健康管理や福利厚生のサービスが乱立し、
使いにくい状態に
多くの日本企業が人的資本経営に取り組んでいます。現状をどのように見ていますか。
藤田常態化する人手不足や生産年齢人口の減少を背景に、社員のウェルビーイング実現や人的資本経営に取り組む企業が増えています。社会環境も後押ししており、有価証券報告書における人的資本情報の開示の義務化や、健康経営優良法人※1の認定制度なども設けられました。
ただ、ウェルビーイングの実感度という点では、世界と比べてまだ課題があります。人々の幸福度を測った調査※2では日本はG7中最下位の61位。また、GDPに占める人的資本投資の割合も各国と比べて非常に低いといわれています。人的資本経営の重要性には気付き始めたものの、取り組みはまだ進んでいない、あるいは持続できていないのが現状だと思います。
具体的に、現場にはどのような課題が発生しているのでしょうか。
藤田例えば、社員のウェルビーイング実現のため、複数の健康管理サービスや福利厚生サービスを導入したものの、それらが乱立してサイロ化し、従業員にとって使いにくい状態になっているケースが多くあります。その結果、サービスが利用されず、人的資本経営も進まないのです。
門畑また、「何を目標にして施策の立案・実施すれば良いか分からない」という声もあります。KPIがあやふやなままでは、効果的な施策を考えることは困難です。自社の課題に即した施策を検討・実施できずにいる企業は少なくないと思います。
※1『健康経営®』はNPO法人健康経営研究会の登録商標
※2 世界幸福度報告書2026
バラバラのヘルスケアサービスを“1つのID”に集約
データが「次の一手」まで教えてくれる
それらの課題を解決するサービスが「Hearbit(ハービット)」「Hearbit View(ハービットビュー)」ということですね。概要や活用メリットを教えてください。
藤田まずHearbitは、従業員が使うウェルビーイングプラットフォームです(図1)。これを窓口にして、1つのIDで様々なヘルスケアアプリを利用できます。また、健康状態の総合評価をスコアで確認したり、生成AIによって将来の疾病リスクを予測したりすることも可能です。
図1 一人ひとりによりそうウェルビーイングプラットフォーム「Hearbit(ハービット)」

1つのIDで様々なヘルスケアアプリにアクセスできる、社員ごとに用意された健康ポータルのような存在。AIによる生活習慣見直しのアドバイス、将来の疾病リスクなどの機能も備えている
日々のアプリの利用や目標達成に応じてポイントがたまるインセンティブ機能など、継続的に使っていただける工夫も盛り込んでいます。
森お客様企業では、サイロ化したサービスの間で機能重複が起こっているケースもあります。その点Hearbitは、当社が培った社会保険・健康保険組合関連のノウハウを生かし、厳選した15のアプリを提供※3しています。過不足のないサービスを、従業員が使いやすい状態で提供できる点は大きなメリットだと思います。
また、Hearbit/HearbitViewの活用により、健康経営度調査2026の調査票における制度・施策実行、及び評価・改善に関する要件の約8割に適用することが可能で、健康経営優良法人やホワイト500を目指すお客様の要件対応の一助となります。これから人的資本経営に本腰を入れたいお客様にも適したサービスです。
門畑もう1つのHearbit Viewは、健保組合や人事部、経営層の方が使うダッシュボードツールです(図2)。Hearbitから得たデータを個人が特定できない形に統計処理し、他社事例などのオープンデータと掛け合わせて分析することで、施策の立案や人的資本経営の高度化に役立てられるようにします。
図2 ウェルビーイングダッシュボード「Hearbit View(ハービットビュー)」

Hearbitから得たデータを基に、社員の状況のサマリ化、オープンデータとの掛け合わせに基づくベンチマーク比較などを行える。データの分析結果だけでなく、データサイエンティストや生成AIによる示唆、ヒントも提示できる点が大きな特徴だ
特長はアプリ横断型で相関分析ができること、そして単にデータを分析・表示するだけでなく、そこから得た示唆や、人的資本経営の推進に向けたKPIのヒントまでを提示できることです。示唆・ヒントの提示は当社のデータサイエンティストによる分析や、生成AIによって実現しています。
高機能なサービスの立ち上げには様々な苦労があったと思います。具体的なエピソードを教えてください。
藤田最も苦労したのはサービス形態の大枠づくりです。元々当社は、健保組合向けの基幹業務システムを長年提供しており、700万人を超える加入者データをお預かりしています。「このデータを、事業主の健康経営や人的資本経営に役立てられるサービスがつくれないか」というのが企画の出発点でしたが、どうすれば具現化できるのか、なかなか答えが出ませんでした。
そこで市場調査を軸に、ユーザーインタビューも行いながらリアルな課題の把握に努めたところ、大きく2つの課題が見えてきました。1つは社員側の課題で、多様なサービスが乱立しており使いこなせていないというもの。もう1つは健保組合や人事部側の課題で、データ分析による課題抽出から施策の立案・実施、そして効果測定までのPDCAが回せていないというものです。そこから、「複数サービスに一元的にアクセスでき、かつ加入者データを用いた高度なデータ分析も行える」サービスをつくるという全体方針が見えてきました。
門畑プロジェクトが始動してからは、メンバーの熱量や足並みをどう揃えるかが難しいポイントでした。というのも、今回の企画・開発プロジェクトは社内外含めて100人ほどの規模に上り、立場や考え方がそれぞれに異なっていたからです。
足並みを揃える上で重視したのは、会議の「量」ではなくコミュニケーションの「質」です。そこで、企画と開発が同じ目線で議論できるよう、情報共有の仕方を工夫しました。プロジェクトの目的や進捗、課題を全員が常に確認できる場を整え、立場を越えて気軽に相談し合える雰囲気づくりを心がけたのです。こうした日々のやり取りの積み重ねによって、企画と開発が密に連携し、全員の熱量を揃えてプロジェクトを推進できています。
※3 サービス数は2026年7月現在
健保加入者のデータと、
データの価値を引き出せる人材が強み
両サービスを開発、提供する上での大和総研の強みはどこにありますか。
森最大の強みは、やはり健保組合向け基幹業務システムで蓄積した膨大なデータです。同時に、当社にはデータの価値を引き出せるデータサイエンティストも多数在籍しています。この2つが揃っているからこそ、単なるデータ分析を越えた示唆やヒントをお客様に提示することができると考えています。
門畑また、シンクタンク・コンサルティングからシステム開発まで、多様な機能を併せ持つ総合力も強みです。両サービスには、サービスを企画・開発する我々のようなメンバーやデータサイエンティストに加え、リサーチ、コンサルタント、さらには社外のパートナー企業のメンバーなど、多彩な人材の経験・知見が注ぎ込まれています。
加えて、大和総研には「困っている人を助けよう」という風土があります。プロジェクトに関係ない人でも、より良いものをつくるためにはアドバイスを惜しまない。そのような、全員で助け合うムードがあることは、サービス品質に間違いなく良い影響をもたらしています。
実施した施策そのものの効果を可視化する機能も
実現予定
今後、Hearbit/Hearbit Viewを通じて、どのような価値を提供していきたいと考えていますか。皆さんが目指すことと併せて教えてください。
森Hearbitの疾病リスク予測機能について、現在は3年後までのリスクをお示ししていますが、今後はその期間を延ばすと共に、データの種類を増やして精度も上げていきたいと思います。この点、私は途中からこのプロジェクトに参加したのですが、大きく裁量を持たせてもらっている実感があります。新技術も積極的に取り入れていけるので、エンジニアとしての成長を実現しながら、サービスの一層の進化に貢献していきたいですね。
門畑Hearbit Viewに関するご要望で多いのは、行った施策そのものの効果を可視化する機能です。当社としても、人的資本経営のPDCAをワンストップで回すためには必須の機能だと位置付けています。その実現に向けてチャレンジしていきたいですね。大勢のメンバーから刺激を受けながら、自分自身も成長したいと考えています。
藤田サービスをゼロから立ち上げる過程では、私自身も多くのことを学ぶことができました。Hearbitのサービスビジョンは「戦略的ウェルビーイング経営をすべての企業に」です。福利厚生や健康に関する施策は「コスト」ではなく「投資」である――。そう考える企業を、1社でも多く増やしていきたいと思います。


