2026年1月、「自動運転フォーラム2026~社会実装に向けた課題と展望~」が開催された。自動運転に関連する省庁や国内外の企業が登壇し、三菱UFJ銀行の取引先だけでなく、一般聴衆も参加。来場とオンライン視聴を合わせた約950人の参加者に向けて、自動運転における現状の課題や実装に向けた意見交換が行われた。
100年に一度の大変革期といわれるモビリティ業界。その中でも注目されているのが自動運転領域だ。三菱UFJ銀行の産業リサーチ&プロデュース部では、国内での自動運転の社会実装に向けて、広く情報をリサーチしながら業界全体の課題解決に取り組んでいる。実際の活動について、同部のメンバー5人に聞いた。
―― 最初に、産業リサーチ&プロデュース部の発足経緯を教えてください。

産業リサーチ&プロデュース部長
内藤 裕規
※役職はインタビュー当時
内藤 2022年に戦略調査部から名称変更し、新たな機能を付加して発足したのが産業リサーチ&プロデュース部です。銀行における調査機能は100年ほどの歴史を持つともいわれており、お客さまの事業競争力や将来性を分析し、主に融資の判断材料となる情報を関係部署に提供する役割を担ってきました。銀行の部署名に「プロデュース」という言葉が入っているのは珍しいと思われるかもしれませんが、まさにこの部分が大きく変わった点です。リサーチから得られた情報を社会課題や産業課題の解決に活用し、新しい価値を生み出していく役割が追加された、ということなのです。企業が直面する課題はますます複雑化しており、個社だけで解決するには限界があります。私たちはそれらを業界全体、あるいは社会全体の課題と捉え、銀行内外で広く連携しながら付加価値を提供していきたいと考えています。発足から4年。まだまだ取り組みの途上ではありますが、少しずつ手応えを感じられるようになってきました。

リサーチに基づく産業知見の提供に加え、業界や社会の課題解決に向けたさまざまな提案・サポートを行っている。事業プロデュースの活動では、お客さまとの新ビジネスの共創や、事業リスクの一部を引き受けること等も検討。産業知見の創出/活用を担える人材を組織的に育成し、全行に還元していくこともミッションとしている
――具体的にはどのような業務をしているのでしょうか?

産業リサーチ&プロデュース部
R&D第一グループ 次長
日浦 道治
日浦 リサーチおよびプロデュースを行うグループが4つあり、内藤を除く4人はモビリティ業界とエネルギー業界を担当するR&D第一グループに属します。モビリティ業界は、急速な技術革新によって100年に一度の大変革期を迎えており、その中で、日本の自動車産業が競争力を高め、世界で勝っていくにはどうすべきかを真剣に考え、数々の取り組みを行っています。
リサーチ業務では、新車販売台数の予測や電動化の見通し等を作成してレポート化し、お客さまとのディスカッションや銀行内の与信判断に役立てています。ここでは積極的にAIなどの最新テクノロジーも活用していますね。プロデュース業務では、リサーチをベースとして自動車産業のあるべき姿を思い描き、現状とのギャップを埋めていくための取り組みをしています。現在、大きなテーマとして取り組んでいる自動運転は、本日参加しているメンバー全員で対応しています。それ以外にも、個々人で着眼したテーマについて、主体的にリサーチ業務やプロデュース業務などを進めています。
堀井 具体的に申しますと、私は直近では自動運転のほか、自動車部品領域や中国における自動車業界の調査を担当しています。自動運転については、取り組みが進んでいる米国や中国に加え、日本でも技術革新が進んでおり、お客さまの関心も非常に高まっていると感じています。
小見山 私は2030年、2050年に向けて、新車の販売台数がどれくらい伸びていくのかを調査しています。また、自動車がハードウエアからソフトウエアへと転換していく中で、販売後の機能追加や性能向上が期待できる「SDV(ソフトウエア・ディファインド・ビークル)」と呼ばれる領域のリサーチも担当しています。
石川 私は自動運転がメインですが、それが普及した先に、車の使われ方はどう変化するのか、シェアリングはどのように進展していくのかなどをリサーチしています。また、次世代のモビリティとして、陸上だけでなく、いわゆる“空飛ぶクルマ”の可能性についても考えています。
内藤 世界情勢やマクロ経済の動向を見ながら、産業界全体を俯瞰した上で、部としての重点領域を設定していますが、そこから先の具体的な取り組みについては、担当者が自身でテーマを決めて臨んでいます。自分で決めた以上は責任がありますし、やりがいを持って推進できるため、上司からテーマを強制することはありません。それぞれがリサーチした情報をチーム内で共有し、多面的に議論しながら産業課題の解決に挑戦しています。また、リサーチあってのプロデュース、という考え方の下、仮説を構築してお客さまと議論を重ねていく中で、足りないと感じる論拠や情報があれば、随時リサーチに戻って組み立て直す。そのように仮説検証を繰り返すことで、付加価値の創出に挑戦しています。
――チームの重要テーマである「自動運転」の社会実装に向けて、どのような取り組みを行っているのですか?

産業リサーチ&プロデュース部
R&D第一グループ エキスパート
堀井 崇志
堀井 当行は、2025年6月に自動運転のシステム開発と自動運転サービスを提供する米国のMay Mobility社に出資し、提携をしました。私たちは出資検討に向けた業界動向のリサーチなどを担当しました。出資理由は複数ありますが、米国ですでにデータ収集や実証実験が先行していたことは大きな要素でした。また、同社には日本の複数の大手企業が出資しており、日本企業の取り組みを後押しするという当部の方針に合致したことも理由です。
出資から間もなく1年になりますが、その間に配車サービス事業者との提携が本格化するなど、May Mobility社の事業は確実に拡大へと向かっています。投資家からの期待感も高まっており、2026年3月には追加出資も行いました。今後も同社の事業成長に向けて協働していきます。
なお、当行では、自動運転ソフトウエアの開発を手掛けるティアフォー社と、長期での融資契約を締結しています。また、グループ内のベンチャーキャピタルである三菱UFJキャピタルでは自動運転のAI開発を手掛けるTuring(チューリング)社に、コーポレート・ベンチャーキャピタルである三菱UFJイノベーション・パートナーズではオランダのMoove(ムーブ)社に出資するなど、自動車関連のスタートアップへの支援はMUFGグループ全体で行っています。
日浦 自動運転は新しいテクノロジーであり、中国や北米、英国など世界で多くのスタートアップが生まれています。どのようなサービスや製品が勝ち筋になっていくかの見極めは非常に難しいことですが、私たちが持つお客さまや有識者との接点を生かし、対話をしながら我々自身の見立てを構築し、さまざまな支援に取り組んでいます。

名古屋市では、May Mobility社の自動運転装置を搭載した2台の自動運転車両を用いて、市内3カ所を結ぶループ走行の実証実験を実施

2026年に米国でローンチ予定のUber Technologies社との協働に使用する車両
――2026年1月には「自動運転フォーラム2026」を開催しました。この目的や概要について教えてください。
石川 前述の通り、自動運転領域のリサーチや、米国企業をはじめとした自動運転関連企業への支援を行っていますが、やはり国内で自動運転が実装される社会を目指していきたいと強く思っています。高齢化やドライバー不足に直面する中、地域交通の維持が難しくなっている日本で、どのようなアプローチをすれば自動運転が普及するのか。この問いに向き合い続ける中で、安全性をはじめとした自動運転に関する情報が正しく発信されておらず、人々の理解が深まっていないことや、新たな産業として立ち上がるためのエコシステムがまだ構築しきれていないことといった課題を痛感しました。そこで、多くのお客さまとの接点を持つ金融機関の強みを生かし、自動運転の社会受容性の向上や普及に向けた機運の醸成にアプローチしていきたいと考え、「自動運転フォーラム2026」を開催しました。
当日は、自動運転に関連する省庁や企業による基調講演やパネルディスカッションを行っていただき、実装に向けた有意義な議論ができました。参加者からも「自動運転に対する理解が深まった」と、ポジティブな反応を多くいただきました。今後、より具体的な課題にアプローチしていくための良いきっかけになったと感じています。ただし、イベントを1回開催しただけで機運が高まるわけではありません。内容をブラッシュアップさせながら継続し、自動運転の社会実装を通じて、人口減少時代における地域交通の維持といった社会課題の解決に貢献していきたいです。

産業リサーチ&プロデュース部
R&D第一グループ 書記
小見山 萌
小見山 自動運転というテーマにフォーカスして、お客さまに限らず広く一般の方にまで発信する初の機会だったこともあり、準備は試行錯誤の連続でした。大変なこともありましたが、多くの学びも得られました。例えば、参加者のアンケート回答を見ると、ドライバー不足や交通空白の解消の課題に高い関心があることが改めて確認できました。また、自動運転を導入するとなると、現時点ではどうしても既存サービスよりも価格が高くなってしまいます。「価格上昇をどれくらい許容できるか」という質問に対して、参加者の約半数が2割程度の上昇は受け入れられると回答しており、自動運転の必要性を理解していただいていることも明らかになりました。
内藤 実は、広く一般の方をお招きすることに対して、当初は迷いもありました。ただ、社会機運を高めるためには挑戦すべきだというメンバーの声に後押しされ、門戸を広げた開催に至りました。結果的に約950人もの方々にご参加いただき、アンケートを通じて多くの示唆を得ることができました。
2026年1月、「自動運転フォーラム2026~社会実装に向けた課題と展望~」が開催された。自動運転に関連する省庁や国内外の企業が登壇し、三菱UFJ銀行の取引先だけでなく、一般聴衆も参加。来場とオンライン視聴を合わせた約950人の参加者に向けて、自動運転における現状の課題や実装に向けた意見交換が行われた。
――最後に、皆さんの今後の展望についてお聞かせください。
日浦 私はグループのリーダーとして、また長くモビリティ領域に携わってきた個人として、今後も銀行内外に向けて高い存在感を発揮し、モビリティ産業の競争力強化に向けて尽力したいと考えています。社会課題の解決に向け、常に新しい取り組みを高いレベルで成し遂げていけるよう、アクティブに活動していきたいです。
堀井 MUFGグループのパーパスは「世界が進むチカラになる。」です。私自身は「自動車産業のチカラになる。」というテーマを掲げて仕事に向き合っています。銀行は自動車を製造しているわけではありませんが、自動車に携わる幅広い企業とのつながりを持っています。その強みを生かしてお客さまを支援していきたいと考えています。また、リサーチ業務については「AIに負けないこと」も意識しています。技術の進化はめざましく、時に負けそうになるのですが、気が利いていたり、少し泥臭かったり、人にしかできないリサーチを追求していきたいですね。
小見山 産業リサーチ&プロデュース部では、リサーチするだけでなく、自分で課題を見つけ、銀行としてできることは何かを考え、アクションを起こしていくことが求められます。非常に難しい業務ですが、今回のフォーラムのように、一歩進むことができた時、部署としても個人としても成長できるのだと実感しました。モビリティという広い産業で、継続して知識を蓄え、お客さまに対して何ができるかを考え続けていきたいと思います。

産業リサーチ&プロデュース部
R&D第一グループ 調査役
石川 悠太
石川 お客さまは課題解決に向けて真剣に取り組んでいます。その過程では悩むことも多々あると思います。私たちも一緒に考え、学ばせていただきながら解決策に落とし込んでいく。そこに大きなやりがいを感じています。金融領域はもちろん、非金融領域も含めて、お客さま、ひいては社会全体に貢献していきたいですね。
内藤 MUFGグループでは、サステナビリティ経営における10の優先課題を設定しており、その一つに「産業育成・イノベーション支援」を掲げています。自動運転はまさに新しい産業が生まれる起点であり、イノベーションが起こる大きな転機でもあります。新しい産業が成長して世の中の課題を解決し、より拡大することは、日本の経済成長を考える上で非常に重要です。また、モビリティ領域以外にも、半導体やデジタルインフラ領域など、強化すべき日本の産業はたくさんあります。お客さまとの「価値共創」を通じて、日本の産業を活性化させる仕事にまい進していきたいと思います。