3つ目のテーマは、「AIによる実装の責任はどこにあるか」という問いかけだ。現在では、生成AIを駆使することで、誰もが必要なアプリを容易かつ俊敏に開発できるようになっている。しかしその際には、AIが生成したコードに著作権侵害などコンプライアンス、セキュリティー、品質上の問題が起こり得る可能性がある。その責任を誰が取るのかという問題だ。
これに対しては、甲元氏、倉林氏ともに「最低限のコンプライアンスルールを適用し、セキュリティーについては、最終的にはIT部門やセキュリティー部門が適切にチェックする。開発に当たる現場は、その責任について十分な覚悟をもって臨むべき」という意見で一致した。
続く4つ目のテーマとしては、「内製化、市民開発において真に求めるべきイノベーションは何か」が取り上げられた。システム構築やアプリ開発では、業務ロジックを設計してコーディングを行い、GUIを実装するなど様々な作業があるが、そうした作業は生成AIの活用で容易に行えるようになりつつある。今後、人が注力すべきは、現場の抱える要望や課題の本質がどこにあり、それにどう応えていくかをしっかりと分析する、つまりBPR(Business Process Re-engineering)実践のための取り組みを行うことになりそうだ。
「下流工程の作業が省力化されれば、当然、そうした『超上流』に費やす時間が生まれます。IT部門であれ、現場の市民開発者であれ、そのような領域の分析を通じてビジネスの根幹について考える力を付けることは非常に有意義だと思います」と甲元氏は強調する。倉林氏も「業務上のプロセスをコード上のロジックに置き換えることは、今やAIがやってくれる時代です。そうした答えが出る問いはAIに任せて、人は答えが出ないような問いに取り組むことが求められています」と語る。
対談のモデレーターを務めた池田氏も自らのエンジニアとしての経験を踏まえて、「インテグレーション案件でよくあるのが、ユーザーが使い勝手などについて従来と同じものを求めるケースです。それに応えるだけでは今後のシステムインテグレーションは不十分で、潜在的な課題の解消なども含め、新たな価値の追求、イノベーションの創出が指向されなければならないでしょう」と補足する。
サイボウズ株式会社
エンタープライズ事業本部 副本部長
kintone プロダクトマーケティングマネージャー
池田 陽介氏
そして最後、5つ目のテーマとして取り上げられたのが、「今後SIerの役割はどう変わるか」というもの。企業における内製化・市民開発の普及は当然、SIerのビジネスのあり方にも大きなインパクトを及ぼす。甲元氏からは「ユーザー企業の課題に寄り添って長い付き合いができるビジネスへの転換を」、倉林氏からは「失敗も含めた自らの実体験をユーザーに伝え、実効性のある支援を」といった意見が出た。ユーザー企業にとっては、そうしたスタンスを明確に打ち出しているSIerとの間で、実りあるパートナーシップを構築していくことが、今後、強く求められることになるだろう。
甲元氏と倉林氏の各テーマに関する対談を通して、内製化と市民開発の推進に向けて企業が取るべき指針が示された。内製化・市民開発の取り組みをIT施策ではなくビジネス施策として進めるべきであること、市民開発への統制は最小限にとどめることなど、AI技術の急激な進化で新たな局面を迎えたIT開発を進めるために、有意義な気付きを与えてくれるイベントとなった。