DEXとAIの融合が拓く自律型ワークプレイス AIで複雑化するIT管理から抜け出し“持続的”な生産性向上をもたらす方法とは

AI活用が本格的に進む一方で、企業のデジタル環境はますます複雑さを増している。そこで焦点を合わせるべきは、「AI活用が従業員に“持続的”な生産性向上をもたらしているか」、さらには「いかにして複雑なIT管理からの解放を実現するか」だ。DEX(デジタル従業員体験)プラットフォームでグローバル市場をけん引するTeamViewerのCPTO(最高製品・技術責任者)であるメイ・デント氏に、こうした課題解決に向けたDEXの可能性と取り組みを聞いた。

デジタル環境の複雑化がもたらす摩擦

近年のビジネス環境を振り返ると、業務フローの多くがデジタルを前提としたものとなり、生産性向上を目指すには「いかに快適なデジタルワークプレイス(時間や場所を選ばず従業員が働けるデジタル環境)を構築できるか」というDEXの概念が重要な意味を持つようになった。

メイ・デント氏
TeamViewer
CPTO
メイ・デント 氏

一方で、テクノロジーの進化は加速度的であり、変化に伴ってDEXの意味付けや役割も常にアップデートが求められる。特にAIの登場は大きな変化をもたらしたと話すのは、TeamViewerでCPTOを務めるメイ・デント氏である。「人々の想定を上回るスピードでAIの普及が進んだことで、『デジタルワークプレイス』という概念自体が限界に達しつつあります」。

メイ・デント氏
TeamViewer
CPTO
メイ・デント 氏

メイ氏は、IBMをはじめとするテック企業でキャリアを積み、1990年代初頭からテクノロジーの最前線でデジタルの進化を見続けてきた経歴を持つ。現在、DEXが求められるようになったビジネス環境の変化について、次のように振り返る。

「紙の資料の電子化、さらにはDXが浸透したことで、PCやスマートフォンなどのエンドポイントで得る体験が重要になりました。一方で、テクノロジーが発達するにつれ顕在化してきたのが、デジタル環境の複雑化や不具合など、従業員の生産性を阻害する『デジタルフリクション』です。多くのアプリケーションは、複雑な機能の追加や他社製品との統合などで肥大化しています。また、企業やユーザーごとに機能やデザインをカスタマイズやパーソナライズできるようになった半面、トラブルシューティングも煩雑化しました」(メイ氏)

そして近年の課題は、「もはやデジタル化ではない」とメイ氏は話す。この状況をもたらしたのがAIの台頭だ。「この1年間だけでもAIの活用は急速に進み、いかにしてAIによって生産性を“持続的”に高められるか、そしてセキュリティの厳格化やコンプライアンスの順守の要請に応えられるかが焦点になっています。デジタル環境の適切な管理が、企業のレジリエンス確保の大きなカギを握るようになりました」。

こうした状況下で、デジタル環境における従業員の生産性向上、さらには管理者側におけるIT運用の最適化を実現する上で注目が高まっているのが、DEXプラットフォームである。

「TeamViewerの製品群も、市場の要望に応えながら進化してきました。2005年の創業以来、遠隔操作でトラブルを解決する『TeamViewer Remote』、エンタープライズ向けの『TeamViewer Tensor』、リモート対応を現場での物理対応にまで拡張した『TeamViewer Frontline』と製品をグレードアップしてきましたが、これらのノウハウを踏まえて、2025年にリリースしたのが『TeamViewer DEX』です」(メイ氏)

現場が不具合に気づく前に問題を自動修復

TeamViewer DEXの特徴は、より上流の段階で問題を対処する「シフトレフト」の思想に基づいた設計だ。

「従来的なITヘルプデスクの場合、現場からの連絡を受けてから問題を対処する事後対応型(リアクティブ)でしたが、TeamViewer DEXはトリガー式の自動修復機能により、問題が発生しても影響が出る前に修復できる先回り型(プロアクティブ)です。さらに学習の蓄積やAIの恩恵により、現場が不具合に気づく前に、問題を事前に察知して修復する予測型(プレディクティブ)の対応も可能になりました」(メイ氏)

AIによる運用の可視化と自動化​

そして2025年、TeamViewerは、リモート接続機能、DEX機能、エンドポイント管理、自動化、AIを一つのデジタルワークプレイス・プラットフォームに統合したTeamViewer ONEをリリースした。「単なる製品統合ではなく、AIを組み込むことでビジネスプロセスを変革し、新しい価値を創出するのがTeamViewer ONEのビジョンです」とメイ氏は語る。

では、新しい価値とはどのようなものなのか。それが、AIを組み込むことで、これまでの「デジタルワークプレイス」から、ビジネスプロセスを刷新した「自律型ワークプレイス」へと進化した点だという。

「TeamViewer ONEは、過去に解決した問題をナレッジ化し、それを基にエンドポイントを繰り返し分析することで、潜在的な問題を予測して未然に防ぎます。また、段階ごとに正確性の評価やフィードバックを繰り返し行うため、ループを回すたびに正確性が担保されます。つまり、プラットフォーム自体に、AIによって自律的かつ“持続的”に進化をもたらす『インフィニティモデル』を採用した点が、TeamViewer ONEの特徴です」(メイ氏)

サポートでの解決実績がプラットフォームをより賢くする​

メイ氏は、「企業のオペレーションは、業務プロセスや組織運営をAIと統合するための設計図です」とした上で、プロセスの評価を可能とする可視性、リアルタイムの状況把握、そして検証と学習の反復による信頼構築が必要だと説く。その具体的な姿こそがTeamViewer ONEなのだ。

人口減少時代に求められるAI共働型オペレーション

長年、テクノロジーの最先端に身を置いてきたメイ氏にとって、日本企業はどのように映っているのだろうか。

「日本はもともと技術立国として高く評価されていますし、AI導入のスピードを見ても未来志向でイノベーションを好む文化があると感じています。ただ、もともと国内完結型の供給構造が中心だったため、急速に進むグローバルサプライチェーン統合への対応が遅れがちなのではないでしょうか。また、少子化による人口減少が深刻な労働力不足を引き起こしている点も今後の大きな課題だと思います」(メイ氏)

課題を挙げるメイ氏だが、最後には以下のように光明を感じさせる示唆とエールも示してくれた。

「日本では人員を増やすことで生産性を上げることは困難ですが、そうした環境だからこそ、AIによる自律型ワークプレイスの恩恵は大きいはずです。日本は、投資対効果や具体的な成功事例を重視し、ビジネスとして成果を生み出すことを求める国です。信頼や自律性は一朝一夕には築けませんが、成果を追求する日本の姿勢はビジネスプロセスの変革を進める上で大きな強みになるでしょう。企業はAIエージェントと人が共働する未来の価値を模索しており、日本はその実現に手が届く段階にあると感じています」(メイ氏)

メイ氏が繰り返し説いたのは、どのツールを導入したかではなく、それによってプロセスを変革し、生産性向上という成果を得ることの重要性だ。オペレーションを人間+AIへと進化させる自律型ワークプレイスの構築は、そのための一つの解だと言えるだろう。