代表取締役 兼
マーレグループ東アジア最高責任者
木下 靖博氏
世界の完成車メーカーが推進してきた電動化戦略が、ここに来て大きな曲がり角を迎えている。電動化戦略の見直しや、EV開発計画の中止に伴う巨額の損失を計上する例が相次いでいるのだ。
第2次トランプ政権の「脱EV政策」で、EV販売が急激に落ち込んでいる米国だけでなく、これまで世界の電動化をリードしてきた中国でも2026年に入ってEVやPHEV(プラグインハイブリッド車)の販売が大幅に減少している。
欧州でも、EVに巨額投資をしてきた完成車メーカー各社が販売を伸ばせず、巨額の損失を計上する例が相次ぐ。この結果、欧州では2035年に車両からのCO₂排出をゼロにするという従来の目標の見直しを迫られている。
「世界の完成車メーカーがEV販売の鈍化や業績悪化に苦しむ中、当社は長期ビジョン『MAHLE 2030+』に基づき、電動化のみに傾倒せず、熱マネジメント、内燃機関(ICE)という3つの戦略分野でバランス良く投資を積み重ねてきました」と、マーレジャパン木下氏は話す。
バイオ燃料対応の
エンジン部品を開発
現在、マーレの先進的な取り組みの一つとして脚光を浴びているのが、カーボンニュートラル燃料分野である。
欧州委員会は2025年12月に、2035年までのCO₂排出量ゼロという目標を緩和し、削減目標を90%まで引き下げた。そして2035年以降のICE車の販売も認めることにしたものの、車体への欧州製の低炭素鋼の採用、バイオ燃料やe-fuel (水素などを原料とする合成燃料)の使用などを義務付けている。
このバイオ燃料への対応技術において、マーレは1940年代に南米に進出し、とうもろこしなどを主原料に先駆けて開発を進めてきた。現在注目しているのは、非食用植物由来のバイオエタノールである。
「アガベ(日本名:リュウゼツラン)という植物がテキサスやメキシコの砂漠地帯に生えており、生育に水をそれほど必要とせず、なおかつエタノールに転換できます。砂漠の緑化と、クルマから排出するCO₂削減の両方に貢献できます」(木下氏)
エタノールはエンジンオイルを希釈するため、構成部品にはより高い耐摩耗性が要求される。既にマーレは、エタノール燃料に対応したピストン、ピストンピン、ピストンリングといったエンジンの主要構成部品であるPCU(パワーセルユニット)を開発中だ(図1)。
マーレは2024年9月に、福岡県直方工場のエンジン部品生産能力を拡張し、「電動化のトレンドに逆行する投資」として注目を集めた。背景には、国内でもHEV(ハイブリッド車)向けのエンジン部品の需要が拡大し、将来的にはバイオエタノールが導入されるという見通しもあった。この読みは当たり、既に売上規模は当初想定していたレベルを超えており、手応えを感じているという。
磁石レスモーターで
地政学的リスクを低減
「MCT(MAHLE Contactless Transmitter)」
一方、電動化領域においても抜かりはなく、マーレの技術的アプローチは独自性に富む。その代表格が、自動車部品メーカーの仏Valeoと共同開発した駆動用モーター「MCT(MAHLE Contactless Transmitter)」である(図2)。このモーターの最大の特徴は、磁石を使わずに高効率を実現していることだ。
現在のEVやHEVに使われる駆動用モーターは、効率を上げるために希土類磁石を使用している。しかし希土類磁石は希土類元素(レアアース)を必要とする。
MCTは、従来の駆動用モーターに使われていた永久磁石を電磁石に置き換えることで希土類元素を不要にした。
これまでのMCTは、構造上、軸長が長くなるため、HEV向けモーターで要求される薄型化に対応しにくいという難点があった。しかし、現在開発中の第2世代では薄型化を可能にする改良が進んでいる。最初の商業化は2029年を見込んでおり、2030年までの普及を目指している。
EVの航続距離を
熱管理で伸ばす
「TMM(Thermal Management Module)」
EVで航続距離を伸ばす上で重要になるのが、熱マネジメントである。エンジンのような熱源を持たないEVでは、冬場の暖房などのためにモーターや電池からの排熱を回収したり、逆に夏場に電池を冷やすための冷却にエアコンを利用したりといった、車両全体で効率的に熱を管理することが重要になる。
マーレの熱管理システム「TMM(Thermal Management Module)」(図3)は、チラー(冷却器)や切り替えバルブなどを1つのモジュールに統合したもので、「業界でもトップクラスの小型化・高効率化を達成している」と木下氏は語る。こうした独自の製品を支えるのが、同社の「ものづくり」の力だ。
「マザープラントである栃木県真岡工場で確立した製法や品質保証のノウハウは、そのまま全世界へと展開されています」と木下氏が語るように、同社の世界の製造現場には日本生まれの「ものづくり」の精神が息づいている。
「人とくるまのテクノロジー展」では、こうしたマーレの最新製品を実際に見ることができる。ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。