
IOWN時代におけるエンドポイント起点のセキュリティー戦略とは。
高速・低遅延ネットワーク「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」時代の幕開けは、企業の利便性を劇的に高める一方、サイバー攻撃の伝播速度も加速させるという副作用をもたらす。ネットワーク境界の実効性が薄れ、OSの下層のBIOSやファームウエアが標的となる今、IT部門への「丸投げ」のセキュリティーはもはや通用しない。では、IOWNを前提とする新たなセキュリティーとは、どのように構築していけばよいのか。サイバーセキュリティーの第一人者である名和利男氏と、日経BP総合研究所の林哲史氏が、IOWN時代に備えるための企業のセキュリティー戦略について語り合った。
- サイバーセキュリティーアドバイザー名和 利男 氏
- 日経BP総合研究所 フェロー林 哲史 氏
IOWNによってより高速化する攻撃の伝播

- 林氏:
- 高速・低遅延ネットワークIOWNの登場やAIの急速な進化によって、企業のIT環境は劇的に変わろうとしている。
- 名和氏:
- IOWNによって遅延が極小化すれば、ビジネスの可能性は大きく広がる。しかし、これまで数十年間、観察し続けてきたサイバー攻撃者たちの視点に立つと、この超高速環境は彼らにとっても好都合だ。高速・低遅延の環境では、攻撃に伴う通信や大量のデータ転送が短時間で進む可能性がある。特に、複数拠点を管理する基盤や強い権限を持つアカウントが侵害されると、被害が広範囲に及びやすい。
- 名和氏:
- 攻撃の自動化も進むなか、人間の認知と判断だけに依存せず、あらかじめ定めた条件でアクセス制限や隔離を実行できる備えが重要だ。人間が迷っている間に攻撃が完了する可能性が高まる。
- 林氏:
- 利便性は我々にも攻撃者にも同様ということか。従来のように、内部と外部の境界にファイアウォールを設置するような手法は通用しなくなるのか。
- 名和氏:
- ファイアウォールによるネットワーク層の分離は、低レベルの攻撃者の侵入を防ぎ、自社の露出面を減らす意味で有効だ。だが、リモートワークの普及や海外拠点との接続、クラウドの利用やシステム間のAPI連携などが前提となる現代では、ユーザーが意図せずに動的な境界線を無数に引くことで、固定的なファイアウォールの上に動的な境界が積み重なり、防壁をスルーする接続ルートが無数に出現している。つまり、無数の穴が閉じて開いてを繰り返しているというのが私の認識だ。
OSの下層レイヤーを狙う攻撃に「証拠ある信頼」を

- 林氏:
- 動的に変化する環境下で、デバイスが「本当に信頼できるか」をどう見極めればよいのか。
- 名和氏:
- 実務上の定跡とされるのは、すべての関係性を「5W1H(誰が、いつ、どの環境やプロセスで、どう信頼を維持しているか)」で整理すること。認証プロセスにおけるアプリケーション環境なども含め、信頼の裏付けを5W1Hで考える着眼点が必要だ。日本企業の多くは「ファイアウォールの中は安全」という無意識・無自覚な信頼に依存しがちで、私が手がけるフォレンジック調査でも、事故原因の大半がそうした思い込みによるものだ。
- 名和氏:
- 信頼に足る客観的な証拠がないまま、むやみに信頼を継続するのではなく、デバイスの状態が遷移したタイミングで一旦信頼をリセットし、継続的なモニタリングで再検証する仕組みが求められている。
- 林氏:
- 最近はBIOSやファームウエアといった、下層レイヤーへの攻撃も深刻化している。
- 名和氏:
- 攻撃者の間でも競争原理が働いており、アプリケーションやIDを狙う攻撃に加え、検知回避や侵入の永続化を目的として、BIOS/UEFIなどのファームウエアや起動過程を狙う攻撃にも注意が必要だ。こうした部分が侵害されると、OS上の対策だけでは検知や排除が難しくなり、OSを再インストールしても侵害が残る場合がある。これに対抗するには、起動時の構成要素や設定を計測し、TPMを用いて検証可能な形で記録する「メジャードブート」などが有効だ。その結果を外部の検証サービスなどで評価し、アクセスの許可や制限につなげる。ただし、起動時の検証だけで安全が保証されるわけではなく、起動後の監視やファームウエアの保護・復旧と組み合わせる必要がある。「ゼロトラスト」という言葉があるが、これをより厳密に追求する姿勢が求められるということだ。
テレメトリーによるデバイス監視の有効性

- 林氏:
- ハードウエア単体を固める重要性はよく分かった。一方で、企業内に数万台ものデバイスが存在する場合、それらの状態や信頼を把握するのは容易ではない。
- 名和氏:
- そこで重要なのがテレメトリーの活用だ。数万台のデバイスを一括管理する上では、アプリケーションの実行履歴に加え、セッションの継続時間や操作頻度なども収集し、使用された権限や操作対象、通常時の挙動との差を組み合わせて評価することで、不審な活動を見極めやすくなる。長時間の接続や高速な操作は正規の自動処理でも生じるため、それだけで不正と判断しないことが重要になる。
- 名和氏:
- そうした不審なテレメトリー情報を収集し、ダッシュボード等のGUIで一元管理、検知する仕組みが有効だ。そうした証拠は、フォレンジック調査を圧縮する有力な資料にもなる。
- 林氏:
- 収集したテレメトリーを分析して異常を検知・処理するのに、AIを活用することはできないか。
- 名和氏:
- 内部情報をAIで分析する際は、情報の機密区分とサービスのデータ取扱条件を確認し、承認された環境に限定すべきだ。必要に応じてローカルLLMも選択肢になるが、どの環境でもアクセス管理や監査の設計は欠かせない。ローカルLLMの活用も含め、どのようなデータを収集し、何をもって脅威経路や不審な挙動と定義するのかといった判断基準の設定とプロンプトの設計は、IT部門自身が頭をひねるべきだ。
- 林氏:
- Claude Mythos Previewの評価で示されたように、AIそのものが脆弱性を突いてくる攻撃のリスクも懸念される。
- 名和氏:
- AIを悪用した攻撃に対しても、設定不備の解消、不要アカウントの削除、脆弱性管理といった基本対策は重要だ。一方で、AIによる未知の脆弱性の発見・悪用や、攻撃の自動化にも備える必要がある。基本対策と継続監視に、迅速な封じ込めと復旧を組み合わせることで、リスクを低減していくことが重要だ。
インシデントを前提とした「縮退運転」の重要性

- 林氏:
- 以前から言われているが、すべての攻撃を防ぐのは不可能だ。インシデントを前提とした「サイバーレジリエンス」の観点で、企業はどう備えればいいのか。
- 名和氏:
- インシデント時には、影響を受けたシステムを隔離・停止し、安全に利用できる残存資源や代替手段で、優先度の高い業務を必要最小限の水準で継続する縮退運転が有効だ。そのために、継続可能な条件と停止すべき条件、意思決定者をあらかじめ定めておくことが重要になる。縮退運転とは、限られた残存リソースを活用してビジネスの最優先事項を死守するための仕組みを意味する。
- 名和氏:
- これまでのランサムウエア被害を教訓に、一部の企業で準備が進んでいる考え方だ。
- 林氏:
- ビジネス継続上、最低限守るべき業務だけを動かし続けるということか。だが、何が一番重要な業務やデータなのかをIT部門だけで判断するのは困難だ。
- 名和氏:
- その通りだ。どのデータやアカウントが汚染されればビジネスや顧客に致命的な影響を与えるかは、現場で顧客と対峙している事業部門やサービス部門にしか決められない。セキュリティーをIT部門に丸投げするのはやめて、各事業部門はもちろん、2026年10月1日に主要規定が施行されるサイバー対処能力強化法などについて、自社への適用を確認し、必要な対応を進める法務部門、レピュテーションリスクを防ぐ広報部門などが、経営層の指揮下で連携すべきテーマであり、IT部門には各部門に伴走しつつセキュリティー実務を主導する役割が求められる。アジア諸国を含め、海外ではそうした体制が一般的だ。
- 林氏:
- IOWNによってよりスピード感を増す脅威に立ち向かうには、経営と一体になった新たなエンドポイント戦略が必要ということか。
- 名和氏:
- IOWNにおいても、エンドポイントのデバイスで「情報が生成され、通信し、使われる」という状態遷移の隙間こそが標的になることに変わりはない。デバイスレベルでテレメトリーによるログ、客観的証拠を確実に残し、フォレンジック調査を圧縮して迅速な経営判断と復旧につなげる。それがこれからのサイバーレジリエンスの基本的なコンセプトになるだろう。
IOWN:NTTが開発している次世代通信基盤。光技術を応用し、現在のインターネットより高速、低遅延、省電力でのデータ処理や通信を可能にする。「Innovative Optical and Wireless Network」の略称。
コラム1:HP Wolf Securityの紹介デバイス単体で堅固な守りを実現――HP Wolf Security
IOWNのような超高速通信環境下では、人が認知する前に攻撃が完了する可能性が高いため、デバイス自体の自律的防御が不可欠だ。その点でOSの上・中・下のレイヤーでの多層防御を提供する「HP Wolf Security」が有効だ。BIOS/UEFIファームウエアを常時監視して改ざん検知時に自己修復する「HP Sure Start」に加え、「HP Sure Click Enterprise」は、メール添付ファイルの開封やWeb閲覧を隔離されたマイクロ仮想マシン内で実行。マルウエアが潜んでいても影響を封じ込め、ウィンドウを閉じるだけでマイクロ仮想マシンごと破棄できる。また、「HP Protect and Trace with Wolf Connect」は、PCが「電源オフ」や「ネットワーク未接続」の状態でも、リモートからPC探索やデータロック・消去が実行できる。
コラム2:HP Managed Device Servicesの紹介IT運用管理をプロアクティブへ変革――HP Managed Device Services
IOWN時代の本格到来やAIの進化に伴い、サイバー攻撃が伝播する速度がより加速することが懸念される。そのときに数万台規模のデバイス状態の正確な把握と、予兆検知・対応を行う重要性はこれまで以上に高まるだろう。その要請に応え、IT部門の業務負荷削減に大きく貢献するのが「HP Managed Device Services」だ。グローバルに点在する各拠点のPCの調達、設定、保守、廃棄・下取りに至るライフサイクル全般を、一元的にアウトソーシングできる。また、デバイスの状態やセキュリティーリスクを予測分析し、障害が起きる前に部品交換を行う予兆対応により、ダウンタイム最小化も実現する。
コラム3:HP Workforce Experience Platformの紹介証拠ある信頼を可視化する――HP Workforce Experience Platform
「HP Workforce Experience Platform(HP WXP)」は、AIがアプリのエラーや障害、不審な挙動を分析して異常を予測検知する管理プラットフォーム。数万台規模のデバイスから収集したテレメトリー情報をダッシュボードで統合管理し、独自の数値スコアで評価。名和氏が指摘する「客観的証拠に基づく証拠ある信頼」の可視化を実現する。さらに「Out-of-Band Remote Connect※」機能により、OSが起動しないPCもBIOSレベルでのリモート診断・復旧が可能。不審な挙動の早期把握から迅速な復旧に至るまでを一元化し、IOWN時代に必要なサイバーレジリエンスを強力にサポートする。
- ※本機能は「インテル® vPro® (Intel AMT)」搭載PCのみ利用可能
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- ※記載事項は2026年9月現在のものです。
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