



パナソニックグループのIT事業を担う3社が一つになる。それぞれ異なる強みを持ちながら、グループ内外でデジタルサービスを提供してきた事業体が統合することで、何が生まれるのか。アナリティクスソリューション統括部の黄地綾子統括部長は、まずその背景をこう語る。「グループ内でITのリソースと知見が分散し、スケールメリットを生かしきれていませんでした。『One Panasonic IT』として力を結集するための統合です」。
グループ内で磨いてきたノウハウを、製造業をはじめとする一般市場に展開し、日本のデータ変革を共に支えていく――黄地氏はそう意気込む。エンタープライズソリューション部の林大介部長は「One Panasonic ITとしてリソースやノウハウを継承することで、グループ内外のお客様に対してよりワイドな支援ができるようになりますし、一般市場への外販においても貢献できる領域が確実に広がってきているという期待感があります」と語る。
統合により際立つのが外販強化への本気度だ。グループ内向けには現在までに38,000名以上・70部門以上が利用。研修には延べ1,500名以上が参加し、データ活用イベントには延べ6,000名以上が集まってきた実績を持つ。CXソリューション部 マーケティング・販売課の栗岡舞課長は「私たちは10年以上データ分析をやってきました。グループ内で磨いた成果をここで外に出せると考えています」と述べる。EXソリューション部 SCM・製造課の土屋昌宏課長も「我々には、パナソニック ソリューションテクノロジーのMESをはじめ、家電や家・電池・半導体など多様な製品群を擁するパナソニックで培われたデータ活用の経験があります」と期待を語る。
黄地氏が率いる組織のビジョンは「お客様、およびパナソニックグループのあまねくビジネス現場において、当たり前に、データ分析・活用がなされる姿」。ミッションは「データを価値に変えることに挑戦し続ける現場の皆さまに寄り添い、共に成果を追求する」ことだ。
新生パナソニック デジタルが打ち出すデータ利活用サービス・プラットフォームが「DataVein」だ。それは「現場で働く一人ひとりがデータドリブンな意思決定を実現できるよう、主体的かつスピーディーなデータ活用を支援する、現場伴走型の分析総合支援サービス」と定義される。Veinというワードには、その思想が込められている。「あらゆる事業現場には、まだ活用されていない多くのデータが鉱脈(Vein)のように眠っています。その未開の可能性を発見し磨き上げることで、ダイヤモンドのように輝くビジネス価値へと変わっていきます」と黄地氏は語る。
サービスは3本の柱で構成される。第1の柱「業務プロセス革新」では、プロセスマイニングやビジネスアナリシスを駆使して業務の現状を可視化・体系化し、抜本的な業務変革へのロードマップを策定する。第2の柱「意思決定インテリジェンス」では、統計解析・機械学習・生成AIなどを組み合わせ、意思決定に使い続けられるデータ活用の仕組みを構築する。第3の柱「分析活用・自走化支援」では、ツールレクチャーや研修、コミュニティ形成を通じてデータ活用の文化を組織全体に根付かせるまで伴走する。今回のパナソニック デジタル発足にあたり、ビジネスアナリシスコンサルティングのメニュー化、生成AIの活用領域への追加、自走化支援サービスの拡充という3点が強化された。
「ビジョンは描けているものの具体的なアクションに落とし込めていない、ツールの導入で満足してしまっている――そうした状況が、DXの定着を阻んでいるケースが多いのではないでしょうか」と黄地氏は指摘する。DataVeinが一線を画するのは、3本の柱が連動し、一気通貫で機能する点だ。想定効果が出るまでフォローし、顧客の「文化」まで変えていくことを目指している。
黄地氏は「3つの柱に内包される様々な機能を、お客様の状況とニーズに応じて組み合わせてご提供できます。柔軟に対応しながらも、成果が出るまで伴走する姿勢は変わりません」と語る。この伴走力を支えるのが、経営管理・マーケティング・製造SCM・カスタマーサポートにわたる32テンプレート・330事例以上のベストプラクティスと、ビジネスアナリストからデータサイエンティスト、生成AI活用まで一通りのスキルを持ち合わせた専門人材たちだ。
実績は抽象的な言葉にとどまらない。パナソニック デジタルが掲げるのは、「成果が出るまで現場ドリブンで伴走し続ける」という姿勢だ。これら蓄積してきたノウハウがどう機能するのか。3つの事例が、その実力を物語る。以下にそれぞれの取り組みと成果を見ていこう。
土屋氏が取り組んだのは、製造業A社の生産現場改革だ。生産計画への遅延が頻発し、残業でカバーしても計画コストは大幅に超過していた。まず着手したのはビジネスアナリシスによる課題整理だ。経営者と現場双方へのヒアリングにより広く問題を収集し、経営成果につながる現場課題を掘り起こす。今回は、計画リードタイム適正化と製造ロス削減にフォーカスした。「何をすれば本当に良くなるのかを課題レベルに落とし込んでから、初めてDXの施策に入ります。いきなりシステムを入れるのではなく、まずビジネスの課題認識と現場理解があって初めて正しいアプローチが選べます」と土屋氏は強調する。
製造ロス削減に向けて、設備ごとのOEE(総合設備効率:稼働×性能×品質)を計測しリアルタイムで可視化するダッシュボードを構築し、ロスを要因別に掘り下げた。「70%だったOEEを90%にという目標を責任者と握り、朝会の開催やWIPボード(仕掛かり中の作業を管理)の設置など、データだけでなく現場の習慣ごと変える支援をしています」と土屋氏は説明する。品質改善にも機械学習を活用。「製造ラインに実際に赴いて現状を確認し、現場と共に仮説を作りながらアプローチを検討しました。データだけでなく、ものづくりを理解してこそ、適切なDXができます」と土屋氏は強調する。
成果として可動率が約20%、歩留まりが約15%向上し、残業削減にもつながった。「経営のKGIと現場のKPIが紐づいているから、見える化により継続的に成果をモニタリング、DXが継続されます。『一瞬だけ良くなったけれど、半年後にはまた元通り』という事態を防げます」と土屋氏は説明した。
栗岡氏が手がけたのは、パナソニックグループ内のBtoC製造業の支援だ。膨大な品番と多様な販売先を抱える同社では、受注生産から見込み生産方式への転換と高精度な需要予測が課題だった。当初はDataVeinの第2の柱「意思決定インテリジェンス」から着手したが、天災など外部要因の影響が大きい品番では精度向上に限界があると判明。「予測精度を上げるより、業務プロセスそのものを変えた方がいい」と判断し、第1の柱「業務プロセス革新」へとアプローチをシフトした。
5~6年に及ぶプロジェクトで特筆すべきは定着化支援だ。当初、流行に乗っかって設けたオンラインコミュニティは閑古鳥が鳴く状態が続いた。現場に理由を聞くと「自分のレベルが低いと思われるのが怖い」、「知らない人にオンラインで聞くことに抵抗がある」という声が返ってきた。そこで栗岡氏が週1回現場に常駐し、対面で質問に回答する機会を設け、午前は自由参加・午後は予約制とした。すると定時を超えてしまうほど参加者が集まるようになり、そこで参加者同士が交流することもあり、半年後にはオンラインコミュニティが逆に活性化した。栗岡氏は「フェーズとともに提供スタイルを変えながら、現場への定着を図ります」と、徹底した伴走支援について語った。


パナソニック デジタルの伴走は、製造現場の課題解決だけでなく、経営・事業戦略全体へとスコープを広げている。業務プロセスをデータで可視化する「プロセスマイニング」の可能性について、林氏はこう語る。
「経営者がシンプルだと思っていたプロセスが、データで見るとスパゲッティ状態になっていることは珍しくありません。人間ドックのように、まず業務全体をデータを使って観察し、本人も気づいていない問題を科学的に診断していく。それがプロセスマイニングの本質です」
ある製造業C社の支援では、工場の生産管理改善から始まったプロジェクトが、やがてバリューチェーン全体へと広がった。プロセスマイニングを用いて、バリューチェーン視点で複数の関連プロセスを横断的に可視化したところ、海外工場において、調達プロセスが属人化していた結果、仕入れ先への支払いが滞留する構造的な課題が明らかになった。林氏は「担当者の方が気づいていなかった類似データをAIで照合し、重複支払いのプロセスを提示した結果、大幅なキャッシュフロー改善につながりました」と振り返る。
「エンタープライズバリューフレームワーク」と呼ばれる手法も活用する。経営目標(KGI)から業務機能・DX施策までを階層で紐づけ、経営と現場をつなぐものだ。「現場でやっていることと、経営者が目指している方向が本当につながっているのかを、データとプロセスで可視化していく。そこに優先すべき課題が見えてきます」と林氏は述べる。一つの現場での実績が経営全体の課題発見へと連鎖していく——それがDataVeinを活用した伴走の広がりだ。
「現場ドリブン」——パナソニック デジタルがサービスの根幹に据えるこの言葉に、4名それぞれの思いが込められている。
林氏は「経営者と現場をつないで、AIとデータの力で現場のパフォーマンスを最大化させることが現場ドリブンの本質です。従来の経験と勘の強さを、データでさらに最大化させていきたい」と語る。土屋氏は「現場の事情とモノづくり特性を理解し、よりよい形を現場と共に作り上げていくことが現場ドリブンだと思っています。モノづくりをわかること、事業の価値をわかること。そのためには、どんな現場にも赴きます」と力を込める。栗岡氏は「やらされ仕事から自分ごとへ。データを使おうと上から言われるのではなく、自発的に使いたいと現場が思える状態に持っていく。それが私の考える現場ドリブンです」と述べる。
栗岡氏がさらに加えた言葉に、チームの総意が宿っていた。「歴史あるパナソニックグループでできたなら、日本全体でもできるはずです。データ利活用から、日本の製造業を変えていく力になりたいです」
パナソニックグループという実際のフィールドで、失敗し、成功してきた経験から生まれた、生きたアプローチを提供するのがDataVeinだ。黄地氏は最後に次のように語った。
「パナソニックグループの『実践知』と『現場に寄り添うDNA』が強みです。私たちは、コンサルティングからデータ収集・蓄積・加工・高度な分析、AI活用まで、単なるツール提供や提案で終わらず、現場で使える仕組みを構築し、想定効果が出るまで徹底的に伴走します。データ活用をお客様の『文化』として定着させ、自律的な価値創造を支援。パナソニックの『現場力』で、データドリブン経営の実現を共に目指しましょう」