PoCから量産へスムーズな移行を実現
QNX OSの技術的な特徴の一つが、マイクロカーネル・アーキテクチャーを採用していることだ。
OSの中核部品であるカーネルを最小限の機能(IPC(プロセス間通信)、スケジューラー、メモリマネージャーなど)で構成することで、ファイルシステムやデバイスドライバー、ユーザーアプリケーションなどはすべてユーザー空間上のプロセスとして動作する。つまり、それらが誤動作した場合でもカーネル空間に影響が及ばない。また、カーネル空間のアタック・サーフェス(攻撃対象領域)が小さい点も、セキュリティ面における大きなメリットだ。
シニアフィールドアプリケーションエンジニア
小島 央氏
「カーネル空間でさまざまなソフトウエアモジュールが動作するオープンソースOSとの大きな違いが、このカーネルの構造です。信頼できるロボットを実現するためには、アプリケーション・ソフトウエアの空間分離のほか、設計段階からセーフティやセキュリティを作り込む『セーフティ・バイ・デザイン』や『セキュリティ・バイ・デザイン』の考え方を踏襲しなければなりません。まさにQNX OSが得意とする領域と言えるでしょう」と、QNX Japanでシニアフィールドアプリケーションエンジニアを務める小島央氏は説明する。
また、PoCから量産開発への移行においてもQNX OSは強みを持つと述べる。
「実現性や機能性を検証するPoCと、製品として継続運用を保証しなければならない量産製品との間には、大きなギャップが存在します。手軽だからとオープンソースOSでPoCを進めてしまえば、量産に際して改めて、リアルタイム性、セキュリティ、安全認証、長期サポートなど、多くのハードルをクリアする必要が出てきます。QNX OSは、OS本体だけではなく、ハイパーバイザー、開発ツール、ライフタイムサポート、安全認証やセキュリティ性まで、同一の設計思想の下で統合開発基盤として提供しているため、PoCから量産へのシームレスな移行が可能です」(小島氏)
QNX General Embedded Development Platform Overview
とくに有用なのが「QNX Hypervisor / QNX Hypervisor for Safety」だ。オープンソースOSなどをゲストとしてQNX OS上で動かすことができるため、クリティカリティ(重要度・要求レベル)の異なる環境の同居が可能になる。QNX OS上のネイティブ・アプリケーションとしてクリティカリティの高いリアルタイム処理やセーフティ処理を動作させながら、完全に分離された別空間で、例えばグラフィックス処理やAIアプリケーションを実行できる。
「IEEEが策定した標準規格のPOSIXに準拠していることもあり、ほとんどのAI関連のアプリケーションやフレームワークでそのまま動作するほか、オープンソースも使いたいというニーズにより柔軟に対応できるのも特徴です」と、小島氏は補足する。
EUのサイバーレジリエンス法にも対応
ロボット製品を海外に展開する際に課題になるのが、EUのサイバーレジリエンス法(CRA)への対応だ。2026年9月11日から脆弱性やインシデント報告などが義務化され、2027年12月11日からは全面適用になる。
小島氏は、「QNXは、脆弱性管理、脆弱性情報(CVE)、セキュア設定、安全性と機密性の管理、そしてセキュア開発ライフサイクルを国際規格に準拠した上で提供します。さらに、SBOM(ソフトウエア部品表)の提供や、QNX製品のリリースから最長30年間にわたって脆弱性情報を提供する延長サポートについても対応しています。PoCの段階からQNX OSを採用すれば、多くの時間や人員が必要になる法規制や認証への対応が効率化できるはずです。とくに、CRAや安全規格への対応を量産直前に後付けで行う場合、設計変更、検証、文書化、再認証に大きなコストが発生します。QNX OSを開発初期から組み込むことで、セーフティ・バイ・デザイン、セキュリティ・バイ・デザインの考え方を土台にでき、コンプライアンス対応の負荷とコストを抑えられます」と説明する。
日本は産業用ロボットに強みを持ち、近年はAIを活用して、ティーチングの効率化、動作速度や軌道の最適化、物体認識や把持の高精度化、エラー発生時の自律的な対処など、価値向上に向けた数多くの取り組みが進められている。一方で、サービスロボットやヒューマノイドロボットの分野では、開発と導入の両方で後れを取っているのが実情だ。
アガルワル氏は、「強みとする産業用ロボットで培ったミッションクリティカルなロボティクス技術を生かしながら、フィジカルAIを含めて、次の時代に向けたロボット開発に積極的に取り組むことが、日本のメーカーがロボティクス業界をリードするためのカギになると考えています。ロボティクスはQNXにとっての重点分野の一つであり、引き続きプラットフォームの拡充や日本のお客様との連携強化に努めていきます」と述べる。
どのようなロボットにおいてもセーフティとセキュリティは必須の要件だ。信頼性やリアルタイム性を含むパフォーマンスに優れ、顧客の製品ライフサイクルにわたる長期サポートにも対応したQNX OSを活用したい。