“敵”の現状や思惑を知り、先手を打って守ることが重要に
AIの普及が、サイバー攻撃のスピード化・高度化という新たな問題の要因になっています。もはや水際で防ぎきることが困難な中、企業・組織が直面している状況、課題について教えてください。
柿澤Anthropicをはじめ、様々な企業が開発を進めるフロンティアAIの登場によって、サイバーセキュリティーの前提そのものが変わりつつあります。これらのフロンティアAIは、脆弱性の発見や分析を飛躍的に効率化し、防御側に大きな力をもたらします。一方で、攻撃者に悪用された場合には、従来とは質の異なるリスクを生み出す可能性があります。こうした変化を踏まえ、組織にはこれまでとは異なる視点で防御戦略を再構築することが求められています。
エリオットあぶり出されるすべての脆弱性に対応することは現実的ではありません。大切なことは「何が悪用され、攻撃されているか」という“敵”の現状を知り、「どんな被害が想定されるか」を分析する。その上で「何をどう守るか」、対応の優先順位付けをすることです。
この状況を受けて、日本では「サイバー対処能力強化法」や脅威ハンティングに関するガイドラインの整備が進んでいます。企業・組織はどのような対応を進めるべきでしょうか。
レスリー現代のスパイ活動や妨害工作、システムやデータへの攻撃といった活動は、単発で起こるのではなく、ある目的に沿った一連のものとして起こっています。しかも攻撃者は、極めて識別しにくい方法で侵入することで発見を遅らせ、守る側の意思決定者が取り得る選択肢を狭めてきます。
そのため、インシデント報告を受けてから意思決定する、といった従来のやり方では、より多くのコストやリソースを必要とする対策の選択肢しか残らない状態になってしまいます。VPNやファイアウオール、セキュアゲートウエイ、認証基盤、海外を含むグループ会社やサプライヤーとのコミュニケーションなどを継続的に可視化し、攻撃者の先手を打ち続けるための環境を整える必要があるでしょう。
柿澤攻撃者の先手を打ち続けるために必要なものが「脅威インテリジェンス」です。サイバー対処能力強化法は、従来型の受動的な防御から脱却し、脅威ハンティングをはじめとする「能動的な防御」への転換を促すものです。脅威インテリジェンスを活用することで、この転換をスムーズに進められるようになるのです。
既存セキュリティー製品のROIを高める「脅威インテリジェンス」
脅威インテリジェンスについて、もう少し詳しく教えてください。
柿澤日本では「インテリジェンス」と「インフォメーション(情報)」が同義のように扱われることがありますが、別物です。インフォメーションはいわゆる生の情報。インテリジェンスは目的に合わせて集めた情報を分析・評価して知見に変え、意思決定を支援するものです。攻撃を時系列で見て傾向を分析したり、攻撃元を特定したりすることで「いま何が起きているか」を読み解き、アクションの優先順位付けを支援します。
レスリー例えば、半導体サプライヤーにおける不審なVPNログイン、防衛関連企業からの認証情報の流出などは、統合的に分析されなければ正しい実態は把握できません。なぜなら、先端技術のアップデートや国家間の同盟関係、地域的な有事への備えといった様々な要素が、脅威の動向に影響を及ぼしているからです。
このインシデントは経済的利益が目的か、はたまた特定の国や組織を標的とした国家規模の戦略的活動の一環なのか――。脅威インテリジェンスはそれを見極める上でも不可欠です。
脅威インテリジェンスは、様々なベンダーが独自の手法で収集して顧客に提供しています。レコーデッド・フューチャーの脅威インテリジェンスはどのような点が特徴なのですか。
レスリー1つは、お客様のセキュリティー投資のROIを向上させるということです。現在の企業は、SIEM、EDR、ID管理ツールなど多様なセキュリティー製品に投資しています。当社は、多くのパートナーとのエコシステムに基づき、それらのツールと脅威インテリジェンスを連携させることが可能です。
多様なツールから上がる大量のアラートからノイズを減らし、デバイスの侵害、認証情報の悪用、通信の傍受、サプライヤー経由のアクセス、クラウド環境でのデータ窃取などを、高い精度とスピードで検知できるようにします。これにより、十分に使いきれていなかった既存のセキュリティー資産のポテンシャルを、より一層引き出すことができるのです。
知見やインサイトを提供するだけでなく、自律的なセキュリティー運用につなげる
柿澤もう1つは、単に知見やインサイトを得られるだけでなく、AI・自動化技術を用いて実際のセキュリティー運用につなげられることです。
AIが登場して以来、サイバーセキュリティーに関する経営層の関心が高まっています。一方、セキュリティー運用の現場は人手不足で、経営トップの要請にすぐ対応することができません。この点、我々はAIを駆使した「Autonomous Threat Operations(自律的脅威オペレーション)」というアプローチによって、人手を煩わせないセキュリティー運用を実現することを目指しています。
AIが人に代わってセキュリティー運用を担うのですね。
エリオットその通りです。また、Autonomous Threat Operationsの最大のメリットが「スピード」です。例えば、土曜日に自社がビジネスを展開する地域・業界で攻撃者の活動が確認されたとします。私が経営者だったら、月曜日の朝には、自社がその脅威にさらされているかどうかを把握し、即座に対処ルールを適用したいと考えるでしょう。しかし、これは人手による対応では困難です。
レコーデッド・フューチャーのAutonomous Threat Operationsプラットフォーム(図)を用いることで、脅威ハンティングや既存のセキュリティーツールと連携した対応を自動化できます。また今後は、AIが運用の全体像をより自律的に担えるように機能を拡張していく予定です。これにより、週末に検知した脅威についても週明け早々に的確に対処できるようになるでしょう。しかもその対応は、大部分をAIによる自律的な動きに任せられるのです。
図レコーデッド・フューチャーのプラットフォームの概要

AIの自律的な動きによって広範なアラートやイベント、データをリアルタイムに分析する。脅威インテリジェンスに基づき、先手を打った意思決定を可能にするほか、実際の運用も自律的に進めることが可能だ
今後、施行・公布される法令やガイドラインへの対応に際しても、レコーデッド・フューチャーのAutonomous Threat Operationsプラットフォームが大きな価値を提供してくれそうですね。
柿澤そう考えています。最初の監視対象の指定を人が行えば、脅威インテリジェンスをベースにハンティングルールが自動で設定されます。さらに今後は、AIが運用自体をより包括的かつ自律的に行う機能についても、ロードマップに基づきプラットフォームへの実装を進めていく予定です。そうすれば、人に依存している限りは難しい、継続的に脅威に対応し続けられる体制も、より容易に実現できるようになるはずです。
脅威インテリジェンスの利用を促進し日本のサイバー防御の高度化を支援する
企業・組織における脅威インテリジェンスの導入効果を教えてください。
柿澤国内のあるお客様は、脆弱性を検知後、すぐに問題を可視化して、翌営業日には必要なパッチを適用して問題を収束させました。このような対応は、人中心のセキュリティー運用では難しかったでしょう。
また、サイバーセキュリティーがほかの業務プロジェクトと異なるのは、「終わりのない活動」であるということです。「ここまでやれば十分」という状態がなく、登場し続ける脅威に延々対応し続けることが求められるため、セキュリティー運用の現場では燃え尽き症候群(バーンアウト)が深刻な問題になっています。
私たちは、このような高負荷でストレスフルな業務を人の手から切り離すことによって、セキュリティー運用の現場を支援したいと考えています。手作業に依存しない運用プロセスを構築・確立することで、現場の負荷軽減と人材の流出防止につなげることができます。セキュリティー運用業務の属人化も解消できるはずです。
今後、レコーデッド・フューチャーは日本市場でどのようなビジネスを展開していく予定でしょうか。展望と読者へのメッセージをお願いします。
レスリー日本のCIO、CISO、そしてビジネスリーダーの方々とお話しして強く感じるのは、彼/彼女らが企業や業界の枠を超えて情報共有を図り、大局的な視点でサイバーセキュリティーの強化に取り組もうとしているということです。
実際、これからの時代に求められる能動的サイバー防御を1社で実現することは困難です。必要なのは「コラボレーション」と「オートメーション」であり、この方向性で取り組みを続ければ、攻撃者に先手を打った守りを実現できると信じています。
エリオット当社にとって日本は、単なるマーケティング市場の1つではありません。産業のサプライチェーン、安全保障上の同盟国という点からも非常に重要な戦略的パートナーだと位置付けており、その重要性は世界屈指です。この考え方に基づき、これまでも日本が直面する固有のリスクを踏まえた対応能力、脅威インテリジェンスの拡充に努めてきました。これからも日本市場への投資を継続するとともに、多くのパートナーやお客様との連携を強化し、リスクに屈しない強靭な日本社会の実現に貢献していく考えです。
また、これからの時代のCISOには、セキュリティーに加えてビジネスにも積極的に関与することが求められています。なぜなら、昨今のセキュリティーリスクは、ビジネスプロセスに内在化した、切り離せないものとなっているからです。CISOの皆様には、高度な脅威インテリジェンスを基に経営層の決断を支援する、組織にとって欠かせない存在として、その存在意義を高めていただきたいと思います。
柿澤近年では国家を後ろ盾とした日本向けのサイバー脅威は高止まり傾向にあり、特に中国からの活動、ついで北朝鮮からの活動が活発なことが確認できています。その点、海外のCISOと話をすると、「日本企業のサイバーセキュリティー対策は、地政学的リスクと比較してまだ十分ではない」というコメントをいただくこともあります。
お伝えしてきた通り、リスクに先手を打つ上で脅威インテリジェンスが果たす役割は大きいです。ただ残念ながら、日本ではまだその価値が十分に理解されていません。そこで私たちは、脅威インテリジェンスの価値や活用法を紹介する勉強会なども実施しています。日本市場向けの専任チームが、この活動を伴走型で支援します。1人でも多くの方に脅威インテリジェンス、そしてAutonomous Threat Operationsの価値をご認識いただき、安全・安心なビジネスの実現にまい進していただければ、こんなうれしいことはありません。
これからも、長年にわたり蓄積してきたインテリジェンスの価値を日本のお客様にお伝えしていきます。パートナーとの連携も継続的に強化しながら、能動的サイバー防御の実現をご支援していくつもりです。




