AI開発において、計算基盤は最も重要な経営資源の一つである。どれほど優れた人材や独自のアルゴリズムを持っていても、仮説検証を高速に回せなければ研究開発は前に進まない。東京大学大学院の松尾豊教授がChief Scientistとして参画するAGIスタートアップ、Third Intelligenceが選んだのは、GMOインターネットの「GMO GPUクラウド」だった。米SemiAnalysisのGPUクラウド国際評価「ClusterMAX 2.0」でSilver評価を獲得した同サービスは、日本発AGIの研究開発をどのように支えているのか。Third Intelligence代表取締役CEOの石橋準也氏に聞いた。

「遍在型AGI」で
Transformerの限界に挑む

株式会社Third Intelligence

代表取締役CEO

石橋 準也

東京理科大学在学中から、エンジニアリングと事業開発に注力し、ECやWebサービスの立ち上げ・グロース、DXプロジェクトの推進をリード。株式会社エウレカ(親会社はNASDAQ上場のMatch Group)では、CTO・COO・CEOを歴任し、同時にMatch Group東アジアのGMとして事業を統括。2025年3月、株式会社Third Intelligenceを創業。

 生成AI開発は今、大きな転換点を迎えている。背景にあるのが、「Transformerの限界」という認識だ。

 Transformerは、従来型LLM(大規模言語モデル)の発展を支えてきた深層学習技術である。大量のデータと計算資源を投入することで高い性能を実現し、生成AIの進化をけん引してきた。ただし、現在主流のアプローチは大規模な事前学習を前提としており、利用者ごとの文脈に応じて学び続け、柔軟にタスクをこなすうえでは制約が残る。その限界を超える新たなアーキテクチャーを探る動きが、「Beyond Transformer」という潮流だ。

 「これまでのAIは、あらかじめ一元的に学習したモデルを多くの人に一律に提供するという発想でした。しかし私たちが開発する遍在型AGIは、少量のデータからでも継続学習できる、ベーシックな能力を備えたコンパクトなモデルを出発点に、利用者の環境のもとで独自に学習・成長するAIです」と石橋氏はその概念を説明する。

 他に類を見ない遍在型AGIの発想はどこから生まれたのか。

 「着想の出発点となったのは人間の脳、とりわけ大脳皮質です。大脳皮質は、限られた経験から柔軟に表現を組み換え、少ない情報からでも因果関係や階層構造を見いだしていくことができます。この特性を模した遍在型AGIは、少ない計算機リソースやデータ量でも継続学習が可能であり、柔軟で複雑性の高いタスクにも適応します」と石橋氏は語る。

 この独自の設計思想は市場や投資家の関心を呼び込み、同社のAI研究開発事業は、創業から1年目で企業価値1,100億円、総額100億円の資金調達を経て新たな段階に入った。

GPU不足の時代に
計算基盤をどう選んだか

 Third Intelligenceが本格的に研究開発をスケールさせていくにあたり、避けて通れなかったのが計算基盤の見直しだった。事業が急速に拡大するなか、創業当時の環境のままでは、その先の進化を支え切れない。そこで同社は、国内外のGPUクラウドやベンダーを幅広く比較し、自社に最適な基盤を探った。

 高性能GPUの確保は、スタートアップにとって容易ではない。世界的な需給の逼迫を背景に、ベンダーの在庫は限られている。加えて、「Beyond Transformer」という新領域では、アルゴリズムの成熟度、精度向上の時期、必要な計算量、将来的なコスト低減の見通しなど、不確定要素が多い。研究開発の前提条件を少しでも早く整えるためにも、GPUインフラは早期に固めておく必要があった。

 その開発基盤としてThird Intelligenceが選んだのが、GMOインターネットの「GMO GPUクラウド」だった。石橋氏は「単に国内事業者だからという理由で選んだわけではない。海外クラウドも含め、すべてを横並びで比較したうえで、最終的に選択したのが『GMO GPUクラウド』だった」と振り返る。

 「GMO GPUクラウド」は、生成AI開発や大規模機械学習に特化した国内最速クラスのGPUクラウドサービスだ。NVIDIA製の高性能GPUを採用し、高い演算処理能力を提供する。2024年には、スーパーコンピュータ性能を示す世界的ランキング「TOP500」で世界37位、国内6位にランクインし、商用クラウドサービスとして、国内トップ級の性能を誇る。

 「国際的な評価レポートでもAWSやGoogle Cloudと並ぶSilver水準を獲得しており、私たちが求めるパフォーマンス要件を十分に満たしていました。そのうえで最大の決め手となったのが、GPUチームとの強い信頼関係です」と石橋氏。

 事業と技術開発の双方をスケールさせていく過程で長期に伴走できるかどうか。Third Intelligenceは、その実行力と信頼性を重視した。

 導入後も、現場での評価は高い。プロジェクトの進展に応じてまとまった規模の追加リソースが必要になる場面もあったが、GMOインターネットは通常であれば難しい追加調達にも柔軟に対応し、必要な計算資源の確保を支えてきた。Third Intelligenceは、GMOインターネットを単なるGPUの供給元ではなく、研究開発の継続性を担保するパートナーとして高く評価している。

 GMO GPUクラウドが高い評価を得る背景には、大規模クラスター運用の設計思想がある。同サービスは、NVIDIA Reference Design構成を採用している。さらに、産業技術総合研究所(産総研)のAI計算基盤「ABCI」のGPUクラスター構築を手がけるAIST Solutionsの知見を取り入れ、ストレージ・ネットワーク・ジョブスケジューラーの3点を高水準で整えた構成が、その圧倒的な性能をさらに確かなものにしている。

 サポート面でも、一般的なクラウドサービスでは長期化しがちな障害対応を迅速に処理する体制を構築。プロジェクトの進行を妨げることなく必要な計算資源を継続的に確保できる環境を提供している。迅速かつ高品質なサポート対応により、問題発生時のアイドル時間は最小限に抑えられており、開発の速度を落とさない運用体制が支えとなっている。GMOインターネットが長年にわたりインターネットインフラを大規模運用してきた経験と技術力が、AIスタートアップの研究開発を止めない基盤として結実している。

「GMO GPUクラウド」は
GPUノード間の
通信帯域が他社の約2~8倍

※NVIDIA推奨構成とは、NVIDIA Spectrum-X、DDN社製高速ストレージ、NVIDIA AI Enterpriseを含む環境構成を指す

生活者から社会全体を支える
インフラへ、
遍在型AGIで描く
社会実装

 現在のAI市場では、Big Techが圧倒的な存在感を放つ。そうしたなか、日本発のAGIを実現する意義をどう捉えるべきか。石橋氏はこう語る。

 「単純に資金力だけで競っても勝負になりません。『Beyond Transformer』という潮流をものにして、フロンティアモデルを超えるAIを生み出すことには、この国のインフラを支えるという意味でも非常に大きな意義があると考えています」

 Third Intelligenceは現在、遍在型AGIの研究成果である先端技術を活用し、人々の日常を支える社会基盤となる生活者向けグローバルプロダクトの開発を進めており、2026年度のリリースを目指す。すべての人・企業・産業にAIの価値が届くことで、「人間とAIが信頼関係を築き、豊かに共生する世界」の実現を掲げ、まずは生活者との接点から遍在型AGIの社会実装を加速させていく。将来的には、生活・産業・企業活動のあらゆる接点に遍在型AGIが自然に存在し、社会全体を支えるインフラとして機能する未来を構想している。

 その過程で、日本が直面する構造的な社会課題にも向き合っていく。人口減少や労働力不足、医療・介護負担の増加、インフラの老朽化など。世界に先んじて課題が顕在化する日本は、AIの社会実装モデルを磨くうえで重要なフィールドでもある。遍在型AGIが持つ、人と自然に対話できる情緒性、利用者のもとで学習・成長する適応性や柔軟性、そしてエネルギー効率に優れたモデル設計といった特性は、こうした社会課題に対する有効な解決策となる可能性を秘めている。今後、生活者向けプロダクトにとどまらず、産業インフラや保守メンテナンス、医療・介護といった領域への展開も視野に入れる。日本で培ったモデルや知見を将来的にはグローバル規模での新たな価値創出へとつなげることで、そのインパクトはさらに広がっていくはずだ。

 石橋氏が描くのは、AIが人間の仕事や知性を代替する存在ではなく、一人ひとりの能力を引き出し、拡張する存在として社会に根づいていく未来である。

 「現在のAIは、ルーチン業務やルール化しやすい業務を、膨大なデータや計算資源を用いて自動化することに強みがあります。一方で、それらは一部の産業や用途に最適化されたものも多く、特定の業務タスクを代替・効率化する方向で発展してきました。しかし、私たちが目指しているのは、合理的なコストで、人に相談したり作業をお願いしたりするように自然に使えるAIです。遍在型AGIを実現することで、コストやデータ、AIを使いこなすための高度なリテラシーに依存せず、すべての人の生活や業務における認知負荷・作業負荷を減らしていくことができると考えています。

 歴史を振り返っても、OS、インターネット、スマートフォンなど、あらゆる技術はアクセシビリティーやユーザビリティーを高めることで、ユニバーサルに普及してきました。AIも同じです。一人にひとつのAI、一つひとつの業務にAIが存在する世界において、AIは仕事や知性を奪うディスラプター(破壊者)ではなく、人間がより生産的に生活や業務を行い、知識や能力を拡張するイネイブラー(支え手)になるべきだと思っています。それこそが、私たちが掲げる『それぞれの場所で独自に成長する遍在型AGIを実現し、人間とAIが豊かに共生する世界をつくる』というミッションそのものです。その実現に向けた姿勢や思想に共感いただける方々とともに、まだ誰も見たことのない未来をつくっていければと考えています」と石橋氏は前を見据える。

 「GMO GPUクラウド」というパートナーを得て、日本発AGIの社会実装に挑むThird Intelligence。新しいAIの形を構想する挑戦と、それを支える計算基盤。その両輪がかみ合うことで、人とAIが共生する未来は、構想から現実へと着実に距離を縮めていく。

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