従来より高い品質で、システム開発工数は10分の1に AI駆動開発を起点に実現するスパイスファクトリーの人材・組織・基盤“一体改革”

AIの急速な進歩によって、システム開発のあり方は劇的に変化している。多くの工数と費用を割いていた設計・開発・テストはAIの力で“瞬時”に完了し、人は要件定義や設計といった価値創造の領域だけに専念できるようになった。AI駆動開発によってもたらされるのは、単なる効率化だけではない。思い描いた仕組みを瞬時に実現させることで、人材・組織・基盤を一体改革できる可能性すら秘めているのだ。

システム開発の主戦場は下流工程から要件定義などの上流工程に

「AI駆動開発」――。数年前には、ほとんど誰も知らなかったこの言葉が、いまやIT業界だけでなく、一般企業にも広く浸透し始めてきた。

「こういうシステムを作ってほしい」と生成AIに命じるだけで、人の代わりに設計から開発、テストまでを行い、一瞬にして仕上げてくれる。簡単な業務システムやアプリだけでなく、重厚な基幹系や、洗練されたフロントエンドのシステムですら、要件定義さえしっかりと行えば、AIがその意を汲んで最適な形に作り上げる。こんな時代がやって来るなんて、いったい誰が想像しただろうか――。

「システム開発には、要件定義、設計、開発、テストの4つのプロセスがありますが、従来、その工数や費用の目安比率はおおよそ、1対3対3対3でした。ところが、設計からテストまでの工数と費用は、AIの力で何十分の一、何百分の一に圧縮されました。長年システム開発に携わってきた我々の肌感覚では、ほぼ“ゼロ”になったも同然です」

そう語るのは、企業のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を支援するスタートアップ企業、スパイスファクトリーの創業者で、代表取締役社長 兼 グループCEOを務める高木広之介氏である。

高木 広之介 氏

スパイスファクトリー

代表取締役社長 兼 グループCEO

高木 広之介

高木氏によると、AI駆動開発がユーザー企業にもたらす本質的なメリットは、開発そのものの効率化ではない。

「むしろ、これまで1割程度しか時間を割けなかった要件定義に、大半の時間を費やせるようになったことが革命的な変化だと言えるでしょう。その分、ユーザー企業と開発者との間で、『何をしたいのか?』『どんな仕組みを採り入れるべきなのか?』といった合意形成が深まり、より価値のあるシステムを、従来と同じ期間で、手戻りなく開発できるようになったのです」(高木氏)

AI駆動開発によって、システム開発の主戦場は、設計、開発、テストなどの下流工程から、要件定義などの上流工程に移りつつある、と高木氏は話す。

「AI駆動開発なら、新たな機能の追加もほぼ“一瞬”でできますし、駄目だったら捨てて、何度でもすぐに作り直せます。その分、要件定義にじっくり時間を掛け、理想のシステムを作り上げることができるわけです。ただし、従来のシステム開発に慣れ切ってしまっている企業は、合意形成の図り方やプロジェクトの進め方がよく分からず、AI駆動開発のメリットを十分に享受できない可能性もあります」(高木氏)

そこでスパイスファクトリーは、AI駆動開発を支援するだけでなく、ユーザー企業がAIの特性や可能性を理解し、活用できるように支援するソリューションも提供している。

「AIに対する理解が深まれば、なぜそれが有効で、システムはどのように開発すればいいのかということも分かってきます。ですから、我々はAI駆動開発を請け負うだけでなく、お客さまのAIに関する知識の取得や活用を全面的に支援していきたいと考えているのです」(高木氏)

AI駆動開発

AI駆動開発によって、1人月の開発は0.1人月になり、生産性は10倍に上がった。その分、これまで多くの工数と費用を割いていた下流工程(設計・開発・テスト)の比率は大幅に下がり、上流工程(要件定義)の比率が高められるようになった

生成AIを乗りこなし、自律的な組織への変革を支援する

高木氏が2016年に創業したスパイスファクトリーは、単なるSIer(システムインテグレータ)ではない。

創業の大きなきっかけの一つは、業界で当たり前だった多重請負構造からの脱却であったという。

「エンドユーザーの顔が見えない多重請負では、お客さまの“本当のニーズ”が分かりません。創業以来、一貫してプライムベンダー(一次請け)としての受注にこだわり続けているのは、お客様と直接対話を重ね、ビジョンを共有した上で、本当に価値のあるシステムを提供したいと考えているからです」と高木氏は説明する。

創業当初から、業界に先駆けてスクラム開発やアジャイル開発に取り組んできたのも、スパイスファクトリーのこだわりだ。

「自動車などの製品と違い、時代とともに要件が揺れ動くシステムの開発にはウォーターフォールは適さないと考え、最初からスクラムとアジャイルに取り組んできました。AI駆動開発の適用によって、本来我々が提供したかった価値が、より高いレベルで提供できるようになったと感じています」(高木氏)

何よりスパイスファクトリーが他のSIerと大きく異なるのは、その事業内容を「360°Intelligence Firm」としていることである。

「我々が目指すのは、納品で完結するプロジェクトではなく、組織が自ら考え、社会と誠実に向き合い続けるための人類の知的基盤の構築です。お客様とともに、不確実な時代を、知性を武器に共に戦っていく。これがスパイスファクトリーの存在意義であり、システム開発だけでなく、全方位な事業を展開している理由です」(高木氏)

その事業の一つとして、同社が2026年3月に提供を開始したのが、企業の生成AI活用を支援する「Spice AIイネーブルメント」というソリューションである。これは、企業が生成AIを「創造のパートナー」として主体的に乗りこなし、自律的な組織への変革を支援するソリューションだ。

提供のきっかけは、同社が顧客との対話を重ねる中で、思うように生成AIを使いこなせていない状況を知ったことにあるという。

「多くの企業で生成AIの導入は進んでいますが、活用できている企業は少なく、『どう使ったらいいのか分からない』と悩んでいるお客様も非常に多いことが分かりました。当社は、生成AIが普及し始めた当初から社内活用を進めており、現在では全社員が日常的に生成AIを使いこなす『社内利用率100%』の組織文化を築いています。その経験に基づき、お客様の生成AI活用を支援しようと考えてソリューションを開発しました」

このように語るのは、スパイスファクトリーで取締役 Chief Technology Officer(CTO、最高技術責任者)を務める服部省治氏である。

服部 省治 氏

スパイスファクトリー

取締役

Chief Technology Officer

服部 省治

レガシーシステムの構造をAIで可視化次世代基盤への再構築まで支援する

「Spice AIイネーブルメント」は、AIの使い手となる「人材育成」を基軸とするソリューションである。業務ごとの特性やAIの活用状況などを調査・分析したうえで、オーダーメイドの育成プログラムを提供する。

企業ごとのニーズに応じて、教育、研修、コンサルティングなど、様々な形態による支援が可能だ。

「色々なアプローチがありますが、社内でもとくに生成AIをうまく活用している人材や、積極的に使っている人材をエバンジェリストとして選抜し、全社員の活用を促す役目を担ってもらうこともあります」と服部氏は説明する。

Spice AI Enablement

「Spice AIイネーブルメント」の一例。経営層/意思決定者に対しては、投資判断や方針づくり、コミットの方法などをアドバイスし、AI推進チームに対しては部門間の横断調整やガバナンスの体制づくりなどをサポートする。さらに、AIを活用する現場においては、部門ごとにAIエバンジェリストを任命し、専門家が伴走しながら業務改善を支援していく

スパイスファクトリーは、「組織が自らの手で生成AIとともに価値を生み出し続けられる状態」のことを「AIイネーブルメント」と定義している。この状態を実現することが、ソリューションの狙いだという。

「生成AIを単なる効率化のための道具ではなく、『人間の創造性を引き出すためのパートナー』と捉え、その力を自在に操れるような状態に導いていきます」(服部氏)

「Spice AIイネーブルメント」は、人や組織の側面から企業のAI活用を支援するソリューションだが、同社はこのほかに、基盤の側面からAIレディな環境を創造するサービスも提供している。既存のレガシーシステムの構造をAIで可視化し、AI活用に適した次世代基盤への再構築までを一貫して支援する「AIモダナイゼーション」というソリューションだ。

「独自のAI解析ツールで、通常は数ヵ月かかるソースコード解析を瞬時に行い、既存システムの全体像を自動的に可視化することができます。その上で、当社のUX設計の知見を生かしながら、AI活用に適した基盤へとモダナイゼーションします」(服部氏)

AI Modernization

「AIモダナイゼーション」のサービス内容。AIがソースコードを自動解析し、失われた設計書を自動復元する。さらに、セキュリティリスクの検出、システム間の依存関係のマッピング、UI/UXの課題分析などを行った上で、再設計方針を提案する

高木氏は、「システムの中身が可視化できたとしても、そのままの状態で別のシステムに置き換えるのでは意味がありません。今の業務に合う形で継続的な改善や拡張ができるようにすることが、モダナイゼーションの要諦です。その点で、当社のUX設計に関する知見や技術が遺憾なく発揮されると自負しています」と語る。

このように、スパイスファクトリーのソリューション群は、単なる業務やシステム開発の効率化にとどまらず、AI駆動開発を起点として、人材・組織・基盤の一体改革を支援できることに大きな強みがある。

同社が次なるソリューションとして開発を進めているのが、AIが自社専用のシステムを自動的に「育てていく」という独自コンセプトを持ったSFA/CRM「pickles(ピクルス)」だ。すでにリリースされているが、今年の秋頃には進化を遂げた形でバージョンアップされる予定だという。ぜひ注目したい。

「我々には、AIの力で日本をよりよくしたいという究極の想いがあります。その想いを実現するため、お客さまと直接向き合い、本当に求められていることをAIの力でかなえ続けます」(高木氏)

スパイスファクトリー 高木 広之介氏、服部 省治 氏

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