[写真左から]味の素株式会社 食品事業本部 物流企画部 スタッフグループ マネージャー 出原 洋平 氏、味の素株式会社 食品事業本部 物流企画部 スタッフグループ長 長濱 賢治 氏、味の素株式会社 食品事業本部 物流企画部長 森 正子 氏、公益財団法人流通経済研究所 理事長 加藤 弘貴 氏

加工食品業界が挑む「つながる物流」
納品伝票電子化を起点に、標準化を軸に

物流の停滞を回避すべく、食品業界が「個社最適」から「全体最適」への大転換を急いでいる。深刻なドライバー不足に対し、1社では解決できないアナログな商習慣をいかに打破するか。鍵は、納品伝票電子化によるデータ連携と「協調領域」のプラットフォーム構築にある。社会実装を見据えた3つのPoCの成果から、持続可能な食品物流のグランドデザインをひもとく。

企業の垣根を越える
加速する業界の共助

味の素株式会社
食品事業本部 物流企画部長
森 正子 氏

2015年2月、加工食品会社6社が協力し物流改革に取り組む「F-LINE®プロジェクト(Future Logistics Intelligent Network)」がスタートした。味の素はプロジェクトメンバーの1社だ。誕生の背景について、同社 食品事業本部 物流企画部長 森正子氏は振り返る。「加工食品は、長時間待機、複雑な検品作業、短いリードタイムなど、ドライバーに対する負担が大きい傾向にあります。1社だけでは物流改革は難しいため、同業他社が共同で課題を解決するプロジェクトを立ち上げました。共同配送やドライバーの負担軽減などに取り組んでいます」

味の素株式会社
食品事業本部 物流企画部長
森 正子 氏

2016年5月に、F-LINE®プロジェクトのメンバーと、課題意識を共有する食品メーカー2社でSBM(食品物流未来推進会議)を発足。2022年4月に、製(メーカー)・配(卸売業)・販(小売業)5団体で、持続可能なサプライチェーンの構築を目指すFSP(フードサプライチェーン・サステナビリティプロジェクト)を発足した。さらに2023年9月には、流通経済研究所、酒類・加工食品業界最大規模の情報系の共有インフラを提供するファイネットを中心に、SBM、日本加工食品卸協会が参加し、物流データプラットフォーム構築に取り組むDPC(Data Platform Construction)協議会が立ち上がった。こうした民間の取り組みは、経済産業省、国土交通省、農林水産省などの政策と足並みをそろえている。

協調領域の拡大が
加工食品物流の未来を開く

公益財団法人流通経済研究所
理事長
加藤 弘貴 氏

食品業界のデジタル化について、流通経済研究所 理事長 加藤弘貴氏は解説する。「小売と卸間における伝票電子化は進んでいます。しかし、メーカーと卸間では、紙の納品伝票による検品が残っています。そこで国の物流情報標準ガイドラインに基づき、納品伝票を電子化・標準化する納品伝票エコシステムを開発しました。ウイングアークの伝票電子化システム(SVF)と連携し、誰でも同じ仕組みで電子帳票を受け取れる環境を実現しています」

公益財団法人流通経済研究所
理事長
加藤 弘貴 氏

食品業界における抜本的物流改革について、森氏は4つの段階で説明する。「1段階はアナログ中心の現状。2段階は個社最適なデジタル化。3段階は業界標準化による全体最適です。 2段階から3段階に進むことがポイントで、企業の垣根を越えた協力が不可欠です。ここを超えれば、4段階の持続可能な物流構築も見えてきます」

抜本的物流改革は4段階ある。標準化と協調による持続可能な物流構築に向け、部分最適から全体最適へのステップアップがポイントとなる

個社最適から全体最適への転換には、企業のマインドチェンジが必要となる。加藤氏は「競争領域と協調領域を切り分け、共通化できる部分は業界全体で進めることが重要です」と強調する。

3つのPoCが示す
「つながる物流」

持続可能な食品物流構築に向け、物流業務のデジタル化とSCM共有の基盤となる物流データプラットフォームのPoC(概念実証)がDPC協議会内のGS1標準活用+Scope3 CO2算定チームによって3回実施された。各PoCの内容と成果をひもといていく。

PoC1(2024年1月):GS1 EPCISを活用した入出荷情報の可視化

「EPCIS標準の活用により、物流の可視化に取り組みました。出荷側と入荷側で物流に関するデータを共有することができ、モノの到着前に受入情報を把握することで、検品業務の効率化も期待できます」と、味の素の長濱賢治氏は活用のメリットを挙げる。

※GS1が策定しているモノの移動に関する情報を共有、交換することでサプライチェーンの可視化を行うための標準仕様

PoC2(2024年7月):物流データ・運行情報・納品伝票を統合しScope3 CO2算出

「拠点間の物流情報を統合することで、現状みなし値のCO2算出の脱却を目指しました。各拠点が有する情報を連鎖的につなげ、配送先別・商品別の精緻なCO2排出量の算定が可能となることを実際の物流現場で確認できました。

さらに、出荷側と入荷側の異なる伝票の仕組み同士をつなぐ納品伝票エコシステムの実証にも成功しました」と、同社の出原洋平氏は確かな成果を語る。

PoC3(2026年1月):改正物流効率化法における荷待ち荷役時間の短縮

「着荷主に対し、必要なタイミングおよび内容にて物流情報の連携が実現でき、人が目視で確認する作業の削減や検品の効率化につながり、荷受けにかかる作業時間を削減できました。

PoC3で新たに構築した機能により、『物流データ』『運行情報』『納品伝票』を物流プラットフォーム上において自動連携させ、精緻なScope3 CO2排出量を算出しました。

依然として物流現場では、多くの時間をかけて各社が同じように紙伝票の仕分け作業と突合作業を行っています。仕分け・突合作業の効率化は、納品伝票電子化だけでなく標準化が大切です。1つの画面で内容の一致・不一致を見比べるためには、項目や位置などが同じであることがベースです」(出原氏)

味の素株式会社
食品事業本部 物流企画部
スタッフグループ長
長濱 賢治 氏

味の素株式会社
食品事業本部 物流企画部
スタッフグループ マネージャー
出原 洋平 氏

味の素株式会社
食品事業本部 物流企画部
スタッフグループ長
長濱 賢治 氏

納品伝票エコシステムは、食品や日用品などの業界で実証が進んでおり、2026年度から社会実装される見通しだ。「業界として納品伝票エコシステムを進めるためには、リーダー企業が先頭に立ち導入していくことが必要です」(加藤氏)

味の素株式会社
食品事業本部 物流企画部
スタッフグループ マネージャー
出原 洋平 氏

ドライバー不足による物流危機の影響は業界を問わない。「味の素の経営の基本方針は、事業を通じて社会価値と経済価値を共創するASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)です。物流データプラットフォームも、食品業界だけでなく他業界も参加できる仕組みとして取り組んでいます」(森氏)

鍵を握る伝票電子化の先には、データで支え合う物流の姿がある。個社の枠を超えたこの果敢なチャレンジが、食品業界のスタンダードを塗り替えようとしている。