中小企業のDXは、長らく「高額な受託開発」か「自社業務に完全には合わないSaaS」という二者択一に直面してきた。業務に合うシステムを求めるほど導入のハードルは上がり、導入しやすい既存サービスを選べば運用面で無理が生じる。こうしたジレンマのなか、DXの必要性を認識しながらも一歩を踏み出せない企業は少なくない。このような課題に対し、セルプロモート株式会社は非エンジニア人材の内製化を支援する「AI GYM」と小規模・低価格でシステム開発を請け負う「AI Start Partner」という新たな選択肢を打ち出した。AIの進化によって、中小企業のDXはどう変わっていくのか。同社取締役COOの谷内明雄氏に聞いた。
セルプロモート株式会社
取締役COO
谷内 明雄 氏
エンジニアとしてキャリアをスタートし、2012年から2022年まで楽天株式会社に在籍。150名規模の多国籍組織において「楽天GORA」「楽天アフィリエイト」など計15のサービス開発および組織マネジメントを統括。2023年、セルプロモート株式会社取締役COOに就任。2025年10月より、セルプロモートの100%子会社であるTalenship株式会社の代表取締役を務める。
IT人材支援を基盤とし、自社開発チームによるシステム開発やDX支援を手がけるセルプロモートは、中小企業の現場に近い立場から、DX推進に関する相談を数多く受けてきた。
その中で浮かび上がってきたのは、中小企業に共通する「DXを進めたいが、何から始めればよいのかわからない」「やりたいことはあるが、社内に人材がいない」といった悩みだった。
「情報システム部門や専任エンジニアを持たない企業では、DXを進めようとしても自力でシステムをつくるのは難しく、外部に頼らざるを得ません。しかし、自社業務にぴったり合うものをオーダーメイドで開発しようとすると、どうしても高額になります」と谷内氏は言う。
そのため、多くの企業は既存のSaaSやパッケージ製品の導入に踏み切る。だが、ここにも壁がある。SaaSは勤怠管理、給与計算、請求書発行、顧客管理、販売管理といった個別業務ごとに導入されることが多く、結果としてツールが分散しやすい。従業員情報や顧客情報を複数のシステムに重複入力しなければならず、肝心のデータ連携が後回しになることで、かえって現場の手間が増えるケースも少なくない。
加えて、SaaSは不特定多数の企業に対応するため、最大公約数で設計されている。必要な機能だけを使いたい企業にとっては、機能が多すぎて使いこなせず、不要な機能まで抱え込んでいるように感じやすいという課題もある。
ならば、大きな費用をかけて外注すればよいのかといえば、そう単純でもない。そこには、受託開発特有の難しさがあるからだ。谷内氏が「ゼロからつくること以上に、既存のものを変えていくほうが難しい場面もあります」と話すように、ソフトウエアは完成形を事前に共有しにくく、実際に触ってみなければ評価や改善点が見えにくい。発注から設計、開発、テストまでの間に、現場の理解が進んだ結果、必要な機能や優先順位が変わることも珍しくない。
このように、中小企業のDXは従来、「高額な受託開発」か「完全には合わないSaaS」かという二者択一になりやすかった。その間を埋める現実的な第三の選択肢が、強く求められていたのである。
こうした状況の中で、セルプロモートが大きな転機と捉えたのが生成AIの進化だった。
「以前からAIによるコード補完によって開発生産性は上がっていましたが、ここに来て、システムそのものを形にできる水準まで達しました。数週間、数カ月かかっていた土台づくりが、1日、2日で進む場面も出てきています。開発の前提が大きく変わったのは間違いありません」と谷内氏は振り返る。
特に大きいのは、システム開発の入り口そのものが変革を迎えている点である。従来は、英語ベースの文法や独特の作法を持つプログラミング言語を学んだ人でなければ開発に関わること自体が難しかった。だが、生成AIを使えば、日本語で要件を伝えながらシステムの土台を形にしていける。谷内氏は「PHPやJavaをきちんと学んだ人でなければつくれない、という前提が崩れました。日本語でできるというだけで、ハードルは大きく下がります」と話す。
そこで同社が提供を開始したのが、伴走型トレーニングサービス「AI GYM」である。非エンジニア人材がトレーナーの支援を受けながら、自社業務に即したシステムを実際につくり、最終的に自走できる状態を目指すプログラムだ。全12回のトレーニングで構成され、1人での受講は200万円、2人同時受講は350万円。最初の数回はオンサイトで状況を把握し、その後はオンラインも交えながら進めていく。
「AI GYM」の特徴は、一般的なAI研修のように指示文(プロンプト)の書き方だけを学ぶのではなく、実務で使う業務アプリをつくりながら必要な工程を身につけていく点にある。具体的には、要件定義やサーバー運用、セキュリティー、プログラムコード管理など、実際にインターネット上で業務アプリケーションを運用するために必要なシステム開発の実務を、トレーナーと一緒に経験できる。この「AI活用とシステム開発をセットで学べる」という仕組みこそが、他のAI研修とは一線を画す同サービスの最大の売りだ。
「日本語で扱えるため、特別な専門作業というより、日常業務の延長線上で取り組みやすいのです。システムをつくるスキルをキャリアにアドオンしていく発想は、これから十分に現実的になると思います」と谷内氏が言うように、完成したシステムが資産として残るだけでなく、運用や改善のノウハウも社内に蓄積されていく点に、同サービスの価値がある。
実際、同社はまず自社内で生成AIを使ったシステム構築を進めてきた。システム開発経験のない社員にもツールの使い方を教え、社内に点在していた複数のExcel管理を一つのシステムへと集約した結果、いくつかのSaaSを解約できたという。
「今までExcelで分かれていたものを一つのシステムにまとめたことで、現場はかなり楽になりました。不要な項目がなく、自分たちに必要なものだけがあるので、あちらこちらを行き来しなくて済みます。それだけでも生産性は大きく変わります」と谷内氏は言う。
この点は経営面でも大きい。SaaSのように利用料を払い続けるのではなく、自社システムとして資産化できるうえ、業務変更が生じた際にも外注先の都合を待たず、自社のタイミングで見直しや改修を進められるからだ。無論、AIを活用しているため、そのスピードも高まる。コストを抑えながら、改善を継続しやすい体制を築けることも「AI GYM」の価値の一つといえる。
もっとも、すべての企業がいきなり内製化に踏み出せるわけではない。業務を言語化できる人材がいない、取り組む時間を確保しにくい、まずは小さく成果を確かめたい。そうした企業に向けた受け皿として位置付けるのが、受託型サービスの「AI Start Partner」である。
同サービスでは、セルプロモートがヒアリングを行い、業務に合わせた専用システムを構築する。初回は50万円(通常は1本80万円)から受託可能で、Excelや紙で回してきた業務を小さく置き換えやすい価格帯に抑えた。顧客管理や勤怠管理、見積・請求書発行、在庫・発注管理などを対象に、スモールスタートで効果を実感しやすい点も特徴だ。
つまり、「AI GYM」が「自社でつくれる状態」をつくるサービスであるのに対し、「AI Start Partner」は、そこまでの体制づくりが難しい企業に向けた「受託型の選択肢」といえる。限られた人員で生産性を高めたい中小企業の経営層にとって、まずは小さく導入し、効果を見極めながら次の一手を考えられることは大きい。
セルプロモートが見据えるのは、単なる開発費の圧縮ではない。AIを通じて、システム開発を一部の専門家だけの仕事から、現場に近い人材が担える仕事へと広げていくことだ。
谷内氏は、この変化を「2000年前後にインターネットが社会に浸透した時と同じくらいの転換点」と捉える。もちろん、基幹システムのような大規模開発を誰もがすぐ担えるようになるわけではない。しかし、中小企業の現場で日々発生している、Excel管理や一覧表の集約、書類発行といった業務を改善するシステムであれば、非エンジニアでも十分に挑戦可能な領域が広がってきているのは間違いない。
その先にあるのは、現場が自ら業務改善を進められる組織だ。業務を最もよく理解している人物が、AIを使って必要な仕組みを形にし、その知見を周囲へと広げていく。「AI GYM」で学んだ社員が、隣に座る社員に教えることも珍しい光景ではなくなってくるだろう。
谷内氏は「皆さんが自分たちのシステムを自分たちでつくり、さらにAIエージェントで自動化していく未来は間違いなく来ると考えています」と力を込める。
人手不足が深刻化する日本において、その意味は大きい。日本の企業の大半を占める中小企業の生産性向上は個社の課題にとどまらず、社会全体の競争力にも直結するからだ。限られた人数で成果を最大化するためには、業務の補助であるはずのシステムが、本業の足を引っ張る状態から脱しなければならない。
「業務をシステムに合わせるのではなく、システムを業務に合わせる。そのハードルは、以前よりはるかに下がっています。中小企業の方々にこそ、この変化をいち早くつかんでいただきたい。我々は、本業に集中できる環境をつくることこそが、これからの成長の土台になると考えています」(谷内氏)
AIの民主化は、派手な未来像として語られがちである。だが、セルプロモートが示すのは、もっと実務に根差したアプローチだ。現場にあるExcelや紙、属人化した業務を、一つずつ自社に合った仕組みに置き換えていく。その積み重ねが、少人数でも回る組織、本業に集中できる職場、そして変化に強い企業体質へとつながっていく。中小企業のDXは今、ようやく現場の手に取り戻されつつあるのかもしれない。


セルプロモート株式会社
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