BOA Fit System(以下、BOA)と聞いて、ゴルフシューズやサイクリングシューズ、スノーボードブーツを思い浮かべる人は少なくないだろう。
BOA Technologyは2001年にスノーボードブーツ向けのシステムとして事業を開始し、その後、サイクリング、ゴルフ、アウトドアなど幅広いカテゴリーへと裾野を広げ、現在では多くのトップアスリートが使用している。
物流、製造、建設などの現場では、人手不足や作業環境の多様化を背景に、
安全性と生産性の両立が一段と重要になっている。
そこで見直されているのが、作業者の足元を支えるワークシューズのフィット性だ。
BOA Technologyの「BOA® Fit System」は、ダイヤル、レース、ガイドで構成される精密フィットシステム。
スポーツ領域で培った技術を、アシックス、ミズノ、ニューバランス、ミドリ安全が提供する
ワークシューズにも広げている。
正しくフィットする靴は、作業者の安全性とパフォーマンスをどう支えるのか。
BOA Technology Japanの渡辺 信吾氏に聞いた。
BOA Fit System(以下、BOA)と聞いて、ゴルフシューズやサイクリングシューズ、スノーボードブーツを思い浮かべる人は少なくないだろう。
BOA Technologyは2001年にスノーボードブーツ向けのシステムとして事業を開始し、その後、サイクリング、ゴルフ、アウトドアなど幅広いカテゴリーへと裾野を広げ、現在では多くのトップアスリートが使用している。

さらに近年は、スポーツ分野で培われたBOA Technologyの技術がワークシューズにも採用されるようになった。国内でも複数のブランドがBOAを採用した安全靴やプロテクティブスニーカーを展開している。
こうした広がりの背景には、安全靴に求められる役割の変化がある。物流、製造、建設といった現場では、作業者の足元にかかる負担は想像以上に大きい。
物流現場では、ピッキングや搬送、積み込みなどで長時間歩き続ける。製造現場では、立ち仕事や機械回りでの移動が繰り返される。建設現場では、不整地や段差、高所など、常に足元の安定性が問われる環境で作業が行われる。
こうした現場で使われる安全靴は、従来、つま先を守る先芯、滑りにくいソール、耐久性などが主な評価軸だった。もちろんそれらは今も不可欠な機能である。しかし近年は、それに加えて「靴が足に正しくフィットしているか」が重要なテーマになっている。
BOA Technology Japanの渡辺 信吾氏は、「正しいフィットがなければ、靴が持つ本来の機能は引き出せません」と指摘する。靴ひもを緩めたまま履いたり、脱ぎ履きのしやすさを優先して十分に締めなかったりすると、足と靴の間に隙間が生まれる。その状態では足が靴の中で動きやすくなり、歩行時のブレや疲労につながる可能性がある。
BOA Technology Japan 株式会社
マーケティングマネージャー
渡辺 信吾氏
安全靴は、単に足を保護するための道具ではない。作業者の動きを支え、安全性とパフォーマンスを引き出す装備へと進化しつつあるのだ。
BOAの基本構成は、ダイヤル、レース、ガイドの3つだ(図1)。ダイヤルを回すことでレースを締め、足に合わせた精密なフィット調整を行う。ダイヤルを引き上げればレースを開放でき、素早く脱ぎ履きできる。
図1 BOAを構成する3要素
BOAは、フィット感を微調整する操作部「ダイヤル」と、張力を伝える高強度な「レース」、レースの摩擦を抑え、スムーズで均一な締め付けを支える「ガイド」の3要素で構成される。ダイヤル操作のしやすさだけでなく、レースの張力を足全体にどう伝えるかまで設計されたフィットシステムである
ただし、BOA Technologyが現在訴求している価値は「脱ぎ履きが楽」という利便性だけではない。渡辺氏は、「そのフェーズは既に終わっており、今はパフォーマンスをいかに高められるかに軸足を置いています」と説明する。BOA Technologyが目指しているのは、靴を正しくフィットさせることで、フットウエア本来の性能を引き出し、履く人の動きを支えることだ。
これを支えるのが、米コロラド州デンバーの本社に設けたBOAヒューマンパフォーマンスフィットラボである。ここでは、エンジニアやバイオメカニストらが、モーションキャプチャーや足裏圧力の計測などを通じて、フィットと人間の動作の関係を科学的に検証している。
BOA Technologyは、ダイヤル部品を提供するだけの企業ではない。足とフットウエアの関係を研究し、最適なフィット構造をブランドパートナーと共に設計するフィットテクノロジー企業なのである。
BOA Technologyの技術を理解する上で重要なのが「BOA PerformFit Wrap」という構造だ(図2)。従来の靴ひもは、アイレットを通じて足を点や線で締め付ける。それに対し、BOA PerformFit Wrapはアッパーのパネル構造によって中足部を面で包み込む。これにより、かかとの固定力を高め、ミッドソールとの一体感を生みながら、前足部の自然な動きも確保する。
図2 BOA PerformFit Wrapとは
BOA PerformFit Wrapは、従来の靴ひものように点や線で締めるのではなく、中足部を面で包み込む構造。かかとのホールド性と靴との一体感を高めながら、前足部の自然な動きを確保する
この構造について渡辺氏は「強く締めることが目的ではない」と強調する。「足元の安定性を高めるには、ただ締め付ければよいわけではありません。足の機能を生かすためには、中足部をしっかり支えながら、足指や母指球が自然に使える余地を残すことが重要なのです」。
実際、BOAヒューマンパフォーマンスフィットラボでの検証では、PerformFit Wrap構造により、従来の靴ひも構造との比較でエネルギー効率が最大9%、安定性とコントロール性が最大7%向上したという。
BOAの価値は、現場ごとに異なる形で表れる。物流現場では、歩行距離の長さと動作の多様さが課題になる。ピッキング、棚入れ、搬送、乗降といった動作を繰り返す中で、足と靴の一体感は疲労や作業効率に関わる。作業中でもダイヤルで微調整できるBOAは、長時間にわたって適切なフィットを維持しやすい。
製造現場では、安全性が重要だ。一般的な靴ひものように余ったひもが垂れ下がりにくいため、機械設備への巻き込みリスク低減が期待できる。また、手袋を着けたままでも調整しやすく、作業を中断せずにフィットを整えられる点も現場に適している。
建設現場では、不整地や段差、高所などでの作業が日常的に発生する。足元の安定性が安全に直結する環境では、かかとの固定や足のブレ抑制が大きな意味を持つ。泥や粉塵、雨などがある厳しい環境でも機能するよう設計されている点も、ワーク用途で重視されるポイントだ。
渡辺氏は、企業導入の観点から「作業者が自然に正しく履けることも大きな価値」だと補足する。靴ひもや面ファスナーの靴では、脱ぎ履きのしやすさを優先して緩く履いてしまうケースがある。BOAであれば、足を入れてダイヤルを回すだけでフィットさせられ、脱ぐときもすぐに開放できる。この手軽さが、結果として安全靴を正しい状態で使い続けることにつながる。

国内のワークシューズ市場でも、BOAの採用は広がっている。アシックス、ミズノ、ニューバランス、ミドリ安全などがBOA搭載モデルを展開しており、プロテクティブスニーカーや安全靴の領域で存在感を高めている。中でも、建設現場などではアシックスのBOA搭載モデルが広く普及し、現場監督や作業者が通勤時にも履いている姿が見られるほど一般化してきたという。
最近では、ミドリ安全がプレミアム ハイ・ベルデシリーズの新モデルとして「PRM210BOA静電」「PRM220BOA静電」を展開。いずれもBOAとBOA PerformFit Wrapを採用し、中足部を面で包み込むことで、作業時の安定性と敏捷性を支える設計となっている。
BOAは、アシックス、ミズノ、ニューバランス、ミドリ安全などのワークシューズに採用されている。写真は左上からミドリ安全の「PRM220BOA静電」、アシックス「ウィンジョブCP614BOA」、ミズノ「オールマイティLSⅢ 53L BOA」、ニューバランス「ハリスバーグ」
安全靴は毎日使うものだからこそ、導入企業にとっては性能だけでなく耐久性やサポート体制も重要な評価項目となる。
その点、BOAのダイヤルとレースは、搭載される製品の製品寿命期間中、保証対象となる。万一、破損や損傷が生じた場合も、無償の修理キットを利用して交換できる仕組みが用意されているのだ。
渡辺氏は、BOA Technologyの強みについて「ナンバーワンブランドとしての実績だけでなく、科学的検証、耐久試験、保証制度まで含めた信頼性にあります」と説明する。実際、BOA Technologyは性能評価だけでなく、耐久性や品質検証にも継続的に取り組んでいるという。フィット性能だけでなく、長期間にわたって安心して使い続けられることも、現場に採用される理由の1つとなっている。

一方、企業側からの視点では、ワークシューズを見直す意義は安全性や生産性の向上だけではない。歩きやすく、疲れにくく、正しくフィットした靴を支給することは、現場で働く人への投資でもある。これは従業員満足度の向上にもつながり、人材確保や定着が課題となる現場において価値を持つ取り組みとなる。
AIやロボットなどの先端技術が注目される時代だからこそ、人が本来の力を発揮できる環境づくりも重要になる。その取り組みは、意外にも足元の見直しから始まるのかもしれない。
BOA Technology Japan 株式会社
URL:https://www.boafit.com/ja-jp