燈(あかり)
「AIが現場に入る」時代の到来―― インフラの維持管理を人とAIの協働で変える
東京大学発のAIスタートアップ、燈(あかり)は、AIを中心とする最先端テクノロジーで建設や製造など日本の基幹産業のDXを推進している。「下水道展'26」スペシャルセミナー登壇を前に、取締役COO、石川斉彬氏にAI活用の展望を聞いた。
AI活用―― 建設・インフラ分野ならではの難しさ
高度経済成長期に整備された社会インフラは、耐用年数を一斉に迎える時期にある。維持管理の必要性が急速に高まる一方、少子高齢化で担い手は減り続け、人口減少で利用料収入も予算も縮小するという構造的なギャップが存在する。これを解消する手段として石川氏が中心に置くのがAI活用だ。
燈株式会社
Co-Founder 取締役COO
石川斉彬氏
profile
東京大学法学部卒。大学在学中にベンチャー企業4社にて経験を積み、2021年に燈株式会社を共同創業。その後、AI SaaS事業の立ち上げを行い、業界特化型のAI SaaS プロダクトを複数リリースし、部長としてグロースを主導。2025年に取締役COOに就任し、全社の事業を統括。
「AIを使って作業を効率化し、属人化を防いで標準化することが不可欠です。人間とAIが共存し、役割を分担しながら維持管理を行う仕組みをつくらなければなりません」
建設・インフラ分野のAI活用には固有の難しさがある。一つ目は「一品生産」の問題。同じ道路、同じ下水道施設でもまったく同じものは存在せず、量産される工業製品などとは前提が異なる。二つ目は現場の流動性。施工状況によって、日々進捗が変わる。三つ目が暗黙知の問題だ。「ベテランの方しか知らない、データ化されていない知見が非常に多く存在します。それをいかにAIに学習させ、後世に受け継ぐかが他業界に比べて難しいところです」。
AIに学習させるデータ自体が整備されていないという根本問題もある。「紙の図面、手書きの台帳、職人の動作――これらはデジタルデータとして存在しないことがほとんどです」。
燈が独自に取り組むのが、この「データを作る」工程へのAI活用だ。図面から部材情報を抽出する専用AI、現場を点群データで3D化する技術、職人の手の動きを言語化するAIなどを開発し、「AIが学習するためのデータをAIでつくる」という発想で、この難題に取り組む。
現場からの二つの実績―― インフロニアとショーボンド建設
インフラの維持管理に関連して、石川氏が今回のセミナーで紹介予定の事例が二つある。
一つ目は、インフロニア・ホールディングスとの共同開発による道路空間の異常検知システムだ。車両に取り付けたスマートフォンのカメラ映像をAIがリアルタイム解析し、ひび割れなどの異常を自動検知してメンテナンス箇所を抽出する。人が目視で行っていた点検の一部をAIが担い、効率化と見落とし防止を両立させる。
二つ目はショーボンド建設との取り組みだ。同社が保有する数百万点の過去資料を学習させ、現場担当者が必要な情報をすぐ引き出せるAIを開発。熟練者が退職しても組織の知恵が失われない仕組みを実現した。燈はさらに、インフラ・水道を含む建設業関連に特化した生成AIエージェント「光/Hikari」を月額制で提供している。汎用生成AIとの違いは、日本の建設関連の法令や知識があらかじめ組み込まれている点と、各社の社内書類を登録して企業固有のナレッジとして活用できる点だ。
フィジカルAIが変える「現場」の未来
建設DXの議論でよく聞くのが「DXの“D”はやっているが、“X”はやっていない」という話だ。デジタル化ばかりに目が向き、業務フローそのものが変わっていない。
「今の業務フローを変えないまま省力化しようとしても、本質的な解決にはなりません。業務フローの再構築からAI活用を考える必要があります」。燈はシステム開発だけでなく、戦略検討・要件定義の段階から顧客とともに業務フローの見直しを提案することを強みとする。
石川氏が描く将来のインフラ維持管理の姿は「人間とAIの役割分担」だ。
「AIが現状をリアルタイムで把握し、異常が起きやすい箇所の予測や検知を行って人間に情報を送る。人間がそれを判断し、修繕作業に落とし込む。AIが情報を集約して提案し、人間が判断して動く、という関係が広がるとよいと思います」
さらにその先にあるのが「フィジカルAI」だ。文章作成や判断支援に特化したこれまでのAIと異なり、身体を持ち、現場の空間をリアルタイムに認識しながら自律的に動く。犬型ロボット、ドローン、水中ロボットが危険なエリアや管路内に入り、異常を検知して報告する世界だ。
「人口減少が進む日本において、フィジカルAIは大きな救世主になり得ると考えています」と石川氏は言う。「もう待ったなしです。そんなに遠くない将来に実現していきたい」――その言葉が、8月のセミナーで語られる内容を予感させる。





