マイクロソフト、
製造業の
フィジカルAI実装へ
エッジ×クラウド×
パートナー共創で加速
パートナー5社、
共創の実績を紹介

2026年6月18日(木)、日本マイクロソフトは「ハノーバーメッセ2026総括」というセミナーを品川本社で開催した。セミナーでは、同年4月に開催された製造業向けの世界最大級の国際展示会「ハノーバーメッセ2026」の出展総括とともに、AIを製造業の業務や現場に落とし込むマイクロソフトのフィジカルAI基盤戦略と、その基盤を活用してフィジカルAIの実装を加速させている有力パートナー5社の取り組みが紹介された。

フィジカルAIの競争軸は
モデル性能そのものから
実装基盤へ

 セミナーの冒頭では、ハノーバーメッセを視察した日本マイクロソフト執行役員常務 インダストリアル&製造事業本部長の横井伸好氏が、展示会全体について「生成AIの登場から4年が経ち、フィジカルAIがよりリアルなソリューションとして注目されていた」と振り返った。

 今年で10回目の出展となる今回のブースの統括を担当した、マイクロソフトコーポレーション製造&モビリティインダストリーシニアインダストリーアドバイザーの林高之氏は、今年のテーマを、製造業のさらなるAI活用に向けた「Industrial Intelligence Unlock」だと説明。OT(運用技術)とITをつなぐハイブリッド基盤環境「Adaptive Cloud」、AIエージェントの「AI Foundry」、製造業における人の知見を活用するための「Intelligent Layer」を軸に、製造業の知見を生かす基盤づくりを示した。

林 高之氏

Takayuki Hayashi

マイクロソフトコーポレーション
製造・モビリティインダストリー
シニアインダストリー アドバイザー
林 高之

ブースの様子

ハノーバーメッセ2026でのマイクロソフトのブース

 続いて登壇した同社ディレクター、インダストリーアドバイザーの濱口猛智氏は「フィジカルAIの競争軸はモデル性能そのものから実装基盤へと移りつつあります。実装には、現場の不確実性に対応できる仕組みが重要になります」と指摘した。それを実現するのが、マイクロソフトが提供するフィジカルAIのプラットフォームだ。エッジ側とクラウド側をシームレスに連携させて、フィジカルAIを実装する機能を共通基盤として提供している。

 エッジ側ではAI Foundry LocalがAzure IoT Operationsと連携し、クラウド側ではMicrosoft FabricとIntelligent Layer、AI Foundryなどが連携し、全体をAzureが支えて、そこにパートナー各社のソリューションが加わることで、フィジカルAIの実装を実現していく形になる。 

 濱口氏は「マイクロソフトは、自律化した工場を目指すフィジカルAI活用のためのプラットフォーム像として、エッジとクラウドの組み合わせを提案しています」と自社のポジショニングを語った。フィジカルAIの実現には、AIモデル単体ではなく、クラウド、エッジ、データ、デジタルツイン、安全性、開発環境が求められる。今回のセミナーでは、このような必要な機能が揃っているマイクロソフトの共通基盤上で検証を進める各パートナーが、ロボティクス、エッジAI、デジタルツイン、安全性確保、データ基盤といった領域での取り組みを紹介した。

濱口 猛智 氏

Taketoshi Hamaguchi

マイクロソフトコーポレーション
製造・モビリティ インダストリー ディレクター
インダストリー アドバイザー
濱口 猛智

全体イメージ図

マイクロソフト「Physical AI Toolchain」の全体イメージ

ソーシャルロボットの
社会実装を加速させる
川崎重工業

 パートナー発表の最初に登壇したのは、川崎重工業DX戦略本部特別主席の本多文博氏。「当社は50年以上前から産業用ロボットを開発し、今は随伴者となるロボットを目指して開発しています」と本多氏は現状を語った。

 マイクロソフトとは“ロボティクスを通してより豊かな生活を提供する”という共通の目的の下で協業を推進している。川崎重工業は産業用ロボットやソーシャルロボット、医療ロボットなどの知見とマーケットの開拓力を持ち、Microsoft AzureやCopilotなどデジタルの最新技術を有するマイクロソフトとのパートナーシップを推進している。さらに、2024年10月に神戸に開設された "Microsoft AI Co-Innovation Lab KOBE" においては、設備の立ち上げ準備段階から参加するなど、AI分野でも連携を強化している。

 「こうした共創の場の重要性を鑑みて、当社は羽田空港に隣接する天空橋に “CO-CREATION PARK KAWARUBA”を2024年11月に開設しました。先端技術について多様なステークホルダーと交流することで、ロボットソリューションの社会実装を加速することを目指しています」(本多氏)

 KAWARUBAではソーシャルロボット「Nyokkey(ニョッキー)」が3Dの位置データを収集するトライアルを行っている。本多氏は「データ選定とインターフェイス構築の工数増、イベント生成の困難さ、3Dツールのコストという3つの課題解決にMicrosoft Fabric RTIを利用して検証し、解決の可能性が見えてきました」と話す。

 川崎重工業は今年5月22日には米カリフォルニア州サンノゼにフィジカルAIセンターを立ち上げ、サービスロボットの連携にも取り組んでいる。本多氏は「今後も課題解決のためにマイクロソフトをはじめとしたパートナーとの協業を進めていきます」と語った。

本多 文博 氏

Fumihiro Honda

川崎重工業株式会社
DX戦略本部 特別主席
本多 文博

【所在地】羽田イノベーションシティ ZONE B【開所】2024年11月【コンセプト】先端技術と多様なステークホルダーが出会い、ロボットソリューションの社会実装を加速する【フロア】2F:ショーケース&交流エリア 1F:パートナーとの開発・実証Lab【注力テーマ】①ソーシャルロボット②水素・カーボンニュートラル【実績】来場者9,378人/2,099団体 イベント開催69件

川崎重工業が開設した「CO-CREATION PARK KAWARUBA」の概要

Windowsで進む
エッジAI実装を支援する
東京エレクトロンデバイス

 2番目に登壇したのは、東京エレクトロンデバイスのクラウドIoTカンパニー DX営業推進本部部長代理の石丸浩氏。同社はマイクロソフトが提唱するフィジカルAIの全体像の中で、特にエッジ側にAIを実装する「Foundry Local」を中心としたソリューションを提供している。

 「エッジAIで製品をインテリジェント化するためにはソフトウエアによる差別化が重要です。また、AIの実装には特定用途AIと生成AIのそれぞれの特性を生かす必要があります」と石丸氏。さらにファインチューニングはクラウド側で行い、膨大なデータとの連携も求められる。

 「エッジ側がオフラインのケースもあるため、これまでAIの実装には手間がかかっていましたが、昨年Foundry LocalやWindows MLが登場したことで、Windows OS上での実装が可能になりました」。Foundry LocalやWindows MLがエッジAI開発のハードルを下げた結果、複数のAIモデルが利用可能になり、複雑な環境構築が不要になったという。

 射出成形機での連携のデモでは、チャットアプリからFoundry Local、そしてクラウドへとマルチエージェントを連携させ、在庫状況も含めた回答の精度向上が実現できたことを示した。

 「Foundry LocalとWindows MLによって、クラウド上にデータを出さずに、フィジカルAIに求められる低遅延で生成AIや特定用途AIをWindows上で実装できます。当社はそのためのトレーニングや伴走支援サービスを提供していきます」と石丸氏は今後の展開を語った。

石丸 浩 氏

Hiroshi Ishimaru

東京エレクトロン デバイス株式会社
クラウドIoTカンパニー DX営業推進本部
部長代理
石丸 浩

弊社では、マイクロソフトのエッジAI開発プラットフォーム「Foundry Local」を中心に、Azure上でのファインチューニングやLLMとのAIエージェント連携など、エッジAIの開発・展開・運用を実現する統合環境を提供します。

エッジAIの開発・展開・運用を実現する統合環境のイメージ

デジタルツインと世界モデルで
データギャップを埋める
エヌビディア

 続いて登場したエヌビディアのロボティクス デベロッパーリレーションズ シニアマネージャーの荒井謙氏は、「フィジカルAIは次のフロンティアを開拓するための技術であり、その拡張にはデジタルツインの有効活用が必要です」と指摘した。同社は、デジタルツインを活用することでフィジカルAIを段階的に進化させることを目指している。

 「フィジカルAIを進化させるには、データを多く集めてモデルに学習させる必要がありますが、実環境下でデータを集めるには、安全やコストの面で限界があります。このデータギャップを埋めるのが、大規模かつ多様なトレーニングデータを生成できるフィジカルAIデータファクトリーです」(荒井氏)

 それを実現するのが、リーズニングや予測を活用して合成データ生成を可能にする「NVIDIA Cosmos 世界基盤モデル」と、モデル学習、評価、検証、デプロイを一気通貫でオーケストレーションするオープンソース型フレームワーク「NVIDIA OSMO」だ。マイクロソフトの協力の下でGitHub上のフィジカルAIツールチェーンが提供されている。

 「現実世界は予測不可能です。様々なユースケースにフィジカルAIを活用するには、膨大な合成データでデータギャップを埋め、モデルの汎化性能を向上させる必要があります。また、現場データを活用し、事後学習することでドメインに適応したモデルを開発する必要があります。ロボット知能の進化において目標とするのは、現場ごとの高度な専門性を持ち、あらゆる状況に対応できるジェネラリスト・スペシャリストです」と荒井氏は話した。

荒井 謙 氏

Ken Arai

エヌビディア合同会社
エンタープライズ事業本部
ロボティクス デベロッパーリレーションズ
シニアマネージャー・博士(工学)
荒井 謙

OSMO フィジカルAIの構築、テスト、検証のためのオープンソースオーケストレーションフレームワーク

オープンソースオーケストレーションフレームワーク「OSMO」

安全な実装を支える
AIハーネスを提案する
ヘッドウォータース

 4番目に登壇したのは、ヘッドウォータースのITインキュベーション事業部コネクテッドテクノロジー部Architectの戸嶋隆太氏。戸嶋氏は「フィジカルAIは機械を直接動かすものであるだけに、事故が起きれば物理的な2次被害につながります。それだけに安全性が重要であり、安全に動かすためのハーネスが必要になります」と指摘した。

 そのために同社が提案するのが「クローズドループ型Safe Physical AI」だ。これは、現場の知見を制約に変換し、シミュレーションで検証することで安全な実行につなげる、というサイクルだ。

 「フィジカルAIを実用化する最大の障壁は、モデルの賢さではなくハーネスの構築にあります。当社が提供するSDI for AI Harnessによって、暗黙知である現場の知見を取り込み、フィジカルAIとルールを組み合わせて、事前に危険を察知して2次被害を防ぎます」と戸嶋氏は話す。

 実際の現場では、VLA推論によって示された行動についての提案をドメインごとに最適化されたハーネスが受け、実行するか、停止するか、人に確認を求めるかをハーネスが判断する。

 「マイクロソフトのフィジカルAIツールチェーンとSDI for AI Harnessで物理世界と計算をつなぐことができます。今後はデータ収集とVLAモデルのファインチューニングを進め、安全なフィジカルAIを実現していきます」と戸嶋氏は話した。

戸嶋 隆太 氏

Ryuta Tojima

株式会社ヘッドウォータース
ITインキュベーション事業部
コネクテッドテクノロジー部
Architect
戸嶋 隆太

Harnessの構造 VLAの提案を、状態を見ながら、実行する直前にチェックし、実行ログをベースに行動理由を説明可能にする

「ハーネス」の構造イメージ

ヒューマノイド実装を支える
データ基盤を示した
日立製作所

 パートナー発表の最後は、日立製作所のAI&ソフトウェアサービス部マネージド&プラットフォームサービス事業部HMAX&AIプラットフォーム本部担当本部長の松井豊和氏だ。

 松井氏は「フィジカルAIの世界で重要なのはデータです」として、同社の水戸事業所における事例を紹介した。ロボットが事業所内を移動しながら環境を理解し、判断して実行する検証が行われ、実際にボルトやナットをピッキングする作業などを行っている。

 「現実には入手困難な大量のトレーニングデータを、エヌビディアのIsaac Simでシミュレーションして獲得し、模倣学習で構築した制御モデルで環境理解と意思決定を行っています。技能検証の課題解決にも応用できます」と松井氏は話す。

 「ロボットの社会実装には、経験に基づく正確な判断と現場の不確実性への対応という2つの課題があります。センサーやカメラなど多様なデバイスによってデータの質を高め、世界基盤モデルで大量の予測データを生み出してAIに学習させることが必要です」(松井氏)

 日立製作所では、マイクロソフトをはじめとしたパートナーと同社の持つ知見を合わせて、デジタルツインとAI、データとドメインナレッジを組み合わせ、ベストオブブリードでトータルな仕組みを提供することを目指している。

 「Azureと連携したフィジカルAIのデータ基盤アーキテクチャーの下、環境の変化に迅速に対応できるクラウド・エッジ協調AIでデータの質と量で不確実性の壁を超え、社会実装を実現します」と松井氏は話した。

松井 豊和 氏

Toyokazu Matsui

株式会社日立製作所
AI&ソフトウェアサービス部
マネージド&プラットフォームサービス事業部
HMAX&AIプラットフォーム本部
担当本部長
松井 豊和

ロボットが変電設備まで移動→金網の劣化やドアの状態を撮影・確認 夜間での撮影や、撮影した画像から劣化を自動認識するなどの検証も実施

設備の巡回点検を行うヒューマノイドの例

 パートナー5社の発表の後、日本マイクロソフトの執行役員 エンタープライズパートナー統括本部 統括本部長の岡寛美氏は、クロージングで「フィジカルAIの登場で、今、日本の課題解決が実現できるところにきています。次に必要なのは、各社のソリューションによる社会実装のためのインテグレーションであり、マイクロソフトがAIのファシリテータになります」と語った。

 本セミナーを通じて見えてきたのは、フィジカルAIが構想段階から実装段階へ移りつつあること、そしてその実装を支える基盤と共創の重要性だ。フィジカルAIの実現にはAIモデル単体ではなく、複数の技術領域が必要になる。重要なのはAIを業務や製造現場に落とし込むことだ。マイクロソフトは、こうした取り組みを支える共通基盤を提供する。パートナー各社は、その基盤の上でそれぞれの強みを生かしたソリューションを展開し、エンドユーザー企業は、自社の課題に応じてそれらのソリューションや独自に開発したアプリケーションを活用することで、課題解決や業務変革を推進していく。こうした連携によって、フィジカルAIの実装は加速しているのである。

懇親会の様子

セミナー後に行われた懇親会では、講演者への質問をはじめ活発な情報交換が行われた

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