
生成AI悪用、電子取引危機
帳票作成時に非改ざん性を担保せよ
生成AI活用が拡がる中、悪用のリスクも考慮しなければならない。とりわけ電子取引では、デジタル空間での帳票改ざんをいかに防ぐかが喫緊の課題だ。受領後ではなく、帳票作成時に本人性と非改ざん性を証明するデジタルトラストの実施が求められる。電子認証※1分野の第一人者である西山晃氏と、帳票の分野で国内シェアNO.1(69%)※2のウイングアークでデジタルトラスト事業を主導する崎本高広氏。両氏は、グローバルと日本の動向、デジタルトラストの要点と普及に向けた課題について語り合った。
※1:認証局が発行する電子証明書を使って本人性、非改ざん性を確認する技術
※2:デロイト トーマツ ミック経済研究所株式会社発刊 ミックITリポート2024年11月号「帳票設計・運用製品の市場動向 2024年度版」図表2-3-1【運用】製品/サービスのベンダー別売上・シェア推移 2023年度実績
電子取引のデジタルトラスト
先行するEUと日本の違い
――グローバルと日本におけるデジタルトラストの動向、相違点についてお聞かせください。
フューチャー・トラスト・ラボ代表
慶應義塾大学SFC研究所上席所員
電子認証局会議特別会員
西山 晃氏
西山 デジタルトラストが進んでいるのはEU(欧州連合)です。EUは、欧州単一経済圏をデジタル世界でも実現するというコンセプト、「Digital Single Market」を掲げ、2016年にeIDAS(イーアイダス)規則が施行されました。eIDAS規則の下、国境を越えて信頼できる電子取引を行うために、電子署名、タイムスタンプ※3、eシール※4といったデジタルトラストサービスの標準化が進み、国境を越えた信頼できる電子取引が可能になっています。
崎本 日本では、電子帳簿保存法(電帳法)の下、電子帳票にタイムスタンプを付与しています。注視すべきは運用の違いで、EUが帳票発行時に付与するのに対し、日本では受領後に付与するのが一般的です。領収書をスキャンしてPDF化・保存する慣習の中で定着した運用だと思います。
西山 電帳法はもともと紙文書の電子保存を目的とし、“保存”に焦点がありました。電子取引拡大に伴い、発行時・受領時のどちらで付与しても要件を満たせます。一方、米国にはデジタルトラストに関する法規制がなく、企業間の合意に委ねられています。生成AIを悪用した改ざんリスクが高まる今、デジタルトラストの重要性は一層増しています。
※3 特定の時刻にその電子データが存在し、その後改ざんされていないことを証明する技術
※4 電子データの発行元を証明し、そのデータが改ざんされていないことを証明する技術
帳票作成時に非改ざん性を担保
生成AIを悪用した改ざん防止
――悪意のある改ざんリスクから、電子帳票を守るためのポイントを教えてください。
ウイングアーク1st株式会社
執行役員 Senior Vice President
崎本 高広氏
西山 対策はシンプルです。電子帳票作成時にタイムスタンプやeシールを付与しておくこと。受領後の付与では無防備にデジタル空間に晒されることになり、生成AIを使ってPDFを容易に書き換えることも可能です。しかし、事前に付与しておけば、改ざんが容易に検知できます。スペインやイタリアでは請求書等へのeシール義務化が進んでおり、今後eシールの利用拡大が期待されています。
崎本 タイムスタンプがない帳票は改ざんの有無が確認できません。当社のアンケート調査でも、「取引先から文書が本物かどうかを疑われた経験がある」との回答が3割以上でした。生成AI時代では、デジタル空間における非改ざん性の証明がより必要です。
タイムスタンプを高速付与
1000文書/1秒、月末処理も対応
――日本の商習慣では、月末に請求書などの帳票作成が集中します。作成時にタイムスタンプを付与できるものでしょうか?
崎本 従来のタイムスタンプサービスは帳票作成時の付与を想定していないため処理が遅いのです。例えば、1秒に1回の付与では1時間で3600枚。月末処理には到底耐えられません。当社の総合帳票基盤ソリューションSVFは国内シェアで69%を占めています。帳票作成時の非改ざん性担保は、当社にとって社会的使命といえます。帳票作成時のタイムスタンプ付与をかたちにしたのがTrustee(トラスティ)です。独自のPDF解析技術により1000文書/秒を超える高速なタイムスタンプ付与を実現しました。SVFとの連携はもとよりTrustee単体でもご利用いただけます。
西山 PDF生成後に後からタイムスタンプを付与するのではなく、PDF作成と同時にタイムスタンプを付与することで高速化を実現できるのですね。
崎本 はい。さらにPDFは基本的に非構造データですが、TrusteeとSVFを組み合わせることで受領側システムで直接利用できる構造化されたテキストデータを埋め込むことができます。当社ではこれをデジタル帳票と呼び、 OCRによるデータ化やシステムへ手入力することなく社内システムに自動で取り込めます。
西山 改ざん防止とともに生産性の向上にもつながる点が普及に向けた大きなポイントですね。
――デジタルトラストにおける今後の展望についてお聞かせください。
西山 日本企業の海外展開に伴い、電子帳票のやりとりはさらに増えていくでしょう。課題は、EUでは日本のタイムスタンプなどのトラストサービスの正当性を検証できず、逆に日本でもEUのトラストサービスの正当性を検証できないことです。デジタル経済圏のグローバル化に伴い、世界共通で利用できる国際相互認証の実現が求められます。私自身も欧州等の標準化団体と連携しつつ、慶應義塾大学で標準化の取り組みを行っています。帳票生成時点でデジタルトラストを確保する考え方は、国際的な取引の場でも大いに有効になると考えています。
崎本 当社は、電子文書の国際標準仕様「Peppol(ペポル)」への対応を進めています。Trusteeは国内金融機関の取引データや製造業の鋼材検査証明書(ミルシート) などに導入され、発注見積、納品など利用シーンが広がっています。今後はeシールにも対応予定です。Webサイトの信頼性担保から、HTTPがHTTPSへと移行したように、タイムスタンプのない帳票は受け取れないという商習慣が定着していくでしょう。日本のデジタルトラストを支える使命を果たしつつ、企業が帳票作成時にタイムスタンプを付与することで、非改ざん性を担保し、コンプライアンス順守と業務効率化を実現できると考えています。
Trusteeと合わせてSVFを利用することで、帳票作成時にタイムスタンプとデジタルデータを埋め込む。生成AI悪用による改ざんリスク回避とともに、転記を不要とし非生産性も解消する


