AI Foresight 2026 Summer Review

AI活用(法務の契約書業務)

アドビ

眠ったドキュメントが知的資産に変わる
契約業務から始める安全・高精度なAI活用

生成AIの導入は進む一方で、ドキュメントを扱う業務では「契約書では間違えられない」「社内文書を学習に利用されたくない」といった理由から、十分な効果を引き出せないケースもある。重要なのは、1つのAIですべてをこなすことではなく、業務に応じて最適なAIを使い分けることだ。アドビは、契約書や社内文書を安全に活用し、根拠に基づく回答を支援するドキュメントAIを提供している。企業に眠るPDFを知的資産へ変える新しいドキュメント活用について、同社の岩松健史氏に聞いた。(聞き手:日経BP 総合研究所 フェロー 林 哲史)

「1つのAI」ではなく「業務ごとのAI」を活用

アドビ
デジタルメディア事業統括本部
営業戦略部
ビジネスデベロップメントマネージャー
岩松 健史 氏

林 日本企業のAI活用は、現在どのような状況にあるのでしょうか。特にドキュメント分野についてお聞かせください。

岩松 PwCが公開している2025年の調査データを見ると、一般的なIT導入とは異なり、日本のAI導入率は米国とほぼ同水準です。ところが導入効果を見ると、日本は主要国よりかなり低い数値にとどまっています。PwCでは、その理由として、「日本企業はAIを効率化目的で導入するケースが多く、活用も現場任せになりがち」と分析しています。海外ではAIを新サービスや新事業の創出などの価値創造にも活用している点が大きな違いです。

林 確かに導入率は高いのに、日本では効果は期待ほど出ていない印象です。

岩松 ここで1つ考えたいのは、「AIは1つあれば十分」と思わないことです。業務ごとに適したAIを使い分ける必要があります。アドビ社内では、「この業務にはこのAIを使う」という考え方が浸透してきています。

契約業務では「精度」と「根拠」が重要

林 法務や契約業務では、AI活用にどのような特徴がありますか。

岩松 法務や契約業務では、一般的な生成AI活用とは事情が少し違います。法務や契約書では、少しでも間違いがあると大きな問題になります。そのため、回答には正確性と根拠が重要です。一方で、法務や契約業務では、対象となる文書が決まっています。そのためこの業務に適したAIは、インターネット全体から情報を集めるのではなく、必要な文書だけを対象に検索し、その範囲で回答を生成することが重要になります。

林 そうしたニーズに、アドビではどのように対応していますか。

岩松 現在アドビでは、社内文書全体を対象にAIが回答する仕組みが用意されています。一方で、法務部門などの文書比較や契約書レビューのような用途では、一般的な生成AIではなく、ドキュメント専用のAIを使っています。アドビではAcrobatにAI機能を追加して活用しています。

林 具体的には、どのように活用できるのでしょうか。

岩松 AI利用では、情報漏えいや回答の信頼性、AIへの攻撃などの懸念があります。Acrobat AIでは、お客様のデータをAIモデルの学習に利用しません。また、回答には引用元(アトリビューション)を表示します。法務部門なら「契約書に本当に書かれているか」をすぐ確認できます。Acrobat AIでは回答の根拠まで確認できるため、業務でも安心して利用できます。外部情報を参照しないため、情報汚染のリスクがないことも特徴です。

※講演の一部をOn-Demand形式で視聴いただけます。

ドキュメントを横断して知識へ変換

林 法務部門以外での利用や、複数の文書の活用について教えてください。

岩松 契約書だけでなく、提案書やマニュアルなど、さまざまなドキュメントを同じように活用できます。複数のPDFを対象に質問することも可能です。例えば、契約書と社内ルール、ガイドラインをまとめて読み込ませて、「この契約は社内ルールに適合していますか」といった質問もできます。Acrobat AIの「PDF スペース」では複数のPDFをAIが横断的に理解し、知識として活用できます。

林 「眠ったドキュメントを知的資産に変える」という考え方ですね。

岩松 企業には契約書や提案書、議事録、業務マニュアルなど、多くのPDFがあります。蓄積されていても必要な情報を探すには時間がかかります。PDF スペースにまとめて登録すると、AIがそれらを横断的に検索し、質問に回答できます。

林 実際の活用例もありますか。

岩松 法務部門にある契約書のひな型や法務Q&A、社内ルールなどの資料をPDF スペースに登録しておけば、営業担当者が「この契約で注意すべき点はありますか」「この条項に関連する社内ルールやガイドラインはありますか」と質問することで、AIが関連する資料を参照して回答します。最終判断は法務部門が行い、定型的な問い合わせはAIが一次回答します。新旧契約書を読み込ませて、変更点やリスクの増減などを比較することも簡単です。定型的な情報探索や一次確認をAIで効率化することで、担当者はより高度な判断が求められる案件に集中できます。

林 法務以外では、どのような使い方ができますか。

岩松 提案書や技術資料、社内マニュアル、議事録などをPDF スペースに登録すれば、部門で蓄積してきた知識を共有し、組織全体で活用する環境を構築できます。

[画像のクリックで拡大表示]
ドキュメントを知的資産に変えるPDF スペース
PDF スペースには、PDFをはじめとしたさまざまなドキュメントを最大100ファイルまで登録できる。これらのドキュメントを横断してAIが問い合わせに回答することで、分散したドキュメントが知的資産に変化する

林 今後、どのような機能拡張を予定していますか。

岩松 さまざまな機能拡張を進めています。例えば、SharePointやファイルサーバーなど、企業内で管理されている文書も対象にできるよう開発を進めています。PDFに限らず企業内の情報を活用できる環境を目指しています。

林 AIを利用する環境そのものが大きく変わっていきそうですね。

岩松 アドビでは、AIは人の仕事を置き換えるものではなく、人が持つ知識や企業に蓄積された文書を、より有効に活用するためのものだと考えています。1つのAIですべてを解決しようとするのではなく、業務に応じて最適なAIを使い分けることが重要です。ドキュメント業務においては、Acrobat AIを活用することで、これまで企業に眠っていた文書を、業務に活かせる知的資産へと変えていくことができます。そうした安全かつ高精度なドキュメントAIを、ぜひ活用していただきたいと思います。

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