建築DXの推進へ 人材育成に貢献

なぜ今、BIM×AIを学ぶ必要があるのか 建築DXを推進するBIM×AI人材とは?

工学院大学 DigiBEセンター 岩村雅人 教授、田中久弥 教授、吉田哲 特任教授

本格的なAI時代を迎え、建築DXにも大きな変化の波が起きている。
そんな中、BIM(Building Information Modeling)とAIを組み合わせた
リスキリング教育に乗り出したのが工学院大学だ。
同大学DigiBEセンターの岩村雅人氏、田中久弥氏、吉田哲氏に話を聞いた。

AI時代を迎え、建築DXの
構造的な課題解決に挑む

2027年に創立140周年を迎える工学院大学は、「工の精神」を理念に掲げ、工学と社会を結びつける実践的な教育・研究を展開してきた。同大学では2026年、建築DXの推進や次世代の高度専門人材育成を目指す拠点として「DigiBEセンター(デジタル構築環境研究センター)」を開設した。同センターのセンター長を務め建築学部教授でもある岩村雅人氏は、建築業界が抱える現状課題について以下のように説明する。

「建築業界は、手作業を伴う工程が多く、多様な関係者が携わるため、デジタル技術の習熟度にばらつきがあり、情報の一元管理も難しいという課題があります」(岩村氏)

こうした状況を変えつつあるのが、建築の属性情報を統合したデジタルモデルでデータ管理を行うBIM(Building Information Modeling)だ。国土交通省も10年以上前から業界に対してBIMの積極導入を促し、2026年度からはBIMによる確認申請がスタートした。岩村氏はこの動きについて、「法的プロセスにBIMが組み込まれたことは、建築情報のデジタル化と共有化の大きな転換点を迎えたことを意味すると捉えています」と解説する。

工学院大学 DigiBEセンター センター長 岩村雅人教授、副センター長 田中久弥教授、特任教授 吉田哲氏
工学院大学DigiBEセンター長の岩村雅人教授(中央)、副センター長の田中久弥教授(左)、特任教授の吉田哲氏(右)

さらにそこへ登場してきたのが、急激な進化を遂げたAIだ。同大学情報学部教授としてDigiBEセンターの副センター長を兼任する田中久弥氏は、「BIMは膨大な情報が詰まったデータベースなので、知見やノウハウを統合するという点ではAIへの期待は高まっています」とした上で、「一方で建築DXを俯瞰しながらけん引できる人材の不足が顕在化しています」と、新たに浮き彫りになった構造的な課題も口にする。

また、同センターの特任教授を務める日建設計の吉田哲氏も、「企業側でAIを受け入れる体制が整っていないため、十分な活用ができていないのが実情です。技術や知識だけではなく、実際の運用プロセスを設計し、組織に定着させられる人材の育成が必要不可欠です」と現場からの視点を示す。

工学院大学だから実現できた
「建築×情報」の分野横断教育

AIの登場でBIMがどうなっていくのか、岩村氏はプラットフォームという視点からあるべき姿を解説する。

「BIMは当初、各社が自社技術を囲い込んでいましたが、競争を健全化させるには、ノウハウや知見を標準化し、プラットフォームとして共有する必要があります。そこで、実務者が中心となって働きかけを行った結果、確認申請BIMの標準モデルや官庁営繕の参考モデルが公開されるなど、業界として標準プラットフォームを共有する文化が根づきつつあります。AIが浸透すればこの流れはますます進むはずです。DigiBEセンターは、まさにこうした状況に対応し、建築DXを前に進めるために重要な役割を担っていると言えます」(岩村氏)

その重要なキーワードとなるのが、「建築学部×情報学部の分野横断」だ。両者を連携させたことについて、岩村氏は意義をこう語る。

「建築の膨大な情報をデジタルデータとして活用するには、情報技術の専門的な知識やガバナンスを含むAI知見が不可欠です。建築学部と情報学部が補い合うことで、より先進的な建築DXが実現できると考えました」(岩村氏)

また、田中氏も建築学部との連携について、次のように語る。

「情報学部は、最先端のデジタルテクノロジーを社会課題の解決に役立てることを旨とし、AIについても高度な実践教育に注力しています。ただ、そうした取り組みが実際の課題解決につながるかどうかを検証するには実証実験の場が必要です。建築学部が保有するBIMの膨大な実データを扱えることは、情報学部の研究成果を確認する上でも大きな意義がありました」(田中氏)

実践的にデジタル技術を学べるデジタルツインラボと、BIMで制作した競技場の3Dモデル
壁一面に縦約2m×横約7mの巨大ディスプレイを設置するなど、実践的にデジタル技術を学べるデジタルツインラボ(写真上段)と、BIMで制作した競技場の3Dモデル(写真下段)。

建築実務に携わる吉田氏は、学外の立場からDigiBEセンターの特徴をこう語る。「工学院大学は同じキャンパス内に建築学部と情報学部があるため、物理的な近さから学部間の交流が生まれやすく、分野横断で連携できる文化が育っている点が強みだと感じます」。

さらに、同大学の取り組みはDigiBEセンターの運営だけにとどまらない。同センターが目指すAI時代の建築DXをけん引する人材づくりの一環として開講したのが、学外の建築実務者を対象とした「BIM×AI 建築人材養成プログラム」だ。

【建築DXを体系的に学ぶ、3つの特長】 1. BIM×AIの基礎知識と実務活用の視点を体系的に学ぶ 2. 大学×実務の講師陣が、実務に即した視点を育む 3.建築と情報、双方の視点からDXを捉え、実務への落とし込みを考える

建築と情報を効果的に学び
実践的な実務人材を育成

岩村雅人

同大学が開講する「BIM×AI 建築人材養成プログラム」の特徴について、岩村氏は以下のように説明する。

「カリキュラムは全14回のオンデマンドで、前半はBIMの基本概念や国内外の動向、AIの仕組みといった基礎、後半では実践的なAI活用に加え、設計報酬や法規、業務採算性などを学びます。BIM導入の業務採算性にまで踏み込む理由は、国がBIMを推奨していても、導入の経営判断は最終的に費用対効果に左右されるからです」(岩村氏)

吉田氏も実務の立場から、「現場ではBIMやAIを便利ツールとして導入しがちですが、コストや収益性、法的な制約なども踏まえ、ビジネスとして成立させることが何より重要です。その視点があるのは本プログラムの強みだと感じます」と賛同する。

田中久弥

また、建築と情報の両面から建築DXを総合的に学ぶため、講義は両領域の講師が交互に担当し、講義後には双方の視点から振り返りを行う。こうしたカリキュラム設計は、まさに分野横断の強みだ。さらに、プログラムの今後についても、技術の進化に合わせた継続的なアップデート、実技での講習、分野横断の拡大といった展開を視野に入れているという。

最後に、DigiBEセンターと「BIM×AI 建築人材養成プログラム」を通して、どのように社会貢献を果たしていくかについて聞いた。田中氏は、大学教育への波及効果にも期待を寄せる。

「実務者を対象としたプログラムは学生用教材にも活用できますし、技術だけにとどまらない現場のリアルな課題を知ることは、学生にとっても大きな意義があると考えます。この講座をきっかけに企業と大学がつながり、共同研究や人材育成の継続的な流れを生み出せればと思います」(田中氏)

吉田哲

吉田氏は実務者の視点から、BIMの価値最大化に期待を寄せる。

「BIMはデータベースなので、膨大な図面の属性をどう捉えるかがカギです。建築は一度つくれば社会への影響が大きく、災害時の安全性なども含めて長期にわたり責任を負う存在です。この長い時間軸を前提に、建築と情報を結びつける人材を育成していくことが、BIMの価値最大化であり、未来への貢献につながると考えています」(吉田氏)

そして岩村氏は、改めて標準化の重要性を説いて締めくくった。

「BIM×AIの基盤技術は標準化して共有すべきものだからこそ、本プログラムも収益獲得を主目的とせず、社会貢献・人材育成活動として実施しています。これからも全国的なデジタル活用を支える共通プラットフォームの整備と人材育成プログラムの提供を進め、業界の健全な発展に寄与したいと考えています」(岩村氏)