
IOWN時代に求められる、ローカルAI連携型の研究・開発システム基盤とは。
高速・低遅延のネットワークによって、コンピューティングの世界は大きく変わろうとしている。IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)がもたらすのは、単なる通信速度の向上にとどまらない。クラウド上の巨大なAI基盤と、デバイスに実装されるエッジAIがシームレスにつながり、「集中」と「分散」の意味そのものが変わっていく。そのときに、企業やアカデミアの研究開発はどう変わるのか。AI研究の第一人者である栗原聡氏と、日経BP総合研究所の林哲史氏が、IOWN時代のAIコンピューティング、イノベーションを生み出す研究・開発環境について語り合った。
- 慶応義塾大学 理工学部 教授栗原 聡 氏
- 日経BP総合研究所 フェロー林 哲史 氏
IOWNが変える「集中」と「分散」

- 林氏:
- IOWNが普及し、非常に高速で低遅延なネットワークが世界中に張り巡らされるようになると、企業のAIインフラや世界観はどのように変化するのか。
- 栗原氏:
- 多くの人はエッジコンピューティングや分散コンピューティングの話に行きがちだが、実は本質はそこではない。IOWNによるGPU over APNや分散データセンターの狙いは、単なる負荷分散ではなく、大きく2つのことが考えられるひとつは中央集権型ネットワークが本質的な威力を発揮するようになること。もうひとつはエッジの役割が大きく変わるということだ。
- 栗原氏:
- 中央集権型ネットワークは、中央に超強力な計算資源を置いて、すべてのデータを中央で処理するという発想で圧倒的に効率がいいが、データを転送する際のネットワーク遅延があるために、エッジを置いて分散・協調させる必要性があった。IOWNによって遅延が消滅するなら、中央集権型ネットワークが真に機能する環境が整う。つまり、これまでの非効率的だった分散型ネットワークから脱出できるということを意味するはずだ。
- 林氏:
- ということは、エッジが不要になるということか。
- 栗原氏:
- エッジが不要になるのではなく、分散環境が何のためにあるかということが、もっと明確になっていくのではないか。中央集権とエッジの対比は、都市と地方のアナロジーで捉えるとわかりやすい。都市と地方には物理的な距離の壁がある。仮にこれが消滅したら、地方ならではのモノ、地方でしかなし得なかったコトの価値が上がる。同様に、ネットワークが極限まで高速・低遅延化、いわば透明化することで、エッジにしかできないことの価値が上がっていく。
IOWNによって遅延がなくなるということは、エッジから中央の巨大な計算資源をシームレスに活用できるようになる。つまり1人1人が超弩級のAIを持っているというような環境が実現するだろう。
「1人1AI」が研究開発環境を革新する

- 林氏:
- AIが普及したことで、確実にユーザーをエンパワーする環境が成立している。それは栗原先生のような研究者にとって、どんな変化をもたらすのか。
- 栗原氏:
- AIのおかげで我々の研究スピードは格段に上がっている。以前は海外のビッグテックが潤沢な計算資源と人的リソースを擁しており、圧倒的なスピード格差があった。しかし、今はAIを活用することで、少なくともスピードという点においてはその格差をカバーできるようになっている。
現に私の研究室では、学生たちがAIエージェントにタスク管理をさせ、AIとディスカッションしながら、わずか1週間で複数のプログラ厶開発を回すという、これまでは不可能だった生産性を発揮している。
- 林氏:
- AIや高性能なPCといったITリソースへの投資が、これからの競争力強化に直結することは明らかだが、一方で、AIを使いこなす上での注意点や、人間の役割はどのように変わるのか。
- 栗原氏:
- 私たち研究者は、なにかしら自分のやりたいことをテーマに研究を進めるという意味で、よく『野望』という言葉を使う。それを目指すためのツールとしてAIは非常に強力だ。ところがある研究によると、AIを使うことで、研究のレベルや論文の完成度は上がるが、テーマが似たりよったりになるという結果が出ている。研究において最も重要なのは、他者と異なる独自の「棘」、つまり独創性だが、AIの圧倒的な知識量に人間が説得されてしまうと、その「棘」が丸められてしまう。秀才にはなれるが、天才にはなれない、これをどう回避するかが重要だ。
AI時代に問われる「人間」と「基盤」

- 林氏:
- では、AIによって手に入れた圧倒的なパフォーマンスや、それによって生み出された時間を、私たちは具体的にどのように使っていくべきなのか。
- 栗原氏:
- 残念ながら、日本人は効率化ということにAIを使いたがる傾向があるのではないか。効率化を否定するわけではなく、効率化によってこれだけ時間が空いたという話はよく聞くし、その時間でイノベーションを起こすという話も聞くが、具体的な話はほとんど聞いたことがない。確かに効率化は効果が見えやすく、KPIも明確だが、それはあくまでお金を節約しているだけで、お金を生んでいるわけではないという事実を忘れてはならない。
- 栗原氏:
- 本当に新しいこと、イノベーションを起こすために必要なのは、効率化によって空いた時間を、いかに失敗やトライ&エラーに使えるか。ある意味、贅沢な時間の使い方になるが、日本人はどうもそれが苦手なようだ。そうした無駄をどれだけ許容できるかがポイントであり、また、許容できる度量を持つ企業が新しいものを生み出していくのだと思う。
- 林氏:
- そのような自由な挑戦を支えるためには、安心・安全で強固な「基盤」が不可欠だ。
- 栗原氏:
- ネットワークが超高速化するほど、サイバー攻撃やデマの拡散、あるいは悪意のない「善意の暴走」が、一瞬にして社会全体をひっくり返すリスクが生じる。さらに恐ろしいのは、人間の脳の一つひとつの脳神経細胞の連携が知能を生み出すように、1億個規模のAIが超高速で連携し始めたときに、個々のAIや人間には理解・制御できないものが創発する可能性だ。私はそれが「超知能」と考えているが、それが暴走したときに何が起こるのか、まだ誰にもわからない。「エマージェンシースイッチ」のように、異常を検知したら物理的にネットワークを断ち切る、ハードウエアレベルの対策を用意しておくべきなのかもしれない。
人とAIの距離を透明化するIT基盤とは

- 林氏:
- これからのAI PCやAIワークステーションといったIT基盤は、どのように変わっていくのか。
- 栗原氏:
- IOWN 2.0/3.0の光電融合が実現し、中央とエッジがシームレスに直結したら、手元のデバイスの主要な役割は、センシングとインターフェイスになるはずだ。巨大な計算資源の、超高速ネットワークのエンドポイントとしての役割はそのまま、ユーザーが何を見て、聞いて、どう行動したかというデータをセンシングする役割だ。パーソナルなデータは常に人に寄り添うエッジデバイスにしか捉えられない。その点こそがエッジの価値が上がる部分だと考えている。
- 林氏:
- そうしてパーソナルなデータが蓄積されることによって、AIが状況を察して、先回りして人間を支援する「執事」のようになっていく可能性もある。
- 栗原氏:
- 今のAIは人間が最初の入力をしないと動かないが、自分で考えて自律的に動く、その段階へのステップアップを始めているタイミングなのではないか。IOWNはその流れを加速させるポテンシャルを秘めている。
- 林氏:
- 企業視点から見て、そのように進化していくAIをどのように活用すればいいのか。
- 栗原氏:
- 今や東大入試の最高得点はAIが出している。それほど優れたものを「いい感じで使いこなせ」と部下に丸投げするのは本末転倒だし、業務効率化だけに使うのももったいない話だ。AIを使う前に、企業として何をしたいのかというビジョンを明確にすることが重要ではないか。そのために最もAIを活用すべきなのはトップだろう。トップ自らがAIと壁打ちしながら、ビジョンを磨いてはどうか。大切なのは人間の尊厳であり、誇りや働きがいを守る形でAIを導入しなければ意味はないだろう。
IOWN:NTTが開発している次世代通信基盤。光技術を応用し、現在のインターネットより高速、低遅延、省電力でのデータ処理や通信を可能にする。「Innovative Optical and Wireless Network」の略称。
コラム1:HP AI PC & AI WSの紹介エッジAIが引き出す「独自の棘」――HP AI PCとAI ワークステーション
コラム2:HP Wolf Securityの紹介デバイス単体でも堅固な守りを実現――HP Wolf Security
ネットワークが高速・低遅延になるほど、サイバー攻撃のリスクは一瞬で全体に波及する。この脅威に対し、日本HPの「HP Wolf Security」はハードウエア(シリコン)レベルからOS、アプリまで多層的な防御を提供する。「HP Sure Start」はOS起動前から実行中まで継続的にBIOS/UEFIファームウエアの完全性を監視し、改ざん検知時には自動修復を実行。アプリケーションとして提供される「HP Sure Click Enterprise」は、Web閲覧や添付ファイルの開封をCPU強制の隔離された「マイクロ仮想マシン」内で実行。ウィンドウを閉じれば脅威ごと完全に消去し、「エマージェンシースイッチ」のように脅威を物理的・ハードウエアレベルで自律的に遮断してシステムを守る。さらに「HP Protect and Trace with Wolf Connect」は、PCが「電源オフ」や「ネットワーク未接続」の状態でも、リモートからPC探索やデータロック・消去が実行できる。この絶対的な安心感は、自由な挑戦を支える確かな基盤となるだろう。
コラム3:ハイブリッドAI推進コミッティ共創で拓く生成AIの価値と未来――HP ハイブリッドAI推進コミッティ
日本HPが賛同企業各社とともに設立した「HP ハイブリッドAI推進コミッティ」は、ローカルAI、AIエージェント、クラウドAIを適材適所で組み合わせた最適なAI活用を追求する共創組織。AI PCやAIワークステーションを軸に、各種AIソリューションのPoC支援やセミナー、技術アドバイザリーなどを通じて、企業や自治体における生成AIの実装と定着を支援している。単なる業務効率化だけでなく、AI活用によって創出された時間で「試行錯誤」を重ね、企業固有の独創性からイノベーションを生み出すために、多くの示唆を与えてくれるはずだ。
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