新しい経済番組として注目を集める、テレビ東京の「円卓コンフィデンシャル~他社との遭遇~」。各ジャンルのプロが円卓を囲み、本音で語り合う。ここでしか聞くことのできない、ノウハウや経験談が満載だ。地上波放送以外に、さらにディープな分野に焦点を当てたスピンオフ企画の配信スペシャルも好評。今回、「まだ間に合う!ビジネス拡大も実現できる驚きのDX戦略」というテーマでスピンオフ企画が行われた(MC:宮島 咲良(写真右端)たける(東京ホテイソン)(写真左端))。本記事では番組内容を一部編集し再現する。DX先進企業の豊田通商、ベネッセコーポレーションにおいてデジタル化を推進する担当者が出席。ソリューション提供の立場からウイングアーク1st(以下、ウイングアーク)、DX専門家としてエヌ・ティ・ティ・データ経営研究所の主席研究員も参加。日本企業のDXはなぜ進まないのか。現場の生きた声から見えてきた障壁と解決策とは?ビジネス拡大につながるDX戦略の真髄に迫る。
宮島 スイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表した「世界デジタル競争力ランキング2024」によると、日本は67カ国中、31位でした。
たける 日本はすべてにおいて進んでいる国だと思っていたのですが、真ん中くらいの位置なんですね。
宮島 詳細を見ると、衝撃的な現実と直面することになります。人材知識レベルは過去最低の53位、デジタル技術スキルは67位と最下位でした。三谷さん、なぜ日本はデジタル後進国に陥ってしまったのでしょうか?
三谷 実は、1990年代以降、日本のデジタル投資額はほぼ増えていません。一方、アメリカは3倍以上にふくれあがっています。国内では、DXは大事だという認識はあっても、そこに資金が投入できていない。一歩踏み出せないのは、複合的な要因があると思いますが、大きなポイントは投資対効果です。経営者はさまざまな投資を行います。デジタルに投資しても短期的に大きなリターンにつながらないとの経営判断が、日本のDXにおける大きな課題になっていると考えています。
宮島 業務のデジタル化に取り組んだ企業は、どのようなメリットを実感されているのでしょう。豊田通商の中川さん、いかがですか?
中川 請求書、領収書、お客様に出す案内書など、社内には多種多様な帳票が存在します。豊田通商では、コロナ禍で出社できない状態の時に、電子化を急速に進めました。しかし、電子化だけでは業務効率化につながりません。電子化したうえで一元的に文書管理することが重要です。これまでは取引先やお客様から照会があった時に、段ボールの中に詰め込んでいる紙の帳票から、該当するものを見つけ出すのに、多くの手間と時間がかかっていました。それが帳票の電子化により簡単に検索できるようになって、探す工数の大幅削減が実現できた。さらに、空いた時間を営業活動など本来業務に当てることもできます。事務業務の効率化は、ビジネスチャンスに結びつくという視点は大切だと思います。
宮島 豊田通商は海外企業とのビジネスも多いようですが、社内業務の効率化という側面だけでないメリットもあったんですよね?
中川 海外との取引はデジタル化が必須です。先ほど「世界デジタル競争力ランキング2024」のお話がありましたが、海外はデジタル化が進んでいるため、それに合わせた対応が求められます。当社は、アフリカの全54カ国にネットワークを持っています。アフリカを含め海外向け帳票はPDF化してメール送付できます。郵送費を削減できることはデジタル化の大きな効果の1つだと思います。
宮島 紙の帳票を探す手間の解消や、グローバルとの電子取引対応、郵送費削減は、わかりやすいメリットですね。まず足元のデジタル化で効果を出すという考え方は大事だと思います。ウイングアークの崎本さん、システムの観点から見解をお聞かせいただけますか。
崎本 企業内では、PDFやExcelなど多種多様な形式の帳票が飛び交っています。段ボール箱から紙の帳票を探すのも大変ですが、電子化された帳票を効率的かつ効果的に活用するためには仕組みが必要です。それを実現したものが、電子帳票プラットフォーム「invoiceAgent(インボイスエージェント)」です。これは国内はもとより海外との電子取引が行える機能も備えています。
電子帳票プラットフォーム「invoiceAgent」により電子化された帳票が効果的に活用できる
三谷 企業は、一枚岩でシステムが整備されているわけではありません。各部門で使っている帳票の形式が異なっているケースもよくあることです。そんなバラバラの帳票をプラットフォームで集約・整理した上で、そのデータを新たなビジネスを生み出すために活用することが重要だと思います。大切なのは、システムを入れるだけでは、大きな効果を得ることはできないということです。それに合わせて業務プロセスを変えることが必要です。
山﨑 ベネッセでも、invoiceAgentを導入しています。当社にも、業務用帳票や、お客様に提出する帳票などがたくさんあります。帳票DXを推進するためには、まず目的に合ったソリューションを見つけて導入すること。そして、三谷さんからお話があったように、ちゃんと使うこと。ソリューションの導入が目的ではありません。それを使い倒し価値を出すところまでしっかり行えるように、全メンバーの意識をそろえることが大切だと思っています。
宮島 帳票DXはメリットが明快です。日本企業も取り組みやすいと思うのですが、それでもデジタル化に踏み切っていない企業も多い、どんな障壁があるんでしょうか?
中川 帳票DXは、自社の改革だけでは実現できません。改革に合わせてお客様のシステム環境の整備も必要です。例えば、電子化した請求書をお客様にWeb配信しても、それを受け取り管理できる仕組みが相手側にないとやりとりが成立しません。その場合は、結果的に「紙で送ってください」と依頼されるわけです。
たける お客様だから、電子取引のためにシステムを整備してほしいとは言いづらい面もあるのですか。
中川 そうですね。当社が取引している会社には、他の取引先もあるので、その関係性の中で業務プロセスや仕組みを変えられないこともあると思います。
三谷 DX推進において、企業間取引は重要なテーマです。今もFAXで取引を行っている中堅・中小企業も多くありますが、紙帳票やFAXを使った取引を継続することはリスクを含んでいると言えます。将来的な環境変化により取引相手が変わったり、グローバルで展開しようとする際に、紙の帳票は新たなビジネスの阻害要因になりかねません。
﨑本 中堅・中小企業で、いかに電子取引を普及させていくか。難しいテーマですね。この他にもう1つ、電子取引の普及を阻害している課題があります。それが帳票のPDF化は本質的にはデジタル化ではないという観点です。これは盲点だと思います。PDFの場合、受領側が帳票をデータとして活用するためには、紙の帳票と同様に入力作業が発生します。PDFは基本的に写真と同じ画像データだからです。
たける 二度手間ですよね。電子化とデジタル化は違うということですね。
﨑本 ウイングアークは、取引先のシステムを変えることなく、企業間をつなぐ新しい帳票のかたちとして、「デジタル帳票」を提唱しています。これは、帳票作成段階で、受領側のシステムでも利用できるデジタルデータを、PDFの帳票に埋め込むという考え方です。
たける 受け取る側の二度手間がなくなるということですね。
崎本 デジタル帳票は、転記することなく自社システムに取り込めます。保管を目的とする電子帳票と異なり、企業間取引の業務プロセスを変革するものです。こうした仕組みで、企業間のデータ流通を効率化していければと考えています。
宮島 電子取引の普及では、セキュリティに対する不安を持つ企業も多いと思います。払拭する対策はありますか?
﨑本 PDFの帳票は今、信憑性が問われ始めています。例えば、いわゆるPDFデータの場合、誰かが途中で書き換えても気づくことができません。その人が本当に発行したものかどうかも、実際には、わからないわけです。これを解決する手段として、最近では「タイムスタンプ」という技術があります。タイムスタンプは、その電子文書が原本であり、改ざんされていないことを証明する仕組みです。まず、タイムスタンプを活用し安全性を高めることが大切です。もう1つ、まだ総務省から認定・制度化されてはいないのですが、データ発行元の組織の正当性を証明するeシール(Electronic seal)も、セキュテリィの観点で重要な技術です。今は、どの企業が電子文書を送ったのか、本当のことはわかりません。PDFに記載されている会社名を、信用するしか手立てがないのが実情です。
たけし 怖いですね。
﨑本 安全安心のもとデータ流通を行うためには、タイムスタンプや、eシールを活用し、電子文書の信憑性を高めていくことが必要です。
三谷 電子文書のやりとりの安全性を考えるうえでは、グローバルな視点も欠かせません。2019年に、当時の安倍総理がダボス会議で、DFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)という日本発のコンセプトを打ち出しました。グローバルにおけるデータ流通では、信頼性が肝になるということですね。
﨑本 データ流通は企業や国の枠を超えて、グローバルで捉えるべきものだと思います。ウイングアークは世界標準技術を大事にし、その対応を積極的に進めています。
たける 素晴らしい技術がいろいろ出てくると、それを使いこなすための人材が大事になると思います。デジタル人材は、今どういう状況ですか?
﨑本 デジタル人材は取り合いですよね。これからの人材育成に向けた教育をどのようにしていくか。日本企業全体で考えるためにウイングアークとしてもサポートしていきたいと考えています。
たける ベネッセさんはいかがですか?
山﨑 現在、社内にデジタル人材が800名程度います。それでも、デジタル人材不足という問題を抱えている状況です。昔と違って、今は高度化されたデジタル人材が必要となっています。ビジネスを理解しているテクノロジー人材、もしくはテクノロジーがわかっているビジネス人材、こういう人たちは本当に企業間で取り合いです。そこでベネッセが今、力を入れているのは新人採用です。新入社員採用にDX人材というコースを設けています。そこで採用した人材を約半年間、ベネッセ内で研修しています。近年は若手社員が研修講師を担い、実践的な研修を行っています。職場で役に立つ知識を持ったうえで配属されるので、新入社員も自信を持ちますね。
﨑本 技術を活用するのは“人”ですよね。企業が成長していくためのDXという考え方を、企業内で浸透させていくことが重要だと思います。
宮島 三谷さん、専門家の立場からみて、一番大事なことは何ですか?
三谷 帳票をデジタル化して電子取引を進めて大きな効率化を生み出すということは、当然目指すべきだと思います。しかし、本当に大事なことは、溜まったデータを活用し、ビジネス拡大に向けて新しいサービス開発に乗り出すことだと思います。