GPUの高性能化に伴い、急速な進化を続けている生成AI(LLM)。最近ではエージェント型AIも登場し、業務効率化などに大きな貢献を果たすことが期待されている。しかしAIを業務で本格活用するには、LLMやGPUを導入するだけでは十分ではない。それではほかに何が必要になるのか。AIプラットフォームをけん引するデル・テクノロジーズと、そのパートナーであるブロードバンドタワーのキーパーソンに話を聞いた。

【この記事でわかること】

・AI運用基盤構築には、LLM・GPUの導入に加えデータ統合・インフラ・セキュリティーの整備が不可欠

・非構造化データのサイロ化は、生成AI活用における最大の障壁であり、30年来の課題でもある

・液冷・高密度電力に対応したAIインフラを、一般企業が自社で構築することは現実的ではない

Chapter 1
AI活用がPoCで止まる企業に共通する課題

――最近では生成AIを日常的に使うのが当たり前になっており、業務処理をAIに代替させたいと考える企業も増えています。しかしまだ多くの企業はPoCで止まっており、本格的な活用には至っていないようです。このようなケースでは、どのような課題が立ちはだかっているのでしょうか。

デル・テクノロジーズ株式会社
インフラストラクチャー・ソリューションズ営業統括本部 UDS営業本部
部長
新川 順一氏

新川氏(デル・テクノロジーズ) AIを自社業務に適用したいという企業は、加速度的に増えています。実際にGPUを導入し、生成AIが動く環境を整備しているケースも、既に珍しくありません。しかしGPUやLLMを導入すれば、AI活用が進むというわけではありません。

デル・テクノロジーズ株式会社
インフラストラクチャー・ソリューションズ営業統括本部 UDS営業本部
部長
新川 順一氏

――ほかに何が必要になるのでしょうか。

新川氏 大きく3つあります。データ基盤、それを支えるインフラ、そしてその運用です。データがなければAIは機能しません。AIが必要とするデータをどう準備し、その品質や鮮度をいかに維持していくか。これが大きなハードルになっているのです。

――データの運用設計がうまくいっていないわけですね。

新川氏 その通りです。私どもデル・テクノロジーズもこのようなお客様のお悩み解決をお手伝いしているのですが、そこで見られる問題の根本原因は、実は30年前とそれほど大きくは変わっていません。それはデータのサイロ化です。この問題は30年前から指摘されています。また生成AIでは構造化データだけではなく、非構造化データの活用も求められるため、サイロ化はさらに大きな問題になっています。

――実際にお客様の現場に入り、システムの構築や運用までかかわっているブロードバンドタワーから見て、どのような課題が特に多いと感じていますか。

株式会社ブロードバンドタワー
取締役 執行役員
DC・クラウド・ストレージ営業担当
樋山 洋介氏

樋山氏(ブロードバンドタワー) 新川さんがおっしゃるように、サイロ化の問題は多くのお客様で顕在化しています。実はLLMの学習について悩んでいるお客様はそれほど多くはありません。それもいずれはAI自身ができる時代になるだろうと考えられているからです。

株式会社ブロードバンドタワー
取締役 執行役員
DC・クラウド・ストレージ営業担当
樋山 洋介氏

これに対してデータの問題は、AIだけではどうしようもありません。特に非構造化データに関しては、体系化された形で1つのファイルサーバーにデータを集約する必要がありますが、これに取り組んできた企業は決して多くないのです。

樺澤氏(ブロードバンドタワー) 15年前にビッグデータという言葉が流行りましたが、そのころも日本企業はそれほど真剣にデータを貯めてはいませんでした。つまり日本企業は現時点のタイミングで、データの集約とデジタル化を同時に進めていかなければいけない状況なのです。

Chapter 2
まず必要なのはサイロ化した非構造化データの集約

――AIが使える形でデータを集約するには、具体的にどのような取り組みが必要になるのでしょうか。

株式会社ブロードバンドタワー
取締役 執行役員 クラウド・ストレージ技術担当
樺澤 宏紀氏

樺澤氏 まずは1つのファイルサーバーにすべてのデータを集約するために、スケールアウトが容易なストレージ環境を用意する必要があります。その代表と言えるのが、デル・テクノロジーズのPowerScaleです。

株式会社ブロードバンドタワー
取締役 執行役員 クラウド・ストレージ技術担当
樺澤 宏紀氏

もともと当社はインターネット技術に強いデータセンター事業者として設立されたのですが、データセンターを利用するお客様のデータ容量が急激に膨れ上がっていることにいち早く着目し、2006年に当時のIsilon Systems社と契約を結び、ストレージ機器の販売・構築・保守ビジネスを開始しました。ご存じのとおり、Isilonは現在のPowerScaleのことです。今年で同製品を取り扱い始めてちょうど20年になります。

ストレージ事業はこの10年で急速に成長しています。当初はインターネットサービスを提供する企業での利用が多かったのですが、その後、製造業や金融業といった一般のエンタープライズ企業でもデータが急増したからです。現在ではデータセンターの提供からストレージ機器、ネットワーク回線、運用、ランサムウエア対策などのセキュリティーを、ワンストップで「一体提案」するケースがここ数年で急速に増えています。

――一体提案が増えている背景には、単に設備をそろえるだけでなく、AIで活用するデータの「扱い方」まで含めて考える必要が出てきた、という変化がありそうですね。

樺澤氏 特にポイントとなっているのが、AIに提供するデータの鮮度をどのように維持するかです。AIに「このファイルサーバーの中身をすべて学習してね」と言えば、10年前の古いデータから現在のデータまで、同じように学習してしまうからです。

PowerScaleはスケールアウトNASなので膨大なデータを放り込むことができますが、それをどう整理してAIに渡すのか、学習すべきデータとそうではないデータの区分けをガードレールなどでどう明確化していくか、といった運用面での取り組みが不可欠になります。

Chapter 3
AI運用基盤の核心、データ運用をどう実現するか

樺澤氏 このデータ運用において、重要な役割を担うのが「Dell AI Data Platform with NVIDIA」だと考えています。

――2025年8月に発表され、2026年5月に開催された「Dell Technologies World」では機能拡張も発表されました。

新川氏 Dell AI Data Platformは、スマートなデータ配置とシームレスなデータ移動を実現する「ストレージエンジン」、データを実用的なインサイトに変える「データエンジン」、組み込み型の「サイバーレジリエンス」、そしてデータの「管理サービス」で構成されていますが、今回の発表でデータエンジンとストレージエンジンの機能がさらに強化されました。これによってデータサイロを解消しやすくなり、より深いビジネスインサイトを引き出すとともに、AIによる成果の創出を加速できるようになったのです。

ストレージエンジン、データエンジン、サイバーレジリエンス、データ管理サービスによって、AIによる成果の創出を加速することを目指している

樋山氏 当社は既に20年にわたってPowerScaleの販売・構築・運用に注力してきましたが、これをDell AI Data Platformの中に位置付けることで、単なるファイル保存だけではなく、データ検索やベクトル化といったAI向けの機能が生かせるようになるでしょう。

樺澤氏 Dell AI Data Platformがデータ統合ソリューションとして、これらの機能を担ってくれることは大きな利点です。AIの本格的な業務活用に立ちはだかる壁を、より簡単に越えられるようになるからです。

――ブロードバンドタワーもより上位レイヤーに向けて、ビジネス領域を拡大していくことを視野に入れているのでしょうか。

樋山氏 デル・テクノロジーズには上位レイヤーを担うパートナーが数多く存在するので、そうした企業と連携していくことになるでしょう。その一方で、新たなビジネスの可能性も感じています。

例えば当社のデータセンター内でDell AI Data Platformを採用するお客様が増えていけば、このような企業様同士がノウハウやAI能力を連携させたいというニーズが生まれる可能性があります。これをクローズドな環境で実現できれば、データ流出のリスクを避けつつ、企業間の共創が容易になるはずです。

Chapter 4
「ストレージをどこに置くか」も重要な課題

樋山氏 重要なのはデータ運用だけではありません。次に考えなければならないのが、その基盤となるストレージをどこに置くかです。ストレージの中のデータをAIに学習させるのであれば、そのすぐそばにGPUを搭載した高性能サーバーを配置する必要があるからです。

新川氏 データのある場所には「データグラビティ(蓄積されたデータ量が増大するにつれて、それを利用するアプリケーションや処理サービスが引き寄せられていくこと)」が発生しますからね。

樋山氏 そのとおりです。ここで問題になるのが、高性能なGPUを動かせる環境を持てる企業は、決して多くはないということです。

樺澤氏 例えばNVIDIAの最新GPUである「NVIDIA B300 GPU」の消費電力は、サーバー1台で最大14kWです。しかし標準的なデータセンターの場合、1ラックへの電源供給量が10kWなので、1台で2ラックを確保する必要があります。またNVIDIAの次世代アーキテクチャである「NVIDIA Vera Rubin」になると、1ラックの消費電力が約200kW〜600kW以上になってしまい、もはや空冷システムで冷却することはできません。水冷や液冷と呼ばれる方式で冷やす形になります。

樋山氏 大手企業やGPUクラウドサービスを提供する企業であれば、そのための専用データセンターをつくることも可能かもしれません。しかしそれ以外の一般的な企業では、このような場所をつくることができず、そもそもGPUをどう設置したらいいのか分からない、というケースも少なくありません。

一番の焦点は、空冷での限界があるなかで、どのようにしてDLC(Direct Liquid Cooling:冷却液を発熱源に直接当てて冷やす方式)などの液冷設備を用意するのか、ということです。このような課題がいま、日本だけではなく世界規模で顕在化しているのです。

Chapter 5
AI時代のインフラニーズに応える石狩新港サイト

――ブロードバンドタワーでは、都市部から短時間でアクセスできる都市型データセンターを中心に複数のデータセンターを展開していますが、このようなニーズにも対応できるのですか。

樺澤氏 今、北海道石狩市で開業準備を進めている「石狩新港サイト」での対応を計画しています。これは地域の再生可能エネルギーを100%活用して運用される「環境配慮型の次世代データセンター」であり、総務省が実施する「令和3年度補正デジタルインフラ整備基金助成事業」にもとづき、情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)の助成金交付決定を受けています。

――石狩市は札幌市から車で30分程度の場所ですね。なぜこの場所にデータセンターの設置を決めたのでしょうか。

樺澤氏 次世代データセンターの場所として石狩市を選んだのは、冷涼な気候と豊かな自然環境に加えて、太陽光や風力、水力、地熱など、多様な再エネ資源に恵まれているからです。また北極海ルートの海底ケーブル整備が進むことで、欧州・北米との通信速度と効率が大幅に向上することも見込んでいます。北海道が掲げる「北海道データセンターパーク」構想では、この地域を世界水準のデジタルハブへと発展させることが目指されています。

――規模はどの程度なのですか。

樺澤氏 延床面積は約1万1000平米、ラック数は1140ラック、受電容量は15MWです。

ブロードバンドタワーは2024年6月に、このデータセンターの建物賃貸借予約契約などの契約を締結。建設は2024年9月から始まっており、2026年秋には開業する予定です。

各ラックへの電力供給は標準で10kWですが、最大20kWまで拡張が可能なので、NVIDIA B300 GPU搭載サーバーも1ラックに収容可能です。また事前にご相談いただければ、液冷・液浸システムへの対応もさせていただきます。

地域の再生可能エネルギーを100%活用して運用され、1ラックあたり最大20kWの電力供給や、液冷・液浸システムへの対応も計画されている

新川氏 このようなデータセンターにPowerScaleを設置できれば、高性能なGPU搭載サーバーの運用も容易になるはずです。その上でDell AI Data Platformの環境を整備すれば、AIの本格的な業務活用も加速していくのではないでしょうか。

Chapter 6
AI運用基盤を完成させるセキュリティーの一体提案

――AIを本格活用するためのデータ運用を行うには、セキュリティーの担保も重要になります。これに関してどのような取り組みを行っていますか。

樺澤氏 「Superna」というランサムウエア対策ソリューションを、PowerScaleと一緒に提供しています。これによって、大きく2つのことが可能になります。

1つは、ランサムウエア攻撃のブロックです。ランサムウエアによるファイルへの不審な改ざんや暗号化処理を検知し、自動的に処理を停止します。

もう1つはバックアップ機能です。AirGap構成にも対応しており、データの完全性を確保しながら、復旧フェーズまで見据えた運用が可能になります。本番用ストレージとは別のストレージを用意することで、万が一感染した場合でも正しいデータを復元できます。

さらに、従来のように全データを一律でバックアップするだけでなく、事業継続に必要な重要データのみを部分的に取得するといった柔軟な運用にも対応しています。取得したバックアップをAI学習用にコピーして活用することも可能です。

高密度なAIインフラを支える「石狩新港サイト」、サイロ化を解消できるスケールアウトストレージ「PowerScale」、多層的なセキュリティーを可能にする「Superna」によって、最適なデータ/インフラを実現できる

樋山氏 最近では石狩新港サイトの利用を計画しているお客様とお話しすることが増えているのですが、その中でDR(災害復旧用途)のストレージをどこに置くべきか、そのネットワーク接続をどうするかまで含めて提案してほしい、というご相談をいただいています。当社はもともとインターネット技術に強いこともあり、通信事業者やキャリアと深いつながりをもっています。このような特性を生かし、最適なネットワークの選定はもちろんのこと、その上で動かす各種サービスの提供やアドバイスも行っています。

――そうした包括的な相談が増えている中で、両社ではどのような事業を推進していくのでしょうか。

樋山氏 既に触れたように、デル・テクノロジーズのほかのパートナーとも手を組んで、お客様に新たな価値を提供し続けていければと考えています。

新川氏 ブロードバンドタワーは、データセンターやインフラに大きな強みを持つパートナー。そこに当社がDell AI Data Platformを提供し、ノウハウを共有しながら、お客様の要望に応じて両社でカバレッジを拡大し、お客様のニーズに応えていきたいと考えています。

――このようなパートナーシップをうまく活用すれば、国内での本格的なAI活用も加速しそうですね。本日はありがとうございました。

Chapter 7
よくある質問

AI運用基盤の整備は、どの課題から手をつけるべき?

AI運用基盤を整備する際は、まずデータの現状把握から始めることが推奨される。社内にどのような非構造化データが存在し、どこにサイロ化が起きているかを棚卸しすることが出発点となるだろう。

棚卸し結果をもとに、データの集約、インフラの整備、セキュリティー設計に優先順位をつけて進めることで、AI運用基盤のムダのない構築が可能となる。

AI運用基盤はオンプレミスとクラウドのどちらで構築すべき?

オンプレミスとクラウドのどちらがAI運用基盤において優れていると一概に言うことはできない。

オンプレミスが適しているケース:機密性の高いデータを扱う場合、大量データを低遅延で処理する必要がある場合など

クラウドが適しているケース:初期投資を抑えて柔軟にスケールしたい場合など

なお、多くの企業では両者を組み合わせたハイブリッド構成が現実的な選択肢となっている。

AI運用基盤の整備において、セキュリティー対策はどの段階で検討すべき?

AI運用基盤の整備において、セキュリティー対策は構築の初期段階から組み込むことが重要である。

データ集約後にセキュリティー対策を後付けしようとすると、設計の見直しが必要になりコストと時間が余分にかかる。ランサムウエア対策やバックアップ設計、アクセス権限の管理は、ストレージ環境の設計と同時に検討することが推奨される。

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