説明責任が市場から強く求められるなか、製造業においても予算管理の重要性はますます高まっている。いま求められているのは、事業ごとの収益性や投資効率を可視化し、環境変化に応じて迅速かつ柔軟に意思決定できる経営と、それを支える予算管理の仕組みだ。先行きが不透明で変化の激しい時代だからこそ、予算管理を単なる管理業務ではなく、経営判断を支える基盤へと進化させる必要がある。その手がかりとなるのが、グローバルで培われた予算管理の「型」だ。その意義と具体的な打ち手について、TISIのエキスパートに話を聞いた。
予算管理は「数字を作る仕事」から
「経営判断を支える仕事」へ
市場が資本コストや株価を意識した経営を求めるようになり、上場企業にはこれまで以上に高い説明責任や開示の透明性が問われている。それに対応するために、事業別の収益性や投資効率を迅速に把握したい――これが経営層の偽らざる本音だろう。
一方、多くの企業では、予算計画や予実管理に依然としてExcelや部門ごとの個別ツールが残る。現場はデータの収集や確認に多くの時間を取られ、分析に十分な時間を割けない。このギャップを埋めるためにも、予算管理を単なる数字作りではなく、経営判断を支える仕組みとして再設計することが肝要だ。
TISIの大﨑史詔氏は、予算管理を「予算を作るための業務」に閉じ込めてはいけないと強調し、こう続ける。「これからの時代は、個別最適に陥りがちな予算管理を経営管理業務の一部として捉えることが重要です。事業単位の最適にとどまらず、経営全体にとって何が最適かという視点で、予算管理を組み立てていく必要があります」
その基礎となるのが、全社で統一された指標や前提条件である。とはいえ、国内産業の屋台骨を支える製造業の予算管理は複雑なだけにハードルが高い。例えば工場や設備、原価管理などを複数の事業で共有しているケースが多く、事業別の数字を出そうとすると、それぞれを分けて計算しなければならない。製造や販売などの機能が法人ごとに異なれば、売上、原価、経費、減価償却、配賦など、予算を組むうえで定義すべき前提条件も増える。
TISI
産業公共事業本部
ERPコンサルティング第1事業部
エンタープライズコンサルティング第3部
エキスパート
大﨑 史詔 氏
加えて、外部環境の変化はめまぐるしい。急激な円安、原材料価格やエネルギーコストの変動、地政学リスクの高まりによって、期初の計画前提が期中に変わることは珍しくない。そうした中では、期末の着地点を短いサイクルで見直すローリングフォーキャストや、配賦ルールを変更した場合の影響試算が重要になる。だが、月次決算が締まった後、現場がまず直面するのは分析そのものではなく、Excel同士の突き合わせやデータの整合確認であることが多い。
TISI
産業公共事業本部
ERPコンサルティング第1事業部
エンタープライズコンサルティング第3部
エキスパート
大﨑 史詔 氏
大﨑氏は「多くの企業では、予算管理業務の相当部分を今もExcelに頼っているのが実態です」と話す。経営層が求める情報の粒度やスピードに、現場の作業環境が追いつかない。ここに、日本企業の予算管理が抱える課題がある。
もう一つの大きな背景が、基幹システム刷新のタイミングを迎えていることだ。2027年末に予定されている「SAP ERP 6.0」の標準サポート終了を見据え、多くの企業が次世代ERP「SAP S/4HANA」への移行を検討、あるいはすでに移行を果たしている。実績管理の基盤を刷新するなら、予算や見通しを管理する計画系の仕組みも同時に見直す好機になる。
だが、実績管理を「SAP S/4HANA」で行っているとしても、予算管理がExcelや個別システムに分断されていれば、経営判断に必要な情報を一気通貫で扱いにくい。実績管理と計画管理を密接に連携させ、計画、実行、分析・評価を同じ流れの中で扱う。そうして初めて、予算管理は「作業」から「経営管理」へと変わっていく。
予算管理を経営判断につなげる
「グローバルで培われた型」
では、この状況にどう対応すればよいのか。大﨑氏は、その方向性として「統一された型を持つこと」の重要性を挙げる。ポイントは「計画、実行、分析・評価を一体で行える設計」「目的に応じて構成を選択できること」「再現性のある型として提供できること」の3つであり、「Fit-to-Standard」(標準機能に業務を合わせる導入アプローチ)が有効だと指摘する。これらを満たす形で、予算管理の前提条件と業務プロセスを全社でそろえたものが、ここでいう「型」である。
この考え方を具現化したソリューションが、TISIが提供する「予算管理テンプレート on SAP Analytics Cloud for Planning」だ。「SAP S/4HANA」のデータを起点に、予算入力・収集からデータ分析・評価までを一連の流れとして標準化。その特長について、大﨑氏は次の5点を挙げる。
「予算管理テンプレート on SAP Analytics Cloud for Planning」の全体像。「SAP Analytics Cloud for Planning」での予算計画、「SAP S/4HANA」での実行(実績管理)、「SAP Analytics Cloud」での分析・評価を一連の流れとしてつなぎ、予算計画と実績のデータ連携により、経営判断を支える予算管理の型として機能する
「1つ目は、事業別のPL(損益計算書)/BS(貸借対照表)をベースとした予実管理ができることです。前提条件を統一したうえで事業ごとの業績を管理できるため、経営判断に必要な情報を把握できます。
2つ目は、グローバルで培われたSAPベストプラクティス「IFP(Integrated Financial Planning for SAP S/4HANA)」を活用していることです。SAP標準のビジネスコンテンツをベースとしているため、予算計画の型を取り入れながら運用することができます。
3つ目は、各種シミュレーション機能です。ローリングフォーキャストや配賦シミュレーションなどを行うことで、期中の環境変化が業績にどのような影響を与えるのかを把握しやすくなります。
4つ目は、KPIダッシュボードによる経営指標の可視化です。収益性や資本効率(ROICなど)といった、株主から説明を求められる指標を事業別に統一した形で確認・可視化できます。これにより、事業ごとの状況を把握しながら経営判断に活用することが可能になります。
5つ目は、法人を越えたグループ経営管理です。オプションのGroup Reporting機能を活用することで、法人単位だけでなく、事業単位での評価や管理を行うことができます。複数法人にまたがる事業についても、グループ全体の視点で状況を俯瞰できます」
このように予算管理や予実管理、KPI管理など、企業が共通して必要とする業務をテンプレートとして整理しているため、一から設計するよりも品質のばらつきを抑えながら導入を進められる。さらに、将来的な保守やアップグレードに追随しやすいのもメリットだ。
「予算管理テンプレート on SAP Analytics Cloud for Planning」の5つの特長。強みを複合的に組み合わせ、経営と連動した予算管理を可能にする
システム導入が目的ではない
経営改革を定着させる伴走支援
TISIの強みは、テンプレートに加え、業務変革を伴うコンサルティングとチェンジマネジメントにもある。大﨑氏はSAPの管理会計領域のコンサルタントとして長く経験を積んだエキスパートで、「予算管理テンプレート on SAP Analytics Cloud for Planning」の企画、推進、設計、開発、提案まで一貫して携わっている。TISIでは豊富な知見を持つ人材を数多くそろえ、「現場のリアルな課題感」を深く理解したうえでの議論や提案が可能だという。
「こうした領域は、システムを提供して『便利になるので使ってください』で終わるものではありません。そのため私たちは、運用までを強く意識しています。ブループリントの策定や要件定義、システム構築だけでなく、その後の定着化や継続的な改善を含めてお客様に伴走できる点も特長です」(大﨑氏)
新たな予算管理のシステム導入はスタートに過ぎない。誰が数字を入力し、誰が確認し、その結果をどのように経営判断へつなげていくのか。予算管理業務そのものを変えていかなければ、本当の成果は生まれない。
「私たちが重視しているのは、お客様の経営管理が実際にどう変わったかということ。今回のソリューションは予算管理の仕組みを作り直すためのものですが、もはや予算管理は経営判断を支える経営管理業務の一部となりました。資本効率の向上など、株主を意識した経営が求められる中で、『SAP S/4HANA』による実績管理と予算管理が密接に連携して動くことが鍵を握ります。そうした観点からも、本ソリューションは企業の経営管理高度化に役立つものだと考えています」(大﨑氏)
ビジネスを取り巻く環境が変わる今、予算管理もまた転換期を迎えている。予算管理を「経営を動かす仕組み」へ転換する第一歩として、「予算管理テンプレート on SAP Analytics Cloud for Planning」は、経営基盤の高度化に大きく貢献するはずだ。経営判断の質とスピードを高めるためにも、予算管理の変革を検討してはいかがだろうか。



