近年、さまざまな企業において、基幹システムの老朽化やサポート終了などが課題になっている。速やかなマイグレーションに向け検討を続けているものの、自社業務に最適なシステム選びに悩んでいる担当者も少なくない。本記事では、基幹システム刷新の現状や、マイグレーション時に抑えるべきポイントを紹介。さらに、自社の状況に適した基幹システム・ERPを知るだけでなく、基幹システムを中心としたデジタル帳票基盤化を実現するヒントまで、専門家に聞いた。
多数の企業において大規模プロジェクトを指揮してきた、特定非営利活動法人 CIO Lounge 理事長の矢島孝應氏は、「日本企業は企業経営と情報システムがうまく連携ができていない」という課題を指摘する。その結果、国際経営開発研究所(IMD)が発表した世界デジタル競争力ランキング2024では31位に、また、2000年には1位だった日本の労働生産性も、2022年には20位近くまで落ちている。「こうした実態を、しっかりと把握すべきです」と矢島氏は警鐘を鳴らす。
そもそも、日本におけるIT化の歴史を振り返ってみると、1970年代から高性能なサーバーにリレーショナルデータベースなどのアプリケーションをインストールし、基幹システムを構築してきた。「その際、1、2年ほど時間がかけられ、現場の声を聞きながらニーズに合わせた最適な業務プロセスを、ウォーターフォール型で開発してきた背景があります。部門ごとの要求を全てシステムに取り込みながらプロセスを組み上げてきたのが、これまでの情報システムです」(矢島氏)。
しかし、2000年代から、エンタープライズレベルでのシステム統合や企業グループにおけるサプライチェーンマネジメント、いわゆる統合ERPを進めなければならない状況になる。当時は、縦割り組織で成功してきた企業に横串をさしていく体制や責任者の配置が出来上がってこなかった。さらに、全社で業務プロセスやデータを管理する役割を持つ情報システム部門は、非常に権限が弱かった。「それによって、基幹業務システム構築後の日本においては、ITへの投資が一気に減ってきました」(矢島氏)。
日本でITへの投資が減ってきた背景には、欧米の経営者との考え方の違いも大きく影響していると矢島氏は指摘する。「日本では経営視点の人件費は固定費であり、ITの運用はコスト増の要因になるという考えから、情報システムに対して投資をしませんでした。一方、欧米では人件費はフレキシブルで、ITを導入することで人件費を抑えるという取り組みを進めていきました」。
また、日本で基幹システムを再構築する際、システム構築に関わった担当者が退職し現場にいないことも大きな課題となっている。基幹システム構築時は、伝票がどのように流れて何枚保管するのか、といった業務を全てフローで描いていたが、今はコンピューターに入れたらアウトプットが出てくるという形でブラックボックス化されている。業務プロセスが十分に継承されてこなかったのだ。
さらに、本来であれば、統合ERPで基幹システムの再構築を目指さなければならないのだが、業務プロセスを詳しく理解している人がいないので、結局はグローバルスタンダードなプロセスで対応することが提案された。だが、現場から強い反発があり、経験で積み上げてきたプロセスを変えようとしても難しい状況になった。その結果、「工場や倉庫、営業といった現場については、グローバルスタンダードに対応できないでいます」と矢島氏は指摘している。
こうした中、企業はコアコンピタンス業務と標準化業務を明確に分ける必要がある。「前者については、企業独自の業務フローやルールをしっかりと整備した上でスペックを定め、内製化を進めていく。後者についてはアウトソーシングも視野に入れながら、グローバルスタンダードなパッケージを積極的に導入します」(矢島氏)。
そのためには、まず経営陣が情報を整理して意思決定を強化。職務の執行責任者は、コアコンピタンス業務を整理して組織を横串で進めるべき体制を構築していく。現場も過去のやり方を踏襲するのではなく、付加価値の高い業務にリソースをシフトしていく。そして、情報システム担当者もシステム開発力だけでなく、パッケージやAPIの活用、システム全体をデザインできる総合力をしっかりとつけ、ベンダーやSIerと連携した形でのプロジェクト推進力をつけてほしい、と矢島氏は語る。
また、DXはビジネスモデルの変革であり、10年後も生き残るには、企業は各部門の中で新たな付加価値を定期的に議論・提案するような場を作って推進する必要がある。「例えば、組織の枠を外して能力をもつ個人に果敢にチャレンジさせる。その上で、経営としてAIをどう活用・展開するのかをしっかりと見極めていく。個人が生成AIやディープランニングを使うだけでは意味がないので、経営の中で議論し検討していただきたい」と矢島氏はアドバイスした。
ビジネスエンジニアリングの上條翔氏は、組立・加工からプロセス製造まであらゆる製造業に対応し、ERPからPLM・IoT領域までカバーするシステム「mcframe」について紹介。上條氏は「会計などのバックオフィス業務は、パッケージ標準に合わせることが望ましいが、競争領域であるものづくりの業務は、自社の製造形態や業務モデルに適したシステムを選択することが望ましい」と指摘する。
ERPに必要な観点は「適材適所型のシステム思想」「デジタル領域拡張・活用のしやすさ」「グローバル展開のしやすさ」の3点と上條氏は語る。「適材適所型のシステム思想」は、業務の特性をシステムに反映しやすく、制度や業務の変更、事業の拡張にも強いこと。また、「デジタル領域拡張・活用のしやすさ」は、製造業は基幹システムの領域だけでなく、周辺の業務をデジタル化し、それらを組み合わせることによって競争力が強化すること。そして、「グローバル展開のしやすさ」とは、多言語や多通貨への対応に加え、海外拠点でもサポートを行うことにより、刷新しやすくなることだという。
上條氏は、mcframeが選ばれてきた背景について「業務の特性に対応しながら市場の変化に追従できる」「グローバルや複数拠点での一元化・統一化」「タイムリーかつ適切な実績共有・意思決定」「利益を作り出す多角的なカイゼン活動」の4つの観点から説明した。特に「タイムリーかつ適切な実績共有・意思決定」について、mcframeはさまざまなデバイスから実績を速やかに登録する仕組みを持っており、IoTも活用して設備から自動でデータを収集することで精度を向上させるという。
また、カイゼン活動は「グローバルやグループ管理の視点でも広げることが重要」と上條氏は説明する。世界の各拠点でデータを取得し、集約して可視化すれば、ものづくり全体で利益創出の活動が行える。そのためにはグループ全体で均一な情報でデータを集め、一つの基盤に集約した上で可視化を行うことで、スピーディな意思決定ができる。そして、mcframeはウイングアークのMotionBoardと連携可能となっているため、例えば、「在庫の分析から製造の進捗、原価分析など、現場の業務から経営の情報までさまざまなデータを可視化し活用できます」と上條氏は説明した。
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テラスカイの倉内聡郎氏は、経理業務や関連部門が抱える具体的な課題を整理し、業務効率化や法令遵守を実現するための解決策についてポイントを語った。例えば、情報システム部門だとシステムの乱立やシステム間連携ができていないことによる管理負担、経営層ではリアルタイムにデータが取れず、スピーディな経営判断や柔軟な分析ができないなどの課題がある。
それらの原因として、社内のシステム基盤が複雑化していることがある。例えば、システム分散による二重入力の発生や、システムを俯瞰した分析ができないといった課題が引き起こされている。システムを一カ所に集約して連携し、グラフィカルに経営状況が可視化できれば、日々の業務の非効率を削減して業務負荷やミスが防止できると倉内氏は指摘した。
テラスカイが提供する、Salesforce上で動くmitoco ERPは製品間でシームレスに連携しており、Salesforceの分析機能や同社の生成AIソリューションmitoco AIを使って自然言語解析まで可能だ。最終的にSalesforce上に溜まったmitoco ERPのデータは、標準で利用できるSalesforceの分析機能によって可視化される。さらに倉内氏は、mitoco会計を起点にワンプラットフォーム化を進めたユーザー事例を紹介。SalesforceのSFA/CRMから販購買、会計まで製品間連携されており、「会計に添付する証憑は、電子帳簿保存法対応オプションによって適切に保管ができる」と説明した。
mitoco会計ERPの機能は、ウイングアークとの製品協業によって成り立っており、SVFクラウドをバンドルし全帳票を出力している。また、請求書・領収書といった国税関係の書類を保管する際にも、インボイスエージェント文書管理をmitoco Work経費、mitoco会計・FujitsuGLOVIAOMと一緒に使えるようにして電子帳票保存法対応オプションとして提供しているという。倉内氏はmitoco会計ERPならではの特徴として、セグメント管理や予実管理などにも対応していると説明。「セグメントごとの分析機能以外にも、一般的な管理会計では見逃されることが多い重要なポイントとして、CRM/SFAの情報も組み合わせた情報分析ができます」と紹介した。
ウイングアークとテラスカイの製品協業
ウイングアークの敦賀武志氏は、デジタル帳票について「システム連携可能なデジタルデータという性質と、視認性の高い帳票イメージという両方の性質を持ち合わせ、タイムスタンプによる信憑性の高いPDFファイルの形で提示されている」と説明する。さらに、デジタル帳票基盤はあらゆる帳票ニーズに対応した次世代の基盤であり「帳票出力セレクションのSVFと、デジタル帳票の保管・配信・受取を自動的に行うインボイスエージェントで構成され、さまざまなカテゴリーのシステムから連携することで効果を発揮する」と述べた。
デジタル帳票基盤のメリットは、大きく4つあると敦賀氏は紹介する。まず、「業務効率を向上させる最適化されたアウトプットの運用」では、デジタルインボイス規格のPeppolにも対応しており、他社の対応ツールとの電子取引も実現可能だ。次に「さまざまなシステムとつながる拡張性と既存システム活用の促進」では、ERPや基幹システムから出力あるいは配信するだけでなく、受領した帳票のワークフローへの連携や、帳票データをERPや機関システムに連携も可能だ。また、「法対応・セキュアな文書管理によるガバナンス強化」も実現でき、電子帳票保存法に対応した文書の保管が可能となる。そして、「システム開発・運用コストの削減」では、システムの開発コストだけでなく、プリンターの調達や紙の保管、郵送のコストなどを削減できる。
一方で、基幹システムERPの導入においてクリアすべき課題として、例えば、導入コストの増加や人材不足、複数システムの煩雑化、取引業務の非生産性といったことが挙げられるが、これら課題は「SVFやインボイスエージェントを使ったデジタル帳票基盤で解決できる」と敦賀氏は説明する。
さらに敦賀氏は、デジタル帳票基盤は「帳票作成・出力」「電子帳票保管」「取引先への電子帳票配信」の3つの基本要件に対応していることも説明。帳票のPDF化は、ERP基幹システムから帳票データを帳票サーバーに連携すれば、インターフェースモジュールが、予め作成していた帳票レイアウトと帳票データをマッピングして、実行モジュールでPDF化してくれる。さらに、「それを監視フォルダに出力するインボイスエージェントがファイルを吸い上げ、自動的に各社宛に振り分けてくれる」と紹介した。
デジタル帳票基盤が提供するシステムの役割・価値
日本企業を基幹システムの刷新から立て直し、デジタル帳票基盤化でさらに進化させるためのヒントを紹介した。さまざまな経営課題の解決に貢献していくであろう、基幹システムを中心としたデジタル帳票基盤化の実現に向け、今後も注目していきたい。