デジタル技術の活用が進む製造業界で、あらためて注目を集めているのが「モデルベースデザイン(以下、MBD)」だ。製品やシステムの動作を可視化する「モデル」をデジタル空間に作成し、設計・検証・実装を行う。動作をシミュレートして仕様や性能を検証したり、モデルから制御ソフトなどのコードを自動生成したりすることが可能になる。仕様の明確化、バグや不具合の早期発見、開発効率と品質の向上などを目的に、自動車、航空宇宙、エネルギー、医療機器など幅広い分野で使われている。
このMBDを含めて、製造業界にいま大きなインパクトを与えているテクノロジーが「AI」である。「AIはエンジニアリング領域における、これまでで最も大きな技術変革の1つだと位置付けています」とMathWorksのリチャード・ロブナー氏は言う。
例えば設計フェーズでは、自然言語で指示するだけで、わずか数秒~数分でMBDのコードやモデルを自動で作成できる。「アルゴリズムを生成したり、既存アルゴリズムの内容を説明させたりしてリバースエンジニアリングに役立てることも可能です。エンジニアが設計プロセスを理解し、効率的に進めることを後押しします」とロブナー氏は続ける。
また、より大きな変革も起き始めている。それがAIエージェントの活用だ。AIエージェントは、与えられたタスクや目標に対して複数のアプリケーション/ツールを横断的に活用しながら、自律的に作業を実行する。「MBDにおいても、人と協働しながらAIエージェントがモデルベースの開発、シミュレーションなどを実行します。従来、エンジニアが数時間かけて行っていた作業を数分程度で完了できるので、生産性は劇的に向上するでしょう」(ロブナー氏)。
AIエージェントにより、モデルの生成からシミュレーションまでを短時間で実行できる
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加えてAIは、開発プロセスにおける信頼性やセキュリティーの確保にも寄与する。設計段階からモデルやシミュレーションを活用してシステムの挙動を検証し、リスクを早期に把握・低減することが可能になるとともに、コードレベルでも静的解析などを通じて検証を自動化することで、脆弱性や不具合の早期発見を支援する。こうした取り組みによって、開発の初期段階から品質を作り込むことができる。また、AI は設計支援の用途に加えて、物理モデルや制御と組み合わせたデータ駆動型モデルとして、システムや製品に組み込まれる形での活用も広がっている。
このAI活用をさらに高度化する考え方として、MathWorksが示しているのが「Embedded Intelligence」だ。
「外部のAIサービスをプロセス単位で利用するのではなく、物理モデルや制御と組み合わせながら、設計から実装、さらには製品に至るまで AIを一貫して組み込みます。これにより人とAIが協調して開発プロセス全体を最適化できます。意思決定をモデル化して、再利用できるようにもなるでしょう。強化された開発能力が、その企業の競争力になります」とロブナー氏は紹介する。
加えて、「製品にAIを組み込んでユーザーの利便性を高める」こともEmbedded Intelligenceの重要な要素となる。開発プロセスと最終製品の両方にAIを組み込める体制を具現化することで、ものづくり全体の変革を加速できるという。
同社のソリューションも、このEmbedded Intelligenceの考え方に基づき開発・提供されている。代表例が「MATLAB」と「Simulink」だ。MATLABは数値計算・プログラミングの統合開発環境。MBDのためのソースコードを作成し実行できる。SimulinkはMATLAB上で動作するモデル化、シミュレーション環境である。
「2つを組み合わせることで、アルゴリズム開発、データや画像解析、そのシミュレーションやテスト、検証、展開までを一貫して実行できます。設計、モデルやコードの自動生成、シミュレーション、検証やレポーティングといったMBDのプロセス全体で、シームレスにAIを活用できるようになるでしょう」と同社の宅島 章夫氏は説明する。
また、「MATLAB Copilot」を使えば、コードやエラーメッセージの内容をチャット形式で解説してくれるほか、コードの作成・修正を自然言語で指示したり、テストケースを自動生成してコードの動作検証を行ったりすることもできる。同じMathWorksの環境下で、プロセスを分断せずに作業を進められるため、部門横断型の開発プロセスの整合性を高めることも可能になるだろう。圧倒的な生産性向上、設計品質の向上、開発効率の改善につながる。
さらにEmbedded Intelligenceによってエンジニアの役目も大きく変わる。「エンジニアが考え、コードを書き、実行して学ぶという一連のサイクルの中に、今後はAIが入り込んでくるからです」とロブナー氏は話す。
例えば、エンジニアはまずコードを書く必要がなくなる(図)。代わりに、検証結果やレポートの内容を確認して、次のアクションを考えるのが重要な役目になるだろう。AIと協調することで、エンジニアはより創造的かつ高レベルな仕事に集中できるようになっていく。
「それに向けてはエンジニア自身のスキルアップも必要になります。先に紹介したMATLAB Copilotに伴走してもらいながら、自ら学び、スキルを磨いていけるはずです」と宅島氏は付け加える。
図 生成AIによって変化するエンジニアの作業プロセス
従来、コードはエンジニアが考え、書くものだった。それが生成AIの登場以降は、エンジニアが直接書かなくても、プロンプトで指示を出すだけで生成AIがコードを書いてくれる
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なぜMathWorksはこのような価値を提供できるのか。同社は多様なツールやプラットフォームの提供を通じ、40年以上にわたり製造業をはじめとする多様な産業のエンジニアリングの高度化を支援してきた企業である。製造業の現場に精通し、エンジニアリングに何が求められているかを深く理解している。Embedded Intelligenceや、それを支える多彩なツール群は、そこで得た経験・ノウハウを基に生み出されたものだ。
「MBDにおけるAI活用にも早い時期から取り組んできました。また、最近はエージェンティックAIに関するソリューションも複数リリースしており、その多くをGitHubで公開しています。随時アップデートを繰り返しながら、お客様のニーズにお応えしています」と宅島氏は述べる。
グローバルの各拠点に経験豊富な支援スタッフを配備し、顧客企業の導入・運用もトータルにサポートする。「何から手を付ければいいか分からない」という企業に対しては、初期検証や導入検討の段階から伴走する取り組みも行っている。「日本国内にも拠点があり、日本語による迅速かつ的確なサポートが可能です」とロブナー氏。サポートを通じて得た知見はふたたび製品・サポートにフィードバックする。このループを回すことで継続的な改善を図っているという。
なお、自社のものづくりにEmbedded Intelligenceの考え方を取り込む際のポイントは、いきなり大きな絵を描かず、小さく始めることだという。「できるところから始めて、知識やノウハウを積み上げていくことが大切です。小さな実績を積み重ねることで、できることが増え、より大きなチャレンジが可能になるのです」とロブナー氏は強調する。
ものづくりにおける開発プロセスのDXを加速する上で、AIの活用はもはや不可避といえる。プロセス単位で終わらず、ものづくり全体にAIを組み込むEmbedded Intelligenceの実現を、MathWorksは伴走型で支援する。