AIの全社活用で2000%の生産性向上が可能
AIが確実に企業に浸透してきている。多くの企業が生成AIを導入して社員が業務でいつでも利用できる環境を整備し、組織全体の生産性向上につなげようとしている。

サイボウズ株式会社
製品戦略室
兼 エンタープライズ事業本部
テクニカルエバンジェリスト
山下 竜氏
しかし一方で、AIを全く使っていない社員が一定数いたり、ほぼ全員が利用していても日常的な汎用業務にとどまっていて、専門性の高いチームの固有業務での活用がまだ限定的だったりするのが実情だろう。さらに、AIアプリの精度をいかに上げるか、あるいはそもそも技術選定をどう行い、プロジェクトの推進にどのように着手していけばよいかという問題に頭を悩ませている企業も少なくないはずだ。
「そこで、まずはAIの利用テーマの探し方、選び方についての4つのポイントを提示したいと思います。1つ目は短期間で簡単に準備が可能であること。2つ目は汎用性が高く内容が分かりやすいこと。3つ目はリスクが低く他者を交えたレビューが容易であること。そして最後の4つ目が『AIと仕事をしている』という実感を持てることです」とサイボウズの山下 竜氏は語る。
シナリオの具体例としては、顧客からの問い合わせについての緊急度や担当部門を振り分ける分類業務が、その典型的なものとして挙げられる。AIが問い合わせ内容を判断し、適切に分類して、担当者の対応に委ねるというプロセスだが、このとき分類の理由をAIに提示させるのが望ましい。「結果の精度が足りていないと思ったら、それは与えた情報が悪かったのかもしれません。そこで情報を少し調整して与えてみるなどして、まさに『AIと一緒に仕事をしている』という体験がリアルに得られます」と山下氏は説明する。

株式会社グラファー
代表取締役
石井 大地氏
これに関しグラファーでは、法務や経理などコーポレート部門の非エンジニアのメンバーそれぞれが、PDFで送付された請求書などのドキュメントの内容からAIでデータを抽出し、Excelに入力するという業務のプログラムを、AIコーディングツールであるCursorを用いて生成するという取り組みを行っている。
「幅広いテーマ選定により、従業員が身近にある知的労働全般でAIにプログラムを書かせて業務効率化を図っています。こうしたアプローチでも『AIと一緒に仕事をしている』感を十分に得ることができます。AIが単一業務を担うだけでなく、業務変革、組織変革へと取り組みのレベルを進化させていけば、企業全体で2000%の生産性向上が実現できると確信しています」とグラファーの石井 大地氏は強調する。
サイロ化を恐れないスピード感ある対応を
そうした高みを目指していくには、「現在行っている業務をAIで効率化する」というアプローチではなく、「AI前提の業務設計」を行うことが不可欠。その際、重要なポイントとなるのが「スキルギャップ解消」と「リソース代替」という2つの考え方だ。
「自分以外の専門家のスキルや知識に頼っていた部分をAI活用で自ら担うというのが『スキルギャップの解消』、自分以外の人間の工数に委ねていた部分をAIに代替させるのが『リソースの代替』です。そこでは、人間のコミュニケーションが減るほど生産性が上がるという、一般的な直感に反する事態を受け入れる必要があるでしょう」と石井氏は指摘する。
ここで留意すべきは、AIと人間の役割分担である。例えば、AIが行った作業では、著作権侵害などのコンプライアンスやセキュリティー、品質上の問題が起こる可能性がある。しかもAIはその責任を取り得ない。「『ヒューマン・イン・ザ・ループ』を念頭に、必ず人間によるチェックをプロセスにしっかりと組み込むことが肝要です」と石井氏は強調する。
また、トレンドの変化が速いAIの世界では、プロジェクトの始め方や進め方に迷いが生じ、その結果「何も始められない」「進められない」という轍に落ち込んでしまいがちだ。これに対しては、垂直統合やサイロ化を必ずしも悪手と捉えず、まずはスピーディーかつ柔軟にシステムを構築し、とにかく着手することが重要だという。
「そうした後に、拡張性が失われているサイロ化を放置するのではなく、運用の中で全体最適の視点に立ったサイロ解消の取り組みを順次進めていくのが望ましいと考えます」と山下氏は提言する(図1)。
図1 サイロ化を恐れない個別最適化のアプローチ

トレンドの変化の速いAIの世界では、プロジェクトの始め方や進め方に迷いが生じ、結果「何も始められない」「進められない」という事態が散見される。そこで垂直統合やサイロ化を必ずしも悪手と捉えず、まずはスピーディーかつ柔軟に着手していくことも重要だ。サイロ化の問題は、運用の中で全体最適の視点から順次改善していけばよい
グラファーでは、AI活用で生み出される業務のスピード感を損なわないようにするため、事業開発からプロダクト開発に至るフルサイクルを、単一の人員がAIを活用して対応するという体制を整えているという。
「単一担当者による体制を整備することで、ほかのチームメンバーの進捗に合わせるためにフェーズ間に待ち状態が発生するといったこともなく、また、会議などメンバー間の情報共有のための時間が不要となるなど、プロジェクトをより迅速・効率的に進めていくことができます」と石井氏は説明する。なお、グラファーでは、単一担当者による体制を組む一方で、リスクヘッジのためにもう1人別の人員をレビューに参加させるという対応を取っているという。
「データがないから」は言い訳にならない
もう1つ、AIの活用で重要な課題となるのが、“AI-Ready”な構造化・正規化されたデータをどうやって準備するかということだ。Excelなどスプレッドシートで保存しているデータをソースとして活用するというケースが多いかもしれない。
「この場合、Excelは自由度の高さもありデータの『型』が崩れやすい。具体的には、“https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/26/cybozu0114/X年XX月XX日”という日付を意図した項目に、“XX月中旬”といった入力がなされることもしばしばあります」と山下氏は説明する。
こうした型の崩れを防止する上で有効な手立てとなるのが、ローコード/ノーコードツールの活用である。そうしたツールを利用した業務アプリ開発により、そもそものデータ入力時点からデータ型をバリデーション機能によって強制的に構造化できる仕組みを用意。AIに入力するデータをAI-Readyな状態に確実に保つことができる(図2)。
図2 情報生成・入力を最適化するための方法

kintone(キントーン)などのローコード/ノーコードツールを活用することで、データ入力時点からデータ型も含めた構造化が強制されるような仕組みを実現することが、素早く“AI-Ready”なデータを整備する上での有効なアプローチとなる
日本企業では、そうしたAI-Readyなデータ化がうまくできていないケースが多く、欧米の先進的な企業と比較して「データ不足でAI活用がうまくできない」といったデータ品質の問題がよく指摘される。
「例えばkintoneを活用して、あらかじめ定まったデータ型にバリデーションできるような仕組みを整えれば、容易にデータの品質と構造化を担保することができます。『データがない』は、もはやAI活用を推進しない言い訳とはなり得ないのです」と石井氏は指摘する。
また、AI自体もそうしたデータ環境の整備に大きく貢献する。例えばWebサイトやPDFのドキュメントなど、非構造化データを生成AIに読み込ませ、必要な情報を抽出して、整理・加工、そして構造化し、それを生成AIによる分析に供するといったことも容易だ。
生成AIの活用に臨んで、まず重要なのは生成AIの利用を前提に従業員のマインドセットを変革していくことであり、まずは眼の前にあるシンプルな適用シーンから着手して、成功体験を着実に積み重ねながら、より高度な活用へ取り組みを進化させていく。それに必要なツールやシステムといった道具立ては既に十分に整っているのだ。
お問い合わせ
サイボウズ株式会社
https://cybozu.co.jp/


