PropTechで不動産を再定義 東通グループの挑戦と進化

ライフスタイルが多様化し、住宅に求められる役割が大きく変わりつつある中、不動産はどうあるべきか──。不動産売買、賃貸管理、⼟地開発、ホテル事業など多岐にわたる事業を手がける東通グループは、プロップテック(PropTech:不動産×テクノロジー)やAI領域に注力して、不動産のあり方を再設計しようとしている。同グループ執行役員で、経営戦略センター経営企画室長を務める桜井吉男氏は、TikTokを運営するバイトダンスの日本法人立ち上げメンバーでもあり、デジタル業界で高い実績を残してきた。「伝統的な不動産業界に対し旧態依然の慣習に囚われることなく、ダイナミックな変革を推進していくこと」が自らの使命だという桜井氏に、不動産の未来とテクノロジーが果たす役割について聞いた。

テクノロジー×不動産で
「暮らし」を進化させる

働く場所も時間も自由になり、趣味や発信活動が暮らしに溶け込み、ペットとの共生や副業の選択肢も当たり前の時代になった今、人々の暮らしは大きく変化している。東通グループは「不動産とは何か」「住宅とはどうあるべきか」という根本的な問いに対して、テクノロジーの力を使って時代の変化に合わせて不動産そのものを再設計する取り組みを加速させている。

その代表例のひとつが、「配信者向け住宅」の構想だ。
「実は東京都内では、配信者向けのレンタルスタジオがほぼ埋まってしまい不足している状態なのです。単純な発想だと、それならばレンタルスタジオを作ればビジネスになると思いますけど、我々は世の中の傾向にマッチした住宅を創出しようと考えるんです。昭和の時代、当時の有名な漫画家たちが若手の頃に住んでいたトキワ荘というアパートがありました。そこは同じ志を持つ漫画家たちが集まり刺激を受けながら切磋琢磨していた場所として知られています。ならば、令和版のデジタルトキワ荘があってもいいんじゃないかと。つまり、通信環境や機材などがデフォルトで完備されていて、YouTuberやTikTokerといった配信者しか入居できない賃貸住宅です。このテクノロジーと住居を融合させる発想こそが、我々が追求する革新性ですね」

東通グループ社 執行役員

桜井 吉男

こうした新しい視点によって計画中の賃貸住宅は他にもある。それが、自分のライフスタイルに合わせた賃貸住宅ブランド「THE TOTSU」だ。一つの例は「オーダーメイド型賃貸マンション」だ。同じ空間の中で1LDKから3Kまでの間取りをカスタマイズできる四谷坂町のオーダーメイド型賃貸マンションでは、トレーニングジムやヨガのスペースが欲しいといった趣味やライフスタイルに合わせて間取りを調整できる。また、屋上ドッグランやペット向けIoTなどを備えた品川の「大型ペット共存型賃貸マンション」も画期的だ。「将来的にはプロップテックの要素を強化し、自動室温調整や自動餌やり機のようなIoT的な機能も実装することを考えています。まさに我々だから可能な付加価値をお届けできると思います」

「革新性」という言葉の裏には、旧態依然の不動産取引がいまだに業界に残っている現実がある。SNSの普及やプロップテック(PropTech:不動産×テクノロジー)の登場により、業界はどのように変わっていくのか。
「従来の不動産取引には不透明な部分がありましたが、SNSを介して情報の透明性が高まるのは間違いないでしょう。特に賃貸の部分は大きく変わります。テクノロジーの進化やSNSの進化により情報の透明性が高まる中、我々としても、単なる物件情報を提供するだけではなく、リアルな現場体験やコミュニティの形成などを提供したいと考えています」

例えばVRを活用して遠隔地からでも内見可能になるなど、ユーザーの利便性が格段に向上することも予想される。現地で内見する場合でも、顧客の予約時間に合わせて冷房のスイッチを入れておいたり、スマホアプリと連動してゲストキーを発行するなど、IoTを駆使すれば利便性を高められる。テクノロジーを有効活用することで、東通グループは不動産をより身近に感じられる世界を構築しようとしている。

屋上ドッグランを設置した大型ペット共存型賃貸マンション THE TOTSU KITA-SHINAGAWA

THE TOTSU YOTSUYA SAKAMACHIではマグネット付きの壁面で空間を手軽にアレンジできる

「不動産取引の透明性を高めるという点では、ブロックチェーンやAIなどのテクノロジーが非常に重要ですし、さらに取引の簡素化という課題もある。不動産取引のプロセスはかなり煩雑なので、AIやブロックチェーンの活用により、スピードアップだけでなくプロセス自体を簡素化する大きなメリットが期待できます。
現在企画中の不動産小口化商品のクラウドファンディング事業についても、AI機能を実装し、適切な価格査定や利益の予測など、リスクヘッジ面の判断を支援していく機能を導入する予定です。
グローバルな見地では、日本の不動産業界はかなり遅れていますね。プロップテックは欧米や中国、東南アジアでは相当進んでいるのに、日本ではまだまだ浸透していない。テクノロジーを導入し始めている企業もありますが、海外で当たり前に使われている技術が、ようやく日本に入ってきたという状況なので、我々は積極的に導入を進めていきたいと考えています」

テクノロジーと組織の
“同時改革”

「我々は『不動産』という動かないものをダイナミックに動かしていこうとしています。従来の業界の手法では難しいので、私が今までIT分野で培ってきた経験やノウハウ、アイデアを融合させた形でプロップテックを推進したい。そこで鍵を握るのがテクノロジー。現状の不動産業界に風穴を開けるという、そんなイメージを持ってチャレンジしたいと思っています」

こうしたテクノロジー活用を実現するうえで欠かせないのが、社内のあり方そのものを見直す取り組みだ。テクノロジーを本当の意味で活用するには、外側だけでなく組織の内側にも変革が必要になる。
「どれだけプロップテックを語っても、社員にノウハウやリテラシーがなければ、絵に描いた餅になってしまう。我々がテクノロジーを強化し、古い体質の不動産業界の固定概念を破っていくためにも、社内改革は必要不可欠です。その一環として、チャット、メール、ドキュメント、ビデオ会議、スケジュール管理、データベース、外部連携、クラウドストレージなど、ビジネスに欠かせない機能を一元化した『Lark』をグループ全社に導入しました。メール文化も稟議の紙回しも、もうやめましょうと。社員全員がリアルタイムで連携し、意思決定の可視化・高速化を図っています」

また、プロップテックを実現するには、ツールや制度だけでなく「人と組織のベクトル」を一致させることも重要だ。そこで同社が取り入れたのが、GoogleやMetaなどの世界的なテック企業も導入している目標管理手法「OKR(Objectives and Key Results)」だ。
「OKRは単なる目標管理ではありません。部署ごとのバラバラなKPIを束ね、全社で“今どこを目指しているのか”を共有するための可視化ツールでもあります」と、桜井氏は語る。OKRの導入により、部門を超えた横断的な連携がしやすくなり、例えばDX推進と営業現場、マーケティングがリアルタイムで連携しながら、同じゴールに向かって動ける体制が整いつつある。

そして社内の意識改革として、ワークショップ形式の参加型勉強会を開催し、新しいテクノロジーを積極的に学ぶ場としている。今後は、プロップテックの中でも特にAIやブロックチェーンといった専門的なテーマについても扱っていく予定だという。

このように組織としての地盤を整えることで、東通グループはテクノロジーを単なる効率化の道具としてではなく、より深く生活や事業に統合する準備を進めている。暮らしと不動産の関係を再構築するための基盤として、テクノロジー活用を位置づけているのだ。

「不動産をもっと自由に」
東通グループの5つの挑戦領域

こうしたテクノロジーを活用する取り組みは、同グループ全体の成長戦略の中核をなしている。2030年に運用資産規模3,000億円という目標を掲げる東通グループは、「不動産をもっと自由に大作戦」と題し、成長のための5つの事業柱を打ち出している。

不動産をもっと自由に大作戦

このうち「①資産運用」に関しては、2025年4月1日に新会社となる東通アセットマネジメント株式会社を設立。世界中の機関投資家とのネットワークを生かしたグローバルな運用体制を確立した。「②不動産投資」は、クラウドファンディングの形で不動産にAI機能を取り入れ、手軽な形でビギナーを取り組もうとするもの。不動産投資の不透明さやハードルの高さを取り除き、誰もが気軽に参入できる事業として期待されている。「③宿泊体験」では、単なる画一的な“宿泊施設”ではなく、街の空気・人の感性と呼応する“共鳴型ホテル”という新たな選択肢のホテルを展開。IoTを全面的に取り入れ、「④賃貸」では“大型ペット共存型”や“オーダーメイド型”を、「⑤上質な暮らし」では都心のハイグレード層に向け隈研吾氏とコラボレーションした高級賃貸マンションを新たな住まいの選択肢として展開する予定だ。

「不動産をもっと自由に大作戦」というキャッチーなネーミングもさることながら、そのユニークで大胆な事業戦略は時代のニーズを的確に捉えたものばかりだ。「革新性を意識しながら、まちづくりの一環として世の中に貢献していきたい」(桜井氏)という東通グループの本気度が伝わってくる。日本の不動産市場において、同グループが新たな潮流を生み出す可能性もあるだろう。

こうした一つひとつの挑戦は、単なる物件の企画開発ではない。東通グループが見据えているのは、「住宅とは何か」「不動産とは何のためにあるのか」といった、より本質的な問いに向き合い直すことだ。その先にあるのは、“モノ”としての不動産ではなく、“人”の暮らしや社会そのものをデザインしていくという未来志向のビジョンである。

「未来の不動産は、より“人間の暮らし”に近づいていくべきです。人がテクノロジーに使われるのではなく、テクノロジーが人を支える存在にしたい」
そう語る桜井氏は、不動産業界の常識を次々と“更新”していく。
「我々は、まだ不便さが多く残るこの業界で、変革の口火を切りたい。未来の暮らしが、もっと自由で快適なものであるように。東通グループは、その一歩を踏み出しています」