100年に一度の変革期を迎える自動車業界では、車両価値の源泉がハードウエアからソフトウエアへと移りつつある。そうした中で、パナソニック オートモーティブシステムズは単なる車載製品の供給にとどまらない世界一の「移ごこちデザイン」カンパニーを目指し、新たな挑戦を始めた。パナソニックグループからの独立を経て「第二の創業」を掲げ、2027年4月の「モビテラ」への社名変更とともに自律的な進化を遂げようとする同社は、どのようなビジョンを描いているのだろうか。最新の業界動向やSDV化に向けた開発環境の進化、人材の成長環境、そして未来の展望について、同社代表取締役 副社長執行役員 CTOの水山正重氏に聞いた。

パナソニック オートモーティブシステムズ株式会社
代表取締役 副社長執行役員 CTO CISO 知的財産担当
水山 正重 氏
1988年に松下電器産業(現・パナソニック ホールディングス)へ入社し、技術本部情報システム研究所に配属。OS技術開発、ソフトウエアアーキテクチャー、SoC/システムアーキテクチャー開発、業界標準化などに従事する。同社オートモーティブ事業部門のインフォテインメント事業技術責任者、CTO兼先行技術開発責任者を歴任し、2022年、パナソニック オートモーティブシステムズ株式会社発足に伴い現職に就任。
昨今、自動車業界はSDV(Software Defined Vehicle)化という大きな変革期を迎えている。時間のかかる車載製品の交換やモデルチェンジを経ずに、ソフトウエアのアップデートで機能や顧客体験価値を継続的に進化させられる時代となった。重要なのは、クルマの価値そのものをソフトウエアが決定づけるようになっていることだ。いわゆる、ハードウエアファーストからソフトウエアファーストへのシフトが進んでいるのである。
車載製品のTier1サプライヤーとして業界を牽引するパナソニック オートモーティブシステムズの水山氏は、「SDV時代になると、ソフトウエアによって実現するUX(ユーザー体験)が、クルマの価値を大きく左右します」と指摘する。
続けて「例えば、端末性能(重量や電池の持ちなど)で評価されていた携帯電話は、スマートフォンの登場によって多様なアプリやサービスが利用価値や顧客ロイヤルティーを左右するようになりました。同じように自動車業界も、SDVによるゲームチェンジの最中にあります。ソフトウエアを高速に進化させる能力を持つ者が、決定的な競争優位を築く時代に入っているのです」と水山氏は語った。
1939年に旧・松下電器産業の車載カーラジオ生産部門として誕生した同社は、現在では国内に14拠点を置くほか、海外9カ国でもグローバルに事業を展開。数量シェアにおいては、カーナビとディスプレーオーディオ(HeadUnit)市場で世界1位※のシェアを誇る。
※富士キメラ総研「車載電装デバイス&コンポーネンツ総調査2026上巻」 HeadUnit(カーナビ/ディスプレーオーディオ)メーカーシェア 2024年実績
2026年には、トヨタ社の新型「RAV4」に次世代IVIプラットフォームを搭載、そしてマツダ社の新型「CX-5」へのCDC(Cockpit Domain Controller)採用を相次いで発表した。製品そのものの供給にとどまらない同社が目指すのは、ソフトウエアを活用した「世界一の『移ごこちデザイン』カンパニー」だという。
水山氏は、「『モノからコトへ』とよくいわれるように、移動を単なる手段ではなく、一人ひとりにとって価値ある体験にすることを目指しています。当社の事業の源流は家電製品。人に接点を持ち、人に寄り添う企業カルチャーのなかで培った深い技術力をベースに、安全・安心、快適で環境にも配慮した『移ごこち』をデザインしています」と説明した。
2024年にパナソニックグループから新たな経営体制へ移行した同社は、2027年4月に「モビテラ株式会社」へと社名を変更する。高品質なソフトウエアの迅速かつ継続的な開発体制が求められるなか、主体的に技術投資を進め、開発革新を加速させていくという。
例えば、SDV化にあたって重要度が高まるセキュリティー分野では、自動車の設計から運用までをカバーするソリューション「VERZEUSE(ベルセウス)」シリーズを開発している。車載システムの開発・供給を担うTier1ならではの知見を生かし、実際の開発現場だからこそ見える課題を自動車業界共通の課題として捉え、その解決に取り組んでいる。なかでも、車載システム向け脅威・脆弱性分析ソリューション「VERZEUSE for TARA」は、「EdgeTech+ AWARD 2025」においてEdge Technology優秀賞を受賞。現在は試用版の提供を開始し、脅威分析の高度化や効率化といった業界全体の課題解決を進めている。
さらに象徴的な取り組みが、車載ハードウエアに依存しないクラウドネイティブな開発環境の実現だ。AWS(Amazon Web Services)と連携した仮想開発環境「vSkipGen」(バーチャルスキップジェン)により、世界中のチームがクラウド上でソフトウエア開発・テストを行えるようになった。
同社は業界標準化に向け、オープンソース活動にも注力している。仮想化インターフェース「VirtIO(バート アイオー)」は、異なるハードウエアやクラウド環境において、同じソフトウエアを安定して動作させるための共通基盤であり、自動車業界およびIT企業等の関連企業各社からの賛同を得て、標準化が進められている。

加えて、複数のディスプレーを一つの仮想ディスプレーとして制御するシステム「Unified HMI」も開発した。表示レイアウトや機能の検討・変更を容易にするこの技術も、オープンソース化されている。同社はなぜ、自社の技術を積極的に公開するのだろうか。
水山氏は、「こうした取り組みを行うサプライヤーは珍しいかもしれません。しかし、自動車向けのソフトウエアが汎用化し、他で容易に代替できるものになってしまえば、私たちのビジネス価値も高まりません」と語った。業界全体の将来を見据えて、健全なエコシステムを形成するために標準化を推進しているとのことだ。
続けて、「こうした業界への貢献は、例えば、約150社で構成されるSDV化をグローバルで推進する業界団体『SOAFEE(ソフィー)』にも評価されています。当社は2025年に9社目の理事会メンバー(Governing Body)に昇格し、アジア太平洋地域ハブ(APAC Regional Hub)のリーダーにも就任しました」と水山氏。
業界のエコシステム形成をリードしながら、開発力と技術力に磨きをかける同社。その先に見据えるのが、従来のTier1サプライヤーの枠を超えた「SDVイネーブラー」という存在だ。
「指定されたものをただ納品するのではなく、『共創パートナー』として、アーキテクチャーや仕様の検討、課題解決、価値創出を提案する。変革の一翼を担う存在として、自動車メーカーと未来を創っていきたいです」と語る水山氏の視線は、すでにその先のモビリティー社会に向けられていた。
同社の強みは、各分野で高い専門性を持つエキスパートエンジニアが多く活躍している点にもある。各領域には、社外からも高い評価を得ている専門家が在籍し、自動車メーカー側から協力要請を受けることもあるという。SDV化において重要なAIやソフトウエア、アーキテクチャー、セキュリティー、UXデザインといった領域では、とりわけ人材育成に注力している。
こうした人材育成の狙いについて、水山氏は「技術の底上げはもちろんですが、事業の競争力を左右する領域において、世界トップレベルのスキルを持つ専門家集団を育成したいと考えています。一人ひとりが、グローバルプロフェッショナルとして進化することが理想です」と説明した。
具体的な取り組みとしては、企業内大学を開講し、業界第一線の技術を持つエキスパートグループによる研修を実施している。OJTやOffJT、そして自己啓発を通して育成するプログラムを充実させ、若手やキャリア入社者のオンボーディングや配属後の育成としても活用することを目指している。
「私たちの事業では、自動車と他領域の技術が出会って大きな価値が生まれます。そのため、『IT領域で技術を高めてきた』『プロジェクトマネージャーとしての経験がある』『UXデザインには自信がある』など、多様な分野の知見やノウハウを持つエンジニアが活躍しています」と水山氏。
自動車業界は今、SDV化というパラダイムシフトの渦中にある。従来の延長線上ではなく、あるべき未来を定めて変革しなければならない時期を迎えている。水山氏はそうした状況を前向きにとらえ、「『自分たちが変化を起こしていく』と考えるエンジニアにとっては、非常に挑戦しがいのある環境だと思います。当社には、そうした方々が活躍するための場が用意されています。ぜひ一緒に、モビリティーの未来を拓いていきましょう」と語った。
SDV化という変革期は、技術者が新たな価値を生み出すチャンスになり得る。モビリティーの未来を技術で切り拓いていく、同社の挑戦に注目したい。

※記事中の肩書きやデータは公開時点の情報です
パナソニック オートモーティブシステムズ(株)は、
モビテラ(株)へ
2027年4月1日、社名変更いたします。