企業には、提案書や仕様書、議事録、問い合わせ履歴など膨大なデータが蓄積されている。だが、それらが十分に活用されず、埋もれたままになっているケースは少なくない。3,000社を超える企業と150万人以上が利用する法人向けクラウドストレージ「DirectCloud」は、企業データを安全に管理する基盤を築いてきた。そして今、その基盤の上にAIを実装し、蓄積されたデータ資産を業務や経営判断に生かす仕組みの強化を進めている。単なるストレージを超え、企業AI基盤へと進化を図る同社の構想について、代表取締役CEOの安貞善氏に聞いた。

安全に蓄積されたデータが
活用されないまま眠っている

株式会社ダイレクトクラウド

代表取締役CEO

安 貞善

1998年、法政大学社会学部応用経済学科卒業後、株式会社ニュークリエイティブ入社。2004年、株式会社コベックを設立、2016年に株式会社ダイレクトクラウドに社名変更。2018年11月ASPIC IoT・AI・クラウドアワード2018ベスト連携賞受賞。

 多くの企業は今、「データはある。AIも使いたい。しかし、自社データとAIを安全につなぐ仕組みがない」という壁に直面している。安氏はその背景に、日本企業特有のシステム運用構造があると見る。

 「日本企業ではコストや既存システムとの関係から、オンプレミスとクラウドを併用する運用が一般的です。ただその結果として、データが部門ごと、拠点ごと、システムごとに分散し、必要な情報を探せない、再利用できないという問題が起きています。そのため当社は、すべてを一気にクラウド化するだけでなく、既存のオンプレミス環境を生かしながらクラウドと連携する、現実的なハイブリッド運用も提案していきます。これからのAI活用で差がつくのは、自社のデータをどれだけ整理し、正しく安全にAIへ渡せるかです。その意味で、企業データが集まるクラウドストレージはAI活用の入口であり、これからの企業競争力を支える重要な基盤になると考えています」

 社内データのAI活用には大きな可能性がある一方、機密情報や個人情報をどう守るかという課題がつきまとう。自社でAI基盤を構築するには大きな投資と運用負荷がかかり、外部サービスの利用にも高いセキュリティーとガバナンスが欠かせない。

 その点、DirectCloudには、すでにデータの集約基盤があり、アクセス権限やセキュリティーの仕組みも備わっている。社内に散在するデータを一元管理し、権限・鮮度・検索性を担保した「AI Ready」な状態に整備することで、生成AIがすぐに活用できる安全なデータ基盤を提供するのだ。安氏は、こうした既存基盤の上でAIを実装することが、企業がゼロからAI基盤を構築する必要をなくし、安全性と実用性を両立する現実解になるとして、次のように語る。

 「お客様は、企業にとって重要なデータをDirectCloudに預けてくださっています。しかし、データが保管されるだけで活用されなければ、当社が提供している価値はまだ半分です。本当に価値があるのは、データを安全に守りながら、業務や顧客対応、営業活動、経営判断に生かせる状態まで支援することだと我々は考えています」

社内に眠るナレッジを、
日常業務で使える形に変える

 「DirectCloud AI」が目指すのは、企業が持つ大量のナレッジを日常業務で安全に活用できるAIサービスへと発展させることだ。その核となるのが高精度RAG(検索拡張生成)とMCPサーバーである。企業内には、Office文書、PDF、メール、画像、表データなど、多様な非構造化データが存在する。これらをAIが理解し、必要な場面で取り出せるようにすることで、蓄積された情報を実務で使える知識へと転換する。

 特に実務インパクトが大きいのが、ExcelやPDFに蓄積された営業数値など、表データの解析・視覚化への対応強化だ。従来のAIは、膨大な数値データの集計や関連性の分析を苦手としてきた。今回の機能拡充では、多数のファイルにまたがる複雑な数値データをAIが瞬時に読み解き、Excelを操作することなく、見やすく整理した表やグラフとして出力できるようにする。

 加えて、外部の公開情報を効率的に収集できるWeb検索機能も拡充した。ただし、同社が重視するのは外部情報の検索そのものではない。市場情報を確認しながら、過去の提案書、営業資料、製品資料、顧客対応履歴など社内データと組み合わせて活用できる点にある。

 こうした機能拡充によって、AIの役割は検索にとどまらなくなる。保存された資料をもとに報告書のたたき台をつくる、提案資料の構成案をつくる、集計表やグラフを含む分析資料をつくるといった支援がより現実的になる。営業が過去の提案書や導入事例をもとに提案を磨く。カスタマーサポートがFAQや仕様書を踏まえて迅速に対応する。マーケティングが外部情報と社内資料を組み合わせて企画立案や競合分析を進める。AIが変えるのは、一人ひとりの業務そのものだ。

 次の焦点となるのが、実装予定の「対話型UI/AI Assistant」である。これまで社員は、必要な情報を探すためにフォルダ階層をたどり、検索条件を考え、複数の資料を見比べる必要があった。しかし対話型UIでは、言葉で指示するだけで情報探索や資料作成を進められるようになる。

 「社員が専門的な操作を覚えなくても、『過去1年間の顧客とやり取りしたメールを分析してFAQを生成』したり、『先月の問い合わせを分析して報告書を作成』したりと自然な言葉で依頼できます。情報検索や資料作成にかかる時間を大幅に削減できれば、現場の生産性だけでなく、意思決定のスピードも上がります」と安氏は説明する。

 「AI Assistant」は、単に回答するだけでなく、一連の業務を代行する役割へと進化していく。たとえば管理者が「異常なログイン履歴を確認し、毎朝9時にレポートして」と指示すれば、AIがログを確認し、要点を整理して通知する。定型業務を自動化することで、社員は顧客対応や改善活動など、より付加価値の高い仕事に集中できるようになる。経営者の視点で見れば、これは人材不足への対応でもある。

クラウドストレージを、
企業AI全体のデータ基盤へ

 もっとも、AIを全社展開するには、利便性だけでは不十分だ。AIが社内文書や顧客情報、契約情報、技術情報を参照する範囲が広がるほど、情報漏えいや権限逸脱のリスクは高まる。安氏は、AIを全社で活用する上で、セキュリティーは追加機能ではなく経営上の前提条件だと強調する。

 「社員が業務効率化のために、会社が許可していないAIサービスへ資料や機密情報を入力してしまうことが問題となっていますが、AIの利用を一律に禁止すれば、現場の生産性は上がりません。必要なのは禁止ではなく、企業が管理できる安全な利用環境を用意することです」

 DirectCloud AIでは、AIが参照できる情報を既存のアクセス権限に基づいて制御し、社員が本来見られない情報をAI経由で取得してしまうことを防ぐ。クラウドストレージで培ってきたアクセス権管理をAI活用にも適用できる点は、同社の大きな強みだ。データは日本国内のサーバーに保存され、入力情報がAIの学習に利用されることもない。AIの操作内容はログとして保存されるため、問題が発生した場合にも管理者が確認できる。回答やログに個人情報が残らないよう、マスキング処理を行うことも可能だ。

 「我々が目指しているのは、『データは安全に管理し、AIは現場で自由に活用できる』状態です。セキュリティーと利便性を両立できなければ、AIは全社に広がりません」(安氏)

高度なツールを導入しても、使いこなせる人材が一部に限られていては、全社的な成果にはつながらない。AIを最初に使い始めるのは、変化に前向きな一部の社員だ。しかし、最初から全社員が使える環境を整えておけば、使いこなせる社員が起点となって、活用は組織全体へ広がっていく。そこで同社は、DirectCloud AIを全有料プランに追加料金なしで標準搭載し、ユーザー数無制限で利用できるようにした。

 さらに、8月以降のリリースが予定されている「DirectCloud MCPサーバー」は、ファイルサーバーという存在の意味を大きく変える可能性を持つ。MCPは、外部AIが社内データや業務システムに安全に接続するための共通インターフェースであり、ChatGPTやClaudeといった外部AIから、DirectCloud上の社内データへアクセスできるようになる。

 ここで特筆すべきは、利便性以上にセキュリティー面の設計だ。MCPサーバーは、AIに渡すデータやツールの範囲を「読み取り・書き込み・実行」単位で明示的に制御できるため、AIに何でも自由にアクセスさせるわけではない。既存のアクセス権限(OAuth認証など)をそのまま維持した上で連携するため、権限外のデータにAIが触れることはなく、さらに「誰が・いつ・どの操作を行ったか」を記録する監査ログが標準で組み込まれる。つまりMCPサーバーは、AI活用の利便性と、情報システム部門が求める統制・ガバナンスを両立させる仕組みとして設計されている。

 たとえば営業担当者は、普段使っているAIからDirectCloud上の提案資料、導入事例、技術文書を横断検索し、顧客ごとの提案書を作成できる。情シス部門では、運用マニュアルや過去の問い合わせ履歴をもとに、社員からの質問に対して根拠付きの回答を作成できる。普段使っているAIツールを変えることなく、裏側ではDirectCloudが安全なデータ供給基盤として機能する。

 同社が描くのは、文書、画像、動画、議事録といった非構造化データと、販売データ、顧客データ、在庫データといった構造化データを分断せず、AIが横断的に活用できる世界だ。

 「企業は、データをDirectCloudで安全に管理しながら、目的に応じて最適なAIを選べるようになります。これが、AI時代の現実的で柔軟なデータ活用の形です」と安氏は言う。

 社員一人ひとりが自社の情報を理解したAI Assistantを持つ組織になれば、営業は提案を磨き、生産管理は図面や仕様書をすぐに確認し、経理や管理部門はデータからレポートを自動作成できるようになる。全社員が自社データを安全に使いながら、仕事の質とスピードを高められる状態ができれば、人は単純作業から解放され、判断や創造、人と人との対話といった、人間にしかできない仕事へより多くの時間を充てられるようになるだろう。特定の人だけが知っている情報を組織全体で活用できるようになれば、属人化は減り、組織全体の実行力も高まっていくはずだ。

 「日本企業にとって、AI活用は避けて通れない経営テーマです。一方で、海外AIサービスに依存しすぎることへの不安や、自社データをどう守るかという課題もあります。当社は、ソブリンAIの考え方を重視しながら、日本企業が安心してAIを活用できる基盤を提供していきます。

 大企業だけでなく、中堅・中小企業にも、高いセキュリティーとガバナンスを備えたAI活用基盤を提供することで、サプライチェーン全体の安全性と生産性を高めていきたいと考えています。2027年にかけてはDirectCloud AIの機能をさらに拡充し、社内データを活用するためのAI基盤として進化させ、2028年以降はAI Assistantをより高度化して、製造、金融、自治体など業種ごとの業務に合わせたAI活用を広げていく計画です。

 AI活用に悩む経営者やシステム責任者の方々には、まず自社データを安全に集約し、活用できる状態に整えることから始めていただきたい。クラウドストレージで培ったセキュリティーと利便性を土台に、AIを現場で使える経営基盤へ進化させる。我々はその取り組みをお客様と一緒に進めてまいります」(安氏)

株式会社ダイレクトクラウド

〒105-0021 東京都港区東新橋2-12-1 PMO東新橋 7階

https://www.directcloud.co.jp/

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