

レノボ・ジャパンがワークステーションを中心とした企業向けクライアントでパートナーとの協業を強化する。力を入れるのは企業の生成AI導入案件だ。セキュリティを確保しながら生成AIの業務活用を推進したいという企業のニーズに、ワークステーションで応える。最近では、従来の商社事業に加え、生成AI関連のソリューション事業にも力を注ぐ菱洋エレクトロに「Lenovo Solution Center」を開設した。
東京・銀座近くの菱洋エレクトロ本社を訪れると、「Lenovo Solution Center」の文字と、台の上に並んだレノボ・ジャパンの様々なワークステーションの実機が、入口からすぐの所で目に飛び込んでくる。前を通る人の目を引くディスプレイだが、Lenovo Solution Centerの目的は、実機を生で見てもらうことだけではない。

菱洋エレクトロに設置されたLenovo Solution Center。レノボは日本市場においてパートナーと共に価値創出するビジネスを重視しており、顧客がより容易に、よりスピーディーに、レノボのソリューションを検証できる環境を用意することを目的としている

レノボ・ジャパン
WS&クライアントAI事業部
パートナー事業開発部 部長
今福 貴 氏
最大の目的は、常に実機に触れられる環境をパートナー企業に提供することにある。実機に触れることでソリューションを提案する上での様々なメリットが生じる。レノボ・ジャパンの今福 貴 WS&クライアントAI事業部 パートナー事業開発部部長は「生成AIを含めたAI開発などの先進的な用途について、実際の業務を想定した検証が可能になります」と語る。
生成AIの業務活用で具体的に説明する。生成AIのように、事前に詳細な要件が決まっていないことが珍しくない案件では、どういったハード、どういった提案が最適なのかを、企業のニーズに応じて判断するのは簡単ではない。導入に当たっての技術的な不安があれば、事前に解消する必要がある。PoC(概念実証)や検証フェーズで不必要に長い時間を割くわけにもいかない。企業のニーズを満たすのはどういったハードなのかを理解しなければ、提案の質が低くなる。
Lenovo Solution Centerを設置し、パートナー社内で実機を使った検証作業が完結するようになれば、上記の問題の解決が早まる。同センターを開設した企業では、ワークステーションを担当するレノボのエンジニアからの技術支援も受けられる。商談成功の確度も上がる。
生成AIが登場して3年が経過したが、実際の業務改善、業務改革につながる状況が実現したとは言い難い。生成AIの潜在能力を疑う声はないが、実際の経営課題の解決にまで生かせている企業は少数にとどまる。ここにレノボは、パートナービジネスでの商機を見いだした。同社自身による直販に加え、独自の知見を持つビジネスパートナーのインフラとサービス、あるいはコンサルティングを組み合わせたソリューション提案が、経営課題解決をもたらす生成AI活用をより多くの企業で加速させる。
ただ一言で生成AI活用と言っても企業のニーズ、置かれた状況は様々だ。導入するインフラにも当てはまる。生成AI活用というとクラウド、あるいはサーバーを導入してLLM(大規模言語モデル)を利用すると考えがちだが、必ずしも正解とは言い切れない。データのセキュリティや導入までの期間の優先順位が高い場合は、むしろワークステーションが適しているケースが存在する。ワークステーションであれば「クラウドだけに依存しないAI開発環境を企業内部で実現できます」と今福氏は言う。
CADやCAMのような一般的な用途にとどまらず、レノボが生成AI向けのワークステーションのラインナップを強化する理由がここにある。すでに、エントリーモデルともいえるモバイルワークステーションから、高機能のタワー型、さらに手のひらサイズのコンパクトな筐体の「ThinkStation PGX」まで、多様な製品ラインアップをそろえる。

AI開発向けに設計された手のひらサイズの高性能AIスーパーコンピューターThinkStation PGX。NVIDIA Blackwell世代のAI特化GPUを搭載し、個人環境でローカルAI開発が可能だ
ThinkStation PGXは開発者を意識した生成AI専用というべき製品になる。独自規格の高速ネットワークで2台を接続した並列処理も可能だ。ハードを使う場合は処理性能も大事だが、業務で使う上ではサポートが重要な意味を持つ。レノボはワークステーションの利用企業向けに最長3年の「プレミアオンサイトサポート」を提供する。同社によれば、プレミアオンサイトサポートの特長は、専門技術者による訪問対応、迅速な部材手配と障害切り分け、データ流出リスクの最小化である。特に安全なデータ利用は企業の生成AI活用に不可欠なものだ。機密情報の漏洩はあってはならない。
リスク最小化の具体例を紹介する。SSDなどの記憶装置が故障したとする。新たな記憶装置と故障した記憶装置をメーカーが交換するのが一般的だが、プレミアオンサイトサポートでは、故障した記憶装置を引き取らないオプションを用意した。記憶媒体が外部に出ないのだから、交換に伴うデータ流出のリスクはなくなる。
レノボが菱洋エレクトロとのパートナービジネスでの協業推進を決めたのはなぜか。半導体商社としてのイメージが強い菱洋エレクトロだが、半導体販売だけでなく、ソリューション事業を展開している。モノを売るだけでなくソリューションを交えた形での提案ができることで、他社との差異化を図る。現在、力を注ぐのがAI関連だ。AI関連のソリューションの中核となるのが「AI Techmate Program」であり、人材育成、パートナーマッチング、コンサルティングなどのサービスを提供する。同プログラムは「for デジタルツイン」と「for 生成AI」の2つがある。現実と同等の世界をデジタル上に再現するデジタルツインは、同社の顧客が多い製造業を中心に関心が高まる分野だ。

菱洋エレクトロのAI Techmate Program。生成AIを活用したいけれど初期投資に対してのハードルが高い、技術的なノウハウが足りない、人的リソースが足りないなどの課題に対し、生成AI導入をサポートする

菱洋エレクトロ
ソリューション事業本部
専任部長
中村 亮一 氏
レノボにとっては、AI Techmate Programで培った生成AI関連のソリューション提案力が魅力的に映った。今後の成長が期待されるデジタルツインの領域でも協業関係は強化する。レノボとの協業強化について、菱洋エレクトロの中村 亮一 ソリューション事業本部専任部長は「AI Techmate Programは、実際にハードを動かす検証サービスを含んでいます。検証用途から実運用まで一貫して提案できるレノボ製品とは親和性が高いと感じます」と話す。プレミアオンサイトサポートなどによるデータの安全性確保の姿勢も評価する。
レノボの今福部長は、ワークステーション領域でのパートナービジネス協業推進に手応えを得ている。今後は菱洋エレクトロとの関係強化に加え、独自の強みを持つ他のパートナー企業とも、ハードウエアを起点にソフトウエア、コンサルティング、運用支援まで組み合わせた「実装まで見据えたAI基盤」を提供する方針だ。レノボと複数のパートナーが連携する新たな協業ビジネスも展開したいという。
今福部長は、「パートナー企業とともに価値創出の輪を広げます。我々の取り組みが日本企業の競争力強化につながれば言うことはありません」と語る。
