グローバルに保険事業を展開する東京海上ホールディングスの講演では、同社の海外事業における経営管理システム開発、業務改革の事例が紹介された。
冒頭、「このプロジェクトは、人手不足対策として始まったものではありませんでした」と経緯を説明したのは、同社海外事業企画部でマネージャーを務める服部公裕氏だ。
「業務を支える基盤として、システムは極めて重要です。今回のシステム開発プロジェクトも、海外事業の経営管理レベルを高めるために始まりましたが、業務の効率性を抜本的に見直したことにより、結果的に人手不足対策でも成果が得られました」(服部氏)
システム開発の詳細説明を行ったのは、同社海外事業企画部アシスタントマネージャーであり、このシステム開発のプロジェクトマネージャーを務めた洞山育大氏だ。
「当社の海外保険事業は、グループ全体の利益の6~7割を占めるまでに成長しています。ところが、10年以上前に導入した旧システムはこの急成長を前提としていなかったため、データ集計の前提となるデータ量や集計の仕組みの面で課題が顕在化していました」(洞山氏)
57の国と地域で事業を展開する同社のグループ経営には独自の思想があり、そこに整合しながら業務を効率化させるべく、“上流でデータを整形しないシステム開発”の実現を図ったと洞山氏は語る。
「当社のグループ経営においては、各拠点の競争優位性を最大限に活かすべく、それぞれの自律性や最適な運用を尊重する“連邦制”を重視しています。そこで、一般的に行われる会計システムの統一は行わず、インターフェース側で柔軟に連携する方式を採用しました。また、拠点ごとの業績をタイムリーに収集するために、拠点側では会計データを整形せず、そのまま自動連携する仕組みを目指しました。前例がなく難易度の高い挑戦でしたが、経営を支える土台だからこそ、経営スタイルと整合した設計を追求しました」(洞山氏)
洞山氏は特に苦労した点として、マスター整備、人材確保、運用での属人化脱却をあげた。
「マスター整備は根気のいる作業ですが、外注せず社内一丸となって取り組みました。あえて時間をかけて地道に取り組んだことで、後の精度の高いアウトプットやノウハウ蓄積につながったと自負しています。人材については、社内人材の適材適所のアサインや育成を図りつつ、社内でカバーしきれないスキルは外部ベンダーとのパートナーシップで補い、ワンチームとして乗り越えることで、高い専門性と品質を維持しました。開発後の運用フェーズでは、照会対応の属人化が課題となっていたため、マニュアルや照会履歴をAIに学習させた『マニュアルボット』を構築し、現場の負担軽減と社員各自が自主的に学べる環境づくりを両立させました」(洞山氏)
こうして開発されたシステムがもたらした効果について、洞山氏は「無整形なので拠点と同じ粒度の大量のデータを本社側でも保持でき、より詳細でタイムリーな分析ができる経営管理基盤が整いました」と語る。
「データを多次元で活用できるため、拠点や保険種目、年次・月次といった多角的な切り口での分析が可能になったほか、データの集計や連携を自動化した結果、業績報告レポートで約1週間かかっていた作業もほぼゼロになり、現場からも高い評価を得ています」(洞山氏)
最後に、今回の経営管理システム開発がもたらした人手不足対策としての効果について、服部氏が以下のようにまとめて講演を締めくくった。
「当社のシステム刷新は、業務の自動化による負担軽減で人手不足を補った効果があったことに加え、AIやシステムに任せられる低付加価値業務と人間にしか生み出せない高付加価値業務とを再定義したことで、社員が真に取り組むべき仕事へとシフトできる環境づくりに寄与しました。今後は、こうした取り組みを通じて、人材育成や組織の成長をさらに後押しするポジティブな循環にもつなげていけると期待しています」(服部氏)