
数兆円規模の取引を支えた帳票基盤パナソニック ホールディングスとSVF
20年を超える信頼
2000年代初頭、IT革新全社プロジェクトを推進した松下電器産業(現パナソニック ホールディングス)は、プロジェクト最大級の取り組みとして年間数兆円規模だった三国間の輸出入取引管理システムの刷新に着手した。刷新に伴ってシステムはオープン化されたが、世界中の拠点で利用される帳票基盤には既存システムと同様の高い信頼性と処理性能が求められる。白羽の矢が立ったのがSVF(帳票ソフトウエア)だ。当時、システム刷新プロジェクト推進の中心にいたのは現在、パナソニック ホールディングス グループCIOを務める近田英靖氏。ベンダーの営業担当として提案・導入を支えたのが、ウイングアーク CSOの森脇匡紀氏である。20年以上の時を経た今だからこそ話せるプロジェクトの舞台裏と、AI時代にも変わらない帳票の価値について語ってもらった。
年間取引額数兆円規模の
帳票システム構築に挑む
――2000年代初頭、パナソニック ホールディングスは三国間の輸出入取引管理システムの大規模な刷新プロジェクト「T21(トランスフォーメーション21)」を完遂しました。当時の状況をお聞かせください。
パナソニック ホールディングス株式会社
執行役員 グループCIO
近田 英靖 氏
近田 2001年度から、IT革新全社プロジェクトがスタートしました。当時の中村邦夫社長がIT革新本部長を兼任した、文字通りの全社肝いりのプロジェクトです。中核の一つが、メインフレームからオープン系のERP(統合基幹業務システム)へのシステム刷新を軸とした輸出入業務の革新プロジェクト「T21」でした。日本国内で製造した製品の輸出に加え、海外で製造し別の国に輸出する三国間取引を含めれば、年間取引額は数兆円規模に及びました。
T21には400人が参加しましたが、まだ20代のエンジニアだった私は帳票関連チームのリーダーを任されました。10人規模の小さなチームですが、責任は重大です。当時、約200拠点に進出していましたが、帳票がなければ荷受けができず、物流業務が止まってしまいます。1日に数万という数の帳票を正確かつ即時に処理しなければなりません。
森脇 私はウイングアークの前身企業の大阪事業所で、所長を務めていました。既に御社にはSVFブランドの帳票システム「Report Director」を、別領域で導入いただいていました。2000年代前後から、オープンシステムでのSVFの利用が広がりつつあったので、Report Directorよりも大規模なトランザクションに対応する製品を開発していたのですが、同じタイミングで、T21の帳票関連システム構築に向けたプレゼンテーションの機会をいただき、提案に新製品を盛り込んだのです。
初めて開発中の製品を提案するつもりだとお伝えした時には、「一番風呂には入らない」との指摘があったことを覚えています。実績のないファーストユーザーはどうしても導入リスクが高くなります。技術メンバーと共に、一つひとつのリスクにどう対処する方針かを丁寧に説明しました。やり取りを重ね、最終的に「御社にかけようと思います」と言っていただきました。
近田 提案内容は優れていました。ただ決め手は実現性です。新帳票システムは、2000人のオペレーターが利用し、ERPの利用規模も国内最大級でした。世界中の港や空港、営業拠点で帳票も利用されます。オープン系でこの規模の帳票基盤は他に例がありません。大きな挑戦ですが、帳票関連プロジェクトが頓挫すれば、T21全体に影響します。「できない」という選択肢はなく、「あきらめない」ことが重要でした。ウイングアークの皆さんにも共通していた思いではないかと思います。
ウイングアーク1st株式会社
執行役員 CSO 営業本部長
兼 Business Data Empowerment SBU Managing Director
兼 グローバル事業部 事業部長
森脇 匡紀 氏
森脇 実は「あきらめない。絶対逃げない」というのは、当社の企業文化です。ただ、T21のプロジェクトには、漠然とですが最初から自信がありました。プロジェクトに携わったメンバーが全員信頼できる仲間で、何があってもやり切れるチームだと確信していたからです。
――前例のないプロジェクトだけに、多くの困難があったはずです。
近田 前例のない規模のプロジェクトですから、ある意味で当然なのですが、当時のハードやソフトの標準的な機能、設定では対応できないことがよくありました。細かなテストで次々に問題にぶつかりました。帳票のレイアウトが崩れる、あるいは印刷の即時性が担保できないといったことです。原因を切り分ける中で、ソフトウエアに問題があるのではないかと、ウイングアークのメンバーに伝えると、彼らは自社に持ち帰って検証し、速やかに問題点を突き止め、解決するまで修正を繰り返すといったキャッチボールを重ねました。
苦難に直面し、それを乗り越えていく日々を過ごし2003年にシステムは稼働しました。思い返しても、構築期間の1年間は本当に濃密な時間でした。
森脇 1年間でしたか。私はもっと長く感じました。本当に濃い時間でした。修羅場を乗り越えるたびにワンチームとなり、確かな信頼関係の下で果敢に挑戦する姿を見て成功に向けて回り始めたと記憶しています。
プロジェクトの過程で、SVFも開発メンバーも成長しました。SVFがその後、多くの企業に採用されるようになったのは、このプロジェクトで得た知見やノウハウ、御社と一緒に挑戦し、やり遂げた体験が原点にあるからだと思います。
AI時代でも変わらない
帳票が果たす役割
――現在、進められているPX(パナソニック・トランスフォーメーション)の取り組みと、その中で帳票が果たす役割について、お聞かせください。
近田 PXを説明する時、私は「仕組み・IT」「業務・プロセス」「風土・文化」の三層でお伝えしています。かつてDXはIT部門やデジタル部門が推進するものだと考えられていました。しかし、業務変革には、過去から受け継がれてきたルールや風土・文化を含めて変えることが不可欠です。ITと業務、企業風土・文化はそれぞれが相互に影響し合うものですから、いずれか一つではなく一体で取り組むことが重要です。
変革内容の本質を分類し、3階層のフレームワークで推進
AIは、効率的かつ迅速に人が意思決定を行えるように支援するツールであり、最終的な答えを決めるのは人間です。DX、あるいはAIによる自動化やIT化が進んでも、意思決定やコミュニケーション、最終的にビジネスそのものに責任を持つ場面では帳票の存在が効果を発揮します。PXを進めても役割は変わらないでしょう。
森脇 むしろAIは、帳票やBIが果たす役割を増大させます。実際に帳票事業では、大幅にAIの導入件数が増えています。AIエージェントは、従来は人が処理していたプロセスをAIが代行するものです。仕分け作業などのプロセスと不可分な帳票は、AIエージェントと相性がよく、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の置き換えなどを含めた業務効率向上の手段として、ニーズが高まっています。
帳票業務でAIを活用する際に忘れてはならないのは、データ認識のミスなどがあっても生成AIは責任を取らないということです。あくまで最終責任は企業にあります。
AIの利用、さらにはAIエージェントが広がる中で、データの安全性、あるいは改ざんやなりすましがないことを保証する「デジタルトラスト」が重要だという考えが広がっています。当社も、帳票基盤に関連しデジタルトラストに対応した製品をリリースしました。
ワンチームで築いた信頼
SVF成長の原点に
――出会いから20年以上が経過しましたが、お互いにどのような印象をお持ちでしょうか。
近田 森脇さんは仕事に「線引き」されない方だという印象があります。通常、「ここまではできます」と線を引きたくなる場面でも、自社に持ち帰り「どうしたらできるのか」を考えて動かれる。
森脇 T21のプロジェクトでは重責を背負っていらっしゃったこともあり、当初は近田さんの厳しさに圧倒されることもありましたが、指摘や要望は合理的なもので、むしろ私たちの意欲を引き出してくれました。ロジカルに人を動かしながら、感情面にも配慮できる方だと思っています。
――SVFのこれからについて、それぞれのご意見をお聞かせください。
近田 グループCIOとして再会したSVFは、20年以上経過した現在も、私の後輩たちのもとでパナソニック ホールディングスの貿易・輸出入業務を支えています。継続しているだけではありません。SVFは進化しています。ウイングアーク様が提供する新しい統合管理の仕組み「SPAIS(スパイス)」の導入や、受発注以外の経理領域へも展開されています。
私は20年前、SVFの導入に当たった皆さんとワンチームで取り組んだプロジェクトを通じて、互いに信頼関係を築きました。製品のシェアや実績は重要です。しかし、30年にわたってブランドを維持し続けてきた最大の要因は、多くの顧客企業との信頼の積み重ねにあるのではないでしょうか。
日本発のソフトウエアメーカーとして、今後も活躍を期待しています。
森脇 私は若い社員に、近田さんと再会できたことは20年前のプロジェクトを頑張ったご褒美だと話しています。話していて、当時の出来事や感情が鮮明によみがえってきます。お客さまに寄り添うことを大切にする当社の企業文化には、このプロジェクトの経験が息づいていると改めて感じました。
SVFは人間に例えると30歳の働き盛りです。変化が激しく先行きが見通しにくい時代だからこそ、正確な意思決定を支援する帳票の重要性はさらに高まっていくはずです。
これからもお客さまに寄り添い、ワンチームで課題解決や業務変革に貢献していきます。



