インフロニア・ホールディングス
ヒト・モノ・カネ―――、維持管理の課題をコンセッションで救う
8月に開催される「下水道展'26」のスペシャルセミナーに登壇するインフロニア・ホールディングスの大塚淳氏に、現状の課題認識と、同社が取り組むソリューションの核心を聞いた。
「三重苦」が加速する上下水道の現場
大塚氏は現状の課題を「ヒト・モノ・カネの三重苦」と表現する。まずはヒトの問題。ただでさえ高齢化が進んでいる中で行政改革による人員削減に加え、官民の給与格差による民間転職が相次ぎ、自治体の技術系人材が急速に流出している。
インフロニア・ホールディングス株式会社 執行役付(総合インフラサービス担当) 兼 水ing株式会社 代表取締役副社長
大塚淳氏
profile
PwCアドバイザリーを経て、2019年に前田建設に入社。2021年にインフロニア・ホールディングスの総合インフラサービス戦略部長、2026年7月には水ingがインフロニアグループに加わったことに伴い、現職に就任。前職ではインフラ部門のディレクターとして下水道の官民連携やインフラ輸出のアドバイザーとして従事。これまで東京都、大阪市、横浜市など大都市の上下水道戦略策定にPMとして従事した。現在は、ウォーターPPPや水インフラ関連のオペレーション全般を所掌。
モノの問題とは、老朽化全般であるが特に管路が顕著だ。例えば埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故、和歌山県の水管橋崩落、京都市の大規模漏水——いずれも管路の劣化が引き金となった。上下水道資産の大部分を管路が占めるとされるが、この分野の対策が遅れていたという現実がある。
そして、カネの問題。人口減少による使用料収入の減少で、本来使用料で賄うべき維持管理費が一般会計(税金)に食い込む自治体が増えている。「採算割れしている事業は相当数あり、その状況はむしろ拡大しています」(大塚氏)。
さらに気候変動も状況を悪化させる。「時間50mm以上の降雨が頻発し、下水道の設計能力を超えるケースが増えています」。カーボンニュートラルへの対応、サイバーセキュリティ強化も求められ、課題は複合的に絡み合っている。
コンセッションという「正のサイクル」
同社が解決策の柱に据えるのが、コンセッション方式による官民連携(PPP)だ。
1999年のPFI法施行以来、インフロニア・ホールディングスの主要事業会社の一つである前田建設では仙台空港、愛知県有料道路、大阪市工業用水など数多くのインフラ運営案件を手がけてきた。上下水道分野では神奈川県三浦市の下水道コンセッション(代表企業は前田建設)、愛知県豊橋市の浄水場(代表企業はインフロニア・ホールディングス)が代表例で、管路を含む包括的なコンセッションとしては三浦市が全国でも希少な先進事例だという。
なぜ管路にこだわるのか。「管路を含まないと本当のインフラ事業にならない」と大塚氏は断言する。問題の多くが管路に集中しているにもかかわらず、維持管理と計画策定が分離されているために情報が共有されず、対策が後手に回るという構造的な問題が従来の公営運営にはあった。
「コンセッションによって維持管理から改築計画、発注まで一連で担い、さらに収支にも責任を持つことで、好循環が生まれやすくなります」
三浦市のコンセッション事業では、設備の不具合をパーツ単位まで分析し、設備全体の更新ではなく特定部品の交換で対応することで、数億円規模の更新費用を大幅に抑制しているという。夜間の現場人員は遠隔監視システムにより削減し、処理場の曝気(ばっき)など運転管理にはデータ駆動型の運転支援システムを導入。電力費・薬品費の削減と、熟練度によらない安定運転を両立させている。8月のセミナーでは、その内容をより詳細に語る予定だ。
DXが切り拓く「ノーエントリー」の未来
現在の取り組みにとどまらず、大塚氏が注力する技術開発が、管路点検の抜本的な変革だ。
同社では、自治体に膨大に蓄積された紙の図面や維持管理日誌をOCRで読み取り、AIで相互にひも付けるシステムを開発。設備の不具合が発生した際に関連図面を即座に検索できるようになり、業務効率が大きく向上した。
空洞調査でも、同社では下水管の内部から上方向にレーダーを照射し、道路側からのレーダーと合わせて最大6m先まで探知する手法を開発。八潮のような陥没事故の予測を目指し、熊本市での実証も経ている。
さらに硫化水素による劣化予測システムの開発も進める。管内の腐食がどこで深刻化するかを事前に予測できれば、優先的な更生工事や中和対策につなげられる。アメリカにすでに関連アルゴリズムが存在するが、日米の環境の違いに対応するローカライズを進めているところだという。
目指す先は「ノーエントリー」——人が管路内に入ることなく点検が完結する世界だ。「自走式ドローンによる点検を正式な調査手法として認めてもらえるよう、制度を変えていくことも重要です」と大塚氏は言う。技術開発と制度整備の両輪がそろって初めて実現できる未来像だ。
「データがそろえば可視化が進み、人口が極めて少ない地域の下水道にどの程度のコストをかけるべきかという判断もできるようになる。住民に料金値上げを受け入れてもらうか、サービス水準を調整するか——そういった対話が今後ますます求められます」と大塚氏。
インフラを「維持する」だけでなく、社会全体でどう「選択していくか」という問いが生まれつつある。セミナーでもその認識の共有を訴えるつもりだという。





