施工管理の変革に挑む
積水ハウス×PwCコンサルティング

データを生かした「施工管理DX」で建設業の業務効率化、生産性向上を目指す

データを生かした「施工管理DX」で建設業の業務効率化、生産性向上を目指す
施工従事者の高齢化や若手入職者の減少、長時間労働の常態化など、建設業の施工現場は様々な課題に直面している。そうした中、中長期的な視点で施工環境の変革に挑んでいるのが積水ハウスだ。土台となるデータドリブンな次世代施工管理システムを構築するため、PwCコンサルティングと共に取り組みを推進してきた。これまでの経緯や目指す未来について、キーパーソンに聞いた。

施工管理を高度化し、
施工従事者や工事店にも貢献したい

――「施工管理DX」に挑むことにした背景と、今回のプロジェクトの狙いを教えてください。

濱田氏 インターネットやクラウドが広く当たり前のものになる中、建設業界はまだ「閉じた世界」が主流だと感じています。この状況を脱却し、デジタルを活用して業務を可視化したり、暗黙知を形式知化したりすることで、新しいスタンダードを確立したいと考えていました。
積水ハウス株式会社 業務役員 施工本部長 濱田 庸司氏
積水ハウス株式会社
業務役員 施工本部長
濱田 庸司
菊地氏 当社は、大手住宅メーカーとしての責任から、社内人材の働き方改革や労働環境改善だけでなく、施工従事者・工事店などビジネスパートナーの年収安定化、経営安定化も強く意識しています。これらを実現するための土台になるのが「施工管理」の見直しだと考えました。現場に関わる全ての方の業務を効率的に調整・管理することで、業務環境の適正化、公平性・安定性の向上につなげる狙いです。

北村氏 これまで積水ハウスでは、施工管理業務に独自開発の基幹系システムを使用してきました。しかし、運用開始から20年以上の間に機能追加や改修を繰り返してきた結果、レスポンスが低下し、それがスムーズな業務の阻害要因になっていました。

 基幹系システムはかねて刷新計画を進めていましたが、その完了を待っていては目の前の施工管理業務が滞ってしまいます。そこで、先行してクラウド型建設プロジェクト管理サービス「ANDPAD」を導入することにしたのです。

 グループ各社の社員、工事を委託する外部の工事店などがANDPADを共通システムとして利用することで、図面、工程表、検査記録、入退場記録などの施工データを一元管理できるようになります。進捗状況をデータとして記録・共有することで、現状を可視化できますし、様々な改善打ち手に活用することができます。浸透すれば、業務環境の大幅な改善を図ることができると考えました。

――プロジェクトのパートナーにPwCコンサルティングを選んだ理由を教えてください。

菊地氏 建設業界に特化したチームを持っており、施工管理を含む業務の経験者が多数在籍している点に魅力を感じました。

 また、システム刷新プロジェクトを推進する際に必須になる深い業務理解と、将来を見据えた業務改革の力を兼ね備えている点も重要でした。単なるシステム導入にとどまらず、業務のあるべき姿を考えて必要な仕組みに落とし込む。このプロセスに伴走してもらえると考えました。

北村氏 加えて、ITに強いことも魅力でした。基幹系、アプリケーション、インフラやサイバーセキュリティーなどの広範な知見を有しており、業務とITの両方で頼りになるパートナーだと感じました。

赤木氏 ありがとうございます。建設業、製造業など、ものづくりの経験、知見が積み重なっている現場は、ツールを適用すれば改善するような簡単な世界ではありません。時流に即した標準化、データの可視化に取り組むことは当社にとってもチャレンジングでしたし、気持ちを引き締めてチーム一丸となってご支援してきました。
PwCコンサルティング合同会社 執行役員 パートナー 赤木 信太郎氏
PwCコンサルティング合同会社
執行役員 パートナー
赤木 信太郎

3つの主要スコープを軸に
プロジェクトを推進

――「①全社標準の施工管理ツール導入」「②従事者管理アプリの刷新」「③施工力の可視化・利活用」の3つをプロジェクトの主要スコープに掲げられました。それぞれの内容を教えてください。

菊地氏 ①と②は、ANDPADを、当社のみならずグループ標準の施工管理ツールとして位置付ける取り組みです。各社でばらばらだったツールを統一することで、施工従事者や工事店のデータを集約できます。これにより、施工従事者の管理を高度化・効率化する狙いです。

 そして、その仕組みを基に目指すのが③です。全現場の業務状況や人的リソースを可視化し、需給調整を行うことで、施工従事者や工事店の稼働最適化を推進します(図1)。これを実現できれば、ムリ・ムダ・ムラのない工程計画を作成し、工程管理において突発的/想定外の計画見直しによる施工力確保のための調整業務の負荷低減を実現でき、当社の業務効率化や生産性向上はもちろんのこと、関わる工事店などに業務を適切に配分できるようになり、取引の公平性の向上、各社の収益安定化にも貢献できるようになります。関わる方全員にメリットをもたらす仕組みを実現することが、当社の狙いでした。 北村氏 とはいえ、その過程では難しい問題にもぶつかりました。例えば、会社間ではシステムが、拠点間ではコードがばらばらだったために、データを集めてもそのままでは活用できない状態だったことはその1つです。集めた後、整理して読み替え・変換などを行ってからマスタを作成する必要があり、そこに多大な工数がかかることが判明したのです。

――課題解決に向けて、PwCコンサルティングはどのような提案を行ったのですか。

成田氏 クライアントと一緒に状況を整理した上で、最適なデータ形式や変換の仕方などを検討しました。統一したデータ基盤を設けることで、あらゆるシステムが「共通言語」でコミュニケートできるような仕組みを目指しました。

小松氏 今回のプロジェクト以外にも、当社はこれまでPwCコンサルティングと数々の取り組みを共に進めてきました。そこでも、非常に高い能力を感じました。ビジネスをグローバルに展開する中で収集した知見・ノウハウを基に、最新の仕組みを実現してくれたと感じています。
積水ハウス株式会社 執行役員 ITデザイン部長 小松 洋一氏
積水ハウス株式会社
執行役員 ITデザイン部長
小松 洋一

プロジェクトに関わる全員が
同じ方向を向くためには

――菊地さん、北村さん、北原さん、成田さんはいずれもプロジェクトマネージャーとしてプロジェクトをけん引しました。どのような頻度で、どんなコミュニケーションをとったのでしょうか。

積水ハウス株式会社 施工本部 施工業務改善チーム エグゼクティブ・スペシャリスト 菊地 康幸氏 PwCコンサルティング合同会社 Industrial Manufacturing & Automotive Industrial Manufacturing and Engineering & Construction シニアマネージャー 北原 圭氏
積水ハウス株式会社
施工本部 施工業務改善チーム
エグゼクティブ・スペシャリスト
菊地 康幸
PwCコンサルティング合同会社
Industrial Manufacturing & Automotive
Industrial Manufacturing and Engineering & Construction
シニアマネージャー
北原 圭
菊地氏 フェーズによって変わりますが、最初の業務要件整理の頃はテーマが多岐にわたるため、ほぼ毎日2時間以上、週20時間はオンラインで顔を合わせていましたね。

北村氏 システム関連は別のミーティングでも協議していたので、全体としてはさらに多くの打ち合わせがありました。カレンダーは毎週、ほぼ会議で埋まっている状態でした。

北原氏 ほかにも大勢が関わるプロジェクトなので、はじめは全員で同じ方向を向くことがなかなか難しいと感じていました。そのような場合、社内調整に当たってはどうしてもクライアントの協力が必要になりますが、菊地さん、北村さんにコミットいただいた結果、目線を揃えることができました。何でも相談できる関係性をつくっていただいたことに、非常に感謝しています。

成田氏 また、ANDPAD導入に伴うグループ横断の業務標準化、業務・データ標準化の先にある工事・施工力データ可視化の取り組みに関しては、菊地さんをはじめ、皆さんが実際に全国の事業所を一つひとつ回って説明会を行ったり、プロジェクトの活動の中で各社のリーダーメンバーとコミュニケーションを図ったりしてくれました。これを通じて、導入する目的や意義、スケジュールなどを共有できたことは大きかったと思います。

菊地氏 ツールが変われば業務が変わるので、現場に周知して理解を得ることは必須です。これをやったことで、現場の同意を得ながら進めることができたと考えています。

――プロジェクトをスムーズに進めるため、PwCコンサルティングではどのような点を意識しましたか。
積水ハウス株式会社 ITデザイン部 IT戦略室 技術プロジェクトグループ グループリーダー 北村 信也氏 PwCコンサルティング合同会社 Technology & Digital Consulting Digital & AI Transformation マネージャー 成田 守氏
積水ハウス株式会社
ITデザイン部 IT戦略室
技術プロジェクトグループ
グループリーダー
北村 信也
PwCコンサルティング合同会社
Technology & Digital Consulting
Digital & AI Transformation
マネージャー
成田 守
成田氏 限られた期間で成果を出すため、手戻りは極力抑える必要があります。そこで私たちがいつも意識しているのは、「何をすれば次の工程がスムーズに進むのか」ということです。「クライアントや外部ベンダーの誰に、何をお願いするべきか」「これを後回しにすると、どこが詰まるのか」――。常に先回りして考えながら伴走することを心掛けました。

 やり取りの中では、あえて強い言葉でお伝えすることもあったと思います。しかし、それも含めて、プロジェクトマネジメントにおいて不可欠なコミュニケーションだと私は考えています。

北原氏 また、昨今のプロジェクトは、どれも業務とITを切り離して進めることはできません。そのため当社では、様々なプロフェッショナルが連携してクライアントに伴走する体制を採っています。クライアントの業務ドメイン、プロジェクトマネジメント、ITの3つを横断しながら、あらゆるフェーズで最適なサポートを行える点を、当社の強みとして位置付けています。

仕組みの定着化を進め、
将来的にはAI活用も視野に

――2026年3月からANDPADの利用、工事・施工データの利活用を開始しています(図2)。ここまでの手応えやPwCコンサルティングへの評価を教えてください。
菊地氏 まだ運用開始直後ですが、管理側・現場側ともに前向きな変化を感じています。今後、システムの性能向上や業務の標準化によって、効率化や生産性向上などの成果が見えてくると期待しています。

 PwCコンサルティングについては、特に要件定義のフェーズにおいて高い手腕を実感しました。様々な論点を広げては収束させ、合意形成を図っていく中で、最適な答えを導き出してくれたと思います。

北村氏 ITの観点では、マルチベンダーが関わる複数のシステム領域の開発を並行して進める際のプロジェクト管理、ベンダー管理にPwCコンサルティングのノウハウが生きたと感じています。

――最後に、積水ハウスの施工管理DXについて今後の展望をお聞かせください。

小松氏 厳しい人手不足の中で、いかに施工力を高めるか、そして効率化を図るかが建設業各社に求められています。それにはデジタル技術の活用が不可欠ですが、そのために必要な環境を、PwCコンサルティングと共につくり上げることができたことをうれしく思います。これからは、その価値をどう引き出すかが私たちに問われています。効率的に運用を定着させる方法を考え、実践することで、エリアや事業所、物件などの様々な単位で、施工力の最適な需給調整を実現できればと思います。

濱田氏 さらに、施工管理DXの延長線上に見えてくるのがAI活用です。例えば、施工現場の管理を人の経験に頼るだけではなく、収集・蓄積したデータを基にAIが安全管理、品質管理を支援することで、人はクリエイティブな業務に集中できるようになります(図3)。このような一層の業務効率化、生産性向上につなげる方法も引き続き考えていきたいですね。 赤木氏 現状の課題を解決するための提案はもちろん、AI活用をはじめとする新しい取り組みに向けても、当社は様々なご提案が可能です。その際は、ぜひまたご一緒できればと思います。

プロジェクトでは両社の「次世代現場リーダー」も活躍

写真左から、積水ハウス河﨑氏、PwCコンサルティング日野氏、積水ハウス村上氏、PwCコンサルティング大貫氏
写真左から、積水ハウス河﨑氏、PwCコンサルティング日野氏、積水ハウス村上氏、PwCコンサルティング大貫氏
  • “全社横断の大規模プロジェクトで印象に残った経験、学びはありましたか。”
    「協力会社様まかせにするのではなく、自分たちがオーナーであるという意識で物事を判断し、関係者を巻き込んでベクトルを揃えることの難しさを痛感しました。プロジェクト規模が大きいほど関係者や付随プロジェクトが多くなるため、仕組みをつくる以上に、主体性を持って取り組むことが肝心です。それが、前に進むために不可欠だと分かりました」
    積水ハウス株式会社
    ITデザイン部 情報システム推進室 建築管理ストック情報グループ 村上 峻一氏
  • “PwCコンサルティングとの協働を通して、自分が成長したと感じる点はありますか。”
    「プロジェクト全体の進め方の『あるべき姿』を学ぶことができました。当社はこれまで独自のやり方でシステム構築を進めてきましたが、今回は各社・各部署の関係者の課題や論点を整理し、要件定義から設計・開発までを切り分けて進めました。論点の整理方法や手戻りのリスクを抑えたスケジュール作成、ベンダーコミュニケーションの方法など、様々なことを学び、成長できたと思います」
    積水ハウス株式会社
    施工本部 施工業務改善チーム 河﨑 大樹氏
  • “プロジェクトを伴走支援する中で、どのような気付きがありましたか。”
    「今回は積水ハウスグループ各社の業務を、特性ごとに8つに分類して要件定義を行いました。その際、各社横並びで比較するために業務の粒度を揃えたり、共通課題を抽出して全体の議論にかけたりするプロセスに非常に苦労しました。そこで得たのは、たとえ泥臭いやり方になっても1つずつ丁寧に確認することが一番大事だという気付きです。地道に議論を重ねて、合意をとっていく進め方が、結局は最短経路になるのです」
    PwCコンサルティング合同会社
    Industrial Manufacturing & Automotive, Industrial Manufacturing and Engineering & Construction 日野 光氏
  • “今回の経験を、今後のキャリアにどう生かしていきますか。”
    「上流工程である構想策定・要件定義と、下流工程である開発・リリース支援の両方にワンストップで関わることができました。そこでは、プロジェクト全体を俯瞰的に見てドライブすることの重要性を学びました。この経験を生かして、業務とシステムの橋渡しはもちろんのこと、より高い視座で全体最適を考え、意思決定を行える人材になりたいと思います」
    PwCコンサルティング合同会社
    Technology & Digital Consulting, Digital & AI Transformation 大貫 駿介氏
PwCコンサルティング合同会社

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