既に多くのユーザー企業が実感しているように、大きな変革期に入っている仮想化基盤の市場環境。Windows Server 2016(Hyper-V)の延長サポート終了が2027年1月に、VMware vSphere 8の一般サポート終了が2027年10月に迫っていることも、仮想化基盤を見直す契機になっているといえるだろう。このような状況の中、デル・テクノロジーズが2026年5月の「Dell Technologies World 2026」で発表したのが、「Dell Distributed Private Cloud(DDPC)」だ。これは1〜6ノードでの利用を前提とした、比較的小規模な仮想化基盤。エッジ環境や分散拠点を対象とした、軽量なプライベートクラウド仮想化プラットフォームである。小規模な分散拠点が抱えるコストや運用の課題に、DDPCはどう応えられるのか。中堅企業の仮想化基盤の導入・運用を支援する日立システムズと、DDPCを提供するデル・テクノロジーズの担当者に話を聞いた。
<目次>
01 Dell Distributed Private Cloud(DDPC)の4つの特徴は 02 中堅企業の分散拠点が直面している3つの課題 03 仮想化基盤のコスト抑制に貢献するDDPC 04 「ゼロタッチプロビジョニング」で現場の負荷を軽減可能 05 日立システムズの全国サービス網をかけ合わせ、多拠点展開を支援 06 Dell Distributed Private Cloud(DDPC)の4つの特徴とは
Chapter 1
Dell Distributed Private Cloud(DDPC)の4つの特徴は
DDPCの特徴は、以下の4点に集約できる。
・KVMベースの仮想化基盤とデバイス単位のライセンス
・分散拠点のインフラとアプリケーションを一元管理
・現地での不正操作やデータ持ち出しに備えるセキュリティ機能
・既存のVMware環境からの仮想マシン(VM)インポート機能
※DDPCの特徴や機能については対談の中でも言及されているが、詳細は記事後半のコラムを参照していただきたい。
それではこのような特徴は、比較的規模の小さい分散拠点を持つ企業にとって、どのようなメリットがあるのか。中堅企業における分散拠点への仮想化環境構築に関して、豊富な実績と経験を持つ日立システムズと、デル・テクノロジーズのキーパーソンに話を聞いた。
Chapter 2
中堅企業の分散拠点が直面している3つの課題
――まず中堅・中小企業が直面している仮想化環境の課題についてお聞きします。日立システムズは中堅企業への仮想化環境導入を支援されていますが、最近ではどのようなニーズが増えているのでしょうか。
株式会社日立システムズ
ビジネスソリューション営業統括本部
第三パートナー営業本部 第二営業部 第一グループ
部長代理
村上 友氏
村上氏(日立システムズ) 当社は年商100〜500億円規模のお客さまが多く、このようなお客さまと対面でお話しする機会も多くあります。私は製品やソリューションを横断して取りまとめる業務統括本部におりますが、中堅・中小企業のお客さまでは小規模な基盤を必要とされるケースが増えています。当社では長年VMware製品を提供してきましたが、コスト感が合わなくなる事例が多くなっているのです。
大滝氏(日立システムズ) 私は産業・流通デジタライゼーション事業部の設計部門に所属しており、産業・流通業種のお客さまの個別インフラ案件を担当しています。私の実感では、コスト構造の変化に加えて、クローズド運用を続けたいというご要望が多くなっていると感じています。最近の仮想化基盤の中にはオンライン/ネットワーク接続を前提とした製品もあり、製造業のお客さまを中心に、このような製品の利用を回避したいとお考えのところが増えています。
村上氏 このようなお客さまでは、仮想化基盤そのものをこれまでとは異なる製品に入れ替えることも検討されています。またHyper-Vの稼働基盤であるWindows Server 2016は2027年1月に延長サポートが終了することや、VMware vSphere 8が2027年10月に一般サポート終了になることも、この動向に拍車をかけています。
株式会社日立システムズ
産業・流通デジタライゼーション事業部
第一デジタライゼーション本部 第三システム部 第一グループ
主任技師
大滝 宏人氏
大滝氏 さらに、現地運用を自動化したいというご要望も増えています。製造業や流通業では工場や店舗といった小規模拠点を多数お持ちのお客さまも多く、このような拠点は小規模でも重要な業務が多いため、現地で仮想化環境を運用しているケースが一般的です。しかし専任の担当者がいない「ひとり情シス」のような現場も珍しくありません。
またIT専任者が不在の場合、専門的なソフトウェア設定を現地で行うことは難しいことも少なくありません。このような現地作業を不要にする設計が、コスト以上に求められているのです。
Chapter 3
仮想化基盤のコスト抑制に貢献するDDPC
――このようなニーズに対して、DDPCはどのようにマッチするのでしょうか。まずはその基本的な設計思想からお伺いします。
デル・テクノロジーズ株式会社
Dell Distributed Private Cloud Japan
Business Development Lead
比留間 翔大氏
比留間氏(デル・テクノロジーズ) DDPCは分散した拠点に対して、中央から一括統合管理を行えるようにした仮想化基盤です。デル・テクノロジーズが買収したイスラエルのスタートアップ企業「Cloudify」の技術をベースにしており、2023年には「Dell NativeEdge」という名称でリリースされていました。その仮想化機能の拡張を行い、小中規模データセンターでも活用できるプラットフォームへと成熟させたのがDDPCです。基本的な技術要素は継承しながら、昨今の仮想化環境に対する市場ニーズの変化に対応できるようにしました。
分散拠点の仮想化環境を、中央から一括統合管理することが可能だ
――DDPCではどのようなハイパーバイザーが動くのですか。
比留間氏 Linux KVMをベースに、デル・テクノロジーズが製品として統合した仮想化基盤を提供しています。Linuxベースの軽量OS(DDPC OS)に、仮想化機能としてLinux KVM、コンテナ実行環境としてPodmanを標準搭載しており、VMに加えてコンテナも直接稼働させることが可能です。ストレージはCephを活用したソフトウェアデファインドストレージ(SDS)となっており、1ノード構成も取れるが、複数ノードでローカルディスクを共有ストレージ化し、2〜6ノードのHCIクラスタを構成し、HA(高可用性)やライブマイグレーション、自動負荷分散などを実現できます。また、デバイス単位のライセンスを採用し、小規模環境でのコスト負担を抑えることをめざしています。
村上氏 当社がDDPCに注目した理由は、年商100〜500億円規模の企業が求めているシステムの規模感に合っていると感じたからです。お客さまが必要とする機能とコストのバランスを取りやすい基盤になると期待しています。
比留間氏 ライセンス形態は、一般的な「コア課金」ではなく、「デバイスライセンス」を採用しています。デバイスが1台であれば、これにどれだけのCPUやメモリ、ストレージを搭載しても、ライセンス費用は1台分でカウントされます。
村上氏 このようなライセンス形態も、お客さまへの提案に向けて評価している点の一つです。
Chapter 4
「ゼロタッチプロビジョニング」で現場の負荷を軽減可能
大滝氏 特に分散拠点では、シングル構成から4台程度の規模のシステムが多く、1〜6ノードでの利用を前提としたDDPCは、仮想化環境のリプレース先として有力な候補になります。特に、店舗ごとに置かれたサーバーやWindowsの運用に苦慮されているお客さまにとっては、それらを集中管理できることで、大きなメリットがもたらされます。
比留間氏 この集中管理を実現するのが「Dell Automation Platform(DAP)」です。これは各拠点に分散配置されたハードウェア/ソフトウェアの全レイヤーを、中央から一元管理できるオーケストレーターです。現地に届いたデバイスに電源とLANケーブルを接続するだけで、ハードウェアからBIOS、ドライバー、ハイパーバイザー、そのうえで稼働するVMやコンテナアプリケーションまで、中央にある管理画面で一括してデプロイ・管理できます。
中央にある管理画面によって、ハードウェアからBIOS、ドライバー、ハイパーバイザー、そのうえで稼働するVMやコンテナアプリケーションまで、一元的に管理できる
大滝氏 このような「ゼロタッチプロビジョニング」の機能は、多くのお客さまが求めているものです。ただし、お客さまのなかには「LANケーブル配線や設置も現地ではままならない」というケースもございますので、このような場合には当社のL2ネットワーク設計や現地対応の力をかけ合わせることで、全体設計を含めたパッケージとしてご支援できると考えています。
――既存環境からの移行はどのように行うのでしょうか。
比留間氏 vSphereからの移行では、既存環境にあるvCenterに対してオーケストレーターからプラグインで接続し、DDPCの管理画面上で数クリックするだけで、既存のVMをDDPCに移行できます。今後は移行元となる仮想化基盤の種類を拡大していく計画です。
大滝氏 先日デモンストレーションも拝見しました。既存のVMwareやVxRail環境からの移行を検討するうえで、このインポート機能は重要だと考えています。
Dell Automation PlatformからvCenterに接続して仮想マシンを自動検出し、インポート設定を入力するだけで、インポートが開始される。今後は他の仮想化基盤製品からも、このような移行を可能にしていく計画だという
Chapter 5
日立システムズの全国サービス網をかけ合わせ、多拠点展開を支援
――仮想マシンだけではなくコンテナも直接扱える点については、どのように評価されていますか。
村上氏 最近のAIアプリケーションは、ほぼコンテナで構成されています。エッジでの推論は今後増えていくことが見込まれるので、仮想マシンとコンテナを混在させて動かせるという特徴は、大きなメリットになると考えています。
大滝氏 実際に「分散拠点でAIを活用したい」という、お客さまからのご相談も増えています。
村上氏 このような将来も見据えた分散仮想化環境を、シンプルな形で導入・運用できるのは、DDPCの大きな魅力です。
大滝氏 ただし、その一方で中小規模のお客さまでは既に他社製のバックアップソフトなどを使われているケースも多く、このようなサードパーティ製品との連携や共存が、どこまで可能になるのかも重要なポイントだと考えています。
比留間氏 現在、移行対象の拡充とともに、最も開発優先度が高いのが、サードパーティ製バックアップ製品への対応です。現状はDell PowerProtect Data Managerのみに対応していますが、今後は主要なバックアップ製品にも対応していく計画です。
大滝氏 現場ではPLCやカメラ、UPSなどの専用機器が接続されていることも多く、セキュリティを担保しつつこれらをどう連携させるかも、大きな課題になるでしょう。標準パッケージを生かしながら、個別の作り込みを防ぐためのすり合わせも、必要になると考えています。
比留間氏 日立システムズをはじめとしたパートナー企業と、ネットワークや周辺機器との連携を含めた検証を進め、顧客環境に適した導入・運用方法を具体化していきたいと考えています。
――最後に、DDPCに関する今後の展望や活動についてお教えください。
大滝氏 まず機器を検証環境に設置し、ネットワークの構成方法や外部機器との連携、VM移行などの検証を進めていきます。そのうえで、ネットワークやセキュリティなど社内の専門チームを巻き込みながら、導入の道筋を作っていきます。ゴールは当社としての「パッケージ化」のイメージを確立することです。
村上氏 日立システムズの強みは、導入後の運用とサポートまで一貫して支援できる点にあります。DDPC自体のサポートはデル・テクノロジーズが提供しますが、お客さまのシステム全体を当社が一元的に支援できる体制を整えるため、保守設計や検証を進めていきます。
比留間氏 当社といたしましても、日立システムズにおける検証の支援を含め、密に連携を進めてまいります。
――小規模な分散拠点の仮想化基盤を見直す際には、コストだけでなく、現地の運用体制や周辺機器との連携、保守体制も検討する必要があることが分かりました。今後の検証を通じて、具体的な導入・運用方法が整理されていくことになります。本日は貴重なお話をありがとうございました。
Chapter 6
Dell Distributed Private Cloud(DDPC)の4つの特徴とは
1.KVMベースの仮想化基盤とデバイス単位のライセンス
エッジや分散拠点における仮想化基盤のコスト高騰を抑えるため、「独自のハイパーバイザー」と「柔軟なライセンス形態」を採用している。まず独自のハイパーバイザーには、オープンソースのLinux KVMとコンテナ管理ツールPodmanをベースとした「DDPC OS」を提供。大規模データセンター向けの高価で複雑な機能を省き、小規模拠点(1〜6ノード)に特化したシンプルな設計となっているため、仮想化ソフトウェア自体の導入コストを大幅に抑制できる。
一方のライセンス形態は、従来の仮想化製品で主流となっている「CPUコア数」や「ストレージ容量」に応じた課金体系ではなく、「デバイス単位」の定額サブスクリプション(1/3/4/5年)を採用。1台のサーバー内にCPUコア、メモリ、ディスクをどれだけ大容量に搭載してもライセンス費用は一律であるため、将来のスペック増強時にもコストが跳ね上がるリスクが少ない。さらに、ハードウェアとハイパーバイザーのサポート窓口をデル・テクノロジーズが一元的に提供するため、複数ベンダーへの対応に伴う運用・保守コストも削減可能だ。
2.分散拠点のインフラとアプリケーションを一元管理
中央に配置したオーケストレーター「Dell Automation Platform(DAP)」を通じて、全国の工場や店舗など遠隔地に点在するシステムを、一括で統合管理可能。中央管理画面からハードウェア、BIOS、ハイパーバイザー、そのうえで稼働するVMやコンテナアプリケーションに至るまで、すべてのレイヤーを遠隔から一括デプロイ・管理できる。ハードウェアのリソース監視や電源管理の遠隔操作も可能であり、定義ファイル(ブループリント)を用いることで、アプリケーションの自動展開や更新もスムーズに行える。これにより、現地に専門要員を置くことなく、拠点環境の標準化と効率的な集中管理を実現。分散拠点では専任のIT担当者がおらず「ひとり情シス」の環境も多いため、サーバーの導入や更新、障害対応のたびに現地へ赴く必要があり、運用工数や設定のばらつきが大きな課題となっていたが、この問題を解決しやすい。なおこのオーケストレーター自体は、オンプレミスとパブリッククラウドのいずれにも設置可能だ。
3.現地での不正操作やデータ持ち出しに備えるセキュリティ機能
専任者が不在で第三者が機器に触れやすい工場や店舗などのエッジ環境を想定し、ゼロトラスト思想に基づく強固な物理セキュリティを装備。外部端子(USBやVGAなど)をはじめ、コンソール、SSH、iDRAC、BIOSへのアクセスは無効化されており、DDPC OSへのログインすら受け付けず、管理操作は中央のオーケストレーター(DAP)からのみ可能になっている。また、TPM(Trusted Platform Module)を用いたメジャードブートやセキュアブートにより、起動プロセスの改ざん検知やデル・テクノロジーズ署名コード以外の起動を防止。さらにストレージも暗号化されているため、万一ハードウェアが物理的に持ち去られたとしても、アクセスを拒絶して機密データの漏えいを防止できる。
4.既存のVMware環境からのVMインポート機能
既存のVMware環境からの移行を円滑にする「インポート機能(オフラインマイグレーション)」を標準装備。Dell Automation Platformからプラグイン経由で既存のvCenterに接続するだけで、稼働中のVMを自動検出、管理画面の一覧から移行したいVMを選択し簡単な設定操作を行うだけで、DDPCクラスタへの自動インポートが可能だ。vmdkを含む各種仮想ディスク形式に対応しており、スムーズな移行を実現。既存のVMware環境やVxRailからのリプレース障壁を、大きく引き下げている。
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