現場から始まるDX開発
「生成AIは万能じゃない」

「生成AI導入は、100点ではなくたとえ50点でも進めるべき」という言葉に象徴されるのは現場主体の「草の根DX」を加速する姿勢だ。データドリブン経営の実現を目指す同社はBI・データ活用分野をけん引するウイングアーク製品を活用。新たに開発するのではなく、生成AIを現場業務に組み込むことでバックオフィスDXを推進する。現場はAIに頼りきらず自らの判断で活用する。ポイントは、AIが万能ではないと理解したうえで成果につなげることだ。

フィードバック・ループを
高速化する「草の根DX」

ヤンマー建機株式会社
経営戦略部
イノベーション推進部 部長
田中 重信氏

DXの本質は何か。小型建設機械のパイオニアとして世界で事業展開するヤンマー建機。DXの考え方は、フィードバック・ループだ。ループは、1.情報・データ収集、2.意思決定、3.アクション、4.課題の設定・改善策の仮説策定の4つのステップで構成。このサイクルを回し、製品と企業や従業員自身の進化を加速させる。この考え方は、ヤンマーホールディングスが提唱し、グループで共有し実践しているものだ。「フィードバック・ループの高速化はヤンマー建機におけるDX活動の考え方の柱です」と、ヤンマー建機の田中重信氏は話す。

世界初の小型ディーゼルエンジンを開発したヤンマーグループ。その一員であるヤンマー建機は、幅広いシーンで活躍する小型建設機械の開発から生産・販売・サービスまで一貫して行う。ものづくりに長い歴史を有するヤンマー。そのDNAを受け継ぐヤンマー建機のDXは現場主体だ。「現場が問題意識を持ち、DX推進部門と連携しデータを活用して自ら解決していく、マインドや文化を醸成する『草の根DX』に取り組んでいます」(田中氏)

「草の根DX」の原点は、2020年に着手した品質保証部におけるExcelからの脱却だ。ウイングアークのBIダッシュボード「MotionBoard」、データ分析基盤「Dr.Sum」を導入し、一元管理されたデータから効率的な資料作成を実現。属人化も解消できた。2022年にはDX推進部門が設立され、品質保証部門の成功モデルを全社展開した。 

ヤンマー建機においては、Dr.Sumでデータ収集 、MotionBoardで可視化、さらに生成AIを使って課題解決を支援するためにウイングアークのAIプラットフォーム「dejiren」を導入し、フィードバック・ループを高速化。「草の根DX」は新たなステージに入った。

生成AIは万能にあらず
人の知恵で真価を引き出す

ヤンマー建機株式会社
経営戦略部
イノベーション推進部
DX推進グループ
安田 知未氏

現場に生成AIを導入する懸念について、同社の安田知未氏は話す。「現場は、生成AIが万能だと過信する傾向がありますが、実際は、万能ではありません。現場が責任を持って使いこなすことが重要です。マインドチェンジしないと、精度が低いと言って頓挫することもあり得ます」。田中氏は、「慣れない新入社員に接するのと同じです。現場が生成AIの回答をチェックし評価を加え、育てていく視点が大切です」と指摘する。

生成AIに対する現場の認識をいかに変えるか。「現場に対してマネージメントの皆さんから『100点ではなく50点でもいいから、生成AIを使うべき』とのメッセージを打ち出してもらいました。ゼロから始めるより、できているところからスタートするほうが時間を有効活用できます」と田中氏は話し、活用例を挙げた。

「現在、人事総務部門は生成AIのRAG(検索拡張生成)を使って人事規定を検索できる仕組みを社員向けに構築しています。生成AIは誤った回答を出す可能性があるため、当初担当者は慎重でしたが、マネージメントのメッセージが背中を押してくれました。多くのページで構成されるPDFの人事規定から必要な情報を社員がすべて探すのは大変です。生成AIで必要な部分を自然言語で検索できればずっと楽になりますし、参照元を表示する仕組みなので正確性と効率性を両立できると思います」

現場の“困りごと”を解決
バックオフィスDXを推進

一般的にバックオフィスで生じるデータは、データドリブン経営の基本要素となるが、DXが思うように進んでいないのが現状だ。バックオフィス業務は属人化されているケースが少なくなく、標準化、データの一元管理の実現において、システム開発やパッケージ導入など、デジタル化を進めるにはコストや時間がかかる。現場の理解を得ることも難しい。「既存システムを改修する必要がなく、現場にとって真に役立つこと。現場の“困りごと”をウイングアーク製品の連携により解決することで、バックオフィスをサポートできるDXの検討に手を付けました」(田中氏)

バックオフィスではシステム化が難しい業務もある。例えば取引先の請求書はまだ紙が多く、会計システムから支払い予定金額の明細情報を印刷し、請求書と目視で照合している。デジタルでの自動照合を実現するため、Dr.Sumとのデータ連携を中核として電子帳票プラットフォームinvoiceAgent文書管理とdejirenとMotionBoardを連携したシステムのPoCを実施。紙の請求書をPDF化しフォルダーに入れた後に、MotionBoardの画面から取り込み開始ボタンを押すと、invoiceAgent文書管理に自動的に格納される。そのPDFからdejirenにより生成AIでテキストを抽出しデジタル化。MotionBoard上で支払い予定金額と請求金額とが横並びで確認でき、作業効率が大幅に向上する見込みを確認した。「パッと見て、OKかNGかすぐに分かります。金額が間違って抽出されていた場合、invoiceAgentと連携しているためその場で元のPDFを表示・確認し修正できます」(安田氏)

効率化は確認作業だけにとどまらない。承認作業もMotionBoard上で完結できる。「現在、PoCが終了し、システム運用による業務効率化が見込める業務を検討中です。また、この仕組みを自分たちの部門でも応用したいという要望も寄せられています」(安田氏)

今後について田中氏は「国内外を飛び回る社内のメンバーのDXを助けるため出張報告書作成の自動化など、現場視点の生成AI活用をさらに推進したいと考えています。自社開発ではなく、製品組み込みの生成AIを組み合わせて活用することで導入のスピードアップを図る考えです」と語る。

現場は意識せず生成AIを使いこなし、フィードバック・ループを進化させる。ヤンマー建機の挑戦は続く。

ウイングアーク製品の連携により伝票照合の効率化を実現。各社で紙の請求書フォーマットが異なる場合も、生成AIによりテキストを抽出し会計データと見比べやすいかたちで表示される