ERP(統合基幹業務システム)のモダナイゼーションを成し遂げた先にある課題はデータの活用だが、そこで足踏みする企業も多い。その主な要因は、データ活用の計画やロードマップが十分に描かれておらず、必要なステップを踏まずに施策を進めてしまうことにある。基礎的なデータ整備や業務部門との連携が不十分なまま、最新技術である生成AIの導入などに着手しても、十分な成果を得ることは困難だ。では、どうすべきなのか。データ活用を加速させるには、経営層と情報システム部門が認識を合わせて取り組み、現場を巻き込みながらスピード感を持って前進していく必要がある。その解の一つとなるSAP Business Data Cloudをベースとした「AI・データ活用の5つの成功ステップ」について、AI・データ活用の豊富な知見と経験を持つ、TISのスペシャリストに聞いた。

AI・データ活用に対する
経営層の危機意識と現状

AIやデータの高度利活用で後れを取ることに対し、危機意識を持つ経営者は多い。そう語るのは、データの高度利活用に関するコンサルティングで豊富な知見と経験を持つ、TISの三谷太志氏だ。「デジタル化の急速な進展、グローバル競争の激化、サプライチェーンの複雑化、地政学的リスクの高まりなど、複雑な要素がからみあう状況の中で、勘と経験だけでは正確かつ迅速な判断がしづらくなったとおっしゃる経営者が多くなったと感じています。先の読めない時代を勝ち抜くためには、膨大なデータを分析して予測した結果を意思決定に生かしていくといったスピード感が大切になると肌感覚でとらえ、AI活用に大きな期待を寄せているのだと思います」(三谷氏)

TIS
エンタープライズコンサルティング事業本部
エンタープライズコンサルティング営業統括部
エンタープライズサービス推進部
エキスパート
三谷 太志 氏

AI活用を視野に入れたデータドリブン経営を実現する際の課題について三谷氏は話す。「AI活用に限らず、データ高度利活用において最初に大きな壁となって立ちはだかるのが、データのサイロ化です。事業部ごとに部分最適でシステムを導入してきたことで、必要なデータの場所がわからない、粒度も異なるなど、横串でデータを見ることができない状態となっています。また分散しているシステムから個別にデータを収集し、それらの集計に手間と時間がかかるため、データの鮮度が落ちるだけでなく、少なからず集計者の恣意性が入ることで質も落ちてしまっています。その結果、意思決定をミスリードしてしまうだけでなく、レポート作成にかかる時間と手間が生産性低下の要因ともなります。AIを活用して業務を改革するためには、データの鮮度や質がより重要となります」

TIS
エンタープライズコンサルティング事業本部
エンタープライズコンサルティング営業統括部
エンタープライズサービス推進部
エキスパート
三谷 太志 氏

DX推進においては、データドリブン経営とデータの民主化が不可欠だと三谷氏は語る。「特に重要なのは、経営層と現場が同じデータを共有しながら議論することです。経営層からは『現場の状況を把握したいが、現場から上がってくる情報が本当に正確か分からず、判断が難しい』という声がよく聞かれます。こうした課題を解決するためには、現場の情報を正確にデータ化し、それを経営層と現場の双方がリアルタイムで共有する仕組みが必要です。そうすることで、双方の認識のズレを最小限に抑え、より迅速で的確な意思決定につなげることができます」

デジタル時代の成長戦略でデータの民主化は欠かせない。「組織全体でデータを統合し、AIやデータ分析を現場で活用するためには、現場が主体となる環境づくりが重要です。データの民主化を推進するには、単なるツール導入やリテラシー向上だけでは不十分であり、現場が安心してデータを活用できる環境整備が不可欠です。特に、データガバナンスの強化と業務の利便性を両立させるためには、データの所在や管理状態が一目で把握できるデータカタログなどの仕組みの導入が求められます。全社規模でのデータ活用を成功させるためには、経営層による明確なリーダーシップのもとデータの基盤整備を進めることで組織の競争力強化につなげていくことが重要です」(三谷氏)

AI・データ活用の5つの成功ステップ

システムの複雑化、データのサイロ化から脱却し、データドリブン経営、データの民主化を実現するために、どのように取り組むべきか。ERPモダナイゼーションの先にある「AI・データ活用の5つの成功ステップ」について、三谷氏は解説する。

ステップ1:現状把握と課題の明確化
まず重要なのは、現状のデータ活用の実態を把握し、経営課題と現場のニーズを洗い出すことだ。「経営陣、現場部門への丁寧なヒアリングを実施し、どこにデータが存在し、どれだけ有効活用できているかを棚卸しします。その上で、現時点でのギャップや、今後解決すべき課題を明確化。成熟度診断モデルも活用し、客観的な立ち位置の把握を行います」(三谷氏)

ステップ2:基盤整備とスキル育成
次に、データドリブン経営を実現するための基盤構築に取り組む。「どのデータをどのように収集・蓄積・管理するかを定義し、必要なIT基盤(データウェアハウスやBIツール等)の導入とともに、データガバナンスやセキュリティルールの整備を進めます。また、これらを円滑に運用するための人材育成計画も並行して推進していきます」(三谷氏)

必要なIT基盤の導入では、全社でのデータ活用を実現するために個別最適ではなく全体最適の観点が求められる。SAP S/4HANAデータの高度利活用を支えるSAP Business Data Cloud(以下、BDC)は、データドリブン経営の実現に向けた土台づくりにおいて有力な選択肢となる。「2025年5月にリリースされたBDCは、SAPデータとSAP以外のデータを統合するデータプラットフォームです。BDCにより、AI活用、予測分析などデータ活用の高度化を加速していくことができます」(三谷氏)

ステップ3:データ活用の業務実装
基盤が整った後は、選定した部門や業務領域で、データ活用のパイロットプロジェクトを開始する。「例えば、売上予測や顧客分析、在庫最適化など、成果が見えやすい領域から着手することで、成功体験を積み重ねます。KPIを明確化し、データの見える化によって現場の意思決定の質を高め、データを軸としたPDCAサイクルを定着させます」(三谷氏)

データ活用の業務実装では、BDCのコア製品である、複数のデータソースを仮想統合するデータ統合基盤SAP Datasphere(以下、DSP)と、BIやAIを活用した予測分析、予算策定・管理などの機能をワンストップで提供するSAP Analytics Cloud(以下、SAC)がポイントとなる。「意思決定のスピードを高めるためには、リアルタイムなデータ連携・統合が必要です。その上で、データを可視化し、さらに将来を予測することで持続的成長につながります。DSPとSACにより意思決定の迅速化、質の向上を実現できます」(三谷氏)

ステップ4:全社展開と高度化
パイロットで得られたノウハウ・成果をもとに、全社への展開と高度活用を推進する。「AIや機械学習の導入も視野に入れつつ、全体最適を目指します。また、データ活用による効果検証を定期的に実施し、さらなる改善につなげます。さらに、社外とのデータ連携による新規事業・付加価値創出の可能性も模索していきます」(三谷氏)

ステップ5:企業文化としての定着
最終段階では、データドリブンという考え方・文化が企業の根幹に浸透した状態を目指す。「意思決定体制や評価フレームもデータに基づく形に刷新し、現場から経営層までともにデータを活用する風土を醸成します。データマインドを持った人材の育成や、挑戦し失敗から学ぶ姿勢も重要です」(三谷氏)

「AI活用でも5つのステップという考え方は変わらないと思います。大きな違いは、人ではなくAIがデータを活用するという点です」と三谷氏は指摘し、説明を加える。

「AIがビジネスにおいて価値を発揮するためには、必要なデータを迅速かつ的確に探索できる仕組みが不可欠です。特に、データの所在や相互の関係性については、人間の視点ではなく、AIが効率的に理解・利用できるよう設計することが重要です。TISではこの領域に注目し、先進的なR&D活動を推進しています。また、AIエージェントが依頼に応じて自律的に判断し、最適なデータを活用して業務を遂行するためのデータ構造や基盤の整備に取り組んでいます。このような仕組みの構築は、組織のデータ活用能力を飛躍的に高め、競争力の強化に直結すると考えています」

経営と現場の両方に精通した
コンサルタントがサポート

企業によって「AI・データ活用の5つの成功ステップ」で取り組むべき内容は異なる。大事なのは、一歩を踏み出し成果を重ねながらステップアップしていくことだ。AI・データ活用は急速に進化を続けており、その歩みに合わせることが企業の持続的成長につながる。しかし、IT人材不足の中で、テクノロジーのスペシャリストではない自社のメンバーだけでスピード感を持って取り組むのは困難と言えるだろう。パートナーの選択では、企業に寄り添い共に歩む伴走型支援が重要なポイントになる。その理由について三谷氏は話す。

「AI・データ活用は、ツールや技術を導入して終わりではなく、そこから始まります。また、成長戦略、システムの状況、業務プロセスなど、企業ごとに異なる様々な要素に応じて取り組むことで初めて成果が生まれます。また、経営、業務、テクノロジーといった3つの分野の関係者間の橋渡しの役割も求められることから、パートナーにはチームの一員としてプロジェクトを進める姿勢が大切です」

三谷氏は、伴走型コンサルティングにおいて最も重要なのは、顧客との認識合わせやイメージのすり合わせだと語る。「お客様と認識やイメージを共有し、理解を深めていくことが基本だと考えています。全体像を俯瞰しながら、お客様とともに細部まで解像度を高めていくために、ドキュメントを用いた可視化が重要となってきます。お客様の言葉や視点を丁寧に読み取り、不足している部分を含めて可視化することで、より本質的な議論が可能になると考えています。この部分にはこだわりをもって取り組んでいます」

経営と現場の両方に精通したコンサルタントが、全社横断のデータ活用構想から現場の業務改革まで一貫して支援できる点がTISの強みだ。また、AI・データ活用の最新技術に豊富な知見を持ち、導入だけでなく「使いこなす」までをサポートする。事業に根差した実践的コンサルティング力を発揮できる、TISの組織体制について三谷氏は話す。「プロジェクトマネジメント、業務コンサルタント、基盤エキスパート、ITアーキテクト、BIやDWHのエキスパートなど、TISには各分野のスペシャリストがそろっており、多様な人材を組織的に活用しお客様のニーズに応えています。『AI・データ活用の5つの成功ステップ』も、トータルサポートはもとよりどのステップでも支援し、さらにステップアップに導いていきます」

ビジネスとテクノロジーの関係について三谷氏は言及する。「サイロ化の解消、データ活用のリアルタイム化、AI分析による高度化、AIエージェントを活用した業務改革など、新しい技術の登場がこれまでできなかったことを実現し課題を解決していくという、ビジネスとテクノロジーの関係はこれからも続いていくと思います。経営層の強い意思のもと革新的技術に取り組むことで新たなチャンスが生まれます。その一歩を踏み出すパートナーとして、当社は伴走型コンサルティング力をアップグレードしていきます」

デジタル空間でAIエージェントが部下となり業務を行う時代がすぐそこまできている。AIの進化によりデータ活用は、新たな局面に入った。データ活用をステップアップすることで企業の未来も広がっていく。