AI関連のリスクが初めて10大脅威にランクイン
情報処理推進機構(IPA)が毎年発表している「情報セキュリティ10大脅威」。2026年にはその「組織編」で、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初めて3位にランクインした。立命館大学 教授の上原 哲太郎氏によれば、今年はさらに被害が増えると考えられ、その大きな要因になっているのがAIエージェントだという。
「これまで生成AIは、何らかの出力を行う際には必ず人の行為や判断が介在するものでした。一方、AIエージェントは人の仕事を肩代わりするものであり、自らデータを収集・判断してメール送信やファイル操作などを自動実行します。これが、新たなリスクを招いているのです」
具体的には、AIエージェントに過剰なアクセス権を付与してしまうことで、社内文書が勝手に外部に転送されたり、個人情報に無制限にアクセスされたりするリスクが生じる。また、AIエージェントの登場を逆手にとった攻撃手法も登場。Webページやドキュメントの不可視テキストなどに、AIへの指令(プロンプト)を隠して埋め込むことで、悪意を持ってAIエージェントを操作する「プロンプトインジェクション」はその一例だ。
実際、2025年5月には、GitHubでプロンプトインジェクション事件が発生。公開リポジトリのIssue(要望やバグ報告欄)に悪意あるプロンプトが仕込まれ、それをAIで要約した際に、所有者だけがアクセスできるプライベートリポジトリ内のAPIキーなどの重要情報が窃取された。
「また、Microsoft Copilotが未読メールを自動処理する際、メール内に隠された不正プロンプトを実行してしまった事例や、AIエージェント同士が会話するSNS『Moltbook』において、150万件のAPIキーや3万5000件のメールアドレスが漏洩した事例など、多くのインシデントが発生しています。このような新たなリスクの存在を、まずは認識することが肝心です」と上原氏は言う。
AIエージェントの活用方針は組織ごとに決める
それでは、なぜ現在のAIエージェントは脆弱なのか。1つ考えられるのは、人が行う指示を精査した上で悪意ある指示を拒否する「自衛力」が未成熟だということだ。
また、従来型のシステムの場合、リスクを低減するためにセキュリティーの仕組みを周りに配置したり、サンドボックス内で動作させたりするが、AIエージェントの場合、それらがあると活動が制限されてしまい価値を発揮できない。「そもそもAIエージェントはITに詳しくない人が利用することも多いため、適切なアクセス権限の設定を行えないことが多いです。新しい技術のため、参考になるセキュリティーモデルも確立されていない。このような状況がリスクを増大させていると考えられます」と上原氏は説明する。
だが、課題解決の糸口は存在する。ポイントは、企業・組織ごとにAIエージェントとの向き合い方や活用方針などを定めて、それをユーザーに徹底することである。
「例えば、利用可能なAIエージェントのホワイトリスト化や、アクセス権付与の範囲を定めた『利用ポリシー』の策定は重要な方法といえます。導入プロセスにセキュリティー審査を組み込んだり、定期的なモニタリングと監査、従業員への教育・啓発活動を行ったりすることも有効です」と上原氏。さらに、ネットワーク監視による未承認ツールの検出などを行うことも重要だ。
今後はAI自身のセキュリティー性能向上や、サンドボックス技術の標準化が進むと考えられる。また「欧州AI法」のような、各国のAI関連法の整備の動きも進むだろう。とはいえ、目先のリスクを放置しておくことはできない。AIエージェントの安全な使い方をどう確立するかが、あらゆる企業に問われている。