AIモダナイゼーション支援
スパイスファクトリー
AI駆動開発が業界慣習を変える
圧倒的な生産性が問い直すシステム開発の常識
AIによるコード生成の高度化によって、システム開発のあり方が大きく変わり始めている。スパイスファクトリーでは、AIをコーディングだけでなく仕様策定やテスト、品質管理まで開発工程全体で活用し、実際のプロジェクトでは約10倍の生産性を実現したという。高い生産性を実現するAI駆動開発は、人月ビジネスを前提としてきたSI業界のビジネスモデルをどう変えるのか。そして、開発そのものが高速化した先で、人間には何が求められるのか。同社代表取締役CEOの高木広之介氏に聞いた。(聞き手:日経BP 総合研究所 フェロー 桔梗原 富夫)
10倍の生産性、AI駆動開発は実用フェーズへ
代表取締役CEO/グループCEO
高木 広之介 氏
桔梗原 まず、スパイスファクトリーがどういう会社か教えてもらえますか。
高木 カレー屋さんに間違われやすいのですが、ITの会社です。プライムベンダーとして、プロジェクトの最上流からローンチまで一気通貫にお客さまに伴走するビジネスモデルで開発を請け負っています。
桔梗原 AI駆動開発の現状について、スパイスファクトリーではどのように捉えていますか。
高木 スパイスファクトリーの実際のプロジェクトのデータを見ると、人員が減る一方で月間のプルリクエスト数が伸びています。AI活用初期は、GitHub Copilotを使ってコーディングを支援するという、ごく初期のAI活用フェーズでした。それが直近では、AI駆動開発に切り替えた結果として、実測で約10倍の生産性が出ています。
桔梗原 実測で10倍というのはインパクトがありますね。具体的にどのようなアプローチで実現しているのでしょうか。
高木 基本的には開発の全工程でAIを使います。コーディングやテストだけではなく、仕様を考えるところから使い、AIの活用範囲を広げています。また、品質管理のプロセスや実際の開発フローそのものを、AIを前提としてもう一度組み直していることもポイントです。その上で、人間は意思決定と最終チェックに集中するプロセスに注力しています。
少人数開発で「人月モデル」が揺らぎ始める
桔梗原 AI駆動開発によって、SI業界で長年続いてきた多重下請け構造は変わりますか。
高木 AI駆動開発を進める中で、他のSIerとプロジェクトを進めたときに特に感じるのが「業界習慣の壁」です。半世紀以上続いているSIビジネスの商習慣が、多重下請け構造にもつながっています。例えばエンジニアの人事評価、単価の基準、売り上げの予算管理、KPIなど、業界のエコシステム全体が人月ビジネスに準拠して作られています。
一方でAI駆動開発は、少人数での運用を前提としています。AIを活用することで、これまで多人数で分担していた作業を少数のエンジニアで担えるようになるためです。そのため、従来の『人月(工数)×単価』に依存する労働集約型モデルとは非常に相性が悪く、実際の開発現場では既存の評価軸や慣習が大きな壁となっています。ただし、AI駆動開発には圧倒的な生産性と経済合理性があります。業界自体の壁や抵抗も、エンドユーザーからの圧力や経営者のコミットメントによって、今、壊されつつあります。これがあるところを超えたときに、一気に業界が変わっていくのではないかと思っています。
桔梗原 開発側の構造が変わると、システムを発注するユーザー企業側の意識も変わっていきそうですね。
高木 AI駆動開発になると、実装工程は従来「4」だったものが「0.1」、テストは「2」が「0.1」、リリース管理は「1」が「0.01」というくらいまで圧縮されます。一方で、上流工程はそこまで圧縮されません。結果として、システム開発全体に占める上流工程の比率が8割くらいにまで増加しています。これからは上流工程をベンダーと一緒に考えることが重要になります。
「このビジネスは社会において何のためにあるのか」「誰のためのシステムなのか」「この機能にはどのような価値があるのか」といった、より抽象度の高いところを議論しながら、組織内で合意形成を図ることが重要になります。AI駆動開発では、開発そのものはもうボトルネックではありません。「どういう機能を作るか」よりも、「何のために作るのか」「価値はどこにあるのか」を一緒に話していくことが重要です。
システムに「価値」と「意味」をつくる
桔梗原 ここまでAIが高度化してくると、開発において人間が果たすべき役割はどこにシフトしていくのでしょうか。
高木 AI活用にはメリットがある一方、さまざまな仕事でAIと人間の椅子取りゲームになるリスクもあります。AIと人間の共存の形を考えることが重要です。スパイスファクトリーでは、「言われたものを作って納品する」というより、「組織自体が自ら考え、社会と誠実に向き合っていく」ことが重要だと考えています。
今、社内で話題になっているのが「価値よりも意味」ということです。機能的な価値よりも、その「意味」が相対的に重要になってくると考えています。例えば、その会社のコンテキストに合ったカラーリングや、創業者の好みに由来するアニメーションなど、その会社にとって意味のあるものを取り入れると、人はシステムに対して一気に愛着を持つようになります。AIに代替されないものとして「意味」が非常に重要になります。価値や意味といった上流の部分を話し合うことが、これから重要な論点になるでしょう。
桔梗原 このAI駆動開発による生産性の向上は、今後さらに加速していくとお考えですか。
高木 現時点ですでにとても速くなっています。超巨大な基幹システムなどを除けば、必要最低限の機能を備えた製品や中規模程度のシステムなら、実装工程は1人月で1カ月というイメージです。5年ほど前ならば5~6人月で半年かけていたようなシステムが、今は1人月で1カ月まで来ています。
これからもっと便利になるでしょう。ただ、決められたものを作るのはすでに非常に速くなった一方で、上流のボトルネックになっている人間の合意形成は、まだ解決されていません。これからの主戦場は、企業の業務プロセスや意思決定の仕組み、エンジニアの人事評価などをAI時代にどう対応させるかになると思います。AI駆動開発の広がりの次は、人間側が変わるターンになるのではないでしょうか。


