近年、企業の仮想化基盤を取り巻く環境は大きく変化している。特にハイパーバイザーを中心としたエコシステムの不確実性が高まる中、「特定ベンダーに依存し続けてよいのか」という問いは、多くのIT部門にとって重要な検討課題となりつつある。一方で、運用の効率化や標準化を実現してきたHCIのメリットも依然として大きく、単純な置き換えでは解決できないのが実情だ。では、ベンダーロックインのリスクを回避しながら、安定性と柔軟性を両立するには何が求められるのか。そのカギとなる「3つの条件」を軸に、デル・テクノロジーズとCTCのキーパーソンが次世代インフラのあるべき姿を議論した。
<目次>
01 ハイパーバイザー選択を巡る課題が顕在化 02 大きな効果をもたらしたHCI、その一方で限界にも直面 03 今後のプライベートクラウドに求められる3つの要件とは 04 Dell Automation Platform(DAP)によって仮想化環境をわずか3日で構築 05 HCIからの移行先としてDell Private Cloud(DPC)は有力な選択肢に 06 CTC独自のブループリントの提供/カタログ化も検討
Chapter 1
ハイパーバイザー選択を巡る課題が顕在化
――昨今、企業のITインフラを取り巻く環境が大きく変化しています。その中でIT部門の現場は、どのような課題に直面しているのでしょうか。
デル・テクノロジーズ株式会社
インフラストラクチャー・ソリューションズSE統括本部
アドバイザリーシステムズエンジニア
平原 一雄氏
平原氏(デル・テクノロジーズ) お客様とお話しさせていただくと、共通する問題に直面していることが分かります。それは、現在のハイパーバイザーの市場環境が、非常に不確実性を増していることです。多くのIT部門で「特定のハイパーバイザーを使い続けていくことが適切なのか」という、根源的な疑問が生じているのです。
デル・テクノロジーズ株式会社
インフラストラクチャー・ソリューションズSE統括本部
アドバイザリーシステムズエンジニア
平原 一雄氏
――特定のハイパーバイザーにロックインされる懸念が高まっている、ということですね。
平原氏 そうです。そのため、複数のハイパーバイザーの選択肢をいかに柔軟に持つかということが、お客様にとって重要な課題になっています。ただ、一気に新しいハイパーバイザーへ移行するのはリスクがあります。成熟度が高く使い慣れたものを当面は使いつつ、将来的にはほかのハイパーバイザーも取り込みながらソフトランディングさせたい、というご要望が多いのです。その一方でコンテナアプリケーションの台頭も進んでいます。特に金融セクターなどでは、クラウドネイティブ化の流れがかなり顕著だといえるでしょう。しかしコンテナ化できない仮想マシンも依然として存在します。これをどう収容していくかを模索されているケースが多いと感じています。
CTCではどのように考えていますか。
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(CTC)
プロダクトビジネス推進本部 ネットワークビジネス推進部 NWプロダクト推進課
主任
加藤 士郎氏
加藤氏(CTC) 大きく3つの課題があると考えています。1つ目はAI絡みで、上層部から「AIを使ったシステムをつくれ」というお題が降りてきて、現場が適当なサーバーを見繕うよう依頼されるケースです。実際には予算感が合わず、現場が振り回されることが少なくありません。
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(CTC)
プロダクトビジネス推進本部 ネットワークビジネス推進部 NWプロダクト推進課
主任
加藤 士郎氏
2つ目は、実際にGPUサーバーを構成する段階になった際に必ず出てくる冷却の問題です。消費電力が大きいため空冷では足りず水冷が必要になりますが、既存のデータセンターが冷却水に対応していない場合、新たな設備改修や別の場所を探す必要があり、ファシリティの壁に直面しています。
3つ目はハイパーバイザー関連の課題です。平原さんが話したように、特定のハイパーバイザーを使い続けるべきなのか、悩んでいる企業が増えています。特に中小規模の仮想化環境ではコスト増になるケースが多いため、予算確保が大きな問題になっているようです。
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(CTC)
プロダクトビジネス推進本部 ネットワークビジネス推進部 NWプロダクト推進課
シニアスペシャリスト
久恒 圭輔氏
久恒氏(CTC) 加藤の話した内容をもう少し俯瞰的にとらえると、「人材不足と運用負荷のジレンマ」に集約されると思います。HCIだけでなく、コンテナなど新しい技術の習得や移行対応に時間が割かれ、お客様のIT運用部門が前向きな企画を行うことができていません。また、クラウドとオンプレミスの使い分けも本格化しています。コストの最適化やデータ主権の観点からオンプレミスに回帰する動きがある一方で、メジャーなクラウドベンダーが魅力的なサービスを展開しているため、クラウドを積極的に取り込もうとする気運も高まっています。AI基盤などワークロードが多様化し、基盤のサイロ化や乱立が進みつつあることで、インフラ運用の煩雑さや複雑さが増しているのです。
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(CTC)
プロダクトビジネス推進本部 ネットワークビジネス推進部 NWプロダクト推進課
シニアスペシャリスト
久恒 圭輔氏
Chapter 2
大きな効果をもたらしたHCI、その一方で限界にも直面
いま「HCI」というキーワードが出てきましたが、これについて少し振り返ってみたいと思います。HCIはこれまでどのような価値を提供し、現在はどのような課題を抱えているとお考えでしょうか。
平原氏 HCIが出てくる前は3層アーキテクチャがあり、その構築や安定的な運用には高度な専門ノウハウが必要でした。その問題を解決するために登場したのがHCIです。コンピュートとストレージを分けて考えるのではなく、1つのハードウエアで提供することで、デプロイ時間の圧倒的な短縮と品質の均一化を実現しました。運用面でもストレージの学習コストが下がり、ストレージ管理者不要と言えるほどの運用簡素化が図られたことが、大きな価値だったといえます。
――ユーザー企業にとって、簡素化は大きなアドバンテージですね。
平原氏 その一方で最近お伺いすることが増えているのが、CPUやメモリ、ストレージリソースのバランスが取りにくいという課題です。多くの場合、ストレージだけがひっ迫し、HCIノードを追加するとCPUやメモリが余ってしまい、リソースバランスを保ってスケーリングさせるのが難しく、コストにも跳ね返ってきてしまうのです。そのため、より柔軟にコントロールできるものが求められていますが、ストレージ管理者不要というHCIの運用メリットは捨てきれないという状況です。
加藤氏 構成が標準化されているのが大きなメリットである反面、どうしても指定された組み合わせで使わなければならない、という縛りがあることも課題だといえます。ファームウエアやハイパーバイザー、管理ソフトのバージョンがすべて縛られてしまい、特定のセキュリティーパッチだけ当てたいといった場合にすぐに対応できないのです。また、接続できるハードウエアにも制限があり、安価な外付けバックアップ装置を使いたいといったニーズに対して、柔軟な対応が難しいという問題もあります。
久恒氏 HCIは「人材不足と運用負荷のジレンマ」を解消する上では大きな効果をもたらし、多くのユーザー企業に受け入れられてきました。しかし平原さんや加藤が触れた通り、柔軟性や使い勝手に制約があり、そこに限界を感じているお客様が増えてきています。また、AIトレンドに乗るためにGPUなどの特定リソースを拡張する場合にも、構成がアンバランスになりやすいという問題があります。
Chapter 3
今後のプライベートクラウドに求められる3つの要件とは
――そのようなHCIの課題を踏まえた上で、今後のプライベートクラウドにはどのような要件が求められるとお考えですか。
加藤氏 HCIの管理性や構築の容易さはそのまま維持しつつ、ハードウエアやバージョンの縛りを回避できることが求められます。また、現在のHCIは「特定のハイパーバイザーの使用」を前提にしていますが、ハイパーバイザーの変更も容易にできる仕組みが必要です。
久恒氏 私は3つの条件があると考えています。1つ目は、特定の仮想化技術に依存せず、オープンなアーキテクチャを採用し続けられること。2つ目は、人手によるマニュアル運用を減らすために、APIファースト、あるいはIaC(Infrastructure as Code)を前提としたつくりであること。3つ目は、サイロ化を防ぐために、AIやGPUなどのワークロードの統合管理ができることです。
平原氏 以前のプライベートクラウドには、導入当時は新しくても時間が経つにつれてどうしても陳腐化してしまうという、オンプレミスならではの大きな問題がありました。今後はこの問題を避けられる仕組みが必要です。陳腐化が進んだ際に、再デザイン可能な仕組みによって利用を継続できるようにするのです。
――具体的にはどのようなアプローチが考えられるのでしょうか。
平原氏 デル・テクノロジーズとしてご提案しているのが、Dell Private Cloud(DPC)です。これは、コンピュートとストレージを分離しながら、複数のハイパーバイザーに対応したプライベートクラウド基盤です。自動化を前提とした運用を実現するためDell Automation Platform(DAP)という機能が用意されており、その基盤となるオーケストレーターの中で「ブループリント」と呼ばれる、高度化された自動化ワークフローを実行できるようになっています。DPC向けに提供されているブループリントは、当社が様々な利用ケースを厳選し徹底的にテスト済みのもので提供されるため、お客様は当社のノウハウをそのままご利用いただきながら、高品質で安定したインフラストラクチャーを構築できます。
HCIのシンプルさを継承しながら、3層アーキテクチャの柔軟性も享受できるようにする。これを可能にする上で重要な役割を果たすのが、Dell Automation Platform(DAP)だ
Chapter 4
Dell Automation Platform(DAP)によって仮想化環境をわずか3日で構築
――CTC様は既にDPCの検証を始められているということですが、具体的にどのような検証を行っていますか。
加藤氏 既に行っているのは、実際にブループリント通りに構築できるのか、という検証です。ストレージ1台、サーバー5台、管理サーバー1台という構成でしたが、実際にブループリントでインフラを展開するのに要した期間は3日間でした。手組みでやった場合には、2週間ほどかかっていたはずです。
パラメータ設計から管理環境構築、ブループリント実行までの流れ。CTCの検証では、ブループリント適用フェーズを含めて短期間での構築が可能であることを確認した
平原氏 CTC様が使われたブループリントの内容は、単純にVMware ESXiをインストールするだけではなく、ハードウエアの構成チェック、BIOSやファームウエアのバージョン確認、さらにはパッチ適用までが含まれています。
加藤氏 インフラ構築の3日間のうち、1日目はハードウエアの箱出しやラッキング、ケーブリングといった物理的なキッティング作業に費やされました。その後、DAPにサーバーを認識させるオンボーディングというプロセスを行い、そこからブループリントを流し始めます。うまくいけばブループリントの実行自体は半日から1日で終わりますが、今回は初物だったため疑問点も多く、その問い合わせなども含めて2日間かかりました。
――合計3日間で構築できたというのは、初物としては短いというご評価でしょうか。
加藤氏 その通りです。私はほかのオーケストレーターの利用経験もありますが、最初はたいていスクリプトが途中で止まってしまいます。そのたびにエラー出力をスクリプトと突き合わせながら、原因を突き止めて解決する必要があるわけです。これに対してDAPでは実行ログが可視化されており、どこで止まったかが画面上ですぐ分かります。これはとても親切なツールだと感じました。物理的なセットアップも含めて3日程度でできたのは、DAPの設計が優れているからです。
スクリプトの処理の流れがグラフィカルに可視化されており、問題が発生した場合にはその箇所をすぐに特定できる
久恒氏 CTCの検証環境は社内のセキュリティーポリシーに従い、外部と接続するネットワークをかなり絞り切った状態になっています。そのため問題発生時の解析に手間取るかと思いましたが、DAPに内蔵されている解析の仕組みの完成度が高く、短時間で対応できました。3日間で仮想環境を構築できたのは、インフラ屋の体感としてはまさに驚異的です。
Chapter 5
HCIからの移行先としてDell Private Cloud(DPC)は有力な選択肢に
――ユーザー企業に対して、DPCはどのようなメリットをもたらすことになるのでしょうか。
久恒氏 まず最も重要なのは、ハイパーバイザーの流動性を担保できることです。特定のハイパーバイザーにロックインされなくなるということは、多くのお客様に歓迎されるはずです。また、DAP上で既に多種多様なブループリントが用意されているため、AI基盤などを増設したいとなった場合にも、設計構築するプロセスを劇的に改善できると期待しています。
加藤氏 久恒が申し上げた通り、ハイパーバイザーを変更しやすいというのは大きなメリットです。既存のハイパーバイザーからすぐには移行できなくても、ほかのハイパーバイザーへと少しずつ移行していく、といった柔軟な対応が可能です。そろそろ既存のHCIを更改したいとお考えのお客様にとって、DPCは有力な移行先になると思います。これによって3層アーキテクチャとHCIの「いいとこ取り」が可能になるからです。
――DPCの今後のロードマップについてもお教えいただけますか。
平原氏 現在提供している運用負荷の軽減はHCIでも提供できているレベルだといえますが、当社が見据えているのはそのさらに先です。1つはAIの活用です。インフラをモニタリングするDell AIOpsとDAPを、今後統合していく計画があるのです。AIOpsが分析したレコメンデーションをDAPにフィードバックし、例えば、リソースが枯渇しそうになったらブループリントをキックしてクラスターを自動拡張するといった、自律的な運用を目指しています。もう1つは、Dell Automation Studioというソリューションです。これはお客様がブループリントをつくる際に、ゼロからコーディングするのではなく、生成AIの仕組みを組み合わせてプロンプトベースでブループリントを作成できるような世界を描こうとしています。これによって、仮想マシンを作成するなどDPCが提供する自動化領域を拡張したり、複数のIaCを運用する際に起きがちな課題も解決できると考えています。
インフラ環境全体で統合化されたオーケストレーションによって、運用管理の複雑さを大幅に低減できる
Chapter 6
CTC独自のブループリントの提供/カタログ化も検討
――このロードマップについて、CTCはどう評価していますか。
久恒氏 まさに市場の期待に合致しています。運用部門の方々は疲弊されており、企画業務に使える時間が限られています。運用をいかに省力化し、運用担当者の仕事を企画領域へシフトさせていくかが、重要な課題になっているのです。AI活用はそのためのエンジンとして、大きな期待が持てると思います。
――CTCが今後予定している取り組みについてもお聞かせください。
加藤氏 まずは検証の幅を広げ、お客様に提供できるノウハウを充実させていきます。具体的にはバージョンアップの検証や、別のハイパーバイザーへの載せ替え検証などを行う計画です。インフラ構築検証の経験から、これらも円滑に実施できるだろうと期待しています。
久恒氏 CTC独自のブループリントを作成し、カタログ化して提供することも検討しています。ユーザー企業の皆様が「こういうブループリントがあったらいいな」というものをラインアップし、デル・テクノロジーズと共同でアピールしていきたいと考えています。
平原氏 デル・テクノロジーズとしても、お客様の千差万別なニーズに応えられるようにしていきたいと考えています。そのためにブループリントの充実を図るとともに、Azure Localなどハイパーバイザーの選択肢を広げていきます。また既存のIaCツールのサイロ化を防ぎ、より上位で取りまとめるオーケストレーターとしての役割を果たせるよう、開発を進めていく計画です。
――DPCのようなインフラは、多くの企業が直面している仮想化問題の解決に向けた1つの方向性といえそうです。今回はありがとうございました。
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