシェルを光造形して器をつくり、そこに短繊維の炭素繊維(ミルドCF)を含有した熱硬化性樹脂ペーストを吐出ノズルから注入していく。そして、通常の3Dプリンターと同様にこのプロセスを繰り返し、シェル内にコアになるペーストが液状で充填された状態にする。
その後90℃前後で熱処理することでコアを一括硬化。こうすることで、コアは剛性・強度の等方性を確保した造形物として出来上がる。
現時点で完成しているコアシェル方式用造形機は、市販の液相光重合法3Dプリンターに、同社が開発したペーストの注入ユニットを導入してつくられている。シェルは、最小0.1mm厚の精度で積層し、最大40cm角で造形可能だ。
また、「ご希望の機種に注入ユニットを搭載することもご相談いただけます」(圓﨑氏)という。さらに、シェルの造形に適用する材料は、ベースとなる3Dプリンターで利用可能なものならば相談可能だ。3Dプリンター自体の技術の進歩は著しく、高精度化やスループットの向上が進んでいる。こうした技術の進歩と歩調を合わせながら、最新機種にCFRPの造形機能を付加できる。
一方、コアの造形に利用する、ミルドCFが含まれた流動性の高い熱硬化性樹脂は、パートナー企業と共同で開発して利用している。
コアシェル方式複合材3D造形機には、大きく2つの造形方法がある。1つは、最終造形物にシェルを残したまま利用する方法。剛性・強度を高めたい部分だけにコア材を使用する。これによって、材料コストを抑えながら、3Dプリンターの造形物を強化できる。
もう1つは、シェルを取り除いてコアだけを利用する方法。全体を強化したい場合に利用する。コア材にミルドCFを適用することで、一般的な樹脂と同様の加工が可能である。現時点で、造形後のシェルを削り取って除去する方法は確立済み。薬品で溶かして除去する方法や、水溶性の材料でシェルをつくる技術も検討している。
東レエンジニアリングでは、滋賀県大津市の関西本社にコンセプト実証機を利用可能なオープンラボを設置している(図2)。造形データを持参すれば、初回は基本無償で、同社のサポートを受けながらCFRPによる造形を試せる。造形データだけ送付して、造形を委託することも可能だ。
CFRPをはじめとする複合材料の潜在能力は極めて大きい。その応用や最終製品への適用を拡大する上で、加工技術の技術革新は必要条件の1つだ。「炭素繊維の応用に新しい道を開く技術が出来上がったと自負しています」と圓﨑氏は語る。
試用のハードルは高くないので、CFRPを使った造形の新しい可能性を試してみるといいだろう。