新リース会計基準
デロイト トーマツ
適用まで1年を切った新リース会計基準
AIと人の協働で進める対応のポイントとは
2027年4月以後に開始する事業年度から適用される新リース会計基準。企業には契約情報の網羅的な把握や複雑なリース判定が求められる一方、準備期間は残り1年を切った。デロイト トーマツの岡田泰治氏と浜島常雄氏は、対応のポイントとして「専門性」「運用(オペレート)」「テクノロジー」の3つを挙げる。AIによる契約書解析と人による判断を組み合わせながら、全社的な対応を進めるための考え方を聞いた。(聞き手:日経BP 総合研究所 主席研究員 小林 暢子)
新リース会計基準、経理部門だけでは対応できない
シニアマネジャー/公認会計士
岡田 泰治 氏
小林 2027年4月以後に開始する事業年度から新リース会計基準が適用されます。待ったなしの状況だと思いますが、対応状況をどのように見ていますか。
岡田 最短で対応を求められる3月決算企業の多くは、すでに調査や方針検討を進めています。一方で、ルールを決めた後の業務設計やシステム整備はこれからという企業もあります。未着手の企業は急ぐ必要があります。
小林 会計基準の変更は経理部門だけの問題と考えられがちですが、今回はどのような対応が求められますか。
岡田 新リース会計基準への対応は一般的に契約書を確認する所から始まります。契約書を管理しているのは経理部門だけではなく、総務や各事業部門、工場などさまざまです。それらの部門からも情報を集めて数値化する必要があります。さらにIT部門や内部統制部門、財務部門、IR部門などとの連携も不可欠です。特に店舗や拠点を多数持つ企業では財務インパクトが大きく、投資家とのコミュニケーションも重要になります。全社対応が必要になるのは間違いありません。
マネージングディレクター/公認会計士
浜島 常雄 氏
浜島 多くの企業で購買や支払いはシステム化されています。一方で、契約管理は十分にシステムが整備されていないケースもあります。会計処理の出発点となる契約情報が一元管理されていない状況で、複雑なリース判定を行わなければならず、その難しさにどう向き合うかが大きな課題です。
小林 今回の新リース会計基準は、国際的な会計基準である「IFRS第16号(以下、IFRS 16)」と日本の会計基準を合致させることが1つの目的です。IFRS 16への対応を支援してきた経験は役立ちますか。
岡田 IFRS 16適用当初は、企業も監査人もアドバイザーも手探りでした。しかし数年が経過し、監査人やアドバイザー側には相応の知見が蓄積されています。一定の落としどころは見えてきています。
3つの軸で総合的なサービスを提供
小林 新リース会計基準への具体的な対応方法を教えてください。
岡田 私たちは、「専門性」「オペレート」「テクノロジー」の3つのアプローチが重要だと考えています。専門性では、リース範囲の判定や会計ルールの解釈、業務プロセス設計には専門知識が必要です。オペレートでは、何百件もの契約を一度に処理するのは困難ですから、事前に準備を進めながら作業を平準化することが重要になります。テクノロジーでは、AIやシステムなど新しい技術の活用の仕方がポイントになります。
浜島 AIには大きな効果がありますがまだ限界があるのも事実です。最終的な確認や判断は人間が行わなければなりません。テクノロジーで効率化できる部分と、人間が担うべき部分の切り分けが重要です。
小林 デロイト トーマツではどのような支援を提供しているのでしょうか。
浜島 私たちは、専門性、オペレート、テクノロジーを組み合わせたサービスを提供しています。具体的には、企業は契約書のPDFをデロイト トーマツに送付するだけで、最終的に仕訳や注記情報をデロイト トーマツから受け取ることができる仕組みです。契約書は群馬県前橋市にある当社のオペレーションセンターで処理します。まず経理業務の経験豊富なオペレーターが契約内容を確認し、リースに該当するかどうかを判定します。判定が困難な場合には会計士が確認し、必要に応じて企業と相談して判定を行います。リース取引に該当するとなったらAI-OCRと生成AIを組み合わせて契約情報のデータを抽出し、AIと人間が役割分担するオペレーションを実現しています。
AIのテクノロジーと人間のオペレートを融合
小林 AI活用の実際の流れを教えてください。
浜島 契約書のPDFデータを受け取ると、まずAI-OCRでテキスト化します。その後、生成AIが「物件名」「契約期間」「契約者名」など必要な項目を抽出します。契約台帳のベースは自動で作成できますが、AIだけでは抽出漏れや誤認識が発生するため、オペレーターが原本PDFと照合しながら修正します。また、契約書上は「1年更新」でも実態として5年使う見込みであるといったケースも、AIだけでは判断できず人間が介在して初めて正しいデータになります。
小林 AIの導入で業務はどのように変わりますか。
浜島 契約書のPDFデータをアップロードすると、AI-OCRと生成AIによる処理が始まります。現在は1ファイルあたり約5分で処理が終わります。人間が契約書を読み込むと1時間程度かかるケースもあるため、大幅な効率化になります。その後は人間によるチェックを行います。
小林 導入に注意すべき点はありますか。
岡田 新リース会計基準のルールへの対応だけでなく、自社の将来の業務プロセスまで見据えて対応を進めることが重要です。適切なルール作りと業務設計を行えば、最短距離で対応できると考えます。
浜島 AIなどのテクノロジーを使っても、人が担うべき業務は必ず残ります。各社に最適なテクノロジーとオペレーションの組み合わせを検討するきっかけになればと思います。
小林 新リース会計基準は、制度対応にとどまらず、契約管理や業務プロセスを見直す機会にしていきたいですね。

