背景 AI活用の成否を分ける コンテキストエンジニアリング最前線
背景 散在する商品情報をAI時代の基盤へ LIXILが挑む共通検索基盤とコンテキスト整備

膨大な数の商品やサービスを提供する企業にとって、検索システムは単に“探すためのツール”ではなく、顧客体験(CX)の向上とビジネスの成否に直結する最重要のコアインフラと位置づけられる。そこでLIXILは、社内に散在する商品情報と複数の検索サイトを一元化する共通検索基盤を構築。その検索・分析エンジンにElasticsearchを選定し、AI時代を見据えたコンテキストエンジニアリングへの第一歩を踏み出した。

外部ユーザーも利用する
商品情報検索に課題が

変化の激しい時代を生き抜き、顧客に選ばれる企業になるためには、継続的なビジネス変革が不可欠だ。大手の住宅設備・建材メーカー LIXILも、最先端のテクノロジーを駆使したDX/AXに取り組んでいる。その一環として行われたのが、社内に散在する商品情報と検索システムをAI時代の基盤へと刷新するプロジェクトである。

同社は旧5社(トステム、INAX、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリア)が統合してできた企業であるため、サッシやドア・門扉、キッチン、浴室、トイレなど、商品数や部品数が非常に膨大だ。それらの商品情報や図面データ、取付説明書、FAQなどのデータベースや検索システムも旧5社ごとに分かれており、以前から「どこに情報があるのか分かりにくい」「検索しづらい」という課題があった。

「販売店や工務店といったビルダー様や流通パートナー様、社内問い合わせ部門などのプロユーザー向けには、『金属商品情報検索』と『SAGAS(サガス)』という2つの仕組みを提供していましたが、システムの使い分けが難しい、検索しても情報がなかなかヒットしないという課題が挙がっていました」と、LIXILの森田 祐輔氏は振り返る。

森田 祐輔氏

株式会社LIXIL
CX部門
商品コンテンツマネジメント統括部
商品情報管理部
プロジェクト推進グループ
リーダー
森田 祐輔 氏

使い勝手の実態を確かめるためプロユーザーへのヒアリングを行った同グループの福田 悟氏も、「ビルダー様や流通パートナー様は日々の業務で忙しい中、商品検索が難しく施主様などへの回答に時間がかかる、キーワードだけでなく発注で使うコード体系からも情報を検索できないか、といった声が多く寄せられました」と説明する。

福田 悟氏

株式会社LIXIL
CX部門
商品コンテンツマネジメント統括部
商品情報管理部
福田 悟 氏

そこで二人が所属するCX部門は2024年9月、老朽化した2つの検索システムのリプレースを契機に、検索性とCX向上に向けたシステム刷新プロジェクトを始動。メンバーたちが描く構想が技術的に実現可能かどうかのPoCを実施した。その過程で新たなテーマとして浮上してきたのが「共通検索基盤の再構築」だった。

新システムはフロントエンドと
バックエンドを完全に分離

「まず検討したのが、誰でもストレスなく情報を探し出せるUI(ユーザーインタフェース)の向上でした。従来の仕組みは、業界の専門用語を理解しているベテラン向けの仕様で、ある程度の知見や経験がないと情報が絞り込めない。活用するには“コツ”が必要でした。これが検索のハードルを高め、利便性を大きく損なっていたのです」(福田氏)

そこで新システムでは初心者やライトユーザーでも簡単に使えるように、これまでのキーワード一致検索に加えて、あいまい検索や自然文にも対応できることが要件に挙げられた。また、複数の検索システムを行き来しないで済むように、情報タブを切り替えて手戻りなく調査できるようにすることや、商品・部品のコード情報を加えることも盛り込まれた。

その構想を実現するために選択したのが、フロントエンドとバックエンドの完全分離という設計思想だ。従来のシステムのように画面とデータベースを密結合させるのではなく、バックエンドを独立・汎用化させた「共通検索基盤」として構築。社内に散在するデータを一元的に集約・整備し、APIを通じて柔軟に活用できる環境を目指したという。

「単に特定の検索サイトを刷新するのではなく、データそのものを一元化して社内のあらゆるシステムや将来のAIから再利用できる基盤にすることが本来の目的でした。フロントとバックエンドを分離して共通検索基盤化することで、異なるデータベースの仮想的な統合やデータ更新・運用の効率化を実現できると考えました」(森田氏)

PoCフェーズからコンサルティングや開発の部分を担ったギルドワークスの金 翔海氏は「この時点でLIXIL様が共通検索基盤を将来的なAI基盤として構想していた」と述懐する。

「当社は LIXIL 様のPoCに、AI基盤の検証、およびその後の開発を見据えた役割で参加しました。プロジェクトチームの会議では、早い段階からバックエンドの共通検索基盤にデータパイプラインを作り、社内のあらゆるシステムで使えるAI-Readyの環境にしたいという構想が出ていました。非常に先見の明があることに感心したことを覚えています」(金氏)

金 翔海氏

ギルドワークス株式会社 
代表取締役社長
金 翔海 氏

その流れの中でギルドワークスは AI-Ready な共通検索基盤の設計・選定・開発の面で協力することになった。

福田氏は「以前、別のシステムでギルドワークス様と一緒にお仕事させていただいたことがあり、その開発力や企画力、提案力が非常に優れていると実感していました。そこで今回も、新たなシステム要件を実現するためのご協力をお願いしました」と語る。

AI-Readyなデータパイプラインを
整備したい

LIXILとギルドワークスは共通検索基盤の設計にあたり、将来的な拡張性も重視した。

「まずは金属商品情報検索とSAGASの対象だったデータおよびコード体系をAI-Readyなデータパイプラインに格納することが必要でした。そして今後さらに対象を広げていくため、データの収集層、前処理用に溜めておく層、供給層の三層に分けることにしました」(金氏)。

その理由は、今回リプレース対象になっていない他のシステムそれぞれにデータ統合の改修を行うのが難しいため、システム間連携によってデータを吸い上げ、検索データベースに溜める仕組みが必要とされたからだ。これなら今後どれだけデータパイプラインを使う関連システムが増えても容易にデータ連携することができる。また、将来的にAI技術がさらに進展しても、溜めておく構造を採用すれば活用形態を柔軟に変えることができる。

こうした観点から、LIXILは進化し続けるアーキテクチャを基盤設計に採用したのである。

「今まで対象外だったデータも取り込む形となるため、元データや他のシステムを管理している部署との事前調整にかなりの労力がかかりました。特にデータ活用で最も手間のかかるデータベースの維持メンテナンスをどうするかが大きな課題でしたが、新システムでは、我々の方で日々更新される各種データベースから差分をきちんとアップデートし、常に鮮度の高い正しい情報を提供すること。検索エンジンも、より使い勝手のいいものを用意することを説明し、同意を得られた経緯があります」と福田氏は話す。

検索エンジンに
Elasticsearchを選定

もう1つ、重要なポイントとなったのが検索エンジンの選定である。AI-Readyな共通検索基盤として、将来的な全社活用を想定すると、検索品質の精度はもちろんのこと、拡張性や柔軟性、運用、コストといった観点でも評価する必要がある。

そして複数挙げられた候補の中から総合評価で選ばれたのが、分散型の検索・分析エンジン Elasticsearchだった。その理由を金氏は次のように説明する。

「LIXIL様が想定している検索ユースケースとして、キーワード一致検索やセマンティック検索それぞれのパターンを徹底的に試してみたところ、Elasticsearchが精度やパフォーマンス、コストなども含めて高いポイントを獲得しました。また、Elasticsearchは独自のベクトル検索も行えますし、検索ロジックやデータ構造なども柔軟にカスタマイズできるので、ベンダーロックインの心配なく継続的にブラッシュアップしていける。これがデータパイプラインの進化を目指すLIXIL様のニーズにも合致しました」(金氏)

Elasticsearch は、従来のキーワード検索と AI によるセマンティック検索を組み合わせた「ハイブリッド検索」を統一的な仕組みで高速に実行できる特長を持っている。キーワードの完全一致だけでなく、言葉の裏にある意味や検索意図、コンテキストを解釈して関連情報を探し出し、正確な検索結果を提供する。検索の挙動をユースケースに合わせて徹底的にチューニングできる柔軟なカスタマイズ性も備えており、導入企業がコア機能をフレキシブルに拡張することが可能だ。

検索性の検証にはプロジェクトチームに加えて実際のユーザーも参加。あらゆる側面からテストが行われた。森田氏もライトユーザーの立場で検証を行い、Elasticsearchに大きな手応えを感じたという。

「プロユーザーの検証結果と、我々ライトユーザーの反応は当初かなり異なりました。ベテランが検索できるのは当たり前ですが、私が試してみた際には同じ情報に行き着くことができなかったことも踏まえ、ギルドワークス様と相談しながら初心者のペルソナを設定し、誰でも簡単に検索できるモデルを納得いくまで追求しました」(森田氏)

2026年5月、新検索システム「キンケン」が予定通りにカットオーバー。まずは社内ユーザーから試行して、翌6月からは社外の顧客にも公開された(図1)。

図1 新システム「キンケン」と「共通検索基盤」の全体像

図1 新システム「キンケン」と「共通検索基盤」の全体像

LIXILが新しく構築した検索システムは、フロントエンドとバックエンドを完全に分離し、バックエンドを汎用的な共通検索基盤として活用する。既存のデータベース等からデータ連携によって必要な情報を取り込み、Elasticsearchの検索エンジンでキーワード検索とセマンティック検索を組み合わせたハイブリッド検索を高速に実行する

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検索精度とスピードで
ユーザーのCX向上を実現

「情報が一元化され、1つの仕組みで探せるようになった利便性、情報探索の精度とスピードの向上で、お客様からは評価をいただいています。社内ユーザーからも、検索性の部分では、旧システムからの移行で、まだ慣れていない部分もありますが、言葉の揺らぎや文脈を理解してくれるベクトル検索のおかげで、0件ヒットがなくなり、探せるようになったという実感があります」(福田氏)

森田氏は共通検索基盤を構築したことで2つのビジネスメリットが生まれたと話す。

「1つがメンテナンス工数の削減です。データベースの維持・運用に関わる手間を削減し、コスト最適化を進められる基盤が整いました。もう1つは常に最新の正しい情報を供給できる環境ができたことで、複数あった検索エンジンの仕組みや利用環境による検索結果の揺らぎを防ぎ、ユーザーのCX向上につながる土台を構築できたことです」(森田氏)

その一方、「AI活用はようやくスタートラインに立った状態」だと考えているという。「検索基盤そのものは整いましたが、AI活用という観点ではまだ準備を進めている段階です。AIが適切な回答を返すためには、単にデータを蓄積するだけでなく、それぞれのデータ同士を結び付け、意味付けしながら活用できる状態にしていく必要があります」(森田氏)

そのためには、AIがデータを理解しやすい環境を整備し、文脈に沿って必要な情報を取り出せる状態へと進化させていく必要がある。

「現状は既存データをそのまま活用しているため、過去のQAデータをはじめ、クレンジングが不十分な情報が残っています。また、カタログPDFや図面、取付説明書といった非構造化データが中心で、AI用のメタデータや各データをつなぐキーが不足していることも大きな課題です。今回は金属商品情報検索のリプレースだったため、キッチン、浴室、トイレといった水まわり商品の情報もまだ入っていません。これらの課題を着実にクリアしながら、AIが学習・検索しやすいデータ環境を整備し、真のAI活用へと発展させることが次なる目標です」と森田氏は先を見据える(図2)。

図2 共通検索基盤の現状の課題

図2 共通検索基盤の現状の課題

現状の共通検索基盤は既存データをそのまま活用しているため、クレンジングが不十分な情報や非構造化データが中心となっている。AI用のメタデータや各データをつなぐキーが不足し、水まわり商品の情報も未格納なため、AI活用が発展途上の環境となっている

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今後、共通検索基盤をAI-Readyな環境へ鍛え上げていく中で、AIチャットボットやAIエージェントと連携する将来構想も見えてくる。長年にわたって蓄積してきた豊富な現場知や暗黙知を業務変革や顧客サービスに生かす道も近づいていく。

社内に散在する膨大な情報を単に検索可能にするだけでなく、AIが理解しやすい文脈として整理し活用できる状態へと進化させる。LIXILの取り組みは、コンテキストエンジニアリング実践に向けた大きな一歩といえるだろう。

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Elasticsearch株式会社
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