博報堂DYホールディングス
悩み相談から家事までAIが寄り添う
道具から「共創相手」へ、
人間中心のAIが開く新市場の定義
日本企業のAI活用を活性化させるべく、2026年3月3日から4日にかけて開催された「AIリーダーズ会議2026 Spring」。その分科会の一つとして、博報堂DYグループによるセッションが行われた。今回、同社が掲げたキーワードは、「生活者視点」と「フィジカルAI」だ。生成AIの利用が生活者のプライベートで拡大する中で、人の生活を変えるレベルに到達したフィジカルAIの最新動向を共有。参加した15社の各メンバーも、生活者や企業人の立場から今後を見据えた活発な議論を交わした。
AIを相談相手とする日常
生活者がAIに求める「心の充足」
2025年9月に実施した「AIと暮らす未来の生活調査2025」では、生成AIの国内利用者が30%強に達している。注目すべきは、ビジネス利用(約15%)に対し、プライベート利用(約30%)が約2倍に達している点だ。博報堂DYグループの森氏は、AI社会でのマーケティング戦略において「生活者視点」が不可欠な理由から切り出した。
利用者のAIに対する態度は、極めて冷静だ。AIの回答にはハルシネーション(誤情報)が含まれることを前提に、利用者の約48%が「他情報で補完する必要はある」と考えている。一方で、10代から30代の若年層を中心に、約55%がAI情報を信頼している。
現在、購買活動におけるAI活用は、「気になる商品の調査・比較」が主な用途で、「商品・サ-ビスの購入」はまだそれほど多くない。さらに、AIに任せず人がやるべき仕事としてトップに挙げられた項目が「日々の買い物」だった。森氏は、効率やタイパ(タイムパフォーマンス)以上に「自分の世界観や感情を大切にしたい」という生活者心理の表れだと分析する。
今回の調査で浮き彫りになったのは、生成AIを相談相手とする生活者の日常だ。「人には言えない内容を相談した」「ストレス解消になる」「安心感を得られる」といった回答が多く、AIの対応は肯定的に受け止められている。
「AIと気持ちで常につながっているという意味で、単なる道具を超えた『AIをまとった新しい生活者』の姿が浮かび上がっています」(森氏)。その反面で、「自分で考えることや、人に相談することが減った」という不安な回答も増えている。
生活者の生成AI利用動機。効率化以上に「相談相手」としての需要が高く、特にプライベートでは心理的負担の少なさから、感情を共有するパートナーとしての役割が顕著だ
生活を変えるフィジカルAIの実装
人間中心のテクノロジー論
AIと寄り添う生活者の増加と歩調を合わせるように、2026年1月に米国で開催された革新的技術の展示会「CES2026」では、生活者を支援する「フィジカルAI」の最新技術が披露された。CESを視察した博報堂の山本氏は、「昨年のAIロボットはかわいらしいペットのような打ち出し方だったが、今回は生活者の悩みを解決し、生活を変える実装の姿が見えてきた」と語る。
象徴的だったのは、韓国のLGエレクトロニクスが出展したホームロボット「LG CLOiD」だ。「目」で見て家族の生活を深く理解し、人が指示する前に先回りして家事を代行する。「自ら冷蔵庫を開けて牛乳をつかめるまで進化しました」(山本氏)
ヘルスケア分野では、健康維持から一歩進んだ「ロンジビティ(長寿)」への寄与が鮮明になった。フランスのWithings(ウィジングス)は細胞活性度まで測定可能な体組成計を、カナダのSKIINは心電図モニタリングを行い、長寿に有効なアドバイスをする下着を出展した。また、人間の認知能力を物理的に拡張する技術も進む。中国のRokidのAIスマートグラスや、中国のレノボ傘下の米モトローラが開発した、見聞きした全てを記録する小型デバイスのコンセプトモデルも登場した。
今回のCESで特筆すべきは、AIによる「代行」だけでなく「人間中心」の支援への昇華だ。ドイツのボッシュが出展したAIキッチンは、最適な調理方法をAIが教えてくれ調理の温度管理までしてくれるが、料理の主体となるのはあくまで人間である。レゴグループが約50年ぶりの大きなイノベーションと位置付けるレゴ®スマートブロックも、画面に没頭し過ぎる子どもたちの主体性を取り戻すための挑戦だ。「物理空間でデジタルを取り入れた遊びを実現し、子どもの創造性を引き出す。AIは人の主体性を奪うのではなく、自信や誇りを拡張する存在へと変容しています」(山本氏)
「人間中心のAI」の概念図。単なる効率化の道具を超え、生活者の主体性や創造性を拡張し、共に価値を創る共創パートナーへの変容を示す
当日参加された方からも活発な意見が交わされた。一部コメント抜粋(以下、あいうえお順)

Artificial Life Institute
代表理事
岡 瑞起氏
人工生命分野のAI研究者を育成しています。今は人材を確保できるが、AIにより障壁がなくなると、海外より給料の安い日本に研究者が残らなくなることが心配です。

塩野義製薬
理事 データサイエンス部長
北西 由武氏
社内のデータ活用は生成AIの導入で効率化が進んだが、生産性が上がり過ぎて社員が疲弊してきた面もある。社員の貢献度を高めつつも、疲弊し過ぎないための施策も必要です。

シンシアリー
代表取締役CEO
國本 知里氏
AIを活用して企業を変える人材の育成を支援しているが、日本ではAIありきで考える傾向が強く、生活者視点が不足している。多様な生活者を想定できる組織への変革が必要です。

日本調剤
執行役員 システム本部長 DX戦略室部長
栗原 邦彦氏
薬局の店舗ではシニアの方もマイナンバーカードを使うが、最初は店員がサポートして、2回目から普通に使える方が多い。AIも人がサポートすればスッと受け入れられると思う。

サッポロホールディングス
DX企画部 部長
桑原 敏輝氏
AI導入は組織を再定義します。営業の運転分析で得た「人間理解」を総務がマーケティングで生かす。AIが部署の壁を払い、個の能力を横断的に生かす越境が組織を活性化させます。

三井倉庫ホールディングス
上級執行役員 情報システム担当
佐野 直人氏
生活者としてスマホでAIを活用していても、業務での活用範囲が限定的な社員も一部います。新たな価値を創出していくためには、生活者視点を仕事と結びつける発想が必要です。

SUBARU
執行役員 CIO(最高情報責任者)IT戦略本部長
辻 裕里氏
フィジカルAIの検討は進めているが、どんなに作業を覚えさせても基本動作も難しく人を代替するには時間がかかる。AIを活用した全社生産性向上活動を加速しています。

Tokyo Techies
代表取締役CEO
Duc DoBa氏
AIには初心者の気持ちで向き合い、顧客と学び即実行します。家庭でも音声AIで家族が「AI生活者」となり、AIは日常や家族関係さえ変えうる存在だと確信しています。

東京音楽大学理事
キャリアコンサルタント
延友 陽子氏
私も生成AIに人生相談をし、頭の整理に役立っています。AIは自我がなく、自分と合わせ鏡なので自分に相談する感覚。別の視点が欲しい時は、AIを偉人に設定して尋ねます。

帝人
帝人グループ執行役員 デジタル・情報システム管掌
舩生 幸宏氏
当社では、現在は業務効率を上げる目的でのAI導入が中心。問い合わせ業務や会議設定などの定型業務にAIを活用して自動化し、社員はなるべく付加価値業務にかける時間を増やす生産性向上活動を進めています。

エムニ
マーケティングエンジニア
門前 一馬氏
私自身、AIエージェントに人格のようなものを育てながら活用しています。子どもたちが大人になる頃には、AIやアンドロイドと協働することが、日常の一部になっていると感じています。

Gakken
執行役員
山上 亜紀氏
社内DXの試行としてAIで動画から議事録を作成中。ただ本質を掴む要約力など議事録作成で育つスキルもあり、AI化で失われる訓練機会の代替を考える必要があります。

パーソルクロステクノロジー
テクノロジー戦略統括本部 グループソリューション統括本部 執行役員統括本部長
山川 飛鳥氏
生活者として、父が亡くなる前の入院時には容体急変への不安を常に抱え、寝泊まりしていた。AIの見守り代行は患者と家族の負担軽減につながるものと考えており、早期の実現に期待している。

三井物産
コーポレートディベロップメント本部 参与 デジタル金融チームリーダー
和歌 伸介氏
デジタル金融を担う組織で、社内外技術人材も招集し、AI新事業開発や究極的な業務効率化を目指す。AI活用では常に新しいものに食らいつく気構えが大事だと思います。

博報堂DYホールディングス
執行役員CAIO Human-Centered AI Institute代表
森 正弥氏
AIになくて人間に備わるのは「視点」です。個別の事情をAIに与え共創する。AIをまとった生活者が、新たな社会を築いていく未来が訪れると考えています。

博報堂
メディア環境研究所所長
山本 泰士氏
AIの実装で時間が生まれる時代、問われるのは「生きる喜び」です。効率化の先で主体性を拡張し、AIが人の誇りや挑戦を後押しする存在になると強く確信しています。
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