多くのオフィスや自治体庁舎でZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化が進む一方、「最新のはずなのに快適ではない」という声も聞かれる。その背景には、計算上の省エネ性能(BEI)を優先するあまり、居住者の体感が置き去りにされてきた構造がある。本連載では、ZEB化支援の第一人者であるZEB株式会社・山口卓勇氏が、実務の最前線から「窓」が果たすべき真の役割を解説する。数値には表れにくい窓際環境の改善が、いかに建物の価値を高めるのか。既存ビルの「居ながら改修」まで含め、全3回で詳しく読み解く。

【第1回】 ZEBと窓ガラス
~「計算上の省エネ」の落とし穴~

ZEB株式会社

代表取締役

山口 卓勇 氏

<保有資格>
エネルギー管理士 / 第2種電気主任技術者
/ 建築設備士 / 第二種電気工事士
/ CxPE(性能検証技術者)

はじめに

 はじめまして。ZEB株式会社の山口卓勇です。

 私たちは、既存建築物や新築ビルのZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化支援や、性能検証(コミッショニング)を専門に行っている会社です。

 昨今、オフィスや学校、自治体庁舎の建設において「ZEB」は当たり前の目標となりました。しかし、多くの設計現場や施主様との対話の中で、私はある「誤解」と出会うことが少なくありません。それは、「BEI(省エネ性能指標)の数値さえ良ければ、良いZEBである」という誤解です。

 今回は、実務の最前線から、計算値には表れにくい「窓ガラス」の本当の価値についてお話しします。

ZEBの成績表「BEI」の正体

 ZEBを目指す際、必ず直面するのが「BEI(Building Energy Index)」という指標です。これは、基準となる建物に比べて、どれだけエネルギーを削減できたかを表す数値です。BEIが0.5以下なら50%削減となり「ZEB Ready」の判定が得られます。

 施主様も設計者様も、まずはこの数値を下げることに注力します。「窓の断熱性能を上げれば、BEIは劇的に下がるはずだ」と期待されることも多いのですが、実務上の計算を行ってみると、意外な現実に直面します。

 オフィスや学校のような非住宅建築において、窓の断熱性能を一般的な複層ガラスから高性能なLow-E複層ガラスや真空ガラスに変更しても、BEI の削減幅は経験的に最大でも0.05 程度で、多くの場合はそれ未満にとどまります。

なぜ窓の効果は
計算に出にくいのか

「高性能な窓を入れたのに、なぜ数値があまり変わらないのか?」

 その理由は、オフィスや学校特有のエネルギー消費構造にあります。住宅とは異なり、人が多く集まる非住宅建築では、パソコンや照明、人体からの「内部発熱」が非常に大きくなります。

 さらに、在室者の健康を守るために大量の新鮮な外気を取り入れる「換気」が必要です。

 オフィスビルの空調エネルギーの大部分は、この「換気負荷(外気負荷)」と「内部発熱処理」に費やされます。壁や窓から逃げる熱(貫流熱負荷)の割合は、住宅に比べて相対的に小さくなってしまうのです。

 極論を言えば、窓の性能がそこまで高くなくても、超高効率な空調機を入れ、照明をLED化して制御すれば、計算上の「ZEB」は達成できてしまいます。

「我慢の省エネ」を
作ってはいけない

 ここで、一つの危険なシナリオが生まれます。

 BEIの数値を下げることだけを目的に、設備の能力をギリギリまで絞り、窓を小さくして熱の出入りを物理的に遮断し、照明を暗くする。そうすれば、数値上は優秀なZEBができあがります。

 しかし、そこに完成するのは「夏は暑く、冬は寒く、薄暗い建物」です。

 ZEBの評価制度は、あくまで「一次エネルギー消費量」を評価するものであり、室内の「快適性」は評価対象外だからです。

 「最新のZEBビルなのに、窓際が寒くて仕事にならない」

 「省エネのために、少しの暑さは我慢してほしいと言われた」

 このような建物で、従業員や学生の皆様は生き生きと活動できるでしょうか?

企業や自治体が目指すべき姿勢

 現代社会において、企業や自治体に求められているのは、単にCO2を減らすことだけではありません。「人を大事にし、環境も大事にする」という姿勢です。

 従業員の快適性を犠牲にした省エネは、不満を生み、生産性を下げ、長続きしません。特にZEBは「省エネ」という言葉と強く結びついているため、快適性が低いと「省エネのせいで我慢させられている」という強い反発を招くことさえあります。

 だからこそ、私たちZEB株式会社は提言します。

 ZEBにおいて開口部の断熱を強化する理由は、BEIの数値をコンマ数ポイント下げるためではなく、「圧倒的な快適性を手に入れるため」であると。

 断熱性能の高い窓は、外気の影響をシャットアウトし、窓際でも快適に過ごせる空間を作り出します。

 「快適だから、結果的に無理なく省エネができる」。これこそが、私たちが目指すべき本質的なZEBの姿であり、その鍵を握るのが窓ガラスなのです。

 次回は、窓の性能が具体的にどう快適性に直結するのか、そのメカニズムを解説します。

【注釈】

  • ZEB(Net Zero Energy Building): 省エネと創エネにより、年間の一次エネルギー消費収支をゼロにすることを目指した建物。
  • BEI(Building Energy Index): 設計一次エネルギー消費量を、基準一次エネルギー消費量で割った値。

計算上の数値以上に重要なのが「快適性」です。次ページでは、窓の性能が人の体感温度や健康にどう関わり、不快感の源とされてきた「窓際」をどのように変えられるのか。そのメカニズムを解説します。

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