導入されても活用が思うほど進んでいない実態

株式会社アイ・ティ・アール
プリンシパル・アナリスト
舘野 真人氏
急速な技術進化を遂げている生成AI。企業が業務変革を推進していく上でカギとなる技術として大きな注目を浴びており、その導入が急速に進んでいる。セッションの前半では、ITRの舘野 真人氏が「生成AI市場の最新動向と企業における活用のポイント」と題する講演を行った。
ITRが日本企業を対象に毎年実施している「IT投資動向調査」によれば、2023年の調査では生成AIを「導入済み」と回答した企業が全体の14%であったのに対し、2024年には25%、2025年には38%(速報値)と拡大してきている。「年10%以上という勢いで拡大した技術はこれまでに例がなく、生成AIに関する投資が大きく盛り上がってきていることは間違いありません」と舘野氏は語る。
しかし、生成AIの“活用”に着目すると別の実態が明らかになる。同社が2025年2月に実施した「生成AIとLLMに関する動向調査」では、勤務先が「生成AIを正式に採用し、全社的に導入している」と答えた企業のうち、自身が定期的に生成AIを業務に利用しているユーザーの割合は半数程度にとどまっている。
「私たちのお客様から話を聞いても、生成AIのサービスを契約して社員が利用できる環境を整えてはいても、実際には思うほど活用が進んでいないというケースが多い。利用目的を明確にして、利用を促すような施策を展開することが重要です」と舘野氏は指摘する。
生成AIの利用については、およそ3つのステージで捉えることができる。1つ目は、スタンドアロンでLLMを使って、事前学習データに基づく回答を生成するというステージ。これは基本的には個人の生産性向上を目的としたものだ。
2つ目は、RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)の仕組みを整えて、社内と外部の知識ソースを組み合わせるというステージ。こちらは組織のナレッジを統合して、より適切な回答を得られるようにすることが目的となる。
そして3つ目は、単に生成AIによる回答を得るだけではなく、その回答結果を受けて、何らかの外部ツールを利用し、自律的に業務プロセスを実行していく、いわゆる「AIエージェント」と呼ばれる次なる活用ステージである。
課題は「技術力不足」と「投資対効果の不透明性」
このような状況で、企業が生成AIの活用に関してどのような課題に直面しているかを、前述の「生成AIとLLMに関する動向調査」から探ると、導入規模が拡大するにつれて特に「開発・運用にまつわる技術不足」と「投資対効果の不透明性」の2つが課題となることが読み取れるという。
「まず技術力については、何もエンジニアに限らず、ビジネスサイドの方々にも求められるものです。例えば、LLMに適切なプロンプトを入力して、自らの意図を正確に指示として伝えられるか。また、AIから出力された結果が正しいかどうかをきちんと判断できるか。ここでは、そうした技術力のことを言っています」と舘野氏は説明する(図1)。
図1 生成AI活用に求められる「技術力」
生成AIの活用をめぐっては、利用規模が拡大するにつれて「技術力」の不足が課題として浮上してくる。それは決してIT/デジタル部門に求められる技術力にのみにとどまらず、ビジネス現場においてもプロンプトの設計やデータの理解などの技術力が不可欠である
また、投資対効果の不透明性について、企業が特に留意すべきなのが、生成AIの活用が進む中で、ソフトウエアのライセンスモデルが抜本的に変わる可能性があるということだ。現状は、多くのSaaSが採用している、ユーザー数に応じた月額固定のサブスクリプションモデルとなっているが、これが、利用量に比例してコストがチャージされる、つまり完全従量制を前提としたモデルに変わっていくことが考えられるという(図2)。
図2 生成AIがもたらすコスト構造の変化
生成AIのソフトウエアライセンスモデルは、設備投資型のオンプレミス環境ともSaaSでのユーザー数×月額による課金とも異なり、利用量に依存する完全従量型の料金へと移行していくと考えられる。企業はこうしたコスト構造の違いを意識し、最適な対応を目指していくことが必要だ
「そうすると、年間の利用コストがいくらになるかが読みづらくなります。また、利用量の最適化の観点から、全プロセスで同じ高額なモデルを使うのかどうかという問題も出てきます。通常業務には安いモデルを使い、大切な業務には高いモデルを使う、といった形で、モデルの使い分けにかかわる巧拙が企業の間ではっきり出てくるかもしれません。そこでは精緻なコスト管理が不可欠となってきます」と舘野氏は強調する。
モデルを適材適所に選択できるスキルが必要
セッションの後半では、サイボウズの栗山 圭太氏が舘野氏の講演に関する質問を行い、より踏み込んだ解説が行われた。まず栗山氏が疑問を呈したのが、生成AIの活用状況についての国内と海外、特に米国との投資傾向の違いである。
舘野氏は「既に『生成AIを導入済み』と回答した企業の割合が、日本の2025年の速報では38%と申し上げましたが、米国に関しては様々な調査が行われ、それらの報告では60~80%とされており、少なくとも半数以上が導入済みで活用に向けて動き出しているようです」と紹介する。
そうした米国の状況について栗山氏は「特に米国では一般に人件費が高く、そうした観点からも生成AIの需要は、より高いのではないか」と指摘。これについて舘野氏は、「2~3年前までは、どちらかというと人件費の低い仕事が生成AIによって代替されるというイメージが描かれていました。ところが実際には、仮に病院を例に取るなら、看護師よりも医師の仕事、IT企業ならエンジニアなどエキスパートの人たち、つまり人件費の高い人のほうが生成AIの活用によってレイオフされる可能性が高いのです」と説明する。

サイボウズ株式会社
執行役員
事業戦略本部長
兼 マーケティング本部長
兼 グローバル事業本部長
栗山 圭太氏
また栗山氏からは、投資対効果の透明性担保に向けた生成AIのモデル選定について、サイボウズが「kintone(キントーン)」の「検索AI」の実装を行う際、モデル選定に苦労したことに触れ、「私たちITベンダーにとっても困難を伴うモデルの選定に、一般のユーザー企業が取り組むのは、さらに難しいと思われます」と語った。
これに対し舘野氏は「もちろん難しいこととは思いますが、モデルを提供するベンダーが推奨する最新のものを全業務に適用していては、お金がいくらあっても足りません。そこはやはり各モデルの特質を見極める目を養って、コスト面にも目配せしながら、業務内容に応じて適材適所で適用していく技術力を持つことが、一般ユーザー企業でも重要でしょう」と改めて強調する。
加えて栗山氏が関心を寄せたのが、中小企業におけるAI活用をめぐる動向だ。「実際にお付き合いのある中小企業のお客様の活用状況について教えてください」と栗山氏は舘野氏に尋ねた。
それに答えて舘野氏は「先ほど述べた3つのステージの1つ目、つまり個々のユーザーがスタンドアロンでLLMを活用して、例えば会議の議事録を作成するとか、営業日報を自動入力するといったスタンダードな使われ方はかなり進んでいると思います。そうした中で2つ目のステージであるRAGを活用して、社内のデータとの連携を今後進めて行こうとされている企業が出てきていると感じています」と述べる。
最後に両者は、自分たちの日常の業務、およびプライベートでも生成AIで様々なメリットを享受していることに触れ、栗山氏は事務手続きでの事例を紹介した。「経費申請で領収書を紛失してしまったことがあり、通常の業務フローにはないことなので途方に暮れました。しかし、kintoneの業務アプリに登録されたデータからAIが適切な回答を生成する『検索AI』に尋ねたところ、『紛失申請を出しましょう』と的確な回答をしてくれて、本当に助かりました」と栗山氏。舘野氏は自ら作成した文章のレビューを生成AIに依頼していることを紹介した。
その中で、「生成AIがもたらす真のメリットは、実際に使ってみて初めて分かる」ということが共通した思いであることを互いに確認し合った。両者は生成AIの活用によって個人や組織の生産性を高めるには、まずは各人が積極的に使っていくことこそが肝要であることを改めて強調した。
今日のあらゆる企業にとって、次なるステージを目指した生成AI活用の推進にいち早く取り組んでいくことが求められており、もはやそれを拒絶するどんな言い訳も存在し得ない。決して遅くはない、まだまだ十分に間に合うことを肝に命じ、積極的な活用を進めていくことが切に望まれている。
お問い合わせ
サイボウズ株式会社
https://cybozu.co.jp/




